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人影の失せたニューヨーク ~ 死にゆく街

Posted by 高見鈴虫 on 04.2015 ニューヨーク徒然
三月に入ったニューヨーク。

午後の日差しの中にも、そろそろ春の気配が、と思った矢先、
いきなり、なごり雪、と言うにはちょっと洒落にならないドカ雪が降り続けている。

そろそろこのヒッキー暮らしにもつくづく嫌気が差し始め、
見慣れた自室が牢獄に思えてくることしきり。

就職活動にかこつけて久々に街に出たところ、
ひょんなことから古くからの顔見知り、
ニューヨーク日系社会30年の古株たちに立て続けに出くわした。




いやあ、ねえ、と皆が決まって顔をしかめる。

これまでもう30年もニューヨークでやって来たが、
ここまでひどい状態になったのはまったく初めてだな、

だそうなのである。

こう家賃が高くちゃね、なにからなにまでがもうやって行けない状態。

確かに家賃が高い。

ネズミだらけの我がアパートでさえ月々の家賃が3000ドルを下らない。

がしかし、そんな状態で、例えば、

エントリーレベルの求人、年収三万ドルから、なんて告知を見るたびに、

げええ、三万ドルで果たしてどうやって家賃を払うわけ?と目を疑ってしまう。

つまりはそう、シェアな訳である。

立派に働く者たちが、クイーンズやらブロンクスやらの、
崩れかけた2ベッドルームをシェアして暮らしているのである。

それでも家賃は1500ドルを下らない。

家賃は収入の4分の1、なんていう処世術の基本が、長閑な戯言に思えてくる。

その家賃の高騰に連れた物価の上昇である。

ちょっと飯を食っただけで20ドルは飛ぶ。

ガソリン代が暴落、それによって輸送費が抑えられて、なんてことは、なぜかこの物価には反映されないようだ。

改めて暮らし辛くなったニューヨークである。

最近、遊んでないだろう、と図星を刺される。

いやあ、犬の散歩ばっかりで、と頭をかけば、

マンハッタンの夜に人影がいない、そうなのである。

まあ冬だしね、そう、冬なのだ。それに加えてこの寒さ、そしてこのドカ雪。
そんな中を、宛もなく街をほっつき歩くやつなどあまりいない。

それにしてもだ、な訳なのである。

まあインターネットやらゲームやらで、人々が外に出なくなった、ってのはあるんだろうが、
それにしてもだ、という話。

人影の消えたニューヨーク?ありえねえ。

いずれにしろこんな家賃じゃあ、どんな商売もやってられない。

そんな商売じゃあ、ろくな給料も払えない。

ろくな給料も貰えないんじゃあ、誰も外に遊びに出るなんてことさえもできない。

失業率は減ったって言っても、ひとつの職では食っていけないから、
ひとりで2つも3つも仕事をしなくちゃやっていけないだけの話じゃねえか。

それだけ働きずくめに働いても、ろくに家賃も払えないとくる。

60になっても、70に近くなってもまだまだ働きずくめだ。

この悪循環。終わりはない。

この街は死にかけている、という先輩諸氏。

悪いことは言わない、もうそろそろヤサ替え、この街を離れることを考え始めるべきだ。

この街を離れるたってどこに行けばいい?

とりあえず、ここ以外の場所。
とりあえず、この街が沈没することは目に見えている。
巻き込まれたくなければ、早めに救命ボートだけは確保しておくことだ。

なんとなく、それと同じようなことを言われてたよな、と思えば、
そう、以前勤めていた米系会社である。

俺のいた会社に限らず、
いまや、米国を代表する大会社が次々とニューヨークを逃げ出している。

つまりは、この家賃、そして税金。

あまりにも割が合わない、ということなのだろう。

そう言えば日本人も減ったよな、と諸氏。

あれほどうじゃうじゃいた留学生もほとんど見ない。

日系レストラン、と言ったって、客のほとんどは中国人ばかりだしな。

駐在員も減っている。
日本の企業もほとんどがアメリカを見限り初めているらしい。

日本の方がまだましさ、という諸氏。

まさか、日本が散々だって話をこれだけ聞かされてきたのに。

散々だって言いながら、それは日本だろ。なんだかんだ言って国保もあるじゃねえか。
この国みたいに、コケた人間がそのまま棄民ってわけでもねえだろに。

日本に?いまさら日本に帰る?

考えておいたほうがいいぞ、と諸氏。
この街にしがみつけばしがみつくほど、本当に、にっちもさっちも行かない状態に追い込まれる。

くそったれ、いつまでも寒いな、と鼻をすする。

いったいこの天気どうなっちまったんだよ。

そう、この天気。

三月を過ぎてのドカ雪である。

人影の失せたニューヨーク。

雪の降り積もるダウンタウンの街並みが、廃墟に見えてきた。
不気味な光景であった。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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