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「やさか」の奇跡

Posted by 高見鈴虫 on 04.2015 ニューヨーク徒然
三月に入ったとたんにこのドカ雪である。

今年の冬、いやあ、酷いねえ、とは口々に言いながら、

なになに、去年の冬のあの酷さ、
一週間になんども雪が降り積もったあの史上最悪の冬を思えば、
今年の冬なんてまだまだ、と言っていたのが、
だんだんと心もとなくなってくる。

温暖化かなにかしらないが、とりあえず酷い。

ニューヨーク生まれ育ちの人々が、口を揃える。

こんな酷いニューヨークは、まったく初めてだ。

がしかし、なにはなくとも必ず春はやってくる。

それが一週間先、二週間先、あるいは、一ヶ月先になろうとも、

春は、必ず、必ずやってくる、そのはずなのだ。

とそんな鬱々とした気分を晴らすたびに、
ちょっと美味しい物でも食べないか? という話になった。







72丁目の日本レストラン「やさか」

この冬の不景気の最中、この「やさか」にはいつも長蛇の大行列である。

いつも変わらず、あまりの混雑にてんてこ舞いのオーナー夫人が、
台拭き片手に店を駆けずり回っている。

相変わらずの大繁盛ですね、とごあいさつをすれば、

いやもう、忙しいばかりで、と苦笑い。

まあしかし、それでもこれだけお客さんが並ぶってだけでもご立派ご立派。


改めてこの「やさか」

おいしいのである。
なにも奇をてらったしかけも演出もないのだが、

ただただ、ちゃんと美味しい。そう、基本的にただただ美味しいのである。

俺の友人である、アッパーウエストサイダー、
つまりは、ニューヨーク生まれ育ちの十一種から、
フランス、パナマ、或いは、イタリア、ジャマイカ、アイルランド、コロンビア、
チャイナ、コリア、そして、純正の日本人。

そんな様々な人々が、人種国籍の別け隔てなく、
うーん、ここはいつ来ても本当に美味しい、と大満足なのである。

そう、改めて言えば、
とりあえず、レストランの基本は、美味しいこと。

なんの特別な企画などなくても、
日本食が好きか嫌いか、そんな問題を差し置いても、

きちんと、美味しいものがまともに食べれる、それこそがなによりも大切なこと。

そしてお店の方々が、その忙しさに、駆けずり回りながらも、
必死に笑顔を振りまいている、そんな姿こそが、
まさに商売の健全、その基本。

そう、地道に、真っ正直に、
美味しいものを出していれば、必ず人は来る、それ以外になにがあるだろうか。

そしてそう、ここアッパーウエストサイドで、
唯一というぐらいにまで人々から愛され続けているこの「やさか」。

まさに真実一路の、日本の味なのである。

そんなオーナー夫人の姿に、あれまあ、と目を丸くする人々。

これだけ流行っているレストランのオーナーが、ウエイトレスまでやってるの?

それが日本だよ。それが日本の美学ってものだよ、と思わず。

良いレストランってのはつまりはそういうもの。

そしてそんな良いレストランこそが、このニューヨークにおける唯一の憩いでもある。

酷い酷いと言われ続ける近年のニューヨーク、

その中で、唯一、この日本レストランだけが、人々の希望であったりもするのだろうか。

真実一路、地道に真っ直ぐに、その気持を忘れてはいけない。

あるいは、その気持を忘れない限り、春は必ずやってくる。そう信じたい。

冬だ、不景気だ、と愚痴を入れる前に、「やさか」を見ろ。
そこに座って飯を食ってみろ。
話はそれからだ、と思うわけだ。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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