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失業ハイパー ~ 土曜日の夜にフィレオフィッシュふたつで4ドル

Posted by 高見鈴虫 on 15.2015 とかいぐらし
土曜日の午後、犬の散歩の途中で降りだした雨。
公園のトンネルで雨宿り。
まだまだ止みそうにないな、と暗い空を見上げながら、
ふと見るとIPHONEにメッセージ。



またどうせ派遣屋だろう。

この迷惑なリクルーターたち。
朝晩、時間も関係なく電話をかけて来ては、
ついには休日にまで電話が来るようになったというわけか。

求人サイトにレジメをUPしてからと言うもの、
毎日毎日山のようなメールと、そして電話のメッセージが残されるようになった。

がそのほとんどが、最初の5秒で内容も聞かずに消してしまっていた。

まずインド人の電話はすぐに消した。
日本人の電話もすぐに消した。
そして、俺の名前をちゃんと発音できない輩もすぐに消した。
人に電話をする前に、相手の名前をつっかえずに言えるように、
練習もしないようなレベルの奴とはもともと話す気はない。

という訳で、一日中、ひっきりなしにかかってくる電話、
そのほとんどが、電話を返すどころか、聞く気にもならないような、
クズリクルーターの残したまさにくクズのようなメッセージばかりであったからだ。

という訳でこのメッセージ。
土曜日の午後にかけてきたこの常識知らずのリクルーターのメッセージ。

またどうせ頭のずれたインド人の糞英語だろう、
とタカをくくってプレイバックしてみれば、

がしかし、メッセージに残されたその声。

プロフェッショナルの声であった。

つまりは、営業のプロ。その道、百戦錬磨の、
なにひとつよどみの無い、明るい声。
明確且つ正確な話し方。
まさにスマイル・アンド・マネー。
ぶっちゃけ、いかにも仕事の出来そうな男の声。

がしかし、おかしな電話であった。

奴は自身の会社名を残さなかった。
条件も、職種さえも残さなかった。

ただ自分の名前と、そして、電話をくれ、とコールバックの番号。

その声を聞いて、ついに来たな、と思った。

多分こいつだろうな、と思った。

つまり、俺はこういう奴からの電話をずっと待ち続けていた。
そしてそれが、このメッセージなのだろうと直感した。

家につくとかみさんの姿がなかった。
日本に帰国の決まった同僚のお別れ会に出かけたらしい。
土曜の夜だというのにひとり飯か。

そう言えば犬の散歩の途中でみかけたマクドナルド。
フィレオフィッシュがふたつで4ドル。
そう、かみさんの居ない時ぐらい、敢えてそんなジャンクフードを食べて見るのも悪くない。

7時を過ぎて、IPHONEのメッセージを二度聞いて、

よし、と覚悟を決めて、CALLBACKのボタンをタップした。

思った通り呼び出し音の後、それは留守電につながった。

土曜の夜の7時に電話に出るような奴は逆に信用ができない。

そしてメッセージを残さずに切って、そして改めて、テキストメッセージでCALLBACKの旨を伝えた。

多分月曜の朝だろう、と思った。

果たしてどんな案件だろう、と思った。

がしかし、その電話が10時を過ぎていればろくなものではないだろうとも思った。

週末に俺のテキストを確認した男は、そして月曜日の朝、

8時、と言わずとも9時。9時ジャストに電話がくる筈だ。

犬に夕食を出して、そして俺は久々にひとりで家を出た。

冷たい雨の降る夜だった。

Tシャツの上からスピーワックのメタリック・セージのN2Bを羽織った。

ダブルの革ジャンではないにしても、普段着用のクローゼットの中にかかった、一番粋がったジャケットだった。

夜だというのにサングラスをかけてはタバコを咥え、
降り続ける雨に、ばかやろうが、と呟いて、そして俺はマクドナルドに向かった。

相も変わらずマクドナルドはホームレスたちのシェルターであった。

目障りなホームレスを避けながら、半分も吸わないうちから雨に叩かれて消えてしまったタバコを吐き捨てて、

そして店に入ろうとした途端、いきなりガツンと窓ガラスに顔を打ち付けた。

鼻から、そして唇が、歯が、じーんとするぐらにかなり思い切り顔を打ち付けた。

雨宿りをしていたホームレスたちが、呆気にとられてそんな俺を見つめていた。

口の中に血の味が広がっていた。

目を見開いているホームレスのひとりに、おい、歯が折れてねえか?と聞いた。

普段、人に話しかけられることもないであろうホームレス、言葉を失ったまま、いや、と辛うじて首を振った。

おい、これはバッドラックか、グッドラックか?と聞いてみた。

さあな、と肩を竦めるホームレスたち。

くそったれ、と血の味の混じった唾を吐いた。

まるで殴られたみたいだな、久しぶりの感覚だったが、セージ色のスピーワックの着た俺には、顔の青タンも似合わないではないだろう。どうせだったら思い切り、鼻血でもなんでも出してやろうじゃねえか。そんな気分だった。

濡れそぼったホームレスたちに混じってカウンターに並び、そしてフィレオフィッシュを2つ、コーラもフライも頼まずにそれだけ。

店の入口には髪を長く伸ばしたストリート・ミュージシャンがひとり、
背中に回したガットギターを担いでは、手の中の小銭を数えては途方にくれていた。

おい、と俺はその男に声をかけて、店員に手渡されたばかりの小銭をくれてやった。

雨が、とそのストリート・ミュージシャンが言った。雨がひどくてよ。商売にならねえ。

その気持ちを音に込めな、と俺は言った。雨の日は雨の音で、雪の日は雪の音のギターを弾け。

そして俺は雨の中を歩き始めた。

冬にも春にもなりきれないこの凍った雨の降り続ける土曜日の夜。
俺はメタリック・セージのスピーワックのフードを被り、そして嘗てそうであったように、
バンドマンの、あるいは、ロックンローラーの、あるいは、そう、
家出してきた糞ガキの気分で72丁目を歩いた。

9時だな、と思った。月曜日の朝9時。奴は電話をかけてくる。
9時に電話があれば、それがどんな案件であろうが受けてしまおう、と思っていた。

10時だったら、11時だったらどうするか。
その時には多分、どうせ犬の散歩の途中だ。すっかり忘れているだろう。

帰ったらストーンズを聴こうと思っていた。

土曜日の夜、雨に湿ったフィレオフィッシュを食べながら、俺はYOUTUBEで探したストーンズを聴く。

IF YOU CAN'T ROCK ME

腫れ始めた唇を舐めながら、やはりこれはグッドラックだろう、と思った。

奴から電話のあったその夜、マクドナルドでガラスに顔をぶつけた。

忘れるわけがない。

そう、俺はこの夜の憶えていることになる。

そして俺はフィレオフィッシュを食いながらストーンズを聴いたっけな。

これ以上なくしみったれた土曜日の夜だった。雨はまだまだ止みそうにない。





プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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