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恐ろしく晴れ渡った5月のニューヨーク

Posted by 高見鈴虫 on 21.2015 とかいぐらし
この恐ろしく晴れ渡った5月のニューヨーク、
朝も早くから面接である。
大企業のエグゼクティブたちを相手に、
駄目で元々とばかりに、
今後のビジネス戦略のぉ、俺の資格の経験のぉ~と、
歯の浮くような演説をぶち上げながら、
はいはい判った判った、あんたが割りと面白い人だってのはよーく判った。
んで、今日明日ではないが、それなりのポジションがあったらまた連絡するよ、
と追い払われて昼近く。

ああ、もうそろそろこの失業ぐらしもいい加減終わりにしなくてはな、
だったらどうやって終わらせるのか、具体的な手段は、選択肢はなにか、
と思えば思うほどに沈み込みながら、うーん、この5月の陽射しがまぶしすぎる。

とうつむきがちに歩いていたミッドタウンの雑踏の中に、ふと古い先輩の顔を見つけた。

おお、どうしてた?米系レイオフされたんだって?大変だな、で?なにやってんだよ。

とまあ、この一年、何度と無く話してきた自分史。

そう、こういう自分史をもう語りたくない、が為に俺は心の底から職を欲しているのである。

そっか、高給取りも色々大変だな、と皮肉まで言われながらも、

で、あれか、バンドはもうやってねえのか?
もったいねえなあ、あれだけのドラムだ。
あんなビート、世界中探したってお前しか叩けねえだろう。
ファンも多かったってのによ、無慈悲なことしやがるぜ。
でな、もしも、本当の本当に困ってんなら、
それこそ給料なんかいくらでもいいから、
ってなところまで追い込まれたら、俺のところに来い。
ヤクザな力仕事ぐらいなら、いくらでも回してやるからさ。

とまあ、相変わらず景気が良いんだか悪いんだかのお言葉を頂戴しながら、
やはりそのいなせな心遣い、なんだかんだいってとてもとても嬉しい。







そんな訳で、
じゃあ、またこんど、宜しくちょんまげです、と別れた時には、
さっきまでの落ち込みモードはまるで嘘の様に掻き消えていた。

そうだよな、この生き馬の目を抜く街で、
ファンじゃないが、まだまだ助けてくれるって言ってくれる人がいるだけでもありがたい話なのだ。
とは思いながら、そう、あれだけのドラムを叩いていた俺なのである。
例えカタギになると言っても、ちょっとやそっとのところで妥協することは、このドラマーとしてのプライドが許さない。

がしかし、なのである。どっちもどっち、というよりは、やはり一長一短。
つまりは、面白そうな仕事は給料が安くて仕事が激務。
達成感のない仕事は聞こえは良いがうつ病になる。
そのどちらを取るかなのだがな。

とかなんとかまたいつものうだうだの中に巻き込まれながら、
さあ、ちょっくらヤニでも食ってさっさと帰って犬の散歩にでも行くか、と、
春の陽射しに弾けそうな公園のベンチでタバコを咥え、
この幸せそうな人々も、実はそれなりになんらかの仕事をしている訳で、
つまり俺はまるでこの春の陽の中のストレンジャー。
と思った途端に、またまた最近そればかり聞いているDOORSの意味深なメロディが脳内に響き始め、
つまりは、そろそろ、金だ条件だ、なんてことよりも、まずは仕事を始めること、を重要視するべきだろ、
つまり、年貢の納め時ってことなんだよな、はいはい、とまたしてもすっかりルーザーモード。

ああ、あれだけのドラムを叩いたこの俺が、
米系で6桁を稼いでいたこの俺が、ついにニューヨークの藻屑と消える訳かいね、
とつくづく世を儚んでいたところ、

いきなり鳴り響くセックス・ピストルズの HOLYDAY IN THE SUN つまりは俺の着メロ。

なんだよ、ニュージャージー?ジャージーの田舎もんが何のようだ、と思って取った電話。

ウォール・ストリート?ウォール・ストリートの採用担当?それが?つまり俺のレジメが審査を通過して?・・・

と、いきなりとんでも無い話が舞い込んで来た訳である。

がしかし、そう、ここまで来てそんな浮かれた話にはダマされないぞ、と思う。
ダマされない、ダマされない、とは思いながら、それは思いながらも、
しかし、思わず高鳴ってしまうこの胸。裏返ってしまうこの声。

これが最後のチャンスだろう、と思う。
ハードルはかなり高い。高いというより高すぎて、まるで雲の上。
とても現実的な話には思えないのだが。

という訳で、年貢を収めるの、ちょっと待った、と思わず。

そう、これまで幾多の危機を乗り切ってきたこの悪運の強さ。
死んだ!と目を瞑ったことだって一度や二度じゃねえんだぜ。

そんな俺だ、これしきのことで世を儚んでたまるものか。

やるだけやるさ。いつもチャンスに賭ける。
転んでもただじゃあ起きねえぞ。

ただこの幸運である。

つまりはそう、あの先輩。

あのニヒルな顔をした、いっぱしの顔役面も相当に年期の入っちまった、
先輩のあの言葉が、あの出会いが、俺に幸運を運んできたんだな、と思ってしまう訳だ。

俺はこうやって辛うじて生き延びながら、なんだかんだでそういう人々の義理や人情にすがって生きている。
その感謝の気持ちを忘れちゃいけねえってことだろう。

という訳で見上げれば春の陽である。

大丈夫なにがあっても大丈夫。俺はまだまだPUNK魂を忘れちゃいねえ。

という訳でこの恐ろしく晴れ渡った5月の空の下で、

NO FUTURE ! NO FUTURE ! NO FUTURE FOR YOU~ !

と思わず歌ってしまった失業者の午後。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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