Loading…

極道鏡 ~ 一刀斎・斎藤一 恐るべし!

Posted by 高見鈴虫 on 20.2015 読書・映画ねた
犬の散歩から帰って、さあまた図書館にでも行くか、と思っていたところ、
珍しくかみさんからMSGが届いた。
ああ、世間的にはいまは昼飯時なのだな、とそのメッセージを読めば、
日本に帰任の決まった読書好きの方が、
読みたい本があればご自由にお取りください、
と山のような本を寄付されたそうなのである。

なので、なにか読みたい本ある?

とのこと。




かつての米国僻地暮らしの頃とは違い、
ここニューヨークには古くから紀伊國屋があって、
そしていまではBOOKOFFなんてものまである。

つまり日本の本にはそれほど苦労はしていないのではあるが、
ここでいつもの貧乏癖がむくむくと顔を覗かせては、
ただで読めるのであればなんでも持ってこい、と送れば、

でも沢山あるよ、とのこと。

まあ確かにな、と思わず。

と、ここでまた最近色が濃くなり始めた爺癖、
つまりは偏屈の虫がむくむくと頭を擡げ、

どうせ読書好きと言っても、東野けーごやら、
ネトウヨちょうちんベスセラー作家の永遠のなんちゃらやら、
どうせまあそんなのばっかりなんじゃねえのか?

だったらそんなもの持ってくるだけ無駄。ゴミにもなりゃしねえ、

という訳で、

取り敢えず面白そうなの、とは言うものの、
俺が果たしてなにを面白がるか、というのもかみさんには判っているのかどうなのか。

思った通り、あんたがなにを面白がるかなんて判らない、とのこと。

おまえなあ、もう四半世紀も夫婦をやってていまだに俺の読書の趣味が判らんか、
とは思いながら、
そう言えば俺自身にも俺の読書の趣味が割りと意味不明であることは重々承知していて、
そう、まあ、なんでも良い、が、くだらないのはいらない、とまあたちの悪い注文。

だったら、とかみさんからメッセージで、
なんとそこに置かれている本の題名をわざわざテキストで送り始めた訳なのだが、
そんなことするぐらいなら、パシャッと写真とって送れや、と言ったところ、
おおお、あったまい~、とばかりに、ランチルームに積まれた古本の山の写真が次々に送られてきた。

おっ!ピードラ、頂き!おおお、トマ・ピケティ、さすが駐在さん、高い本、買ってるなあ。
あ、村上春樹、は要らないが、龍ちゃんはねえのか、やっぱりないなあ、と苦笑い。
曽野綾子?そんなもの捨てちまえ。毒だ毒。
山崎豊子かあ、でも昔ほとんど読んだしな、
池波本は全て持っているし、だったら司馬遼太郎があったら欲しいんだが、
うーん、思ったよりも趣味が良いにしても、やはりこれ、と言ったものがなくて、

という訳で、そーだね、いちおう、ピードラと、トマピケ、あとそれらしき本を何冊かだけでも、
とお願いしながら、なんとなく心にわだかまりがある。

おかしいな、他に目ぼしい本はなかった筈だが、と思った途端、

あっやばい、浅田次郎がある!その浅田次郎、全部持ってきて!

浅田次郎?とかみさん。なんであんたがそんなの読むの?と妙な返信。

浅田次郎たくさんある?

うんあるよ。文庫は別の箱にあって、そこに浅田次郎ってたくさんある。

ならそれ全部。

へえ、とかみさん。変わった趣味してるね。ますます判らなくなった、とのこと。

むむむ、とそこで待てよ、とアラートが上がる。

おいおい、おまえ、まさか、赤川次郎と勘違いしてないか?

浅田次郎?赤川次郎?

ばか浅田だ浅田。赤川じゃない。おまえまさか三毛猫ホームズなんか持ってくるなよ。知恵足らずだと思われるぞ。

ちょっと待って、とかみさん。

浅田次郎、そう、浅田次郎だ。そうそう。とやはり赤川次郎と勘違いしていたらしい。いやあ危ない危ない。

で、なにがいいの?

浅田次郎なら全部読みたい。なにがある?と聞けば、

えっとねえ、えっと、10冊ぐらいあるんだけど、なんか、漢字が読めない。

ばかたれ、写真で送れ写真で。

という訳で届いた写真。

浅田次郎の、新撰組三部作。おおお、新撰組かあ。それ頂き。

「終わらざる夏」っての無い?

ああ、それはないみたい。

蒼穹の昴ってのは?

なに?そーきゅーのすばる?野球の話?車の話?

違う違う。まあいいや、なんでもいいから赤川、じゃなかった、浅田次郎、なんでも持ってきて。

という訳で、重かったから取り敢えず二冊、とかみさんが持ち帰ってきた浅田本。

一刀斎夢録、なんだこれ。

だから、赤川、じゃなくて、浅田次郎。

聞いたことねえな。でも本当だ、浅田次郎だ。

ねえ、浅田次郎って、あの大衆作家のドラマとかになってる人でしょ?

ああ、そうらしいけど。

なんであんたがそんな、たいしゅーさっか、なんて読むの?

この人、浅田次郎、文章上手いんだよ。
凄く、凄まじく上手い。日本語はこう書けっていうお手本みたいな人。
コメディからお涙ちょうだいから、歴史物からシリアスものから時代劇から妖怪変化から、
なんでもかんでもとにかく面白く書かけちゃうひと。

へえ、とかみさん。

で、ところでどうしてこの一刀斎夢録っての持ってきたの?

いや、べつに、それが一番上に乗ってたから。また明日ほかの持ってくるよ。

という訳で、まあ良い。浅田次郎かあ、なんかうれしいな、とホクホクと読み始めたこの一刀斎夢録。

へえ、斉藤一の本なのか、と。
新撰組の斎藤一。
近藤勇だ土方歳三だ、あるいは沖田総司ぐらいは有名なれど、ふーん、斉藤一のことはあまり知らねえなぁ。

が、そう言えば昔、この会社を新撰組だとすれば、あなたはまさしく斎藤一ですね、
などと褒め言葉かけなし言葉かを言われた記憶があって、
はあ、そうですか、さいとーはじめねえ、とは答えながら、そのひと、一体誰?とは思っていたのだ。

でも、なんでよりによって日本の駐在さんが新撰組なんか?

それがね、なんか最近、新撰組がアニメかゲームかなにかになったらしくて、新撰組おたくの子供が増えたんだって。
で、おとうさん、新撰組のこと、教えて、と子供に言われて、
いや、よく知らない、と答えるのもしゃくだし、で、こうして日本への出張のたびに、
飛行機の中での暇つぶしがてら新撰組本を読んでいたらしいのである。

という訳で、寝入りのベッドの中で何の気なしに読み始めたこの一刀斎夢録。
いやはや、それから朝まで、そして犬の散歩を挟んで、
ついには夜になってかみさんが壬生義士伝と輪違屋糸里を持ち帰ってくるまで、
まさに、完全に持って行かれてしまった。

斉藤一って、俺、正直あまり知らなかったけど、そういう人だったの?

これぞまさに、極道の鏡!!

武士ですら無く、剣豪ですらなく、国士ではなく、戦士でもなく、ましてや偉人なんてとんでもない。
ただただ、人を斬ることに一生を傾けた孤高の人。
その壮絶なまでの個人主義、孤立主義、そして、小気味のよいまでに徹底した一匹狼ぶり。
史上最強のパンクロッカーみたいじゃねえか。

そっか、俺ってあの会社でつまりはこういう人と見られていたのか、と改めて苦笑い。

がしかし、確かに、浅田本の中ではそれほど評判のよくない筈のこの一刀斎夢録が、
思わず胸に抱いて寝たくなるほどに愛おしく思えて仕方がないのは、
つまりは俺の中に、この本に書かれた一刀斎・斎藤一という人の美学にびりびりと呼応してしまう
なにかがあったからだろうな。

という訳で、極俺的個人的な趣味から言えば、
後に続けて読んだ壬生義士伝よりも輪違屋糸里よりも、
なによりもこの一刀斎夢録を最高傑作、どころか、
まさに棺桶にまで持ち込みたくなる本10冊の中のひとつに数えたい気分なのである。

という訳で、読み終えたばかりの一刀斎・斎藤一、思わずまた読み返しながら、
音を消したTVに映るLIFE BELOW ZERO。
アラスカの原野にたったひとりで暮らす孤高のハンターたちの姿に重ね合わせている俺なのである。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム