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人間、俯いているうちはまだいいんだよ

Posted by 高見鈴虫 on 09.2015 とかいぐらし
そうこうするうちにギリシャのデフォルト騒動だ、
中国株の暴落高騰だ、とまさにバブル爆発の前夜祭モード。

そんな中、信じられないことにいまだに職探しは大難航。

毎日毎日、山のように届く職安メールのひとつひとつをチェックしては、
そのポジションごとにレジメを書き換えてカバーレターをひねり出しては、
と日夜、身を粉にして職探しの日々なのだが、
しかし、結果は・・・・・ 無残な空振り続き。



ようやく掴んだ面接に向けて自分用の資料を作成しては練習を繰り返し、
自信満々で望むものの、そんな元気いっぱい、ハツラツとした俺の態度に、
曖昧な愛想笑いで答えていた面接官。
がしかし、届くのはまさかの不採用・・・

えええええ、なんでえええ、
なにかの間違いじゃないのか?とまさに大驚愕続き。

そしていま、この後に及んで最後の手段、
友人のつてから入手した大手米系企業での採用情報。

俺の隣の席の奴が異動になったぞ。
人員の一般公募が始まる前に、お前のこと推薦するからすぐにレジメ送れ。

まさに、これ以上のチャンスはまたとは来ないだろう。

社内からのリファレンスもバッチリで、
職種はまさに経験済でこれなら余裕を持ってこなせる筈だ。

ああ、思い返してみれば長かったこの一年。

ようやく潜り込んだ豪華客船がまさかの大座礁。
半年分の食料と、
ライフジャケット一つで大海の波間に放り出されては途方に暮れながらも、
くそったれ、こんなことで負けてなるものか、と、
血の滲む努力の果てに掴んだ上級資格。

がしかし、どういう訳だか
資格の看板に釣られてか面接の誘いは引きも切らないものの、
あるいは、その上級資格が邪魔してかなにしてか、
いざとなるとまったくこれと言った話がまとまらず。

つまりは、給料が高すぎるということ?
あるいは、有色人種には管理職は任せないってこと?

そうこうするうちに当初の余裕もすっかり消し飛んで、
日夜、職探しに翻弄され続けたながら冬を終え春を過ぎ、
そしていま夏の入り口。

がそう、長かったトンネルもついにこれで終わりだ。
待って待って待って、ついにやって来たこのラストチャンス。
いやあ、がんばった甲斐があった。
ついに努力が報われた。
この機を逃してもう道はなし!一世一代の大勝負!

とかなんとか、勇み切って面接に望んだ俺。

米系面接の定則通り、
胸を張って満面の笑みを振りまきながら、
自信と熱意と情熱を持って強力なアピール。

知識も経験も十分です。
やる気もあります。
残業も夜勤もなんでも来いです。
なによりも私はこの仕事がやりたい。
私こそはパーフェクト・キャンディデイトだっち!

と力説に力説を重ねては、
はいはい、分かりました。
結果は今週中にご連絡しますね、笑顔で送り出されるも、
届いた結果メールは、ええええ、不採用?なんで?

今回だけは、まさに膝が砕ける程の大脱力。

いったいぜんたいなんなんだ。まったくわけが判らないぜ。
あのなあ、俺はあんたらの求めている経験から知識からすべてクリアしてるんだぜ。
しかもこの仕事には勿体なさ過ぎる、誰もが垂涎の上級資格だって保持してる訳なのに・・

なんで?なんで?なんで?

つまりは、オーバークオリファイドってこと?
つまりこの資格が邪魔だってこと?
あるいは、やっぱ、俺の英語力では米系米人向けの一般職はまだまだきついってことなの?
いやいや、つまりは、人種? あるいは、年齢ってこと?

なにがどうなっているのか・・・まったく・・・わけが・・わからない・・・

という訳で、呆然自失のまま過ごした午後。
このまま不貞寝してしまいたいのは山々なのだが、
ああしかし、こんな時にでも犬の散歩にだけは出ない訳にはいかず。

雨が止むのを待ってふらつく足でようやく散歩へ出るも、
当の犬、ねえ、なんかまだ雷鳴ってない?と腰が引けては、
道の真中でおじおじと座り込んでさっぱり動こうとしない。
挙句に、ねえ、やっぱもう帰る、とがんばり始める始末。

あのなあぁぁ!!!!と思わず。
あのなあ、俺が毎日毎日どんな思いしておまえの散歩してやってんだか、
お前には俺の苦労が判ってるのか?
わがままもいい加減にしろよ。
ちょっとは俺の身にもなってくれよ!

と、思わず怒鳴りつけてしまって・・・

とそんな俺の怒声を浴びた途端、
目を見ひらいたまま固まってしまった犬。
しゅんとして耳を伏せて頭を下げては、
見るも憐れなほどにこれ以上なく縮こまってしまった。

し、し、し、しまった・・・・と全身に鳥肌がたった。

いや、悪い悪い、そんなつもりはなんだよ。
ただね、ちょっとね、いや、だから、いや、怒ってない怒ってない、
いや、だから、悪い、悪かった。本当に、そんなつもりじゃなかったんだ。

がしかし、そんな俺に腹を立てるどころか、
疑わしそうな上目遣いでじーっと表情を伺いながら、
しかしその身体はまさに怯えきって道の真ん中に張り付いてしまったまま、
一歩たりとも動こうとはしない。

あああ、しまった、まじで、大失敗だ。

こんな俺ってまるで、最悪じゃねえか。
俺、まじ終わってないか?

思わず髪をかきむしりながら、
そして深い深い溜息。

ふと、見上げる雨上がりの雲の切れ間からあっけらかんとした青空が覗いている。

ああ、夏なんだよな。

人間、俯いているうちはまだいいんだよ。
本当の本当に万策尽きてしまうと、人間、空を仰ぎ見てしまうものなのだな、
と、そんなことを考えていた。

ようやくなだめすかした犬と歩きながら、
だがしかし、なんとも俺自身がもう歩く気力もないようで、
川沿いの公園のベンチにヘタレ切りながら、
藁をもつかむ思いで友人たちにメールを打つ。

ご機嫌いかが?調子はどんな感じ?仕事見つかったか?
いやあ、俺もまだまだなんだけどさ、
大丈夫、どうにかなるよ。がんばろーぜ、グッドラック。

とか返信を打ちながら、
本心では、ああ、俺もうどうしたらいいんだろうな、
とまさに呆然と夕焼けのハドソン川を眺めるばかり。

とそんな俺の肩に手をやって、ねえねえ、どうしたの?と顔を覗きこむ犬。

このいたいけな顔。つぶらな瞳。
いつもへらへらと笑っている表情が今日は心なしか少しこわばって見える。
悪かったな、さっきは。
とそんな俺の顔を盛んに舐め始める犬。
わかったわかった、ありがとうな。
と、そんな犬を思わず抱きしめながら、
そうだよな、お前のためにも頑張らなくっちゃな、とまた深い深い溜息。

こんなことをしているうちにまた夏が終わってしまうのかな。
こんなことをしているうちにまた一年経ってしまうのかな。
こんなことをしているうちに一生が終わってしまうのかな。
このままふっと消えてなくなれればどんなにか楽なのにな。

あのなあ、と思わず。

お前、いったいどうしちまったってんだよ。
こんなところでいったいなにをしているんだ。
それよか、この世の中はいったいどうなってしまってんだよ。
まじ、まじ、まじ、
さっぱりわけが判らない。

とそんなとき、ふと、世間で起こっているいろいろなこと。

シャブ中の通り魔が見ず知らずの他人を襲い、
脱法ハーブでらりった車で通行人を跳ね飛ばし、
幼子を放置した末にいじめ殺して。。

かねてから、そんな凄惨なニュースを目にするたびに、
いったいぜんたい世の中どうしてしまったのだ、
世界中がキチガイだらけなんじゃねえのか?
ひと思いにみんな病院なり刑務所なりにぶちこんでしまったほうがいいんじゃねえのか、

なんて無責任な戯言をつぶやいていたのではあるが、
ここに来てそんな三面記事のひとつひとつが、
まさか、犯人って、こんな状態、
つまり、努力しても努力しても、まったくなんの希望も持てないこの状況に、
徹底的に自信を無くして、茫然自失して、途方に暮れて。
孤立無援の中で、世を恨んで、社会を憎んで、
心の底から思い切り腐りまくってはすべてを諦めきって、
で、思わず、
そう、俺がさっき、最愛の筈の我が愛犬を怒鳴りつけてしまったように、
ふと、魔が刺してしまったり、とか、
そんなものなのかもな、と思い始めていた。

そっか、みんな辛かったんだな。大変だったんだろうな。

という訳で、再び見上げる夕空。

そんな夕焼けを眺めながら、
こんな世の中、ひと思いにぶっ壊れちまえば良いのに、と思っている奴が、
実は沢山いるんだろうな、とそんなことを思っても見た。

ここまでの負け犬気分は人生でもまさに初めてだな。
そしてここに来て、またなんとなく、ちょっと世の中が分かったような気がするぜ。

人間、努力しても努力しても、報われないことはある。たぶん、報われないことの方が多い。
あるいは、すっかり運に見放されてしまった奴ってのも、実は沢山いるものなのだ。

メディアに載るのは、なんの悪運か、上手くやった奴らの調子こいた高笑いばかりで、
がしかし、世の中のほとんどの普通の人は、まさに、働けど働けど、の悪のスパイラルの中で、
じっと手を見る以外はなすすべもなく。
そんなどん詰まりの中で、
損を損と承知の上で先のまったく見えない日々を、
ただただ健気に暮らし続けているのだ。

とそんな時、親しい友人からまた、きつーいメールが届いていた。

ギリシャもやばいな、ってことはヘタするとデフォルトが連鎖して、
EUどころか世界中がガタガタになるぞ。
中国のバブルも爆発寸前だしな。
こんな時期にデイトレなんかやっているべきじゃねえぞ。
悪いことは言わない。
給料が高いの安いの、会社が大きの小さいの、とより好みしてないで、
早いところどこかに潜り込んでおかないと、まじで、とんでもないことになるぞ。

あんなあ、判ってるよそんなこと。
判ってるからこそこんなに必死で資格勉強を続けては仕事を探してるんじゃねえか。
これ以上、俺にいったいなにができるってんだよ、と思わず。

ちゅうわけで、いやはやまったく、立場違えば人生も色々だよな、と。

負けては落ちていく人々を、ただルーザーと見下している人々よ。
まさかあんたがそうなった時のことをちょっとでも考えて見てごらん。
ばーか、俺は大丈夫、俺は学歴が、職歴が、資格が、ある、と余裕をこいているのも今のうちなんだよね。
ついこの間までの俺がそうであったようにさ。

で、そっか、世の中、大恐慌か。
で、はてさて、これからどうしよう、と溜息をつく俺に、

ねええええ!お腹へった、と騒ぎ始めた犬。
覗きこんだIPHONEの上に手を置いては、
じっと俺の顔を見つめては、にかっと笑って鼻先をぺろり。

ねえ、元気だして。お腹空いたよ。おうちに帰ろうよ。

とそんな犬を思わず抱きしめてしまって、
はいはい、わかったわかった、と重い腰を上げる訳である。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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