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おじさん怖かったの~小話集 そのにじゅうご 「オープンハウスの怪 そのいち」

Posted by 高見鈴虫 on 12.2015 大人の語る怖い話

嘗て、このあたりでコンドミを購入しようってなことを考えて、
で、売りに出た物件のオープンハウスとやらに足繁く通っていた。

でまあ、探しているのはペットOKの部屋な訳で、
どうせならうちの犬も連れて、散歩がてら一緒に部屋さがし、
とやっていた訳なのだが、




で、その売り物件のコンドミ。

OPEN HOUSEの表示の貼られたドアを開けては、
不動産屋さんのご案内を聞きながら中を見せて貰うのだが、
中にはいまだに人が住んでいる部屋ってのが沢山あって、
ニューヨーカーたちの生活を垣間見る上でもなかなか面白かったのだが、

という訳で、我が家のブッチ君はこのオープンハウスが大好きであった。

エレベーターを降りたところから、見慣れぬ風景の中でふんふんと辺りを見回し、
不思議なことに、すぐにそのオープンハウスの部屋を見つけては、
こっちだこっちだ、とドアの前で待ち構えている。
そんなブッチ君。
どっも~、とドアを開けた途端に喜び勇んでは制止も振り切って中に飛び込んでしまい、
きゃははは、いらっしゃ~い、という不動産屋さんの前で、
挨拶代わりに二回三回とくるくる回ってはお座りのポーズをするや、
おっと、珍しい珍しい、とさっそく部屋の探索へと出かける訳だ。

で、そんなブッチくん。
そこが気に入った部屋であれば、しっぽがピンと跳ね上がっては、キラキラと目を輝かせて、
おお、ここがキッチンか、ここがバス・トイレで、ここが寝室、うんうん、
と勝手に徘徊しては、ご満悦である訳なのだが、

そんな中、たまに、ではあるのだが、
部屋に飛び込んだ途端にむむむむ!?と立ち止まるや、
そのトレードマークのしっぽがへなへなへな~、と見る見る下り始め、
いや、あの、僕、帰る、とドアに向けてすたすた、
なんてことがあったりなかったり。

まあ確かにそういう部屋。
入ったとたんになんとなく、うーん、この部屋、なんかちょっと暗い雰囲気、
であったりもする訳で、
なによりも、部屋に最も長く居ることになる犬の機嫌が第一。

そうこうするうちに、不動産屋から説明を聞く前に、
おい、どうだ気に入ったか?と犬の表情を伺うことにもなったりもした訳だが、
その中で出会った、これはこれは、物件をいくつか。

近所に建つリンカーン・タワーという名の一大コンプレックス。

まるで高島平か多摩ニュータウンかってなぐらいに似たような巨大なコンドのビルが立ち並ぶエリアなのだが、
その中の一室。

場所良し。間取り良し。日当たりも良く、値段が・・・むむむ、妙に安い。

で、その部屋。

我先にと飛び込んだブッチくん。いきなり部屋の真ん中で凍りついている。

さっそくやってきた案内役の不動産屋のおねえさんから
築が何年で、キッチンがどうたらで、と説明を受けながら、
ふと見ればブッチくん、そんな俺達をじいいいいいいっと凝視したまま動かず。

で、その尻尾。
まさに平行線。つまり、警戒信号、な訳だ。

警戒信号?なんで?こんな良い部屋なのに。

値段がいくら、月々のローンの払いから、
管理費から駐車場の有無、なんて話はかみさんにまかせて、

どうだ、この部屋、良さそうじゃねえか、と部屋を周りはじめたところ、
なんとなく、ふと、なんだこの違和感。

で見渡してみれば、むむむむ?と気づいたこと。

そこに置かれていた家具。

それはまさにミニマム仕様で、テレビの前に擦り切れた一人用のソファがひとつ。
窓辺の飾り棚。ステレオセット。

なんとなく生活感に乏しい部屋だな、と見るともなしに見れば、
なに?そのテレビ、なんと、ケーブルどころか、
チャンネルをグリグリ回す型の、なんとも懐かしいあのテクノカラーのテレビジョン。
PACKARD BELL なんだそれ。そんな会社聞いたこともねえ。

でそのステレオセット、というのがまさに家具調。
ものものしい木目調で、マーシャルのコンサート用アンプか、
というぐらに巨大なスピーカー。

でその上に置かれた電話。
まさに黒電話。そう、あの、グリグリコードに、ジーコジーコとダイヤルを回す、あの黒電話。

この部屋、ありとあやゆるものが、まさに70年台。
そこで時間が止まっている、としか思えず。。

とふと見ればブー君。

なあ、もう帰ろうよう、とそわそわとドアのあたりをうろうろとしている訳で、
まあ確かに、なにかあるなこの部屋、とは思ってはいた。

で、廊下の奥の部屋。
これが多分寝室、とドアを開けてみると、
そこに置かれたベッドがひとつ。
ベッドサイドのテーブルにはランプがひとつ、だがそれも、まさに年代物も年代物。
裸電球にシミだらけの花がらのランプシェイドが柄も判らないぐらいに黄ばんでいる。

寝室からの窓。
巨大なコンプレックスの立ち並ぶその団地型ビルの壁面。
なんとなく、殺伐とした風景。
まるで日本の団地の風景そのもの。
あるいはそう、まるで刑務所みたいだな、と思いながら、
ふと振り返ると、なんとベッドの端にちょこんと腰をおろした痩せた老婆がひとり。
でろでろになった花がらのネグリジェの袂から、骨と皮ばかりになったその胸元が覗いている、
まさに死ぬ寸前のような老婆の姿。

げげげ、人が寝てるなんて知らなかった。

やばいやばい、と思わず飛び上がるぐらいに驚いて、

あっ、ごめんなさい、と部屋を出ようとしたところ、

いつの間にか寝室のドアの前に来ていたブッチ。

その老婆の姿をじいいいっと睨みつけていたかと思うと、
いきなり、オンオンオンオン、と吠え始めた。

おい、バカ、やめろ、やめろってば、と押さえつけて、

いやあ、ごめんなさい、と振り返れば、あり? そこに老婆の姿はなく。。。

あっちゃああ、やばい、この部屋やばい。

慌ててリビングに戻れば、にこやかに話を進める不動産屋とかみさん。

おい、帰るぞ、と言う俺の脇を一目散にドアに向けて走るブッチ。

なに?どうしたの?なに吠えてたの?

いや、もういい、もう帰る、と俺も犬を追って外に出ようとすれば、

ねえ、待ってよ、この部屋どう?
値段も手頃だし、キッチンのストーブもエアコンもすべて取り替えてくれるっていうの。

取りかえるって、この部屋、
と思わず不動産屋のねえちゃんを睨みつけて、

なんでこの部屋、まるで70年台で止まったままなの?

という俺の質問に目を丸くするおねえさん。

いやでも、売りに出たのは今年の3月。

それまでどうなってたの?と突っ込んでみれば、いや、あの、実は、と。

ならわたし、ちょっと寝室見てくる、と歩き始めたかみさんを、
おい、待て、いいからもう、帰るぞ、と押しとどめて、
そんな悶着を見かねた犬が飛び込んできては、
かみさんに齧りついて、行くな行くな、と必死の表情。

と、トントン、と玄関のドアが鳴って、顔を出した新たなる見学者。
中国人の家族。

そう、最近のニューヨークの物件。この中国人がすべて買い漁ってるという話。

でこの中国人。部屋をぐるりと見渡して、うん、と頷いたとたんに、アイ・バイ=買った、と一言。

え?買った?

はい、買った。

買った?まだ観てもいないのに?

ああ、買った。キャッシュで買った。買った買った。

思わず目を丸くする不動産屋とかみさん。

いやあの、と不動産屋。

一応、あの、他にも希望者がいるので、と困惑しながらかみさんの表情を伺う。

だったら一万出す、と中国人。
二万でもいい。三万出す。
買った買った買った、キャッシュ・キャッシュ、
とオオムのように繰り返す。

どうしますか、と不動産屋。
ビット掛けますか?

その前に寝室もみてみたい、というかみさんを押しとどめる俺と犬。

だからいいって。いらない。ここには住みたくない。

なんで?ねえ、ちょっとまってよ、というかみさんの腕を引っ張って、さあ帰ろう。

だから、寝室に婆あがいて、と言いかけてふと飾り棚にあった写真。

銀色の額縁に入ったそのセピア色の写真。

結婚写真なのか、年代物の格好をして幸せそうに笑う二人。

でその女のほう。まさに。。
そのハツラツとした笑顔の中に、
あのベッドルームに座っていた痩せ細った老婆の片鱗を見たわけだ。

この人、ここのオーナー?

さあ、と不動産屋。

持ち主はヨーロッパに在住の男性ですが、と怪訝な表情。

なにがあったのかは知らないが、知りたくもないが、取り敢えず、ここには住みたくない。

怒りまくるかみさんの手を引いて廊下に出たとたん、
すたこらさっさとエレベーターに向かって走り始める犬。

ねえ、いったいなにがあったの?と訝るかみさんを急き立てては、
ロビーを抜けてようやく午後のひだまりの中。

え?おばあさん?まさか。。

あの写真にあった人。あのおばあさんが、痩せこけた身体で、ベッドにぼーっと座ってて。

それでブッチが吠えたの?

そう、その婆さんみて、こいつが、オンオンオン!って。

まさか。。

まあどうでもいいけど、あそこには住みたくない。
あの中国人に譲ってやれ。
大丈夫、あいつらなら大丈夫。
なんてたって国中が殺戮の巷のブラッド・バスからやってきた人々。
あんな婆さんの幽霊のひとりやふたりまったく気にしないだろう。

あ~あ、とかみさん。

いい物件だったのになあ、としょんぼり。

幽霊ぐらいがなによ、お祓いでもなんでもして追い払えばいいんじゃない、
などとどうしようもないことを言い始める。

だってなあ、と犬の顔を見る俺。

いつの間にかすっかり機嫌も直って、トレードマークの白いしっぽがピンと天を向いている。

あんなお化け屋敷にお前をおいておくわけにはいないもんなあ。

という訳なのだが、その後半年もしないうちにこの辺りの地価が大高騰。
幽霊付きでもなんでも、買っておけばよかったかな、と思わないでもない。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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