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招かれざるお姉さん

Posted by 高見鈴虫 on 11.2015 犬の事情
夏の盛りを思わせる暑く長い一日の終わり。

夕暮れの風に誘われたリバーサイド・パーク。

ベンチの上に犬と並んで座って、そして夕日に染まったハドソン川を眺めながら、
さあて、これからどうするかな、と溜息をついていた。

とそんなとき、黄昏れる俺の横から鼻先を突き出して、
ねえ、お腹空いた、なんか頂戴、とおねだりを始める犬。

あのなあ、と思わず。
俺もいろいろ大変なんだよ。
これからまた職探し、そんで、またまた資格勉強を再開しなくちゃいけなくてさ。

とそんな俺の事情など知ったことじゃない風に、

ねえねえ、お腹空いた、なんか頂戴、と問答無用に顔を舐め始める。

まったくなあ、本当にお前はお前の事情だけで生きているんだよな、
まあそれは俺も同じことだけどさ。

という訳で、満面の笑みを浮かべたおねだり顔の犬と向き合えば、
ひょいと両肩に乗せられた手と、そして突き合わせる鼻と鼻。

ねえ、なんか頂戴、とペロリとその鼻先を舐めて、
そのたびにまったくなあ、と苦笑いをする俺。

とそんなとき、通りかかったちょっとナードの入った若いお姉さん。

そんな俺達の横でうろうろとIPHONEを向けているかと思えば、

あの、すみません、と愛想笑いを浮かべて話しかけてくる。


で、そのナード風のおねえさん。

気味の悪い愛想笑いを浮かべながら、
あの、すみません、もしできれば、ちょっと代わって貰えませんか?
とおかしなことを言ってくる。

かわる?つまり俺達にここをどけ、と?
あ、はいはい、いいですよ、俺ももう帰るところだし。

いえいえ、そういうことではないんです、とお姉さん。

あの、できたら、その、このわんちゃんと、私が、夕日をバックにしてちゅっちゅ、としているところを、
このIPHONEで写真に撮りたいですけど・・

はあ?そういうこと?

だってさ、と改めて振り返る我が犬。

え?なに?なんだよ、と言ってるそばから、ほら、かわいい、おりこうさんねえ、と笑いかけてくる姉ちゃんの、
その差し出された手を露骨に避けながら、んだよ、こいつ、うるせえな、向こう行けよ、とやたらに邪険な表情。

あの、すみまんせん、うちの犬、こう見えてシャイなんですよ、といい訳をする俺。

なんか、飼い主以外にはなつかない犬種みたいで。

ふん、そんなこと知った事か、という犬。ぷい、と背中を向けては一人で夕日を眺めている。

じゃあ、あの、とそれでも諦めないお姉さん。

キスが無理なら、あの、そうやって隣り合わせに肩を組んで座っているだけでも。

という訳で、餌で釣って、宥めすかして、と手を尽くしながら、

おいおい、何すんだよ、こいつ、気持ち悪いな、あっちに行けよ、と避けに避けまくる我が犬に、
お姉さんも俺もすっかり翻弄された後にふと見ればすでに夕日は沈んでいた。

やっぱり無理でしたね、とお姉さん。ちょっとまじめに寂しそう。

そう、やっぱりね、と俺。これだけは、やっぱり自分の犬を持つものだけの特権というか。

とそういうそばから、ちゃっかりと俺の隣に座った犬。へっへへ、とまたへらへら笑いながら、俺の顔を舐め始める訳で。

あ、そうだ、とお姉さん。いきなりそんな俺達の隣にべったりと座ったかと思えば、犬を挟んで自画撮りショット。

ほら、と見せられた写真。暮れてゆく夕日をバックに、へらへら笑いをした犬とそしてお姉さんのその隣りには、
もちろん俺の姿はなし。

あ、このぐらいの明るさなら補正すればどうにかなります。どうもありがとう。じゃあねえ、と、喜び勇んで走って行ってしまった。

なんだあれ、と犬。追いかけて行って噛んでやろうか。

バカ、相手にすんな、と俺。

と言うわけで、
いまさら夕日を眺めるなんてのもなんだか馬鹿らしくなって、さあ、帰ろう帰ろう、帰って飯食おう、と
夕日の残光に紅色に染まったハドソン川を後にしたのであった。



プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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