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リーゼントで職探し

Posted by 高見鈴虫 on 15.2015 とかいぐらし
朝の犬の散歩から帰った途端、また見知らぬ番号からの電話である。

通常、見知らぬ番号の電話は取らない。
VMに吹き込まれたメッセージを聞いてから、
かけ直すに値するかどうかを判断するようにしているからだ。

最初から最後まで一体なにを言ってるのかさっぱり判らないインド人のヘッドハンター、
あるいは詐欺まがいのキャッチセールス、
あるいは、生きた番号を探しているだけに過ぎない機械発信の自動応答であったり。

EMAIL上のSPAMメールではないが、やはり自由なコミュニケーションの場には悪徳の類も多い。

がしかし、その見知らぬ番号はエリアコードを見る限りニューヨーク・ローカル。
という訳で、もしかしたらどこぞの企業の採用担当者が直接コンタクトを取ってきたのか、
と甘い期待からえいやあ、と電話を取ってみた。


が、やはり案の定、それは聞いたこともない人材派遣屋。
若いアメリカ人女性特有の甘ったるい話かたで、
ONLINEからレジメを入手したが早急に話がしたい、と言う。
まあつまり、俺の経歴と資格を見て、こいつはカネになる、と判断したのだろう。

普段であれば、とりあえず何らかのポジションが開いてから電話をくれないか?
わざわざそっちに出向いても、どうせおざなりの世間話だけで終わるのであれば
時間を無駄にしたくない、と答えて突っ放してしまうところなのだが、
このところの不遇続き。
いまやどんなツテでも藁をも掴みたい状況である上、
まあ、面接の練習も兼ねて、と自分を納得させながら、
無駄を無駄と承知の上、
だったらまあ帰りに日系のスーパーで買い物でもしようか、
などという胸算用もあって、
ああだったら今日の午後にでも伺うよ、
とついつい答えてしまっていた。

がそう、この情報化社会である。
早速その電話の主の名前をGOOGLEして見れば、
れれれ、この人、なんかすごく綺麗な人じゃないか。
が、しかし、ここアメリカに置いて、
若い女、それもちょっと見栄えの良いタイプは、
十中八九、必ずビッチである。
ちょっと化粧をしては無理やりプッシュアップした胸元を晒せば、
世の中の大抵の事はゴリ押しできる、と安合点したバカ。
このアメリカ中に蔓るバカでワガママなビッチな女たち、
一時はそんな連中であっても、
倒壊した人格もその雌狐のような浅ましさもすべて目を瞑って、
つまりは、おっぱいとお尻だけが目当てで、
はいはい、その通りその通り、と上辺だけでもちやほやしながら、
ほらよ、ビールおごってやるから早くやらせろよ、
なんて言う、つまりはアメリカ風の社交術を尊重しないでもなかったのだが、
そう、いつの頃からか、多分、犬を飼い始めたぐらいから、
夜の散歩中に我が犬を酔っ払ったビッチのハイヒールで踏みしだかれないように、
と気を使うようになってからは、
そんな馬鹿で有害なビッチ連中を徹底的に毛嫌いするようになっているのである。

という訳で、やれやれまた面接か。
この日本の梅雨を思わせる蒸し暑い天気。
しかも今日は一日中、降ったり止んだりのぐずついた天気である。
一張羅のスーツを雨に濡らしたくないのは山々なのだが、
まあしかし、家に居たところで、一日中求職サイトからのメールを処理しながら
受験用参考書を読み耽るぐらいしかやることは無いわけで、
いつものように午後になってから犬を連れてセントラルパークで日光浴、
という失業貴族の秘かな楽しみもこの天気ではお預けだろう。

今日の面接は公的なものでないから服装はなんでも結構です、とは言われたものの、
やはりまがりなりにも仕事関係で人と会う限りは、上下ダークスーツに白いシャツにネクタイ、
これだけは外せない、外すべきじゃない、というのも俺なりのけじめという奴。
という訳で、だったら、ジーンズとTシャツでもいいかな、と日和った気持ちを窘めて、
ああ、やれやれ、とは思いながらも、シャワーに入りヒゲを剃り、イッセイ・ミヤケのコロンをふっては、
そしてこの陽気の中、見るからにおぞましい一張羅のスーツに袖を通す。

ああ、暑い。死ぬほど暑い。
いったいぜんたいなんだって人々はこんな意味もなく非活動的な服装なんてものを考えだしたのか。

がしかし、そうやってスーツを着こむたびに、そういう甘えた虫がピシャリと収まり、
俺はいつの間にか気持ちだけはビジネス戦士に成り代わっている。

がそう、そう言えばこの髪。
もう最期に床屋に行ってからかなり経つ。

せっかく上下のダークスーツにネクタイを締めても、このまだらに伸びた髪の逆立ちまくったナチュラル・パンクではさすがにやばいだろう。

という訳で、洗面台のラックの中から、スタイリング・ムースなんてものを見つけ出して来たのだが、
ちょっとこのムースなんてものでは収まりのつかないレベルに乱れきった髪。
だらだらしているうちにいつの間にか時間を食ってしまったのもあって、
くそったれ、えいやあ、とばかりに、昔バンドマン時代に買ってあった昔なつかしのGEL。つまりはDEP。
これをべったりと髪に擦り付けて思わずオールバックに撫で上げてしまった訳で、
なんか、これ、下手をすれば、リーゼントではないか!
リーゼント!?
この時代、リーゼント、なんて髪型で息をしている人間がいるのか、とは思いながら、
なんか、キャロル時代の矢沢永吉のようじゃねえか、と思えば思うほど、
この時代錯誤のリーゼントがなんとなく気に行ってしまった訳だ。

だったらどうせなら、上下黒革のローラースタイルで面接へ、なんて洒落もあったりもなかったりもするのか、とか思いながら、
なんとなくいつの間にか頭の中では、かーわーいー、あのこーは、ルイジアンナ~ ♪ なんてメロディーが流れ始めている。

なんか、なんか、このおじさん、ちょっと調子に乗ってきたぞ、と苦笑いしながら、
そのリーゼントの上からもこれでもかとイッセー・ミヤケのコロンをふりかけて、
さあ、出陣だ、ばかやろう、いけいけの姉ちゃん、みんなぶっ飛ばしてやるぜ、と、
まるで楽屋を出てステージへの階段へと向かうロックスターのような気分にもなっていた。

という訳で、そう面接の話であった。

ミッドタウンの場所柄は良いにしても、聞いたことも無いこの会社。
案の定、雑居ビルの中に、ドアに幾つものダミー会社の名前を連ねたような、
まあよくあるタイプの訳の分からない会社。
ドアを開けた途端にまがりなりの受付はあるものの、
その向こうには、まさに敷石の裏で蠢く虫のような、
ごちゃごちゃと動きまわる人々の姿。
いったい、こんな会社でこの人達はなにをしているのか、
とは思いながら、受付の、やはりこれも、
リオのビーチから昨日やってきたばかり、のようなイケイケの風体の受付嬢から、
おざなりの書類に記入をさせられて、
で、待つこと15分。
その狭い受付には、しかしやはり職を求めてはこうして呼び出された風の、
うだつのあがらない若い男が、おざなり書類の記入に四苦八苦している。

服装は自由で、と言われて真に受けたのだろうが、
まさに、ついさっきまで部屋に篭ってゲームをしていました、昨日もその前もろくに寝てません、
というのが見え見えの、伸びたTシャツにジーンズにスニーカー。
まあ、短パンにサンダルでなかっただけでも無理しているんですよ、といった類。

まあしかし俺にしたってネクタイは締めているものの、伸びきった髪をDEPまみれにしたリーゼント野郎。
ついさっきまで犬の散歩をしていた訳で、他人のことを言えた義理ではないのだがな。

で、その兄ちゃんと、どれくらい仕事探してる?やっぱITの人か。
へえ、大手金融をクビになった?ああ、そういう話、よく聞くよな。そういう俺もそう。
俺のいた会社なんか一万五千人のレイオフだぜ。たまったものじゃねえよな。
なんて愚痴を言い合っていたところ、
いきなりドアが開いて乱入してきたお姉さん。

もう見るからに、ラテン系のビッチ。

ドギツイ化粧にちょっと垂れ始めた身体のラインをこれでもかと強調したパワー・スーツ。
はだけた胸元はとってつけたような毬のようなおっぱいがむにゅっと押し上げたられた、
つまりはそう、予想通りのイケイケ系。
この不必要な程の高圧感。
まさに、雌ライオンではないが、いまにも食って掛かって来そうなほどの露骨な攻撃性。
そんな取ってつけたようなイケイケの足元を見ようと群がる安い男たちを顎で使うことに慣れた、
それこそがアメリカ女性の強さの象徴、なんて感じで勘違いした、
つまりは典型的なアメリカン・ビッチ。

ニコルです、と手を差し出されてそれなりに握手。
としたところを、その手を思い切り握られて、おいおい、と苦笑い。
がしかし、たかが握手、されど握手。
アメリカにおける実際の面接では、この初対面の握手と、その時の笑顔こそが面接の80%を左右してしまう、
というのもまさに定説。
で、まあ、練習の意味もあって思い切りのハリウッドスマイル。

本日はようこそお越しいただきました。
お電話差し上げたジェナの上司のニコルです。
本日は私が面接をさせて頂きます。こちらへどうぞ、
と通された会議室。

なんかしかし、いきなりこういうタイプかよ。ちょっと勘弁して欲しいな。
がところで、どうもこの人、事前に調べてきた人とは違うようで。

いやあ、暑いですね。なんだか雨になりそうですね、なんて無難な話題を振りながら、
そのバタ臭いイケイケ風情のお姉さん。
いやあ、参ったなあ、と思っていた。
最初からこの人が電話して来たのならわざわざのこのこやって来たりもしなかったのに。

では、とまるでアメリカン・アイドルの司会でもしているような風情で、
すぐに戻りますので、こちらでお待ちを、とサルサのターンでも踏みように身を翻して消えていった後、
一人取り残された会議室で改めてやれやれ。
このシャビーな会議室。
安いテーブルと壊れた椅子。
壁に下がったまさに取ってつけたような風景写真の額縁もすっかり傾いていて、
この会社まじで大丈夫かよ、とは思いながら、まあ人材派遣屋なんてどこもこんなものだろう、と。
いったいこのままいつまで待たされるのか、と思いながら、
しかしもう、俺はそんなことで苛立ったりはしない。
職探しも一年も続けていればまさに大ベテランである。
この空いた時間を利用して、そう言えば、この面接の後に立ち寄る日系スーパーでの買い物リストでも作っておくか、
とIPHONEを取り出したところ、
ノックもなしに突然開いたドアから、ハロー、と顔を出したお嬢さん。

その、いまにも蕩けそうな笑顔。
ああ、この人はアメリカ人じゃないんだな、とすぐに判る。

あの、わたし、お電話したジェナです。
と改めてその見るからにか細いお手と握手。

ああ、あなたでしたか。お電話ありがとうございます、と答えながら、
そのまさに、ついさっきまでカレッジの中庭で心理学の本でも読んでいたかのような、
理知に溢れた柔らかい物腰。
あの、LINKEDINのあのお写真とかなり違いますが、
とは思いながら、いやいや、あのイケイケの写真よりは実物の方がずっと良い。

と思わずぽーっとしてしまうぐらいにその美少女に目を奪われながら、
ただ、俺、この人、つい最近にどこかで会っている。

がしかし、失業してからと言うもの、犬の散歩の公園と図書館にしか行っていない俺。
そんな限られた社会生活の中で、どこでこんな美人と接する機会があったのか。

ただ、そう、それはまさに確信に近く、俺はこの人と会っている。
それもつい最近にだ。

で、あの、と思わず。どこかでお会いしたことありませんでしたっけ、と、
ヘタをすれば妙なナンパでもしかけているようなことを口に出しそうになっていた矢先、
再びノックもせずにバーンと開いたドア。

おまたせしました、とさっきのラテン・ビッチのニコルさん。

さあ、ジェナ、なにをそんなところに突っ立てるの。
まずはキャンディデイトを座らせる。
その姿勢から目線からで、まずは相手を値踏みするのよ。

値踏み・・おいおい、俺は奴隷市場に駆り出されたクンタ・キンテかよ。

あ、いや、失礼、とニコル。
まさに奴隷を値踏みする人買いの顔である。

ではこちらに座って。
で、あなたの履歴書。
これ、嘘はありませんか?
と開口一番である。

嘘?嘘って、まあ、と思わず苦笑い。

嘘があるってこと?ないってこと?はっきりと言いなさい。
このレジメにあることはすべて本当ですか?
虚偽の記述があった場合、法律で罰せられることにもなるんですよ、
とまさに警察の尋問である。

いや、嘘はないですよ。

ではこの経歴と資格はすべて本物?

まあ、失効しちゃったのもありますが、それはそれでちゃんと書いてあります。

失効?どれが?どれが失効してるの?

どうでも良いがこの人。
部屋に戻ってからずっと貧乏ゆすり。でおまけにガムを噛んでいる。

あのなあ、と思わず。こいつ、ハズレだろう、と。

で、前の会社辞めてからもう一年を過ぎたけど、いったいなにをしてた訳?

いや、だから、資格の勉強をしてるんですよ。

本当に?

あのそこにある資格、並大抵の勉強で取れる資格じゃないですよ。

判ってるわよそんなこと、とニコルさん。

だからわざわざ呼んだんじゃないの。
この資格がなかったら、このあたしがあんたみたいなチンケなチャイニーズと、貴重な時間を割くなんてことはありえなかったんだから、と言った風である。
つまりあんたは、俺が、クリス・ヘムズワースや、ジェイミー・ドーナンみたいじゃないことが、気に入らなくてしょうがない、って、ただそれだけな訳なんだろ。

判ったわ。で、職歴。
この会社に居たっていうの、本当?ベンダーとして?派遣されてたの?

いや、フルタイムですよ。

あなたがこの会社にフルタイムで働いてたの?
とまさに、身体中から訝しげ。挙句に、HOW? と言われた日には、思わずはい、さようなら、と席を立ちそうになったわけだが、

ふと見れば隣にちょこりと座ったジェナである。

その陰険なやりとりを、まさに蕩けるような笑顔で見守っていながら、目が会うたびににこりと首を傾げて笑う。

で、この会社でなにをやってたの?

と詰め寄られては、ポジションから職務内容からを答える訳なのだが、
見るからに明らかに、この面接者は俺のやっていたことが判っていないし、わざわざ聞く気もない風。

運用管理の可用性の事業継続計画の、と業務用単語を並べるたびに、
イライラと貧乏ゆすりをしながら、あんたが何言ってるかさっぱり判らないわ。
でもね、あたしが知らないのはこんな面倒くさい仕事をやっていたあんたが悪いのよ。判ってるの?ということなのだろう。

はいはい、すべて俺のせいですね。
俺がアジア人でおかしなアクセントで喋るのも、俺がセクシーモデルのようにマッチョな筋肉男でないのも、
おまけに、あんたが足を踏み入れたこともない会社で、見たことも聞いたこともない仕事をしていたことも、
すべて俺のせい。つまりはなにからなにまでがミスマッチ、ということな訳で。

で、ぶっちゃけいくら欲しいの?とそのラテン・ビッチ。

まさにその時ばかりは、獲物を見据えた雌ライオンの目つきそのもの。

まあいちおう、前の会社ではそこそこに貰っていた訳で。で、それに加えて資格も取ったし。

ねえ、私の質問が判ってる?いくら欲しいのかって聞いたのよ。余計なことを言って時間を無駄にしないで。

だったら、と俺の希望金額を単刀直入に答える。まあこの経歴でこの資格ならこれぐらいが妥当、と思ったのだが、

OMG、といきなり両手を広げたニコル。

あのねえ、あなた、あたしの給料がいくらか知ってるの?
それを、あんたみたいなおかしな英語しゃべるちんちくりんなアジア人が、どの面さげてそんな給料が稼げって言うのよ。
あのねえ、あんた、さっさと自分の国に帰りなさいよ。なんであんたみたいなアジア人がこのアメリカの市場を食い荒らさなくちゃいけないのよ。
ここはアメリカなのよ。ねえ、あんたみたいなチンケなチャイニーズに大きな顔をさせとくなんて許せないわ。
その苛立ちが身体中からにじみているようだ。

やってられないわね、と肩を竦めては、やれやれ、この馬鹿、どこから連れてきたのよ、という感じで隣りのジェナに顔を向けるも、
そのジェナは例の笑顔を浮かべたまま俺の顔をじっとみている。

判ったわ、といきなり席を経つラテン・ビッチ。
まあ、あなたに見合う仕事があるかどうか判らないけど、まあ探して見るわね。今日はわざわざお越し頂いてありがとう。
と、つかつかと会議室を出て行ってしまった。

で、残されて俺とジェナ。

思わず顔を見合わせて苦笑い。

私、まだ新入りなの、とジェナ。

新入りはね、求人サイトとかSNSとかで見つけた人に片っ端から電話をかけて、アポの取れた人を、上司が面接をしていくの。

ああ、でも、見た限りあなたの上司はそれほど仕事ができる人には見えないけどね。あなたがインタビューをしてくれた方がずっと良かった気がするけど。

ははは、とジェナ。なんかニコル、週末に彼氏と喧嘩したみたいでずっと機嫌が悪いのよ、と苦笑い。

やれやれ、それはお気の毒に。でもそういうことを表に出しちゃうような人の下でいくら働いてもしかたがない気がするけど、
と言いかけては、そうだよな、誰もが大変なんだよな、と。

あの、今日は本当にわざわざ来てくれたありがとう、と改めて握手。

で、そのままドアまで送って貰って、で、その後、エレベータの前まで、それからやって来たエレベーターにも一緒に乗り込んで、
玄関のロビーまで出たところで、あれまあ、雨ね、とまたにこりと笑った。

雨宿りの人々にまぎれて、溜息をつきながら雨粒を眺めているジェナ。

タバコ?と聞いてみれば、ちょっと困ったように肩を竦めて、悪いけど一本貰っていい?と聞けば、もちろん、とマルボロのメンソールを差し出してくれる。
そう言えば、昔このタバコを吸っている子とよくこうしてタバコを吸っていたものだな。

あなた、アメリカに来てどれくらい?と聞かれて、もう25年かな、と答える。

この国好き?と真顔で聞かれて、思わず、ははは、と笑ってしまい、その質問に答える代わりに、
この会社に入ってからどのくらい?と聞いてみる。

そうね、もう半年かな、と答えるジェナ。

仕事探してる?と思わず聞いてみれば、ちょろりと舌を出して、リクルーターが自分で仕事を探してたら世話ないけどね、とコロコロと笑う。

強かった雨足の合間にふと日が挿して、雨宿りの人々が恐る恐ると通りにこぼれ始める。

ミッドタウンの昼下がり。

誰もがどこかで何らかの仕事をしながら、こうして雨宿りの場所で身を竦めては、雲の合間を縫っては再び通りを行き交い始める。

良い仕事がみつかれば良いわね。

ああ、ありがとう。君もね、と答えて二人で顔を見合わせて笑ってしまう。

そう、この場所も、この会社もこの社会も、つまりは、たまたま雨に降られて雨宿りに駆け込んだ借りの場所。

いつまでも止みそうにない雨を眺めるのに飽き飽きしたら、また再び雨の中を歩き始めるしかないのだ。

長いタバコを吸い終わって、じゃあ、と手を振って別れる。

電話するわ、とジェナ。
いいポジションが見つかったら、すぐに電話するから。

ありがとう、と俺。いいポジションなんか見つからなくてもいつでも電話して、と答えて笑う。

普段は犬の散歩ばかりしてるんだ。犬の散歩の途中に公園の芝生の上で日光浴しながら試験勉強をしてる。

どんな犬?とジェナ。

さっそくIPHONEを取り出して、ほら、こいつ、と見せると、いきなり声をあげてケラケラと笑った。

かわいい!!!

こいつがいるからか、この失業がまったく苦にならなくて。ただいつまでたってもまじめに仕事を探す気になれない。そうこうしてるうちに一年経っちゃった。

わあ、可愛いわ、ねえ、いくつ?名前は?なんていう犬種なの?いつもセントラルパークでお散歩してるの?
わあ、可愛い。きゃは、笑ってる。ほらほら。この子、笑ってる。笑ってる。笑ってばかり。幸せそうだな。

こいつに会いたかったらセントラルパークにおいで。シーダーヒルの芝生の上でいつもゴロゴロ寝転んでるから。

分かったわ、とジェナ。電話する。いいポジションがあってもなくても。

という訳で、雨の上がった舗道を駅へを向かいながら、そこまで来ていきなり、あっそうか、と気がついた。

あの子、ジョコビッチの奥さんのJELENAにそっくりだったんだ。
ジェナ、ああ、そうか、JELENA。つまりジェナもあの辺の人ってことか。

という訳で、なんとなくホクホクとした気分で地下鉄に乗り込み、そこまで来て、しまったスーパーに寄るのを忘れてしまった、と気がついた。

☆ ☆ ☆

家に着いてすぐ、待ってましたとばかりに飛びかかってくる犬を避けながらスーツを脱いで、
さあ、暑さがぶり返す前にまた散歩でも、と思っていたところに、また別の人材派遣屋から電話があった。

急なんですが、割りとよいポジションが見つかりました。明日明後日の面接でもOKですか?

もちろん、と答える。いつでもOKですよ。お待ちしてます、と答えながら、ところで職種は?と聞けばまたまた難問が山積みの難しい仕事である。

ってことは、技術的な知識も必要で、インフラ系から開発系からデータベースからメインフレームまで?つまりなんでもありってこと?

はい、そうなんです。でもそこまで出来る人ってあまりいらっしゃらなくて。どうです?ばっちりでしょ?

やれやれ、とまたまた溜息。

面接までにちょっとお勉強しておいてくださいね。日取りが決まったらすぐに電話しますから。

という訳で、またまた面接向けの勉強である。いまさら技術屋に戻るのか、と溜息をつきながら、まあここまで来たらできることならなんでもやるつもり。

でちょっと気が晴れて、昔とった杵柄とばかりに古い技術書を引っ張り出してきては読み進めるも、犬から散歩をせっつかれておちおち身が入らず。

お前なあ、俺は本当にお前なんかと遊んでいる場合じゃないんだが、とは思いながら、ついつい誘われるままにソファに移動して、
ねえ、顔を舐めさせて、お腹を撫でて、なにかおやつを頂戴、とやりながら、いつの間にかうつらうつらとし始めた犬の寝顔を眺めているうちに、
ふとそのまま引き込まれるように眠りに落ちていた。

目覚めればすでに6時過ぎ。
再び雨雲が立ち込めた暗い空から、轟く雷鳴に踊るように降り始めた雨。

ふと見ると、顔中が油でべっとり。逆立ったままの髪と、そして、ソファのシーツからクッションからが、べったりと油が塗りたくられたようだ。
しまった、この髪のDEPか。

という訳でトイレに立ちながら改めて覗いてみた鏡。

リーゼントと言うよりはまさにパンク。あるいは半端なモヒカンである。

しまった寝ちまったなあ、俺としたことが。

とそう言えば、キャロルである。
柳屋のポマードを両手で掬ってはリーゼントに決めていた、というキャロルの面々。
あの矢沢永吉も、ポマードを落とさないままに寝落ちてしまったこともあったのだろうか。
目が覚めた途端に、枕から布団から、顔中、身体中がポマードだらけ。
ロックスターも楽じゃねえなあ、と苦笑いをしながら小便を垂れる、なんてことも、なかったわけではあるまい。

当時長髪でマッシュルームカットであった矢沢永吉が、ジョニー大倉との出会いから、
革ジャンにリーゼントのあのスタイルに変貌を遂げる訳で、
つまり俺達をまさに夢中にした、あの、革ジャンにバイクにレイバンのグラサンに、そしてリーゼント。
あの定番となった不良のスタイルというのは、
つまりは、このキャロルをベースにしたものでありながら、
その看板であった矢沢永吉自身は、全然そんな人ではなかった、ということだったんだよな、
とふとそんなことを考えていた。

相変わらず、支離滅裂な一日であったのだが、明日はいったいどんな日になるのだろう。





追悼・ジョニー大倉

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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