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ドリーム・パピー ~ 頭の良い子犬の見分け方

Posted by 高見鈴虫 on 16.2015 犬の事情
朝のセントラルパーク、
9時のオフリーシュ時間を過ぎて、
パークポリスの目の届かない秘密の草原に忍び込んでボール遊び。
空に向けて高々と投げあげたボールを、
全力疾走で追いかけては見事なダイレクト・キャッチを繰り広げるブッチに、
他の犬の飼い主たちも拍手喝采のヤンヤヤンヤ。

とそんな時、ふと背後に視線。
誰だ、俺にメンチを切っている奴は、と見わたせば、
ぬぬぬ、誰も居ない、
と思いきや、なんと俺の背後の、その足元に、
黒い瞳をくりくりと輝かせた子犬が一匹。

なんだよお前、と声をかければ、
じっと俺の瞳を見据えたまま、小首を傾げてみせる。

そのいちずなほどに直線的な視線。
まさに心の底を覗きこむような熱い熱い眼差し。

なんかお前、子犬のころのブッチにそっくりだぞ。





見かけない顔だな、まだパピーか?もしかして今日が公園デビューって訳か?

そんな俺の言葉にいちいち右に左に首を傾げながら、
笑いかけるたびに瞳をくりくりとさせながらじゃれついてくる。

そっかそっか、嬉しいのか、よしよし。

身体中撫で回せば、腰からしっぽからを踊るようにくねらせて、
首を伸ばしては顔を舐めようとする。

とそんな俺達の後ろから、おい、早く、ボール投げろよ、と催促するブッチ。

どうだブッチ、この子犬、なんか顔つきがお前の子供の時にそっくりじゃないか。

そう、このブッチもそうだった。

出会った時、シェルターのケージの中からまるで射すくめるような強烈な視線を感じて、
そして目があった途端に、一撃で頭が真っ白になるぐらいに、心の底まで魅入られてしまった、
この世界一のやんちゃ小僧。

そしていま、この眼の前の子犬。
見れば見るほどにあの頃のブッチにそっくりである。

やあ、と声をかけてきた子犬のオーナー。
いやあ実は、こいつ、馬鹿のバカのバカ犬で。
つい先日にシェルターから貰い受けてきたばかりなんだけど、
やることなすことめちゃくちゃ。
もう部屋中が破壊しつくされてしまって、
シェルターに返すつもりなんだ、とのこと。

でも、もしあんたが子犬のトレーニングができるなら、良かったら引き受けてくれないか?

と言われながら、そんな間抜けな飼い主には目もくれず、
この足元のまさに夢のように可愛いパピー。
なんだよ、なんだよ、お前、問題児か?と頭を撫でれば、、
へへへへ、と肩を竦めてニカっと笑ってみせる。
このやんちゃ小僧め。本当に可愛い顔しやがって、ほら、おいで、と手を叩くたびに、
いきなり膝の上に飛び乗ってきては、顔中を嘗め尽くしてご満悦。

この黒い子犬、名前は、デュード。
男の子で、多分、生後4・5ヶ月。

さあ、行っといで、と言った途端に、
膝を飛び降りて駆け始めたデュード、
あちらの丘からこちらの丘まで一目散。
で、改めて、おい、デュードと名前を呼べば、
え?と振り返ってまじまじと俺の顔を見つめてくる。

そんなデュードに、おまえ・・・あたま良いなあ・・と思わず目を見張ってしまう。

え?なんだって? この馬鹿犬が本当は頭が良いって?それも人並み、ならぬ、犬並み外れて・?まさか!

そう、こいつは、本当の本当に頭が良いと思うよ、と俺。
大当たりも大当たり、こんなに頭の良い犬はあんまり見られるものじゃないよ。

えええ、と驚愕する飼い主。まさか・・・

で、いったい、なにを持ってこいつが頭が良いといえるんだ?

ほらデュード、お座り、とやった途端に、はい、お座り。
よし、じゃあ、お手を教えてやる。はい、シェイク・ハンド、とやりながら片手を手のひらに載せれば、
ぬぬぬぬ、と小首を傾げて考えて、で、二回目のシェイク・ハンド、もうすぐに覚えては、
頼みもしないのに、右手左手、シェイク・ハンド、シェイク・ハンド。

ほら、次はボールだよ。これ、これを、投げるから追いかける。
で、ほら、持っておいで、ここに、そのボールを持ってきて。

全てが、一度、あるいは二度目で、完璧に覚えてしまう。

そんな様子を、まさに目を見開いて凝視するオーナー。

頭の良い子犬、
まず第一は、アイ・コンタクト。

飼い主としっかりとアイ・コンタクトが取れるか。
コマンドを見て、それを認識できるか。

大抵のバカ犬は、まずはこのアイ・コンタクトが取れないことがその理由。

そして二番目。リスニング。
おい、デュード、と名前を呼んだとたんに、ほら、ああして、耳を立ててその言葉を聞いている。

こいつはさっきから、俺達の会話を、ほらほら、見てごらん、こうして、小首を傾げて、じっとじっと聞いてるんだ。
これが二番目に大切。飼い主の声を聞き分けて、その意味を探ろうとする、その好奇心こそが頭の良い子犬の最重要要素。

で、ほら、ボール投げ、見ろよ、一回教えただけですぐに覚えている。
つまり俺がブッチとやっていたことを観察して、それをすぐに自分でやってみようとするその学習能力。
そしてこの足の早さ、この運動能力から、すべてにおいてまさに完璧。

あんたラッキーだな。こんな素晴らしい子犬、ざらに居るものじゃないぜ。

いやまさか・・・
本当はもっとおとなしいタイプの犬が欲しかったんだ。
なんで、実はもう、シェルターに返すって電話しちゃったんだが。

だったらすぐに取り消した方が良い。
これ以上の子犬はいないよ。
おとなしい子犬ってのはただたんに子犬の頃から虚弱体質で発育不良。
運動能力が劣ってるか、あるいは知能が足らない、つまりトロイだけの話。

こいつこそはまさにドリーム・パピー。

その運動能力、知能、学習能力、好奇心、適応性、すべてにおいてオールA。

ほおお、と感心する人々。

でもねえ、と改めて。

ほら、あんたのその子、ブッチくん。
ブッチくんみたいにお行儀の良い優等生だったら良いけど、
こいつはもう部屋中を暴れまわってはしっちゃかめっちゃか。
外に出せば通行人の誰彼構わず飛びかかる、
他の犬と喧嘩はする、
もう、こんな馬鹿犬、はっきり言って面倒見切れない。

とオーナーのそんな言葉を聞いて、周りの古株たちが大笑い。

ええええ、ブッチが?このブッチが昔は、もっともっと酷かった?

そうよ、このブッチ、ピンボール・ブッチって言われてたよの。

ここのフィールドで、もう犬という犬の片っ端から追いかけっこを仕掛けては、
犬という犬のすべてを引き連れてほら、あそこにある岩の上から飛び降りて。。

まさか・・・でも今は・・・

教えてくれ、どうやってトレーニングしたんだ?誰に教わった?ドッグトレーニングのクラスでも取ったのか?

いや、こいつに、とブッチを見やる。こいつに教わったんだよ。

こいつの言っていることを素直に耳を傾けてやること、それがまずは一番。

ほら見て、と古株連中。ほんとうにブッチとこの人は会話ができるのよ。すべてのコミュニケーションが成り立ってるの。

なぜ、なぜそんなことができるんだ?あんたは犬語が話せるのは?正真正銘のドッグ・ウィスパら~って奴か?

つまり、犬にもコミュニケーション能力がある、それもかなり高度の伝達能力を持っているってことを素直に認めてやること、そしてそれを尊重すること。

コミュニケーション能力?

そう、一方的に命令を下すだけじゃなくて、
犬の発しているメッセージをちゃんと理解してやればそこにコミュニケーション、
そして交流が始まる。
大抵のバカ犬と言われている犬は、
実は飼い主がそのことにさっぱり気づかずに、
犬の方で人間との会話をすっかりとあきらめているケースがほとんど。
つまり、ああ、俺の飼い主、すっごく馬鹿だ、駄目だこりゃ、と諦めているってことだよ。

うちの子もね、とレッシーの飼い主。

シェルターから来たばかりの頃は震えてばかりで、この公園に来たってベンチの下に潜り込んだまま動きもしなかったの。
それが、ほら、このボール遊びも、はい、こっちに来て、はい、お座り、そこで待ってて、
はい、そこのボール取ってきて、はい、このバッグに入れて、
ほら、これすべて、この人に教えて貰ったの。

教えたんじゃないよ。俺がレッシーに事情を聞いて、言葉の伝え方を俺が教わっただけだよ。

とそんな話に退屈したデュード。
手持ち無沙汰にブッチの口元からボールをかっさらおうとしていきなりコラ、と怒られて悲鳴を上げる。

途端に、あああ、と大騒ぎする飼い主に。なんだなんだ、お前、なにやった?噛まれたか?大丈夫か?どれ見せてご覧。

そんな飼い主の大騒ぎを笑う古株達。

ほらね、ブッチは今でもあの頃のままなの。
ピンボールブッチ。ピットブルもジャーマンシェパードも、
このブッチにちょっかいを出してひどい目に会ってきてるの。
でもね、そうやって学んでいくの。
犬同士のコミュニケーションと、そして飼い主とのコミュニケーション。

そう、こいつは優等生でもなんでもないよ。
無法者も無法者。その中にはいまだに熱い血が煮えたぎっている。
ただ、俺にはそれをやらない。なぜかと言えば、多分、話せば判ると思ってるから。

それが一番大切よね。
飼い主と話が通じているという信頼関係。
それにはまずは飼い主が心を開くこと。
犬に命令するだけじゃなくて犬の気持ちを察して、それを読むこと。受け取ること。

さあ、と声をかけた途端に跳ね起きるデュード。
はい、お座り。はいシェイク・ハンド。はいよく出来た。
デュード、お前、本当の本当に頭が良いなあ。
はい、じゃあボールで遊ぶか。ほら、取ってこ~い。
で、はい、そのボール、はい、飼い主さんに届けて。

といきなりボールを足元に落とされた飼い主さん。

デュード、お前、本当はすごく頭が良いのか?
そう言われて小首を傾げながら、頭を撫でられた途端にごローンとお腹を出して転げてみせる。

安心してるんだよ。胸を撫でてって。

胸を撫でる?

そう、最高の信頼感情を表しているんだ。あなたが大好きって。

そうだったのか。

お前、本当は頭が良かったんだな。ほら、こうやってこうやって。

はしゃぎながら踊りながら、そしていきなり飛び起きたデュード、
こんどは飛び上がって飼い主の顔を舐めようとする。

大好き、大好きって。飼い主の口元を舐めようとするのも信頼感情の表れ。

うんちがしたいときはしっぽがピーンとまっすぐになるし、お腹が空いたらさかんに口の周りを舐めて。

そうやってシグナルを送っているのか。

そう、犬もしっかりと会話をしようとしてる。それに気づかない人間が馬鹿なだけ。

特にこの子、デュードは、目線を合わせてくれるだけその感情が読みやすい。
つまり頭が良い。躾もし易い。コミュニケーションが取りやすい。

そっか、そういうことか。

その場その場で犬がどんなときにどんなシグナルを送ってくるかをキャッチすること。
それこそがコミュニケーション。

途端に胸のIPHONEを取り出した飼い主。

いきなりシェルターに電話をして、あ、あの、返すのやめました、はい、いや、あの、
いやいや、ダメです、どんなことがあってもデュードは離しません!

それを聞いて全員が大爆笑。

とそんなときに、またまた、おいおい、と呼ぶブッチ。
俺のボール遊びどうしたんだよ、お前、なにしにここに来てるんだ?
俺の散歩のためだろう。
ならちゃんと付き合えよ。

はいはい判った判った、と俺。

電話を置いた飼い主。あらためておめでとう、の一言。

ねえ、ドッグ・ウィスパラー、教えてくれないか?
犬を飼う上で一番大切なことはなんだい?

それは散歩、と一言。
散歩して散歩して散歩して。毎日毎日、もう十分です、お腹いっぱいですというぐらいにまで散歩をさせてやること。

それが3年、とレッシーの飼い主。

それを三年続けたら、犬は感謝の気持ちでいっぱい。その後はなにがあってもあなたとの信頼が崩れることはないの。

三年かあ。

長いようで短いわよ。あっという間よ。

犬はね、長くても15年の命なの。人間の一年は犬にとっての7年間。

最初の三年が私達人間でいう二十歳までの期間。つまり、人生の中の輝ける時間の全てなのよ。

その三年間をどれだけ幸せに過ごさせてあげるか、が犬の一生の中で一番大切なことなの。

つまり、今日のこの一日が、犬にとってはとても大切なのよ。

この子に幸せな一生を送らせて上げることは、飼い主として、あるいは人間としての責任。

そして犬の幸せな笑顔こそが、この世における幸せのすべてなのよ。

ほら見て!ほら、デュード、笑ってるわ。

青い空の下、緑の芝生を駆けまわりながら、振り返るたびに、ニカっと笑いかけて再び走り回るデュード。

あああ、しまった、と飼い主。再びIPHONEを取り出して、しまった、いまの笑顔、写真に撮りそこねた。

ほら、見て、私のIPHONE、もう、どれもこれも、犬の写真でいっぱい。

そうそう、わたしのも、ほら、これこれこれこれ、人間なんて一枚も写ってないの。

ははは、それは誰もが同じことだろ。IPHONEのアルバムは我が犬の写真ばかり。
そればかり見て一日中を過ごしているんだから。

まったく犬バカよね。

それが犬と一緒に暮らすってことだよ。

そうなってみて初めて犬のありがたみが判るってものよ。

という訳で、シェルターから貰い受けられたデュード。いま始まろうとしている新たな人生。
その幸先としては、なかなか上々、と言っても良いのではないか。

また新たにセントラルパークの仲間が増えた。
デュードはいまや、ブッチの後ばかりを追いかけながら、すっかりと子分気取りなのである。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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