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あろうことかこの失業者

Posted by 高見鈴虫 on 22.2015 とかいぐらし
この失業者、
あろうことか陽に焼けている。

つまりは朝に起きてセントラルパークを犬のお散歩。

そのついでに午前中いっぱいを、
シャツを脱いで芝生に寝転んでは、
人材派遣サイトの求人広告をつらつらと眺めて過ごしているのがその理由。

おかげで全身が真っ黒。
まるでバケーションから帰って来たばかりのように、
あるいは、日がな一日釣りとテニスばかりやって暮らしているような、
まさに浮世離れした風情。

そこには失業者の悲壮感など欠片もない訳で、
確かに、こんな溌剌とした失業者、
雇う方にしても、いったいこやつは何者?
と首を傾げてしまうのも頷ける。

がしかし、その失業者が、その見かけほどに、
それほどお気楽にしているか、と言えばまったくそんなことはない。

連日の面接続き。

そのたびに、金に詰まった焦燥も苛立ちも、
すべて満面の笑みにひた隠しながら、
あることないこと自己喧伝を繰り返しては、
危うい綱渡り的を続けている訳で、
そのプレッシャーと心労から、
ろくに飯を食う気にもなれない、というのが正直なところ。

ここ一ヶ月の間に中年腹がへこんだどころか
ここ久しく見ることのなかった腹筋のシックスパックが、
日焼けした肌の上にくっきりと浮かぶまでになっている訳で、
改めて、ダイエットに一番効果があるのは、
実は心労である、と気付かされる訳だ。

がしかし、そんな心労ダイエットの効果か、
まさにベストシェイプな体型を誇ってしまっているこの失業者。
改めて、ますますらしくない、風情であるわけで、
がしかし、それこそがまさに、この失業者の目指している姿でもある。

この失業者、ひねくれ者なのである。
失業者であろうがなんだろうが、
死んでもルーザーの面だけはしたくない、訳である。

例えどれだけ追い込まれようとも、
この男が生きている限り、
ルーザーの面だけは晒すことはできない、
と糞意地を張っている訳である。

という訳で、今日もこの失業者、
全身に日焼けた身体に腹筋の筋を浮かべながら、
灼熱の下をダークスーツを着込んで、
新たな綱渡りへと出かけていく訳である。

この夏の真っ最中に、
日がな一日、冷房の効きすぎたオフィスに缶詰にされた、
青白いぷよぷよ面の面接担当者の前で、
真っ黒に日焼けした痩身にバリっとしたスーツを着こみ、
満面に笑顔を浮かべては、
いやあ、人生楽しくて。元気ハツラツでごじゃります、
とこれ以上なくポジティブに振る舞う失業者。

まったくもって、こいついったいなんなんだよ、な訳なのである。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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