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トイレに紙コップ!?

Posted by 高見鈴虫 on 06.2015 ニューヨーク徒然
職場にインド人が沢山いる。

まあ一言でインド人と言っても、
バングラデシュ人からネパール人からパキスタン人から、
といろいろと居るのだろうが、
まあ取り敢えずはあの辺の人々を総称して、
あるいはその先、ヨルダンからサウジアラビアからエジプトから、
アルジェリアからモロッコからと、
まあなんでもいいや、あんな感じの奴らはみんなインド人、
で一括りにしてしまっている訳なのだが、

とそんなインド人達、
トイレに行く時に、どういう訳か紙コップを持参しているようなのである。

トイレに紙コップ?どうして!?

まさかインド人たちだけを対象に、
抜き打ちのドラッグテストがある訳でもあるまいに。。

ってことは、つまりは、そういうことなのか?。。







嘗てインド亜大陸を放浪していた経験のある俺としては、
トイレに紙コップ、と聞いただけで、その秘められた事情についても、
すぐにピピンと来てしまうわけだ。

つまりなにか?こいつら、ここ世界の中心のニューヨークにおいてまでもなお、
あの、インドでの不浄的左手用法を通している訳なのか?

ぶっちゃけ、インドのトイレには紙がない。

インド人は尻を拭く時にトイレットペーパーを用いないのである。

ではどうするのか。
まさか一頃の中国人のように、拭かずに済ませる、というわけでもあるまいに。。

そう、インド人はトイレットペーパーの代わりに「水」を用いるのである。

尻の筋、というか、割れ目に沿って、
水差しからの水をちょろちょろと流しながら、
その水に濡れた肛門を、左手の指の先で、ムニュムニュ、あるいは、ゴシゴシ、と洗い流すのである。

インドにおいて、左手が不浄の手、とされるのはこれが理由で、
右手が塞がってるので左手で握手したり、
あるいは、ナンを引きちぎる時に左手を添えたり、とかすると、
おいおい、それはないだろう、と途端にお叱りを受けるのも、

お前、尻の穴拭いた手で、という意味なのである。

まあしかし、このインドにおける水の用法、
慣れてしまえばこれはこれでとても便利。

なんといっても、紙で拭き取るよりも尻の汚れは綺麗に落ちるし、
痔を患っている人にはこれはまさにうってつけであろう。
つまりは世界最古のウォシュレットという訳で、
長いインド放浪のうちにすっかりこの用法に慣れてしまった俺は、
旅から帰って後も、なんとなくこのやり方のほうがすっきりする、ような気もしていたのだが。

がしかし、である。
この方法が世界的なスタンダードにならなかったのにはやはりそれなりの理由がある。

長い旅の末に舞い戻った祖国・日本。

なにもかもがピカピカに磨き上げられた、
どこもかしこも漂白剤の匂いがするようなあの東京のど真ん中、
とある一流ホテルでトイレを拝借した際、
ふと、悪戯心から、この方法を用いてみた訳である。

つまり、ウォシュレットの水を当てながら、左手でムニュムニュ。
うーん、やっぱりすっきりするよな、と勝手にご満悦。

で、トイレを出た後、何食わぬ顔で過ごしながらも、
ふとすると、何故かどこかで妙な匂い。

むむむ、どこかで変なものを踏んづけたかな?
と、恐る恐るもその臭いの元を探リ回った後、
つまりはそう、左手が臭う、のである。

まさか、石鹸を使って良く洗った筈なのに。。

そう、この用法だと、左手が匂う。

肛門に付着した糞便のあの強烈な臭いは、
ちょっとやそっと石鹸で洗ったぐらいでは拭い去れるものではないのである。

がしかし、彼の地、インドやらパキスタンやら、
イランやトルコやエジプトでも、まさかそんなことに気づくことは無かったのに。

つまりはそう、彼の地は、世界がそんな臭いに、あるいは、
ありとあらゆる臭いに満ち溢れていた為、
その左手の不浄の臭いにも、気が付かなかった、だけの話なのではないのか。

そしてこの清潔大国日本、
ありとあらゆる汚いものをすべてピカピカのモルタルと消毒液の中に密封してしまった東京においては、
そんな僅かな左手の指先の臭いも、立ちどころに浮き上がってしまう、と、つまりはそういうことなのではないか。

とあらためてこんなところにも露骨に存在する文明の障壁について感じ入った訳なのであるが、
という訳でここニューヨークである。

世界ではつと有名な、臭い汚いうるさい、の三拍子の揃ったこの大都市。
とは言っても一応は文明国を代表する都市でもあるこの街。

世界中の人種が行き交うサラダボールと言われながらも、
さすがに、ホームレスをのぞいて、あるいは下水管の破裂した地下鉄のホームのようにまで、
露骨に糞尿の臭いを漂わせている輩、というのは早々とお目にかかれるわけでもなかったのだが、

そうか、インド人はこの地においても、左手の不浄的利用法を貫いている、という訳なんだな。

とそんな時、ふと見れば、お隣りセクションのクリストファーが、なぜかニヤニヤしながら紙コップを片手にトイレに入ってゆく。
クリストファー、というぐらいで、まさかの意味ではれっきとした白人。
スコットランドだか、北欧だかの先祖を持つ、長身の金髪碧眼の美男子である筈なのだが、
そんなクリスがまさか、トイレで紙コップ?

思わず、おい、クリス、まさかお前までもが、と呼び止めてしまったところ、

え?なにが?あっ?これ?と、クリス。
ああ、歯を磨こうと思ってさ、とのこと。

歯?

そう、我が社の保険はそれほど劣悪という訳でないが、歯医者代はバカにならないからな。

あ、そういうことか。

インド人?ああ、あいつらほとんどがテンプ、つまり保険の付いてない派遣契約だからな。
虫歯なんかできたらそれこそ給料の全てを持ってかれるぐらいにとんでもない額を請求されるから、
つまりはそういう理由だろう。

なあんだ、そういう事かよ。。。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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