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BOSSな男

Posted by 高見鈴虫 on 26.2015 とかいぐらし
ちゅうわけで何の間違いか、ようやく見つかった仕事ってのが、
よりによってこの世で一番お硬い会社みたいなところであるわけだ。

まあとは言っても俺がいるのは技術屋部門なんでそういう意味ではかなり緩い訳ではあるが、
だからと言って海パンにセックス・ピストルズのTシャツ、という訳にもいかない。

という訳でビジネス・カジュアルである。

俺はどうもこのビジネス・カジュアルというやつが好きではない。

スーツを着るなら着るでばりっと決めるか、
それでないのならダブルの革ジャンの襟を立てて、
あるはそう、サンダルにTシャツ、あるいは半裸、
というのがまあ俺的なスタイル、と思う訳だ。

なにより、あのダボダボした綿パンにワイシャツのスタイル。
どうにもこうにも中途半端なシチーボーイというか、
ぶっちゃけ半端なダサ坊のイメージが抜けなくて困る。

それも、外したボタンの下から下着のランニングが見えていたり、
なんて様はいくらなんでもちょっと俺の美意識から遠く離れ過ぎる。

がしかし、そんな俺がちょっとでもファッションに気を使うような輩か、
というともちろん全然そんなことはない訳で、
普段から相手にしているのはどうせ犬ばかり。
犬の散歩にアルマーニであろうがコンウエイであろうが、
当の犬には知ったことではないだろうとばかりに、
この世で一番どうでも良い格好でばかり過ごしてきた男であった訳だ。

と、そんな俺がいきなりビジネス・カジュアル?
ありえねえ、と勝手に言わせてもらった訳だが、
だったらどうすんだよ、という訳で、
やはりそう、いくらビジネス・カジュアルと言っても、
やはり皺のいったシャツに折り目の消えたドカンのような綿パン
という糞ダサのおぼっちゃまスタイルだけはどうしても避けたいところ。
と、そんな事情から、会社の規定がなんであろうが俺は俺、
やはりネクタイぐらいは締めていこう、と思った訳だ。



という訳でネクタイである。

嘗てのチンピラ稼業の時代から合わせて、
それこそ季節を違わなければロックフェラーのクリスマスツリーがギラギラになるぐらいの
膨大な数のネクタイを所持してきた訳だが、
いざとなるとそれのどれもこれもがつまりはそう、
嘗て愛着していたジョルジオ・アルマーニに合わせていたもので、
つまりはどうもこう、このビジネス・カジュアルのスタイル、
あるいは強いて言えばこの半端に緩い時代感覚には
ちょっと決定的に温度差を感じてしまうようなものばかり。

でなんとなく思い立って、ストライプのネクタイ、なんてのを探してみた。

そう、なんとなく俺的な今、ネクタイというとストライプなのである。

がしかし、ダブルのアルマーニを肩に引っ掛けていたようなスタイルには、
このストライプのネクタイだけは絶対に似合わなかった訳で、
つまりは幾万のネクタイの中にあっても、
このストライプのネクタイだけはたったの一本も所持していなかった訳だ。

いや、そう、実は一本、そう、一本だけ持っていた。

昔ちゃらちゃら適当におもちゃにしていた女が入れあげていたダサいかたぎのリーマン。
そのひと、すっごく真面目な人なんだけど、お誕生日のプレゼント、なにが良いかな、
とかと言っていたのだが、
そんなだせえリーマン風情がなにを欲しがるかなんて俺が知るわけもなく、
んなこといいからさっさとやらせろよ、とやっていた訳なのだが、
予想通りというかなんというか、やっぱりそう、この女、
見かけと違ってそれこそ一回でもやれば、
ほとんど大抵のやつは????としっかりと気づいてしまような
まさにとんでもない女であったことから、
案の定、誕生日を待つまでもなく、え~ん、また逃げられた~、どうしてえええ
と泣きを見ていた事情は聞いていて、
よしよし慰めてやるから気にすんなって。まあそんなこともあるさ。
ただお前の本当の魅力に気づいてやれるのは、広い世界でもこの俺ひとりってとこなのかもなあ。
などと見え透いた戯言を囁きながら内心ではうっしっしこのおもちゃまだまだ使えそうじゃねえか、
などととしていた訳だが、
で、その年のクリスマスになっていきなし、ねえ、プレゼントあげようか、
と渡されたのが、このストライプのネクタイ。

んだこれ、と思わず吹き出してしまったそのネクタイ。

まるっきりどこぞの営業さん、ってか、
なんかまるで新入社員、というよりもそう、
まさにリクルート、仕事の面接用、そのままじゃねえか、と。

明らかにどう考えても俺用に買ったものではないわけで、つまりそういうことか、
とぴぴんと来たものの、
おお、ありがとよ、と貰ったまま袋も開けずにタンスの奥に放り込んでいたこのストライプのネクタイ。
これが実は後々役に立った。

つまりはカタギの仕事の面接なんてのを回ることになった事情から、
数年ぶりにスーツなんてものも着る羽目になったのは良いのだが、
いざそれにネクタイを合わせようとするとんだよこれ、
どれもこれもヤクザモンか半端なホスト、
あるいはちんどん屋みたいなネクタイばかりじゃねえか、
と途方に暮れていた際に、
そう言えば、と見つけ出してきたのがあの女に貰ったネクタイ、
つまりはこのたった一本のストライプのネクタイであった訳だ。

で、俺がストライプのネクタイ?まさかなあ、と
我ながらニヤニヤしながら締めてみたところ、
なんとなくそう、妙にいい感じ、なのである。

で、札を見れば、BOSS とある。

BOSS?缶コーヒーかよ、とは思いながら、
その光沢のある銀色と、なにげに配色されたピンクや青やグレーの帯が
まるで京都みやげの西陣織の財布ではないが、
面接用の細身のダークスーツに合わせてみると、
不思議と確かにそれなりの見栄えがする訳だ。

という訳で、前職のあの米系一流企業さんの面接も、
そして今回のこの世界で一番お硬い会社、とやらも、
このネクタイ一本で乗り切った訳で、
そう考えてみると俺なりのラッキーネクタイ、と言えないこともない。

あの知恵足らずのイケイケねえちゃんの淡い恋心の恨み節が、
巡り巡って俺の就職活動を助けることにもなったってのも因果といえば因果な訳だが、
ここに来て、ふーん、ストライプのネクタイ、確かに悪くねえなあ、と思うに至った。

で、そう、バナリパの割引券やらで、
ちょっと今風のストライプってのを探してみたのだが、
いざ手にとって見ると、なんだこれ、な訳である。

つまりはプリント地のペランペラン。

そもそもの発想の元になった、
あの女に貰った缶コーヒー屋のネクタイのあの光沢に比べると、
まるで浴衣の紐と和服の帯、ビー玉と真珠、
あるいは、グレッチのスネアとシンドラ、ぐらいの歴然とした差が
それこそ残酷なぐらいに浮き彫りになって見えてくる。

で、ふと見れば、これまで後生大事に取っておいたあのアルマーニやらゴルチエやらでさえ、
なんとなくそう、子供だましの金メッキという感じがして来るではないか。

改めて見るこの缶コーヒー屋のネクタイである。

このBOSSというのが一体どんなブランドなのか良く知りもしないのだが、
確かにそう、このたった一本のストライプのネクタイ、
他と比べてもそのクオリティが違いすぎる。

つまりはそう、このネクタイ、相当に値の張る贈り物だったのだろう。

あの馬鹿娘、ああやっていつもチャラチャラしているように見せて、
実はあのうすのろのリーマンに本気だったんだな、
と今になってその乙女心の意地らしさに感じ入ってしまった訳で、
改めてこのHUGO BOSS、たった一本のストライプのネクタイが、
ちょっとした宝物、後光が挿して見えてくる、というもの。

がしかし、いくらお気に入り、と言っても、
毎日同じネクタイ、というわけにもいかない。

かと言って、今更たかがプリント地の金メッキと判ってしまった安物を首に巻く、
なんて気にもさらさらなれない訳で、
うーん、と悩んだ末に、そっか、EBAYか、と思い当たった。

で、手持ちのIPHONEから、ネクタイ、ストライプ、とかと検索をしてみたところ、
まあまあ出るわでるわ、山のようなネクタイが売りに出されている。

そりゃそうだよな、このビジネス・カジュアルの時代だ。
おまけにクールビズやらなにやらの世に、
わざわざネクタイを締めたがるなんて奴がそうそうと居るとも思えない。

という訳で、このHUGO BOSSってブランド、
ちゃかちゃかっと調べたところ、えっ?10ドル?

確かに、ブルックス・ブラザーズやらバナリパやらが
2ドル3ドルのごみのような値段で売られているのに比べては
1ドル2ドル高いのかもしれないが、
それでも10ドル前後のものが山のように出てくる出てくる。

でまあ、そんな中で、ちょっと目についたやつを二三本、
ちゃかちゃかっとBITにかけて、ラッキー、送料込みでも12ドル。

でもなあ、それだったらアルマーニ、あるいはバーバリーなんかでも、
10ドルもあればいくらでも見つかる訳で、
そんならどうせなら、などとまた要らぬ目移りを始めた挙句、
思わず5本10本と大人買い。
と言ってもまあたかが10ドル20ドルだろ?
という訳で、そんなこんなでまとめ買いしたネクタイが次々に届き始めた訳だが、
ここに来て改めてぎょっとしてしまった。

アルマーニフェラガモにグッチにベルサーチに、バーバリー。

どれもこれも似たような10ドルぐらいの価格帯にしても、
このBOSSという缶コーヒー屋と、それ以外の品々、
もう、手に取る前からその質の差が歴然なのである。

という訳で改めてこのHUGO BOSSってブランドのネクタイ。

まるで銀糸を縫い上げたようなシルクの光沢は、
輝きというよりは凄みまで放つかのような見事な質感。

柄の一つ一つがまさに縫い込められている訳で、
これを見てしまうともう他のプリント地のペラペラはまさにおもちゃ、
まるで冗談のようにも見えてくる。

という訳で、なんとなく、というよりは、半ば確信を持って、
このBOSSという名のネクタイ、ストライプばかりを狙い撃ちにしては次々と購入、
がそれもすべて10ドル以下のものばかりなのだが、
普通郵便の茶封筒に押し込められたそのネクタイ、
手にとった途端にまさにギンギラギンに輝いている訳で、
思わず、ほっほ~と感心してしまうことも度々。

うーん、たかがネクタイ、されどネクタイ。

そしてこの HUGO BOSS という会社。

今となってはもう、HUGO BOSS のネクタイ以外は締める気にならない。

がしかし、このHUGO BOSSのネクタイであれば、
それこそ七色パンティではないが、毎日とっかえひっかえしてでも身につけてみた、
と思わせるなにかがある。

とそんな訳で、最近の俺はすっかりBOSSフリークである。

ユニクロの特売カラーシャツに、相も変わらずバナリパのスリムフィットのスラックスながら、
そこにこの、HUGO BOSSの金糸銀糸のネクタイを締めるだけで、気分はもう勝ち組リーマンさん。

思わずボタンも上まできっちり留めてしまって、
思わず髪までコテコテに撫で分けてしまって、
ついでにイッセーのコロンまでふりかけて、
それにレイバンのグラサンなんてかけて見れば、
これはもう押しも押されもせぬウオールストリートのピラニア金融マフィア、そのものである。

なんだよなんだよ、なかなかじゃねえか。

とそんなこんなで、みるみるうちにストライプのネクタイばかりが40本。その全てがBOSSばかり。
しかも、それだけポンポンとまとめ買いしたにも関わらず、ハズレというものが一本もない。

これはこれは、である。つくづくこのBOSSという会社、なかなかやるじゃねえか、と思わざるを得ない。

とそんな訳で、最近の俺は、BOSSな男、として地下鉄の王を気取っていたりするわけだ。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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