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ドミニカ人のいる職場

Posted by 高見鈴虫 on 26.2015 とかいぐらし
会社にドミニカ人が居るのだが、これがもう、相当に厄介である。

陽気なのは良い。
いつどんな時でも鼻歌まじりで身体を揺すって、
机を叩いては大口を開けてゲラゲラと笑い、
誰彼となく話しかけてはいつ果てる事なくお喋りを続け、
話し相手がいなくなるととたんに携帯で誰かに電話しては、
例のスペイン語という奴で永遠と喋り続ける。

まあ誰にも判らないと思っているのだろうが、
下手にスペイン語が判ってしまう俺としては、
その電話の内容が、つまりは痴話喧嘩であったり、
あるいはその原因となるのであろうどこぞのプータ、あるいはムチャチャ、
つまりはカリエンテなシニョリータのノビアな訳であって、
それを知っているエスポーサからこのチンガのプータのとひっきりなしに電話がかかって来る訳で、
まあなんとも忙しい日々を送っているようだ。



実は俺には古くからのドミニカ人のダチがいて、
そんなドミニカ人たちの良い所も悪いところも嫌と言うほど味合わされている。

味合わされながらしかしどうも俺はこのドミニカ人という奴らと妙に気があってしまうところがあるらしく、
そんなこんなでそのダチに招かれては、彼の実家であるサントドミンゴの旧市街、
そのゲットータウンのど真ん中にある邸宅に長居を決め込んでは、
毎日なにをするでもなく近所の連中と朝からセルベッサでサルーしながら、
ハッパを喫ったりムチャチャをからかったりして過ごしていた訳だが、
そんな経験からこの会社の同僚であるドミニカ人が、
何故にそういう人であるのかって事情も思い切り知り尽くしているという次第。

サント・ドミンゴは実に喧しい街だった。
24X7。週末も週中も、昼も夜も関係なく、
街中の至る所でなにをするでもなく暇を潰す人々が、
のべつまくなしビールを煽ってはメレンゲやらサルサやらの音楽を、
昼夜時間に関係なく徹底的な大音量で流し続け、
排気ガスをそれこそ煙幕のように撒き散らす車がそこかしこで、
悪ふざけでもしているようにクラクションを鳴らし続けて、
商店街の宣伝カーがヒビ割れたスピーカーで訳の分からない放送を繰り返し、
犬が吠え餓鬼が騒ぎ女が歌いそして寄った男たちの羽目を外した怒声が響き続ける。
そんなサント・ドミンゴの旧市街、家の中に居ても外にいても、
深夜を過ぎても朝を迎えても、
街中のどこを探しても心の休まる場所というのが徹底的に見当たらず、
人の居ないところ、というとそこには必ずジャンキーか娼婦か乞食か物盗りか、
あるいはそのどれと比べても徹底的にたちの悪い警官崩れがカモを待ち構えている。
夜は夜で電圧が安定しない関係で電灯はちかちかとろくに本も読めず、
おまけに30分起きに停電が起こっては、そのたびに街角の暇人連中が騒ぎ始める。
誰も彼もが四六時中昼も夜も徹底的に酔っ払っていて、
やることがないものだから一日中痴話話ばかりして過ごしている。

と、そんなドミニカという国で育った人々である。
当然のことながら実に騒々しい人たちである。

いつもそわそわと落ち着きがなく、
一時もじっくりとなにかに集中する、ということがない、あるいはできない。
お喋りで移り気でガチャガチャと始終騒がしく、
それを周囲にどう思われようとさっぱり気がつかない。
ただ、いつ何時でも周りが気になるらしく、ちょっとめぼしい女がいれば、
やれドーナッツだチョコレートだ、と甘いものばかりの物量作戦で関心を買おうとし、
仕事の能率はリップサービスのみで十分だ、とばかりに、
管理職の机を回ってはゴマを磨りまくっては、自身の仕事は全て周りに押し付けようとする。

まあそう、そんな同僚に限らず、ドミニカ人というのは得てしてそういう人々なのである。

そう、つまりは気のいい田舎の兄ちゃん、端的に言ってよくあるチンピラ気質な訳で、
そんな田舎のチンピラ気質というものがすでに国民性になってしまっているこのドミニカ人という人々。
その存在そのものからして、この高度情報管理下社会を支えるこの職場には徹底的にそぐわない訳である。

まあしかし、確かにそういう俺は俺で、実は餓鬼の時分は割りとそういうキャラで育ってきたのも事実で、
そんなドミニカ人の奴ら、外で適当につるんでいる分には非常に付き合いやすく、なにより乗りが合う。
しかもそいつらの周りにいる女ってのが割りとまあ絶品な訳で、
白人黒人その混ざったののグラデーションからしてまさに千差万別。
そんなドミニカ人たちが口にする話題というのも朝から晩まで徹底的にその話ばかりである。

男も女もろくに毛も生えないうちから、
隣近所のそこら中にいる暇な人々からあの手この手でその手の洗礼を受け、
年端もいかないうちからまさに百戦錬磨。
街をちょっと歩けばそこかしこにタ暇を持て余した立ちん坊のプータやらよっぱらいの姉ちゃんやら、
なにをしているのかただ暇を持て余しているだけの少女たちから、
ガキからねえちゃんからおばさんから婆さんから、
朝からすっかり酔っ払っては朝寝の続きあるいは昼寝の際の抱きまくら代わり、
そこら中で犬も歩けばとばかり見境なく露骨な艶を振りまいている訳で、
そのやったやられた取った取られたのネタばかりで一生が終わってしまう、
つまりはそう、ドミニカ人とはそういう人たちであって、
そんな中で育ってきたドミニカ人、
やはり男も女もその分野に関してだけは妙に長けているところがあって、
それがドミニカ人のプライドである、という思っている節もある。

そう、つまりドミニカ人にとって、人生とはそういうものなのだ、ということなのだろう。

とまあそんな環境に育ってきたドミニカ人。

こと、オフィス、という環境にはやはり徹底的にそぐわない。

始終、まるでピンと張り詰めたような沈黙のオフィスにただただ、
キーボードを叩く音だけが、カチカチと鳴っているだけのオフィスでは、
まるで迷子になった犬のようにいつもそわそわと落ち着かず、心もとなく、
ついに居ても立っていられなくなっては、不安を誤魔化すために鼻歌を歌い始め、
陽気さにみせかけて実は恐慌状態に近い心持ちで、
やたらめったらにお喋りばかりをしかけてくる。
そう、つまり実のところ徹底的に仕事ができない、あるいは、
言いたくはないのだが、端的にオツムのレベルが極端に違いすぎる。
まさに最新鋭のCPUを搭載したギガビット対応の最速マシーンの中にあって、
いきなり56KモデムのWindows98が紛れ込んでいる、とまさにそんな感じ。
それがばれないようにといつも不安でならず、
がしかし本職の実務はというとまさにちんぷんかんぷんで、
本人は途方に暮れるを通り越して完全に諦めてしまい、
別の方法を探そうとばかりに周囲のご機嫌伺いにばかりに勤しむことになる。

という訳で、オフィスの中に降って湧いたようにぽつねんと存在するこのサント・ドミンゴなドミニカ人。

今日も一日中、会社中をほっつき歩いては誰彼となくお喋りを繰り返し、
休みなくチョコレートやらキャンディやらドーナツやらをむさぼり食ってはすれ違う人々、
上位職と見ればおべんちゃらを言いながら徹底的にまとまりついて、
女と見るやデレデレと目尻を下げながら耳の腐るようなお世辞を繰り返す。

という訳で、日本人の俺、
つまりは、始終どこにいってもいつ何時でも静かにしなさい!人の迷惑でしょ!
とやられ続けてはお勉強ばかりさせられてきた俺としては、
そんなサント・ドミンゴな同僚の、
そして俺の秘めたる気質とまさにシンクロするべき筈のその田舎のチンピラ気質が、
ことこの職場環境においてはどうしてもどうしても鼻について堪らない訳である。

聞こえてくる鼻歌に、うるせえ、どうせ歌うならもっとろくな歌にしろや、やら、
机をタカタカと叩き始めては、バカタレ、リズムがずれたぞ、どうせ叩くならしっかりとクラーベを刻まんかい、やら、
わかったわかった、つまりは俺はモテる、ちんこがでかい、それ以外に威張れるものはない、と、
まあそれがいいたいだけなんだろ、とか、
てめえが忙して仕事が回らねえのは、ただたんにてめえが人並み外れてうすのろの馬鹿で、
しかもちゃらちゃら遊んでばかりいてちっともまともに机に向かっていないせいだろうが、
そう、つまりは全てが全て、見え透いてしまいすぎ。
謎が無さ過ぎ、端的な話、なにかについてシャロー、つまり底が明けきってしまっている訳であって、
なぜかといえば、そう、つまりはこの俺、子供時代の俺とキャラが被っているからなわけである。

という訳で、この困ったドミニカ人。

こいつが近くにいると真面目に仕事の能率が下がる。
なるべく集中的に効率よく手際よく仕事を終わらせてさっさと帰って犬の散歩に出ては、
本来のチンピラとしての自分に戻りたい、と思っている俺としては、
そんなドミニカ人のガチャガチャした風情が、
真面目な話、心底とても迷惑なのである。

がしかしそう、そんなことを当のドミニカ人に言ってもお角違いである。

つまりドミニカ人というのは本来そういう人たちな訳であって、そうでなくなってはドミニカ人ではなくなってしまう。
つまりドミニカ人がドミニカ人である以上、そういう迷惑な人々であり続けるということなのだ。

という訳で責任の所在はと言えば、そんなドミニカ人を雇ったマネージメントな訳であろう。
いったいどこのバカが、どんな理由で、よりによってドミニカ人を雇おうなんて思ったのか。
知らなかった、と言えばあまりに浅はか。常識を知らなすぎる。

なぜならば、そう、ここニューヨークに置いては、ドミニカ人がそういう人たちであるというのはまさに常識、衆知の事実。
よって、集中力やら効率やら正確さや緻密性の求められる職場に、ドミニカ人が雇われるということはまず無い筈、なのである。
よって、この同僚であるドミニカ人が、まさかホワイトカラーのデスクワークの仕事を得られた、
というのだけで晴天の霹靂、奇跡のラッキーショット、という訳で、まさにそれも、日系グローバル会社であればこそ起こりうる珍事である訳だ。

という訳で、まさに、なんの風の吹き回しか、
まんまとそんなおいしい仕事にありついたこのドミニカ人。
まさに有頂天な訳である。

あのなあ、よく聞け、俺はな、知的労働者なんだぞ、ガハハハ!

とかなんとか、彼の暮らすドミニカ人コミュニティの中にあってはまさに奇跡の人、出世頭の筆頭な訳だ。

という訳で、それを吹聴すればするほどに馬鹿なドミニカ人の女が騙されて、そして彼のお喋りは際限なく続くことになるわけだ。

だから、なに言ってるんだよ、そんなことないって、浮気なんてしてないよ、嘘、嘘、全部嘘だって、あっ、ちょっと待って、仕事の電話だ、忙しくてさ、なんてったって俺は、デスクワークの人なんだからさ、ちょっと待っててーーー
おおお、かわいこちゃん元気か元気か?うんうん仕事頑張ってるよなんてったってホワイトカラーの俺だからね。そうそう君にダイヤの指輪を買うためにがっぽりお金を儲けてさ。今夜?勿論勿論、今からでもすっ飛んで行くから、あっちょっとまってね、仕事の電話、いやあ忙しくてなんてったてホワイトカラーなんだからさ、ちょっと待っててねーーーー
あ、はいはい、やあやあ、勿論忘れる訳無いだろう、あれからもう君のことばっかり考えてるよ。仕事?ああ忙しいよなんてったってホワイトカラーのデスクワークだからね、ストレスも貯まるけど、まあそれが俺の仕事だからさ、でもね、そう、あれ以来、君をひと目見てからというものもう君のことばかり考えちゃって仕事なんてぜんぜん手につかなくてさ、あっ、ちょっと待ってね、ああ、うん、仕事の電話、おっと、社長だ。ああなんとまた社長からランチの誘いなんだよ、いやあ、そうそう、実は社長に凄く気に入られててね、ランチに行こうってきかないんだよ。君のために重要なポストを用意してるんだ、なんてね、ははっは、そんなことないよそれほどでもないけどさ、あっ、ちょっと待ってね、このままこのままーーーー
ハイハイ、おいおい、どうしたんだよベイビー、なんだって?いやそんなことない浮気なんてしてないよ。うんうん、君だけ君だけ、愛人は君だけだよ勿論勿論、キスしてキスして、なに?裸?いま裸なの?くっくっく目に浮かぶよ、君のおっぱい、そのおっぱいをちゅっちゅっちゅ、とやってその首筋から胸元からおヘソからその下の下の下の下の・・

という訳で、恨めしいのはマネージメントの方々である。
見晴らしの良い個室の中に鎮座ましました方々。
後ろの席で一日中そんな話を聞かされる俺の身にもなってみろ、と本気でそう言いたい訳だ。
という訳で、改めて、ドミニカ人のいる職場。
そんなこともやはり多国籍企業ならではのことなのだろうが、いやはやまったく難儀な日々である。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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