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WALKING ON THE MOON

Posted by 高見鈴虫 on 31.2015 とかいぐらし
プロジェクトもそろそろ大詰め。
予想はしていたのだが案の定、
ここに来て対日本向けに夜勤を言い渡されることになった。

これまで朝から晩まで会議会議に追い回され、
深夜になってようやく帰宅すると次は日本からの電話対応である。
こうして昼夜を問わずに徹底的に追い回されては、
もう一時間だけで良いから仕事から開放される時間を作らねば、
と思いながらもそうも行かず。
慢性的な過労と寝不足でまさにWALKING ON THE MOON、
月面を彷徨うかのようにして暮らしていたのだが、
そしてここに来て夜勤である。
夜7時から翌朝の5時まで。
夕餉の支度の香りの漂うアパートを出て、
一日を終えた人々が犇めく帰宅ラッシュの中を、
剃りたての髭にネクタイを締めて会社に向かう訳で、
このスレ違い感が半端ではない。
で、早々と帰宅する社員たちとすれ違うたびに、おはよー、さよならー、とやりながら、
残業中の日勤組と今日何があった、なんて話をしては、
そうこうするうちにお掃除おばさんたちが雪崩れ込んできて、
うなる掃除機の中ではおちおちと話もできず、
じゃあ、よろしくね、と肩を叩かれいつの間にか一人。









誰もいないフロアの誰もいない机を前にポツネンと取り残され、
次々に襲いかかる日本からの緊急案件の合間に、
明日の昼勤向けに次から次へと資料を作成しては、
この会議ではこれを言え、あの会議にはあいつを呼べ、
と支持出しメールを送り続ける訳なのだが、
ぶっちゃけこんなことは俺が昼勤でいれば5分で済むことばかり。
まったくなあ、と思わず溜息である。

アメちゃん部隊に日本人は俺一人という関係上、
このプロジェクトの全てが俺に丸投げされるのも判らないでもないのだが、
それにしても米人連中のこの逃げ腰というか、
まあつまりは人に仕事を押し付けてなんぼ、というところに価値を図る、
なんておめでたい馬鹿がまだ生きていられるということからして不思議でもあるのだが、
幸か不幸かこの会社はその程度なのだな、と認識を改めながら、
まあだから俺なんかでも採用されたのだろうと言ってしまえば身も蓋もない。

という訳で次々にかかってくる日本からの電話を斬っては捨て、とやっているうちに、
なんだかんだとせかせかと一人の夜を過ごし、
そして早番が寝惚け顔で、おぱよー、と登場すると同時に、
じゃな、あとは宜しくメール読んどけよ、とばっくれる訳である。

という訳で早朝の地下鉄。
ユニオンのブルーカラーな奴らの犇めき合う地下鉄で、
あくびを噛み殺しながらキャンディークラッシュに没頭。
辿り着いた薄闇の72丁目。
かみさんを起こさぬようにそろりそろりとドアを開けて、
とやるわけだが、そんな目の間にいきなりちゃっかりと座る犬。
寝起きの大あくびを繰り返しながら、
お帰りの挨拶だけはかかせないらsく、
おい、お前、ちょっと静かにしろと着替える側から身体中を舐め尽くされ、
挙句にはしゃぎまわっては寝ているかみさんの顔を上にジャンプイン。
あれ、おかえり、とまだ寝ぼけているかみさんの隣に滑り込んでは、
寝汗に湿った生臭い毛布の中に身体を沈めてようやく一息。

そのままふっと寝てしまいそうになるところが、
これから出社するかみさんに急き立てられるように、
今にも卒倒しそうになるほどの眠気に襲われながら犬の散歩へ。
セントラルパークのいつもの芝生に着いた途端、
仲間たちに囲まれて、うひょぉ、と走り回る犬。

また夜勤?大変だねえ、とお悔やみを言われながら、
ふとすると意識を失いそうになっては足をもつれさせ、
そしてようやく帰り着いた10時過ぎ、
犬に飯をやって、さあ、寝るか、とベッドに入るも、
なぜかこれが眠れないのである。

確かに泥のように疲れてはいるのだが、
この明るい窓の向こうから、街のざわめきが響いてくる部屋。
それで止せばいいのにまた仕事のメールなどを開けてしまっては運の尽き。
寝ねば寝ねばと思えば思うほどに眠気が遠ざかり、
そしてようやく意識が薄れたところをいきなりの電話。
インド訛りの人はけであったり、あるいは、この期に及んでどうしようもない日勤の社員、
いやあ悪い悪い、と言いながら、この案件、どうすれば良かったんだっけ、と今更間の抜けたことを言う。
だから、メールを出しておいただろ?俺のメール良く読めよ、と言いながら、
時計を見れば2時過ぎ。
夜勤の身からすればまったく今何時だと思ってるんだ、な訳だが、
そう世間様的には昼の二時、つまり仕事の真っ最中な訳で、
そんな中を、電話をするな、とも言えず、なし崩し的にそのまま会議に引きずり込まれ。

とかなんとか言っているうちに4時半過ぎ。
早々と満ち始めた夕暮れの中を、犬を連れて散歩にでかけてリバーサイド。
くっそお、眠い、がまた眠れなかった、ともうろうとした意識で舌打ちをしながら、
そうこうするうちに5時半。
駅から流れてくる帰宅中の人々の華やいだ空気に追われるように、
慌ててアパートに帰り、シャワーを浴びて歯を磨き、髭を剃って髪を撫で付けスーツを着こみ、
そして妻の帰宅を待たぬうちに、地下鉄の駅にダッシュする訳である。

という訳で、寝ていない。
目をあけている時間はすべて眠くて眠くて死にそうなのだが、
だがしかし、寝れない。
眠気だけは、やる気や根性だけではどうしようもなく、
がしかし、いざ寝ては行けない局面にぶち当たった途端にとてつもない眠気が押し寄せてくるわけだ。

ちゅうわけで改めて、
世の不幸を嘆く全ての人々に言いたい。

お前、夜勤やってみろよ、夜に寝れる、というだけそれだけのことが、
いかに幸せなことか、身にしみて判るぞ。

という訳で、夜に寝ることのできる日を待ち望みながら、
睡魔に遠のく意識に苛まれる夜と、
そして眠りたくても眠れないジレンマにのたうつ午後。

とそんな時、ふとWEBで拾ったフェルナンド・ペソアの詩。

眠れない 横になり 目覚めた死体のように 感覚する
それなのにおれの感情は空っぽの思考だ
起きた出来事が姿を変えておれを通り過ぎる
すべてを後悔し すべてがおれを責め立てる
起きなかった出来事が姿を変えておれを通り過ぎる
すべてを後悔し すべてがおれを責め立てる

このフェルナンド・ペソアというひと。

なんかサラリーマン哀歌、ばかりみたいでなんとなく笑えるのだが、
そんな愚痴を並べ立てていたフェルナンド・ペソアも、
いつしか人類が、まさにこんな時代に突入することになるとは、
夢にも思っていなかったに違いない。

愚痴を言う暇もないぐらいに、
24時間週七日、徹底的に摩耗され続ける人間が資源化された世界、
これはなにか絶対に間違っている、と思いながら、
そう思っていない奴らは、いつかきっと天誅が下ってレイオフ、
仕事も見つからずに、昼は寝てばかり、夜は悶々とWEB職探し、
なんてことになるんだぞ、判ってんのか?と舌打ちを続けている訳である。

くっそお、眠りたい。眠りたい、眠りたい、
俺が望むのはまさにそれ、それだけなのに。

日勤の社員の一人が、

最近、鬱で夜に眠れないのよ、
と言っているのを聞いた時、

思わず上司の所に言って、

おい、なんで俺の抱えている仕事をもっとあいつらに配分しないんだ?

うつ病だ?ふざけるな。こっちはうつ病どころか物理的に寝る時間がまったくねえんだぞ、
派遣にばかり仕事を押し付けやがって。
社員はみんな生欠伸をくりかえしながらうつ病で眠れないだ?
馬鹿やろう、馬鹿も休み休み言え、と怒鳴り込みたくもなったものだ。

という訳で、この格差社会。

金持ちは、やることがなくてうつ病になりながら、ますます金持ちになり、
貧乏人はこうして寝る時間もなくこき使われては、
いつしか、糖尿から脳腫瘍から肺癌からなんていう大時代的な病気を抱え込む間もなく、
ふっと消えた意識の中で見事心筋梗塞のうちに生涯を終えることになるのか。

まさに使い捨て、というよりは、資源。

石炭や石油と同じように、徹底的に浪費され、再利用までされては、
ボロカスのようにされて捨てられていくこの人間という資源。

誰か暇な奴、この世の中、なにか間違ってるぞ、とでも言ってくれ。頼む。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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