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「似た者同士」

Posted by 高見鈴虫 on 24.2015 犬の事情


セントラルパーク、西72丁目の入り口を入ったところで、
いや、そっちには行かない、と犬ががんばり始めた。

行き交う観光客達の人目も憚らず、座り込んでは前足を踏ん張って、
いや、そっちには行かない、とダダを捏ねている。

なんだよ、いったい、とその一途な瞳を見つめた途端、

なに?ユニクロ?



つまりなにか?これから五番街53丁目のユニクロまで、
永遠と歩いてあんなところまで、と、そういう訳か?

ユニクロと言った途端に犬の瞳が輝く。

そうだ、ユニクロだ、行こう、こっちだこっちだ。

あのなあ、である。

いくらなんでも、夜勤明けのこの身体で、
遥か2キロの道のりをてくてくと歩き続けて、
あの五番街の雑踏の中まで。。。

ありえない、と思わず。
いくらなんでもそれはありえない。
片道30分、往復で4キロ、1時間。
しかも五番街、このホリデーシーズンで大混雑であろう。

行かない!絶対に行かない。

嫌だ、と犬。

ユニクロ!
絶対に行く。

とそんな俺達をニヤニヤと笑う観光客たち。

どうしたのワンちゃん、疲れちゃったの?お散歩行きたくないの?

と手を伸ばされる度に、なんだよこの野郎は、と露骨に嫌そうな顔をして身体を避ける。

ユニクロ!

駄目だ!行かない。

ユニクロ!絶対にユニクロ!

ダメダメ、絶対にダメ。

あのなあ、と改めてである。

お前そんなにユニクロだユニクロだって言って、
どうせユニクロに行ったってなにをする訳でもないじゃないか。
どうせあの透明ガラスのエレベーターに乗りたいだけだろ?
てくてく永遠と歩かされて、
で、またきょとんとした顔してエレベーター乗って、
で、終わった途端に、さあ終わった終わった、帰ろうって。
で、どうせ、だったらついでに安いセール品でも探そうか、って言った途端に、
嫌だ、もう帰るとかなんとか、言い出すつもりなんだろ?

ふん、と犬。
ユニクロ!絶対にユニクロ。

なんとも強情な犬である。
その強情さは血統、まさに天下のお墨付きで、
こいつの犬種を調べると、その性格的特徴欄には必ず、
ハードノーズ、つまりは強情者、としっかりと書いてある、
と、そんな輩なのである。

道の真中での俺達のにらみ合いに、
観光客たちは大喜びである。

わんちゃん、頑張れ頑張れ。
どうしたの?もう疲れちゃったの?抱っこして欲しいの。

疲れた?抱っこ?この無法者がそんなこと言い出すわけないじゃないか、なのである。
あのねえ、こいつは例え4時間走り回ったって、平気な顔してドッグランでボール遊びもやりたい、
なんて言い出す輩なんだぜ。

がしかし、そんな人目も何するもの、我武者羅に頑張り続ける犬。

あまりのことに、どうしましたか?どこか悪いのでは?
とマジ顔で訪ねてくるお節介も出て来る。

別に、と返すのも気が引けて、
まさか写真なんぞを撮っている奴から、
下手をすれば、アニマル・アビューズなんてYOUTUBEに載せられては堪らない。

いや、こいつは五番街のユニクロに行きたいだけなんですよ。

五番街のユニクロ?

ユニクロ、と聞いた途端に犬が飛び上がる。

キャッホー!ユニクロ!ユニクロ!

ほらね、と俺。

ユニクロって何?と観光客。

ユニクロってのは五番街にある日本の安い服屋。

その安い服屋になんで行きたがるの?おしゃれなワンちゃんねえ。

いや別に服が買って欲しいって訳じゃなくて、そこにある透明のエレベーターに乗りたい、ってただそれだけ。

エレベーターと聞いて再び犬が飛び上がる。キャッホー!それだそれだエレベーターだ!

バカタレ、行かない!絶対に行かない!

行く行く!ユニクロ行く!キャッホー。

思わず目を見張る観光客たち。

ユニクロ!
ダメ!
ユニクロ!
だめ、絶対にダメ。
ユニクロ!ユニクロ!ユニクロ!

あのなあ、そんなにユニクロ行きたいなら、勝手に行けよ。俺は知らない。じゃな。

と思わずリーシュを放り出して歩き始める俺。

ちょっとお、と観光客。

尚もユニクロ!と言い張る犬。

だったらお前、その観光きゃのおばはんに連れてって貰え。俺は知らない。勝手にしろ。

と言う訳で、困ったのは観光客。おずおずと落ちたリーシュを拾って、途方に暮れている。

ワンちゃん、ユニクロ行きたいの?

なに?と犬である。ユニクロ?お前ユニクロ知ってるのか?と見るや、いきなり、こっちだ、ついて来い、と観光客を引きずるように歩き始める犬。

おい、バカ、お前。

へん、俺はユニクロ行くぞ。お前は勝手にボール遊びでもしてろ、という訳か。

あの、ちょっと、ちょっと待って、と観光客のおばはん。そしてまわりの見物人は大笑い。

という訳でまたも根負けである。

観光客のおばはんに頭を下げまくり、ほとほとうんざりしながらセントラルパークの芝生を横切って一路南へ。

まあどうせ、歩いているうちに当初の目的をすっかり忘れてしまうこのバカ犬のことだ。
おおおおお!なんだあれ、見に行こう、こっちだ!
なんて感じで、動物園の辺りで引き返せば良いのだ。

がしかしながらこの強情者である。

もはやあっぱれというぐらいのハードノーズぶり。

もしもあのままにしていたら、困り切ったおばはんをこっちだこっちだとユニクロまで引っ張っていった挙句、
じゃあな、気が済んだぜ、あばよ、とそのままおばはんを置き去りにしては、勝手に家まで帰り着いたに違いない。

なんとも身勝手な強情者である。見れば見るほどに誰かさんそっくりなのである。

という訳で、なんだよこいつ、と睨み合いながら、思わず鼻先にちゅっなのである。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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