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聖人たちの仕事

Posted by 高見鈴虫 on 25.2015 音楽ねた

好きなジャズ・ミュージシャンのツアー予定を調べる度に、
その凄まじきスケジュールに思わず絶句をすることになる。

ニューヨーク、ボストン、ワシントンDC、
シアトル、サンフランシスコ、LA、
ダラス、ヒューストン、ニューオリンズ。

そしてパリス、そして、ストックフォルム、
ベルリンにデュッセルドルフにフランクフルト、
ウィーンにローマにミラノにマドリッド。。

そのどれもが、お客が100人も入れば一杯のような小さなジャズバー。

そんな生活を一年間、休みなく続けるのである。



ずっとずっと旅行ができて良いじゃないか、と言う見方もあるが、

嘗てバンドマンであった俺が敢えて言えば、
ミュージシャンにとって、
ツアーほど辛いものはない、と断言できる。

旅が続くと乾く。
乾ききったままに、今日も明日も明後日も同じステージが続く。
ステージの上でさえ、
果たしてこんな暮らしをなにが楽しくて続けているのか、
などとつくづく首を傾げたくなることも度々。
安ホテル、安いドラッグ、安い女。
そして移動。そしてセッティング。そしてリハ、そして本番。
スポットライト。お決まりの熱狂と予定通りのアンコール。
汗の冷えた身体に楽屋の据えた匂いが染みこみ、
そして片付け、そして飲み、そしてついでのようなおざなりの晩飯。
そして機材の積み込み。そして移動。
街から街へ。
どの街がどの街だったか、
どの店がどこにあって、
誰が誰で、
全てが混同されてそしてなにもが一緒くた。
いつのまにやら、なにもかもがどうでも良くなる。
早くこのツアーが終わって、早くあの安アパートに帰り着きたい、
思っているのはそのことばかり。


そんなツアーを日常的に続けることを宿命づけられた、
このジャズミュージシャンという人々。

バンマス、或いは作曲家、コンポーザーであれば、
まだ金も入ってくるのだろうが、
ドラマーなんて商売でそれを期待できる訳でもなく、
つまりは、一生涯が旅がらす。
この夜この街でいつものようにドラムを叩き、
明日は明日で違う街でまた夜通しドラムを叩く。

これはつまり、とても辛い仕事である。
そんな仕事を続けるジャズ・ミュージシャンたち。
そしてその脇役の筆頭たるジャズ・ドラマーたち。

そんな宛のない暮らしを続けながら、
何故にこれほどど素晴らしい神業プレーを連発できるのか。

まさに聖人と呼ぶに相応しい仕事ぶりである。

頭がさがる思いではあるが、俺にはできない、できなかった、
と言うのが正直なところである。

という訳で、今やすっかり犬のおじさんである俺である。

何一つとしてなにも誇れるものもない人生ではあったが、
かみさんと肩を寄せ合って食べる納豆だけの夕食でさえ、
しみじみとした幸せを感じる訳である。

という訳で、潰えた夢であった筈のジャズドラマーたち。
今日も今日とて、世界の何処かの街の星の下で、
あの超絶プレーを連発していることだろう。

心底頭が下がる思いである。
これを聖人と言わずとしてなんと言おう。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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