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ドラマーの不運

Posted by 高見鈴虫 on 25.2015 音楽ねた
いまだから言えるが俺にはドラマーとして致命的な欠落があって、
ぶっちゃけ、バスドラを強く踏みすぎるが為に、
下手な店でやると、ことによるとライブの最中に、
バスドラとそしてそれに乗ったセットごとが
ずいずいと前進を初めては遠のいて行ってしまうなんてことが良くあった。

そんな時、気の知れたメンバーであれば、
演奏中にも目配せだけで、ほいよ、と足で抑えておいて貰ったり、
も出来るわけなのだが、
トラで参加した客人ばかりのバンドであったりすると、
早々と気楽にそんなお願いもできずに大往生。

と毎度毎度、同じ過ちを繰り返して来た訳である。

がまあ、それでも良いか、という気もしていたのは確か。

やはりロック上がりの悲しさか、スネア、そしてバスドラの音が大きい、
のは一種の勲章、と思っていた節もあって、質が悪い。

嘗てのジョン・ボーナムが26インチのバスドラの皮をぶち破った、ではないが、
あのエルヴィン・ジョーンズにしたって、
思わず踏み込んだバスドラが滑ってステージから転げ落ちたり、
なんて信じられない光景も目撃したし、
シンディー・ブラックマンはDW500のチェーンがすっ飛んで、やら、
或いは、
現存する世界のドラマーの中で、正真正銘にナンバーワン、と信じて疑わない、
クーバは、プピー・イ・ロス・ケ・ソンソンのドラマー、ボンボンにしたって、
前進するバスドラに手を焼いては、ダンサーの女の子に、おい、それ抑えておけ、と怒鳴っては、
うるさいわね、とあっさりと断られたり、なんて無様な光景も目撃してしまった訳で、
そして客たる俺が、こともあろうにステージ袖から飛び込んではそのバスドラを直し直し、
なんてことさえもしてしまう訳だ。

そう、ドラマーにとって演奏中のトラブルはつきもの。

特に旅烏のドラマー、毎度毎度、自身のイチオシドラムセットをツアーに持っていくわけにもいかず、
そして楽器の移動中には事故がつきもの。

見も知らぬ店の見も知らぬ観客の前で、
考えもよらなかったトラブルに見まわれて、なんてことは実はざらにある。

スティックが折れた飛ばした、なんてのはまあ序の口、というか、
そういう時の為に素早くステッィクケースから新たなスティックを取り出す練習さえもしている訳で、
タムが落ちたやら、シンバルが横向いたやら、フロタムが傾いたやら、椅子が抜けた、
とそして、そう、まだ大丈夫だろう、と気を抜いたスネアのヘッドが、
よりによってライブの最中にパーンと行ったり。

と、
そんなトラブルが次から次へと連発、なんてことも十分にありえる。

そんなときの為にドラマーには付き人、つまりはボーヤ、なんてのが居て、
ステージの脇でじっと待機、なにかあればすぐに飛び込んで修復、ということも必要になったりならなかったりする訳だが、
人気アイドルバンドじゃあるまいし、今時ボーヤを連れてツアーに出る、なんて輩が早々と居るとは思えない。

という訳で、困った時にはお互い様、とばかりに、
客の俺がこともあろうにちょこちょことステージに這い上がっては、
いつもキーホルダーにぶら下がったチューニングキーで、ちょいちょい。

ことによると、
かの超有名ドラマーのライブの最中に、フットペダルのバネが飛んで、
断末魔に蹴り渡されたフットペダルをステージ脇でちょいちょいと直して、
演奏の切れ目なしにそれを交換したり、なんてこともあったりなかったり。

そんなおせっかいが縁で実にいろいろなドラマーたちから
お礼代わりに友情の乾杯なんてのをしてきた訳で、
そう、そういう気持ちもドラマー同士じゃないと分からないだろう。

とそんな時、遥かマイアミからスペイン語のメールが届いた。
クーバのあの人がまたニューヨークにやってくるらしい。
ので、その時はまた宜しく、なのだそうだ。
おいおい、俺はボーヤじゃねえんだぜ、とは言いながら、
OK、ゲストリストに載せておいてくれ、ぐらいのことは平気で言ってしまったする。

そう、これでも立派な身内、ということなのだ。
できればそのままハバナまで連れて帰って欲しい、と今度言ってみようと思う。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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