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ニューヨーク・崩壊の前日

Posted by 高見鈴虫 on 04.2015 ニューヨーク徒然



という訳で改めて最近のニューヨークである。

正直なところ、ニューヨークという街がこれほど酷い状態になった姿を見たことがない。

確かに、嘗てこの街は世界一の無法都市であったこともある。

街中のいたるところがゴミだらけ。
地下鉄中がどこもかしこも落書きだらけで、
バットは愚かガンをぶら下げたギャングが徘徊し、
腕から注射器をぶら下げたジャンキーが死人の目で空を睨んでいる。
夜中どころか、昼間でも強盗の被害が耐えなかったし、
月末ともなれば、駅を降りた途端に貰ったばかりの給料袋をそのまま強奪されたり、
あるいは、キャッシュコーナーでいきなり背後から銃を突きつけられて、
なんて洒落にならない話もあって、
そんなニューヨークにおいては、
日が暮れてから街に出る、というだけでも命を課した大冒険。
つまりはニューヨークはそんな街でもあった。

がしかし、と俺は敢えていう。

そんな街でありながら、この街が次から次へと世界中からの人々を招き寄せて来たのは、
そんな危険をも顧みず、というよりは、そんな危険と引き換えにしてもあまりあるぐらいに、
なににも増してこの街が魅力に溢れていたからである。

夜ごとに繰り広げられるハプニングの数々。
世界中からお祭り好き達が、ニューヨークでなにかをやらかすために集まってくる、
そんな浮世離れした雰囲気が街中に満ち満ちていた。

素敵な場所は決まって、この街でもとびきりにやばい場所にあって、
かのCBGBの前にはドラム缶の焚き火に照らされたホームレスたちが群れていたし、
かのタンネルはまさに川沿いの超無法地帯。
そもそもその場所にたどり着く事自体が命がけで、
そんな着飾った男女を待ち構えるギャング団が今夜のカモを探してそこかしこで目を光らせている。
がしかし、
そう、そんなやばい街であるか、そんな危険と紙一重だからこそ、そこに魅力があったのだ。
快楽は危険と同意語。
やばければやばいほどのその快楽が期待できる。

この街に集う人々は、まさにそんな類の輩達であった筈だった。





そして911。そしてジュリアーニ、そしてブルームバーグ。

青天の霹靂の中で前歯二本を叩き折られたこのニューヨークという蓮っ葉な浮気女が、
今となってはどこにでもいるただの中年女。

そんなニューヨークは、いつしか安全な街になった。



この街の住人たちにとって、安全とは退屈の同義語であった筈だ。

面白いこともない代わりに、なにひとつとしてなにも期待できない街、糞食らえだ。

嘗てのニューヨーカーたち、
世界で一番危険な街の中で、敢えて世界で一番の快楽を追い求めてきた人々。

そんな人々が、いつしか安全なニューヨークの中につかの間の安堵を感じていたのも確かだ。

がしかし、それはまさに、やりきれないぐらいに悪辣な罠でもあった。

安全になったニューヨークは世界中から投資を呼び込んだ。
家賃が高騰し、物価が跳ね上がり、
そしていつしか、ニューヨーク中がショウウインドウと化していた。

地価は高騰に次ぐ高騰を繰り返し、あの2007年のサブプライム危機の時でさえ、
ウォール街の無法者の代わりにやってきた海外からの投資家に買い支えられ買い漁られ、
そしてニューヨークは高騰を続け、そして街中が伽藍堂。

投資目的で買われたまま住むものを持たない灯りの消えたハイライズが立ち並び、
観光客向け、ただそれだけの為に磨き上げられた大通りには、
しかし、嘗てこの街を包んでいたバイタリティも予感も、ビートもメロディさえも消え失せていた。

そしていつしか、ニューヨークは人の住めるところではなくなっていた。

全てが全てショーウィンドウ、全てが全て灯りの消えた巨塔。

安全になり綺麗になった代わりに、現実味もないほどに高騰した家賃は、
普通の人間が普通に働いていては到底支払うことができない程に高騰を続け、
つまりは海外から大枚をはたいてやってきた投資家以外、
この街には暮らせなくなってしまったのが原因である。

この街で40年以上にも渡ってニューヨークで商売をしてきた人々が口を揃える。

人生の殆どをこの街で暮らしてきたような気になっていたが、
これほど酷い状態は今まで経験したことはねえな。

上がり続ける家賃。
不動産屋なんざ、一年は愚か、半年ごとのリースでも貸したがらねえと来やがる。
昔は、10年15年、と泣きついてきた奴らが、今は、半年ごとに契約更新、
でそのたびに、嘘だろってなぐらいに値上げをふっかけて来やがる。

こんな状態じゃあ、どんな店だってどんな方法を使ったってまともな商売なんざできる訳ないんだよ。

まったくこんな状態は初めてだ。

そんな古参ニューヨーカーが口を揃えるように、
これだけ家賃の高騰した中では、
どんなお祭り野郎も、アーティストもミュージシャンもパフォーマーも、
まともに生きていくなんざ出来るわけもない。

結果、面白そうな奴はひとっこひとりこの街を出て行ってしまった。

そしてそんなニューヨークのツワモノたちも、、そろそろ潮時かと思っている、とぽつりと言う。

今はもう誰もが高い家賃を払うために働くばかり。
しかも働いて働いて働き続けても、まともに家賃も払えねえ。
たまに街に出ても、金が無ければ何一つとして面白いこともねえし、
あるいは、金がなくてもないなりになにか面白いことをしでかしていたような、
そんな気の利いた連中もとっくにこの街から逃げ出した後。

何一つとしてなにも面白いこともねえのに、
ただただ高い家賃を払わされているだけのこんな街。
馬鹿馬鹿しくてやってられない。そう思わないか。

嘗て在籍した米国を代表する一流企業。
ニューヨークのど真ん中に高々と広告塔を聳えさせていたその会社が、
一等地の片隅に名前だけのヘッドオフィスを残したまま、
残りの部署はすべて遠く離れた地方都市に移転する、と発表した。

結果、煽りを食った2000人にも及ぶ人々が一挙にレイオフを喰らい、
何言う俺もそのうちの一人。

口封じに押し付けられた退職金もあっという間に消え去り、
雀の涙のような失業保険もすぐに底をついた。

その後、資格を取ってみたり、自身で会社を起こしてみたり、
と悪あがきを続けていはいるが、
その現実はと言えば、
いまだに安い時給でこき使われる派遣の夜勤労働者、そのままである。

なぜかと言えば、そう、いまここニューヨークにはそんな輩が五万と居るのである。

これまでアメリカの繁栄を象徴して来た巨大企業が、いま続々とニューヨークを離れていく。

名前ばかりを残したまま、実際の実郎部署は全て地方に移転。

ダウンタウンの、ミッドタウンの、看板企業であった巨大企業が、
まるで沈没船から逃げ出すネズミたちのように、あれよあれよとニューヨークを逃げだし初め、
結果、次から次へと大規模のレイオフを発表しては、
ついこの間まで勝ち組リーマンとしてブイブイ言わせていた筈の連中が、
まさに大量失業の憂き目。

今日も嘗ての同僚からメールが届く。

元気か?なにをやってる?

ついこの間まで毎年ポルシェを乗り換えていたような連中が、
仕事であれば、時給20ドルだって30ドルだって、
夜勤だって派遣だって、なんだって良いさ、と泣きついてくる。

さすがにそんな連中が、ドカチン、
あるいはタクシー運転手になったという話はまだ聞いてはいないが、
これまで巨大企業に胡座をかいてきた手前、
そんな重労働はやりたくても身体が動かない、というのが実情だろう。

という訳で、夜勤明けの朦朧とした頭で見渡せば午前5時の地下鉄である。

全ての人々が泥のように疲れきり、
こうして地下鉄での居眠りを唯一の睡眠時間として、
また次から次へと現場を渡り歩く、
そうでもしなければ生活が立ち行かないか、
あるいは、そうまでしても、家を家族を失ってしまった人々。

ただまあ、仕事があるだけましなのだ、と彼らは口を揃える。
この街を出た途端、そんな仕事でさえ何一つとして残されてはいないのだから。

という訳で、一日のうちに二つ三つの仕事を渡り歩く人々。
そのどれもが最低賃金で、そんなことだからアパートも借りられず、住む場所も覚束ない。

ニューヨークの失業率の低下はまさに数字だけ。
一皮剥けば、こんな人々が街中に犇めいている。

改めて、ニューヨークのツワモノたちの言葉が蘇る。

そろそろ潮時かと思ってよ。

そうこうするうちに72丁目に辿りついた地下鉄。

まだ夜の明けぬ暗い街を見渡しながら思わず深い深い溜息をひとつ。

タバコでも吸おうか。タバコぐらい吸わなくっちゃやってられないな。

とそんな俺の前を、街が目覚めぬうちに昼の寝ぐらへと移動をするホームレスたちが次々と横切って行く。

これから本格的な冬へと向かうニューヨークである。

こんな厳しい冬はこの街にやってきてから初めてだ。

誰もがそう感じてるであろうニューヨークなのである。

白み始めた街の中、灯りの落ちたその窓の一つ一つで、
いまだに惰眠を貪る人々が、
まさか目を覚ました途端に、いきなりドブの底に転げ落ちることになるなどと、
まさか夢にも思っていないに違いない。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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