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十年間働いてるのにさっぱり給料が上がらねえ

Posted by 高見鈴虫 on 04.2015 とかいぐらし
十年間働いてるのに、さっぱり給料が上がらねえ、
と文句を言う社員。

ああ、そうですか。それはご愁傷様ですね、
と愚痴の聞き役をやってやるのもアホくさく、
思わず、バカか、
と吐き捨ててしまいそうになった。

てめえみてえな役立たずのアホが十年間もタダ飯食らってただけでも万々歳だろうが。
文句があるなら他で仕事を探してみろ。
一億年たったって誰からも洟もひっかけられねえぞ!






JPMからCITIから、巨大企業が未曾有のレイオフを繰り返しているというこのご時世、
俺の知ってるだけでも、
このニューヨークに限っただけで一万人近くが人員が露頭に迷っている筈だ。

仕事でありさえすれば、夜勤であろうが時給の派遣であろうが、なんだって構わない、
とまでに追い込まれた奴が五万といるこのご時世に、
給料が上がらねえ、と文句を言っているバカが居るってことからして、いやはやである。

この会社はアンフェアだ、なんてことを言っているそいつの前で、
思わず、
あのなあ、そんなことよりも、
てめえみてえな能なしの役立たずが正社員で、
なんでこの俺が派遣なんだよ、
まずはそこからしておかしい、アンフェアだ、と考えてみねえのか?

と言いたいのは山々なのだが、
そんな戯言を言っている本人はそんなことには気づきもしない。

つまりそんな奴だから十年間も放って置かれたのだろうがな。

ただ、俺がこいつの上司であったら、どうしただろう、と考えて思わず苦笑い。

とにかく見渡す限り、まったくどうしようもない人々。
任期中に問題を起こさないこと、だけを念頭においたちゅーざいたち、
それにおべんちゃらを言っては逃げまわること以外になにもしていない肩書連中。
そんな中に、下手に経験十分・資格保持のばりばりのやり手です、
なんてのが入ってきて、この平和な花園を悪戯に引っ掻き回されるよりは、
どんな能なしの出来損ないでも、飼い殺しにしておいたほうが無難、
と思っているのだろうな。

つまりそれが、こんなバカばかりが居座り続けてしまっている理由なんだろうが、
まったくなんとも、おめでたい限りだ。

という訳で、涙目を浮かべては、
この会社ひどすぎる、ボクの気持ちをちっとも察してくれないの、
と訴えるバカの前で、つくづく大きなため息である。

こんな奴らと一緒にいても俺のためには糞の役にも立たない訳だが、
この先、浮世の荒波を泳ぎ続けるよりは、
確かにこんな次元の奴らとでも、くだらねえ愚痴を言い合いながら暮らしている方が、
ずっとずっと楽なんだろうな、とは判っているつもりだ。

つまりそう、俺も同じ穴のムジナということなんだろ?

という訳で、そう、最近こればかりという歯の浮くようなおべんちゃらである。

そうですねえ。みなさん大変なんですね。
まあでもそう、モチベーションと言うか、向上心は必要ですから、
資格を取ろうとしてみたり、社内の講習に申し込んだりとか、
あるいは、そう、ソーシャル・ネットワークで会社外の人たちとの交流を計ってみたり、
とか、やられてみたらどうです?

と言っては見たが、

いきなり、そんなこと、なんの役に立つ!?
と速攻で言い返されてしまっては苦笑い。

そう、つまりはこの人の十年間の足踏みの、その根本的な理由こそは、
その閉塞性、その内向性にあるのだな、と思い至ったのだが、
そんなことは俺の知ったことじゃないわけで、
まあそうですね、確かに、と相槌など打ってしまったが最後、
最早止めどもなく流れ続ける愚痴というよりは呪いの言葉の津波状態。

まさに泣きじゃくりながら不条理を訴えるその正社員を眺めながら、
まあ確かに、こんな役立たずにもそれなりの特技や利点もあるわけだから、
そんな役立たずの適正・適所いちいち汲みとってやって、
というのが正しいマネージャーのあり方なのだろうが、
今時、お母さんや保母さんでもあるまいし、
他人様がそんなことをやってくれる、と思っているだけおめでたい、というか、
つまりはガキ。
上司もガキ、部下もガキ、ガキがガキ同士で、
箸にも棒にもかからない甘えた堂々巡りを続けている訳か。

熟練職員こそは悪なり、とばかりに新陳代謝を繰り返す大企業の、
その情け容赦ないやり方には心底怒り心頭ではあった訳だが、
だがしかし、
同じ会社に長居してすっかり硬直化した座敷わらしたち。
人間はどんどん退行してったりするのだな、という一つの悪い典型であるのだが、
まあ、そんな奴らも必要としていたりするってのが企業のあり方、
と考えるのが大人なんだろうがな。

という訳で、

十年間働いてるのにさっぱり給料が上がらねえ、と文句を言う奴。

世の中で一番おめでたい輩、と気づかないのは多分本人ただ一人、
という状態をいつ自覚するのであろうか。
多分、このまま一生気づかずに、毎日愚痴を言って暮らしていける、
ってのが一番幸せな結末なのだ、
ということにも、気づいていないのはこの人だけなのだがな。

まあそう、うやらましい限りなのだが。

いっそのこと、本人のお望みどおり、こいつの上司にチクってやって、
代わりに俺を採用してくださいよ、二倍働きますぜ、
なんて下手な売り込みでもかけてやろうかとも思ったが、
そう思った時点ですでに同じ穴のむじな。

そろそろこの会社もおさらばするべきだな、と思い知った次第。

必死の交渉の結果、ようやくついに今日で夜勤が終わる運びとなった。

これでようやく夜に寝れる生活に戻れる。

なにより、かみさんと過ごす時間が増えるのが実は一番うれしくもあるのだが。

そんな何気ないことに喜びを感じられる、というのも不遇の巧妙と言えないこともない。

とそんなことを思いながら、果たして十年前の、あるいは五年前の俺は、
そんな辛勝な心境に至れたか、というとまったくそんなことはない。

つまり俺もついこの間まで、
これだけ働いてやってるのにまったく給料が上がらねえ、どうなってんだバカどもが、
と文句ばかりを言っていた訳だが、
そのうちいきなり会社が買収されてしまって、
あの能なし経営者は大枚をがめてウハウハ。
で、残された社員の前にいきなり現れた見ず知らずの自称管理職から、
はい、今日から僕が上司です。神妙にしなさい、とやられた日には、
開いた口が、どころか、もはや愚痴を言うのも馬鹿馬鹿しくなっていた。

という訳で、
そう、つまり、会社に文句を言う社員なんてのを抱えてられるだけ、
その会社は健全なのだ、と思わざるを得ない。

そして、そんな会社に文句さえ言えないこの派遣という人々、
つまりは、借りてきた子、つまりはみなしごハッチということか。

苦難はまだまだ続きそうだが、
そう、愚痴まみれの安住にすがるよりも、
みなしごの宿無し風来坊のほうが、まだ柄には合っているかな、とも思ってはいる。

基地の街のミスター・ロンリー・ボーイは、この歳になってもなお、
こんなニューヨークなんて街で、気ままなロンリー・ボーイを気取り続けています。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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