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悪魔のポメラニアン

Posted by 高見鈴虫 on 08.2015 犬の事情
獰猛なポメラニアンがいる。
咬む。
飼い主から家族から友人から通行人から、
人という人、
手を出したが途端に電光石火で咬みついてくる。

がしかし、相手はポメラニアンである。
所詮は小型犬、などと舐めていると、
これが実にとんでもない目に合わされる。



このポメラニアン、
ただ咬むだけでは済まさず、
一度食らいついたが最後、決して放さず。
足を踏ん張ってはうんうんと引っ張り頭を振りまわして、と、
ともすると肉を骨を噛みちぎらんばかりに、
咬んで咬んで咬みまくるのである。

そんな悪魔のようなポメラニアンの飼い主、
イヴァさんは実に温和な人である。

まるで風によろめくような痩せた白人のご婦人で、
いつもいつも今にも蕩けそうな微笑みを浮かべては、
ふざけているのかというぐらいにゆっくりと話す。

何を生業にしているのか、
いつもそんな朗らかな物腰で、
一日中パークを散歩して過ごしているようなのだが、
この悪魔のようなポメラニアン、
そのイヴァさんの表情に騙されては、
まあ可愛いわんちゃんね、と手を出した途端に、
ガブリ!となる訳である。

とそんなこんなの折、
会社帰りにふとしたことで駅前のトレーダージョーで
そのイヴァさんに出くわした。

犬が居ないとお互い誰がだれか判らないわね、
なんて話をしながら、
ふと見れば俺の買い物籠、まさに犬のものばかり。
犬用の鶏肉、犬用のゴートミルク、犬用の無塩コテージ・チーズ。
でそんな買い物籠の中から、

そう言えばこのオーガニック・サーモン・ジャーキー、
どんな犬も大好物なんだけど、おひとつどう?
トレーニングに最適ですよ、
とお勧めしたところ、

なぬ?ベジタリアン!?

そう、わたしもそしてうちの犬も、ベジタリアンなのよ、
と答えられて思わず唖然。

人間はともかく、ベジタリアンの犬?
ありえない。。。。

いいえ、そんなことないわ、
といつになくはっきりと答えるイヴァさん。

例えどんな理由があっても
生き物を食べてはいけないのよ。
それは許されないの。

でも、犬と人間は違うだろう、と思わず。

いいえ、違わないわ、と瞬時に言い切るイヴァさん。

でも、そう、つまりは、もしかして、
あんたのあの犬のあの獰猛さは、
実はそれが理由じゃないのか?

と言いかけたところで、いきなり、違うわよ! と先手を打たれる。

例え何があっても生き物を食べる事だけは許さないの。それが私の真理なのよ。

と言う訳で、普段からの微笑みを崩さぬまま、では、と歩き去るイヴァさん。

その痩せ細った後ろ姿を見送りながら、
俄に全ての謎がするすると解け始める。

ってことはあの獰猛なポメラニアン、

あれはただ噛みついているという訳ではなくて、
まさに、肉を食いたさ一心に、まさに食いついているってこと?
つまりはそういうことなのか?

それが判っていながら、
尚も自身の勝手な信念を貫こうとする、
その途方もない独善。
イヴァさんのあのいつも変わらぬ温和な微笑みと、
そしてあのポメラニアンの狂気じみた獰猛さが、
まさにシンクロして見えてきたりもする訳だ。

という訳で、そう、俺的に真理と言えるのはただ一つ。

バカな犬はいない。
狂っているのはいつも人間のほう、なのだ。

ああ可哀想なポメラニアン、
妙な飼い主に飼われてしまったばっかりに。。

という訳で浅知恵のバカママたちよ。
あんまり自分勝手な思い込みで、
犬や子供をおもちゃにするのはやめておいたほうが良い。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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