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タンスに眠るDIESELコレクション

Posted by 高見鈴虫 on 11.2015 ROCKを葬り去る前に ~ 大人のダイエット奮戦記
夜更かし明けの金曜日の朝、
出社前のかみさんに、じゃあ行ってくるね、
と起こされてから二度寝。

はっと起きた時には既に10時過ぎ。
ふと見れば、ベッドの片隅に丸まった犬からの、
なんとも恨めしげな視線。
いやあ、悪い悪い、とそのまま散歩にでかけようとした訳だが、
ふと見れば、なんか腹が凹んでいるではないか。

そう、夜勤中の暇つぶしにちょっと腹筋でも、
と始めた効果が今頃になって出てきたのか。

で、また悪い虫が騒ぎ始めた。
もしかしてこれなら、DIESELが履けるのではないか?
嘗てはあれほど愛したDIESELである。

あのDEISELたちがまだ健在な限り、俺はまだまだ太る訳にはいかない。
そんな戒め、あるいは、蹉跌となっているDIESELのジーンスなのである。

うっし、とにわかに腹に気合を入れては、その10年物のDIESEL、
えいやあ、とばかりに足を通して見れば、
うーん、かなりきつい。
かなりきつい、が、まあ、入らないことも・・ないやも知れず。



がしかし改めてこのJEANSたるものである。

久々に履いて見れば、なんともなこのゴアゴア感。
まるでダンボールでも着ているような強烈な違和感である。
嘗て、物心ついてからついこの間まで、
まさに履くものと言えばJEANSしかなかった訳で、
最近になってはさすがに外ではスーツ家ではスエットばかりになってしまったのだが、
そっか、やはり太る原因はこのJEANSの圧迫から開放されてしまった結果、
つまりは自分を甘やかしていた、ということなんだな。

がしかしながら、あらためてこのJEANSというもの。
固い。重い。そして堪らなく窮屈である。
何故に好き好んでこんなものを履いていたのか、履かなくてはならないのか。

で、ふとバスルームの前の鏡を見てみる。
げっ!?と思わず目を瞠る。
この俺、足が、長くないか?

そう、このDIESELのJEANS.
まるで尻に貼りつくようなラインから、ストンとそのまま踝まで、
まさに見事に微妙な曲線を描くそのライン、
普段のあのスエットやらスーツやらに比べて、
物凄く脚が長く見えるのである。

へえ、と思わず。つまりはそういうことかい。

そう、JEANSを手放した理由は、人の目が気にならなくなったから、
つまりは、見た目よりも己の快適感を優先させた結果なのである。
その代償として、膨らんだ腹。弛んだ尻、
それとともに日に日に短くなっていくような脚。

つまりはそういうことだ。
なにはともあれ普段から自分への戒めは必要、ということなのだ。

という訳で朝からなんとなく気合が入った。
心なしか姿勢さえもがちょっと正してみたくもなってくる。
そうさ、おいらはDIESELを履いているんだぜ、という奴か。

とそんな俺の心のブレを敏感に察したブッチくん。

おい、まだなのか?いつまで待たせる気だ?
そんなものいいから早く散歩に行こうぜ。
誰もお前のことなんざ見ちゃいないって。
という、まさに、ちとーっとした白い目から一転、

さあ、うっし、散歩だ散歩だ、と喜び勇んでは、
さあさあ、DIESELのお兄さん、
今日はなかなか決まってますね、その調子その調子、
と煽てられては豚が気に登るように、
あれよあれよと引きずられて行ったのはまさに五番街。

え?なに?まさか。

そうさ、五番街さ、とブッチくん。
ニューヨーカー、この時期、
XMASの五番街を見ずしてニューヨーカーと言えるか、
という奴なのであろうか。

しかしながら五番街、
まだ午前中だというのに凄い人通りである。
今更ながら、この人混み、思わずうんざりである。
こんなニューヨークなんてところに住んでいながら、
最近は五番街どころかタイムズ・スクエアにも、
あるいはミッドタウンにさえ足を運ぶのは稀。

上を見てはきょろきょろやる観光客に、
いつブーくんを蹴り上げられないかと気がきではない。

改めて五番街、ニューヨークきっての高級名店街。
世界の一流品がこれでもかと軒を連ねるこの一角で、
しかし、やれローレックスだティファニーだ、なんてものには、
実はまったくなんの興味も関わりもなかったりするこの日常。
いまだにそんなものを追いかけている人々がいるのか、
と不思議な気さえしてくる。

がそんな俺の気具合も知らんこったとばかりに、
さあこっちだこっちだ、と五番街を爆進するブッチ君。

お前いったいどこに向かおうとしているんだ。
まさか、もしかして、と思った矢先、
あらあ、ブッチ!といきなり黄色い声である。
おっと、こんなところで、と出くわしたのは、
ブーくんの大親友、ウィートン・テリアのムギー、のママ。

誰かと思えばブッチじゃない。どうしたのこんなところで?
と言いながら、思わずこの人一体誰?
というぐらいに、普段の犬の散歩の格好とは打って変わって、
まさに、五番街はこう歩け、という見本のようなそのバリッとしたスーツ。

いやあ、どうしたもこうしたも、うかうかとこいつに引きずられてるうちに、
いつもまにかこんなところまで連れてこられちゃったよ、と、
寝起きのままの頭を掻きながら。

きっとムギーの後を追ってきたのね。
朝公園で会えなかったからね、それでよ。あなたが寝坊するのが悪いのよ。
と割りと確信を付くご意見。

そんな俺達のまわりで、うっしゃあ、ムギーだ、ムギーだ、公園に行こうぜ、
とはしゃぎ回るブッチくん。
挙句に、ねえねえムギー・ママ。
なんか頂戴、いつものおやつ頂戴、と、
仕事着姿のムギーママ、そのキートンだかシャネルだかのスーツに、
今にもジャンプを初める始末。

ごめんね、ブッチくん。私はいまからお仕事なのよ。また明日ね。
ではでは、と別れた後にも、いやだ、あの人に付いて行く、
と綱を引っ張り始める訳で、おいおい、と。

という訳で、一挙に取り残された感のある五番街。
改めて当たりを見渡せばこのホリデーシーズンの人混み。
田舎の観光客、とは言っても、さすがはニューヨークの五番街、
いきなりパーカーにダウンのベストなんて格好で歩いているのは、
それこそ掃除夫かホームレスか、ビラ配りぐらいのもの。
なんか、いきなり木こりのおっさん、
あるいはそう、クロコダイル・ダンディじゃねえか。

とかなんといううちに、はい着きましたよ、とブーくん。

やっぱりそっか、UNIQLOな訳か。

そう言えばそう、秋口にやはりこうして五番街に連れてこられたことがあって、
どこに行くのか、と思えばいきなりティファニー。
ティファニー?この犬の散歩の格好で?おいおい、ちょっと待てよ、
という俺の事情などまったくくそくらえといった感じで、
いらっしゃいませ、という店員にも脇目もふらず、
さあさあこっちだこっちだ、と階段を駆け上がって四階五階。
え?なに?ここで、ボール遊び?まさか・・・

そう言えば数年前、かみさんの買い物の付き合いでTIFFANYに来た時、
店員さんとここでボール投げをして貰ったのだが、
そう言えばそんなこともあった。しかもそれって確か似たような秋口だった。

そう、犬は数年前のことをしっかりと覚えていたりする。
去年の今日のこの日に、俺はTIFFANYでボール遊びをした。
だから今年も、この日はTIFFANYでボール遊びをすると決めてるんだ、と言ったところ。

昨日一昨日のことをすぐ忘れてしまうくせに、
一年前二年前のことを明確に記憶しているこの犬の記憶。
まさに謎な訳だが、ということは、もしかした去年あるいは一昨年、
なんだかんだでもしかしたらここUNIQLOに足を運んだりもしていたのかもしれない。

まあ良い。そう、犬の方が頭が良いのは判っている。
俺はただ、そんな犬に従っていれば良いのだ、それだけなのだ、
となんとなく無力感に襲われながら、
さあ、こっちだこっちだ、とエレベータの前。
おい三階だ、早くボタン押せよ、と促されてはいはい、と。

という訳で、あれよあれよと連れてこられた特売品売り場。

なに?ここで何がしたい訳?と聞けば、
へへへ、と得意そうな顔をして笑っているばかり。

でふと見れば、おっと、冬用のインナー入のウォーミングアップ・パンツが$29.99の大安売り。
で、思わず試着してみれば、へええ、これ、いいじゃないか!
まさに冬の時期の犬の散歩にはうってつけである。

で改めて見る試着室の鏡。

さっきまでDIESELのJEANSに比べ、まるで夢のような履き心地の良さ。
軽くて柔らかくて動き易くて、まさに言うことなしじゃないか。
しかもそのルックス。
なんかさっきまでのDIESELよりも脚が長く見えたりもするのだが。。。

つまりそう、そういうことなんだよ。

全ての物はしっかりと進化を続けている。

より、軽く柔らかく動きやすくしかもスタイルを損なわない、
そんな夢の様なものが、新しい素材と新しい製造工程の中で、
次から次へと生み出されては、すぐにまたより新しいものに取って変わられる。

で、改めて履き直したDIESEL。思わずなんだこれ、である。
なんか恐ろしく不格好に見える訳なのだが。

という訳で、ご会計を済ませた後に、あのこれ履いて帰りますんで、
この汚いズボン、捨てといてください、と思わず言いそうになった訳だ。

ああ、あのタンスの奥底に眠るDIESELコレクション、
あれ一体、これからどうするつもりなんだろう、と考えながら家路に着いた。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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