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卓上扇風機の謎

Posted by 高見鈴虫 on 15.2015 とかいぐらし
なぜか我がセクションの机の上には、
卓上の扇風機が置いてある。
見回せばこの部署内にはどの机にもその卓上扇風機。
どれも同じ製品で、つまりは個人が自分用に持ってきている、
という訳でも無さそうだ。

それほど暑いか?と改めてまわりを見回す。
確かに白人種の人々が暑がりであることは知っている。
がしかし、この空調の効いたオフィスである。
それほど暑いとも思えず、
あるいは我がセクションに限ってそれが置いてある、
というのもますます不思議ではある。




キーボードの左右に資料を広げる度に邪魔になるこの卓上扇風機、
いったい何故にこんなものが必要になるのか、
とは常々思ってはいたが、
だからと言ってそんなことをいちいち聞くのも馬鹿馬鹿しく、
まあそう、その他大抵の謎と一緒に、
うっちゃっていたわけだ。

とある日、訳あって机を変わることになった。

VDI使用のこのオフィス、
場所を選ばず机も選ばず、
どこに行っても、LOGINから呼び出されるプロファイルは同じ。
場所を移動できるというは確かに便利と言えば便利である。

まあそんな事情から、悪いが今日はこの机、
つまりは今は休暇中であるジェレミーの机で仕事をしてくれ、
ということになった。

という訳で机は代わったものの、
やることと言えばなにも変わらない。
やれメールのチェックだ書類のアップデートだ、
といつものようにさかさかと作業を進めていたところ、
ふと、妙な違和感を感じた。

つまりはそう、なんというか、妙な匂い、
端的に言って異臭がするのである。

ジェレミーの奴、もしかして引き出しの中に
昼飯の食い残しでも入れたまま休暇に出てしまった、
なんてこともあるのか、
だとすれば、などと考えては居たのだが、
ふとすると、再び異臭、それも割りとリアルな異臭である。

いったいなんの匂いか、果たして、
などと思いを巡らせながら、
がしかし、それが二度三度と続くうちに、
だんだんとその匂いの素の判断がついてくる。

これはつまり、なんというか、割りとリアルなおならの匂い、なのである。

おなら?いったい誰が?

とさりげなく辺りを見回す。
が誰もそんな俺の疑心も目に入らぬと言った風で、
モニターを睨みながら黙々と仕事をしている、のみ。

そして再び襲う異臭。
これもだ。
同じおならの匂い。
しかも段々とその濃度、つまりは臭さが強まっている。

あらためて辺りを見回す。

これが元いた会社であったりすれば、
性格の悪い俺のことだ、
一際大きな声で、おい、なんかへー臭くねえか?
などと言ったりしたものだが、
なんですか?おなら?またまた自分でしといてそうやって誤魔化そうってつもりですか?
ばか、俺はしてないよ、したの誰だよ、正直に言えよ、怒らないから。
おならぐらいで怒られちゃたまりませんよ。馬鹿なこと言ってないで早くその書類仕上げちゃってくださいよ、
なんて風に、そう、まあお決まりの会話で笑って済ませながら、
それとなく、多分こいつだろうな、というやつに、
お前、女の子も居るっていうのにオフィスですかしっ屁はねえだろう、
ちょっとは場所をわきまえんかい、と警告を発していたりもしたのだが、
どうせそう想うのなら黙ってれば良いのに、と言われることを知っていながら、
言わずにはいられないこの性格の悪さ、というのがつまりはこれ、
外人連中ぐらいとしか付き合えなくなってしまった原因であろうか。
がしかし、
改めてこの米人たち。
果たしてこの米人たちは、そんな不慮の事態にいったいどんなリアクションを起こすのだろう。

という訳で、そうこうするうちにその異臭。
まじめに、ちょっと、下敷きで仰いだり、
なんてことが必要なぐらに濃厚さを増している。

で改めて辺りを見渡す。
お前ら、この匂いが気づかないのか?

確かに犬の末裔である俺は匂いに敏感である。

体臭から始まり、その匂いからの情報収集量が半端ではないことは自覚している。
よりによってそんな俺のまわりで、こともあろうに屁をひり続けるなど、いったいどんな無礼な輩か。

がしかし、そう俺にだってそういうことはある。
どうせばれないだろうと、いや、バレてもかまうものか、
下手をすればわざと、なんてこともやったりもする。

そんな俺は人の屁が臭いの臭くないのと文句を言える筋合いではないことも重々承知している。
しかも俺は派遣社員なのである。
互いの能力がどうこう、待遇がどうこうは置いておいても、
取り敢えず派遣である以上は借りてきた猫、あるいは奴隷、ぶっちゃけ犬ころ。
つまりは人間以下である。
基本的な人権の範疇にない人間が、
そんな些細なことで文句を言える立場にはないことも承知の上である。

がしかし、人間以下と言っても匂いは匂い。
やはりこの異臭、つまりはオナラの匂い。
どうしても気になる、というか、鼻に付く。
そう、鼻腔の奥底に貼り付いてなかなか離れてくれない。

あらためてその匂いの元をそれとなく探ってみる。

匂いからすると、これはぶっちゃけ肉食人種である。
野菜も食べているようではあるが、
肉、そして乳製品、多分チーズである。

消化途中のそれらのものが、腸内に残留してはガスを発生しているのであろうが、
その濃厚な臭気、弱まるどころかますますリアルさを増し続けている。

ふと見れば俺の前に座るのは女性社員である。

まるで地球儀のように太った中年女性。
肩から腕から背中から腰もも尻も見分けがつかないほどに、
全身がまさにまるまると、まるで球体になるぐらいに太った白人のおばはん。
その両腕からぶら下がった肉たぶはまさにヒレを通り越して翼にも見える。
そんな彼女、やはり独身であるらしい。
時たますれ違う時に、その陰鬱な表情と、
そしてあまりにもひと目を気にしている風には見えないそのスタイル、
まあ日本で言うところの腐女子系になるのだろうが、
一見して彼女が、割りと若いうちからそんなキャラに馴染み切ったまま、
やはり思った通り誰からも鼻も引っ掛けられず、
そうと判れば毒食えば皿まで、とばかりに、
徹底的になにからなにまでの社会規約をうっちゃってしまった、
その末路の成れの果て、
とまあそんなタイプの女性、であった訳なのだが、
どうも考えるに、いやいまや考えることなど必要もないぐらいに、
その異臭の源が彼女であることは、いまや明白。

座敷に座った親父がよくやるように、
そのまるまるの張り切った身体を、よっこらしょ、とさりげなく右に左に傾けては、
時を同じくしてあの濃厚な臭気がムンと漂ってくるのである。

派遣社員の俺と言えども、その内心までは制御できない。
つまりは、この婆あ、つくづくふざけてやがるな、とは思っている。
がしかし、この地球儀、確かに仕事はできるらしい。
そうしている今にも、次から次へと矢継ぎ早に彼女からのメールが届いている。
今週中にこれ、来週のあれ、それからのそれ。
驚くばかりのマルチタスクぶりである。

がしかし、である。

外見の美醜よりは勿論仕事の能率を選択するのは当然なのであるが、
ことによって、オナラ、である。
いくら仕事ができるから、と言っても、
人前でブイブイおならをしまくる、なんてことが、
パンクロッカーでもあるまいし、このカタギの世界で許されるのか?

という訳で、改めて見るこの地球儀女。
その脂ぎった髪からして見るからに風呂に入っていない。
着ている服もかなり長い間、洗濯した後が見られず、
しかもそのずっと以前の洗濯時に染み付いた生乾きの雑巾臭である。

その身体中から、存在そのものから、
ぶっちゃけ貧困家庭の据えた匂いが漂ってくる訳で、
そんな彼女の机はまさにゴミの山。
プリントした書類の間に、食い残しのチップスのカスからその空き袋から、
足元には履きつぶした靴と訳のわからぬ書類の山。

そんな彼女が、オナラ、なのである。

もうつくづく、世の中、あるいは自分自身のことさえ、
徹底的にどうでも良くなっているのであろうことはすぐに察しがつくのだが、
それに加えてこのオナラである。
まったくいやはやである。

多分不幸な生い立ちの人なのだろうな、とは思う。

典型的なトラッシュ家庭に育ち、
なんの躾もされないまま、完全にほったらかされたまま、
好きなことだけに特化してそればかりを黙々とやりつくし、
そしてそれ以外のことは、なにからなにまで一切合切を放りなげ諦め切って、
幸い、そんな得意分野で仕事を見つけそこで力量を買われた、というであろうが、
がしかし、その欠落、あるいは、社会一般との非合性に対する、あまりにも露骨な対決姿勢。

まったくたちの悪い女だな、と思う。

かつて我が家の隣に住んでいたルーシー女子、
犬どころかネズミさえもが避けて通るような徹底的なゴミ屋敷に暮らしていたレズビアンの女、
多分、この地球儀も、その何倍何十倍も汚いゴミ屋敷に、
たぶん病気だらけの猫たちと暮らしているに違いない。

とそんな想像をめぐらしていた折、
ふと見れば、斜め後ろのクリスの視線に気がついた。

この茶目っ気たっぷりの白人青年。
上目遣いにチラチラと俺の様子を見ては、
視線の合った途端に、意味ありげににま~っと笑って見せる。

なんだよ、と顎をしゃくれば、
ほら、そう、それ、とその球体の女性に顎をしゃくる。
なにが?と惚けて聞けば、
ほらそれ、と。
で改めて、自身の机の卓上旋風機を指差す。

つまり?
つまり、そう、これだよこれ。

つまりこの卓上扇風機、そういうことなの?

と見れば、後ろの机のボス。
なんともさり気なく、その卓上扇風機、それも最強にしてある。
頼りないモーター音を響かせながら、
顔に向けてそよそよと風を送り続けるその卓上扇風機を、
あろうことか俺に向けて風を送り始めている。

と見れば、その後ろの若い女性社員が、
いきなり消臭スプレーをシューッと巻く。
一度では済まず、二回も三回も、しつこいぐらいに、
その消臭スプレーを頭上に向けて巻き続ける。

表面上は思い切り澄ました顔ながら、
やることはやるこの白人連中。

とそんな俺の手に、ほらよ、お前の番とばかりに、
なんとその特大の消臭スプレーが回って来てしまった。

これを?俺に?まさか・・・・

こんなものを、本人の目の前でシューシューやってしまった日には、
それこそなにを言われるか判ったものでは・・・

とビビっていたところ、いきなりむっくりとその巨体、
まさに花道を引き上げる関取そっくりの、
それはまさに出来損ないのロボットのようなおぼつかなさで、
のっしのっしと廊下の向こうに消えていく地球儀女。

転がった方が早いんじゃないのか?
馬鹿なこと言ってないで早くスプレースプレー。

聞けば病気であるらしい。

そう、病気、という説明、とのこと。

病気?オナラが病気?
そう、あの肥満体も病気、との話だ。
つまりあの体臭も。
体臭?
気が付かないか?あの体臭。凄いだろ?
いや、そう、そうですか?気が付きませんでしたが、
とかなんとか派遣社員らしい控えめさで惚けるのだが、
思わず笑い出してしまっては冗談にもならない。

それに加えて猫だろ?
あのしみだらけの服からさ、
猫のおしっこの匂いがこれでもかと染み付いて、
まったくなあ、なのである。

がしかし、それもこれも、すべて病気、ということであれば。。。

そう、病気である以上はそれについて言及することは
人権保護的な見地からの社内規制に触れるらしい。

という訳で、この卓上扇風機、という訳か。

いやはや、である。

オナラを病気、と言い張っては、おおっぴらにオナラし放題の女社員。

レズだかなんだか知らないが、ここまで徹底的に世の中を斜に見れる、ってのも一種の才能なんだろうな。

とそんなところを、トイレに立った地球儀が帰って来る。

ねえ、ちょっと、さっき頼んだ案件、あれどうなったの?
それとあんた、この間言ったあれ、まだ解答が来てないけど?
ねえあんたたち、私のメールちゃんと読んでいるの?
誰のためにわざわざ私がそんなことやってやってると思ってるの?
まったくこんなことだからいつまでたってもまともな時間に家に帰れないのよ。
今週中にこれ、来週のあれ、それからのそれ、
あんた達、いったい何をやってるの?
なにをしにここに来ているの?
下らないお喋りばかりしていないでさっさと働きなさいよ。

だそうなのである。

という訳で、OK、である。

そっちがそうならこっちもこうだ、なのである。

舐めて貰っちゃ困る。
今はこんな社畜派遣なんてのに落ちぶれてはいるが、
ついこの間までは人を人とも思わぬ暴虐武人のパンカー、
たかがオナラぐらいででかい顔をされて貯まるものか、とばかりに、

そっちがそうなら、俺だってとばかりに、
思い切り片尻を上げたとたん、後ろのボスからいきなり頭を叩かれた。

バカタレ!いい加減にしろ!

いや病気なんです、の一言が言ってみたかっただけさ。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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