Loading…

子どもたちになにかを伝える、ということ、その続き

Posted by 高見鈴虫 on 20.2015 日々之戯言(ヒビノタワゴト)


で、そう、実は前回の話の続きでもある訳なのだが、

以前務めていた米国大手某金融会社。
その研修所ってのがニュージャージーのその先のペンシルバニア州、
それも牧場やらスキー場やらがあるようなところにあって、
そこに何度か出張したことがあったのだが、
その研修所の近く、風光明媚な山々と緑の草原に囲まれたそのど真ん中に、
妙に場違いな白い二階建ての建物があった。








ちょっと見は病院。あるいは、刑務所?とそう言えば、高い柵が囲っていたりもする。
が、だったら鉄条網でないのはどういうこと?
ってことはやはり、そう、精神病院なのではないだろうか、と。

だがしかし、なんでよりによって我が社の研修所の隣にそんなものを作るのか。

あるいは研修があまりに退屈で気の狂ってしまった社員の収容先ということなのか。

で、ちょっと気になって、あれなに?と聞いてみたところ、
ああ、あれは、老人ホームと言う。

老人ホーム?

そう、老人ホーム。
24時間365日対応の超高級老人ホーム。

映画館からコンサート会場から、体育館兼プレイルームから、
中庭にはあまり使われた後は見えないがテニスコートまであって、
で、屋上にはヘリポートまで完備とのことで、はあはあ、そういう訳か。


で、その入所料ってのがべらぼうに高くて、つまりは超お金持ち、特権階級の方々専用である、とのこと。

でもさ、と思わず俺。

そういう超金持ちの人って、自分の自宅に専用の看護婦さんを置いたりとかしないのかな、と言えば、

ああ、実はね、という話。

つまりは、そう、プロの看護が必要になってしまった方々、そのj方々用のものなのだ、と。

ぶっちゃけそれは、アルツハイマーの人々用の、ということなのかな、といえば、
うん、まあ、そういうことなんだが、まあ、言ってみればこれ、金持ち用の死を待つ人の家、であったりもする訳、らしい。

でそう、確かに以前はそうで、つまりは、そこに入所した途端、まるで待っていましたとばかりにアルツハイマーを発症する人が多かったのも事実。
つまりはウエストパームビーチ症候群という奴か。

がしかし、そう言われて観るとちょっと気になって、
で、息抜きに窓から外を見るたびに、ちょくちょくとその超高級アルツハイマー御殿ってやつを見物していたのだが、
どうもこの老人ホーム。
死を待つ人の家にしては妙に忙しいのである。

駐車場を行き来する車。
そして、ほら見ろよ、子どもたちを乗せたスクールバスが一台二台。
そこから降り立った子どもたちの黄色い歓声が響いてくるようだ。

ああ、そうそう、実はね、面白い話がある、と。

ある日、そんな超高級死を待つ人の家に、珍しいビジターがあった。

嘗ては経済学の権威であり、何冊もの著作もあったかの大銀行の大重役。
今となってはこの高級老人ホームで何不自由なく暮らしながら、
消えゆく生命の灯火を儚んでいたところ、そこにいきなり現れた田舎の少年たち。

近所にある高校の生徒たちで、夏のレポートの題材にその大重役の著作を参考にしたい、
がしかし、なにが書いてあるのかさっぱり判らない。
もしよければ教えてもらえないか、とのこと。

普段であれば、あのなあ、と。
お前らみたいな田舎のバカ生徒に俺の書いたものなど判るものか。
とっとと帰れ、と追い返すところであった筈なのだが、
今となってはすっかりご隠居風情。
日々、暇を持て余していた手前、
ああ、いいよ、どうぞどうぞ、と迎え入れてしまったところ、
そんな若者たちと話しているのがなんとも楽しくて堪らず、
いつの間にか自身も本気。
いや、そうじゃない、経済のその基本の基本て言うのはだな、と思わず力が入っては、
うっし、それなら俺が学校なんかでは絶対に教えない本当の本当のところを教えてやる、
耳の穴かっぽじってよおく聞け、と気合が入りまくり。

そう、俺ももう短い余生だ。中途半端なことを言っている場合ではない。
だったら俺が、この俺が、この俺の長い人生の中で掴み得た、
唯一絶対の真理、それをお前らに教えてやろうじゃないか、とばかりに昔とった杵柄。

という訳で、一回限りであった訪問が二度三度、そのうちにそのガキどもの友達から、
下手をすれば担任の先生なんてのまでが訪ねて来るようになって、
いつの間にかその老人、新たな訪問を待ちわびては自身でノートまでを作り始め、
次に会った時にはなにを伝えるべきか、どう伝えるべきか、
そのことを考えるとまさに夜も眠れず。

つまりはそう、終わりの見えた人生だ。
なので、長い年月を掛けて最初から最後までをじっくりと、というわけにはいかない。
つまりは、一番大切なこと、そのものずばりを、ガツンと教えてやること、
それこそが彼にとって一番大切なこと。


良いか、これだけは言っておく。
これが真理だ。
意味は後で考えろ。判らなければ一生かかってでも考えろ。
ただ私は、この人生の中で、ここまではたどり着いた。が、ここまでしか辿りつけなかった。
君たちはそんな私の老いた屍を乗り越えて、そしてもっともっと先へ進むのだ。


看護婦からの制止もなんのその、徹夜に徹夜を重ねて原稿を書き上げては、
ついには学校中の生徒が集まる中、映画館を借りきっての集中講義。
疲れ果てて息も絶え絶え、どころか、この迷惑な訪問者以来、
まさに水をえた魚のよう。

いきなり部屋に電話を引け、コンピューターが欲しい、インターネットにつなげ、それも高速の奴だ、
などと、いきなり彼の病室がオフィスに様変わり。

日々、誰かしらの訪問を受けるようになって、応接用のソファから、
ソフトドリンクしか置いていないがミニバーなんてものまで設置して、
いつの間にかこの老人、この死を待つ人の家で、コンサル業を初めてしまった。

という訳で、噂が噂を呼んでひっきりなしの訪問者。
あるときはベッドの上から、あるいは点滴を引きずりながら、なんてことになりながらも、
ばかたれ、この仕事を終えずして死んでなるものか、とばかりの大ハッスル。

日々訪ねてくる子どもたちの中から、
こいつは見どころがある、ってな奴には、嘗て知った大学教授、
あるいは、今や現役前線でブイブイ言わせている嘗ての部下宛に、
こいつは見どころがある。俺の孫だと思ってかわいがってやってくれ、
なんて紹介状を書き連ねる初め、
ここに来て、この田舎街の子供たちの間にセンセーショナルが巻き起こった。

本当であれば、こんなチンケな鳥の糞しかないような田舎町を出ることもなく、
ホワイト・トラッシュとして一生を終えるはずであった子どもたち、
そんな子どもたちの前にいきなり世界に向けての一条の光が差し込んでしまった訳だ。

とそんな話が、地元の地方新聞に記事として載せられることになった。

としたところ、他の入所者も黙っては居ない。

俺は実は物理学の大家で、やら、クラッシック音楽界の大先生、
大株屋、詐欺師、元大学教授、作家、大実業家、手品師。

そんな人々が、次から次へと名乗りを上げては、

ガキども、聞きたいことがあるなら私のところに来い。
なあに、残り少ない命だ、なんでも教えてやる。

とまあ、いつの間にかその老人ホームが大盛況。

下手をすれば、州をまたいで、
あるいはニューヨークからLAから、
出版社が新聞屋がテレビ局がやってくることにまでなって。

これまでの超高級老人ホーム、
実は、アルツハイマーの蔓延した死を待つ人の家、
であったこの陰気な白亜の塔が、
いつの間にか、そんな未来を育む場所に早変わり。
で、そう、そんな話が始まって以来、
アルツハイマーを患う人々が激減した、という話。


という訳で、はい、ここからが本題。

そう、そんな老人たちを使わない手はないのである。

老人たちは何かを伝えたがっている。

そんな老人たちは、誰かがなにかを教わりたい、と言ってきた時、
その老人が一角の人物であったればこそ、
次の世代に教えなくてはならないこと、という奴をしっかりと考え続けている筈だ。

そんな熱心な教育者を遊ばせておくべきではない。
こんな貴重な資源を無駄にすることはない。

そしてそれは彼らが最も望んでいることなのだ。

という訳で、この人生に置いて、なにかを掴んだ、そしてそれを誰かに伝えたい、と思っている諸氏、

心を、そして、門戸を開くべきだ。

そして子どもたち、そう行った人生の成功者、そして、時として失敗者たちから、
この先、自身が生きていく上において、大切なもの学び取っていくべきなのだ。

という訳で、提案したい。

老人ホームの一般への開放、それと同時に、学校の開放である。

社会の目を開き、心を開き、門戸を開き、金稼ぎとは関り合いのない人々の間で、
情熱と執念と愛情の中で、その言葉を伝え、そして聞くべきなのだ。


良いかい、子どもたち。
この人にはもう会えないかもしれない。
そしてこの人が、この人の何十年の人生の中で学んだこと、
その一番大切なことを今から君たちに伝えようとしている。
その言葉を、君たちが長く記憶すること、そしてそれを次の世代に伝えること、
そのことこそが、人類の文明というものの根本なんだよ。

さあ、では、お願いします。この子たちに、一番大切なことを教えてください。

そう言われたら、あんたはどう答える?

そう、決っている。

子どもたち、よく聞け。人生は、生きるということは、本当の本当に、すばらしいことなんだ。

それを伝えなくてなにを伝えるというのだ。

人間は、文明はそうやって伝わって来たのだ。

それを忘れたところに、教育など意味はない。

という訳でその老人ホーム、思わずちょっと立ち寄って見ようか、と思ったのだが、

え?予約がなくっちゃ入れて貰えないの?

まあ確かにそうだわな、と苦笑い。

という訳でその見上げた老人ホーム。
アメリカ、なかなかやるじゃねえか、と思った訳だ。

プロフィール

高見鈴虫

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム