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ニューヨークで唯一見つからないもの。それは普通の床屋、であったりする

Posted by 高見鈴虫 on 28.2015 ニューヨーク徒然


ニューヨークに20年もいて、未だに難儀していることがある。

つまりはぶっちゃけ、床屋である。

言わせてもらえばニューヨークにはろくな床屋がいない。

ヘアーデザイナーやら、なんたらアーティスト、
なんてのは履いて捨てるほど居るのだが、
普通の意味での床屋、つまりは、あの日本の駅前とかにいた、
ハサミをチャキチャキチャキ、と軽やかに鳴らしながら、
良くもなく悪くもなく、ごく無難に普通の髪型、というやつにしてくれる、
つまりは凡庸な、しかし基礎だけはがっちりと押さえた、
職人としての床屋さん、というのが存在しないのである。

確かに、金を払えばそれなりの人もいるのだろう。
奇抜な髪型、しかできないが、そればかり、というタイプの似非ゲイジツカ気取りのアホ。

がそう、俺はそういう人ではない。
ガキの頃から床屋が大嫌いで、
つまりは、てめえの髪型なんてものに拘っている、なんてところは、
微塵も出したくはない。

そう、所詮はたかが床屋である。
たかが床屋であるべきなのである。
そんな俺が、自分の髪型などにそれほどの金など、使う気は更々ない、
あるいは使ってはならないのである。

がしかし、だったらその当たりで、と、適当な床屋に入ったが最後、
いきなりバリカン。
おおおっと、という驚きの声も上げる間もなく、
見る見るうちにテカテカのミリタリー刈りにされてしまった上に、
虎刈りであったり、
穴が開いていたり、
左右の長さが違ったり、
とまあ、つまりは、そのスキルがとてつもなく低いことを思い知らされる。

という訳で、そう、
あーてすとだが、でざいなーだか知らないが、
取り敢えずは一応の、基礎、を押さえた上で、
それなりの風呂敷を広げてくれないか、
あるいは、
てめえ、仕事する気がねえなら金なんか取るんじゃねえ、と。



という訳で、ニューヨーク広しと言えども、
信頼できる床屋さんは、極数人。
がしかし、その数人も今や大先生な訳で、
俺なんかの髪を切るよりも、新人の育成や経営やら、
のほうが忙しくてなかなか相手をしてくれなかったりもする訳だ。

とかなんとか言っているうちに、
がしかし、髪はそれを待ってはくれない訳で、
その伸びた髪に気づくたびに
これ以上なく憂鬱な気分にさせられたりもした訳だ。

がそう、そうそうとそんな愚痴ばかりは言ってられない。
うざったく伸びた髪にいい加減苛立ちが最高潮に達して後、
ああ、こんなイライラするぐらいなら虎刈りでも犬刈りでもなんでも良いわい、
という半ばというよりも、ほとんどがヤケクソに近い形で、
えいやあ、と知りもしない床屋に足を踏み入れることになる。

という訳で、会社帰り、ああ、もうこの糞頭の糞髪、
いっそのこと剃りあげてしまいたいのだが、それも出来ず、
ええい、忌々ししい、とばかりに、
えいやあ、と乗換駅近くの駅前床屋に立ち寄っては、

なんでもいいから好きな様にしてくれ。
どうせなにも期待などしていないから、
という見るからに超投げやりな気分で椅子に座らされた訳だ。

で思った通り、どこぞのあんちゃん風。
その床屋の髪型からして、なんだよそれ、冗談ってより、ハロウィン以下、
というそれだけで、もうなにが起こるかは覚悟の上ではあるのだが、

で、どうしますか?と聞かれて、
ああ、4-5センチ切ってくれればそれでいい。
余計なことはするなよ。
切りすぎず、長すぎず、まあ、そう、普通の髪型にしてくれ、と。

まあしかし、俺が床屋でも、何が普通か、どこの普通か、
いったいあんたの普通ってのはどうなんだよ、と言い返したくなるのも判るのだが、
ただひとつ、電気バリカンは使うな、と一言。

そう、アメリカの20ドル台の床屋は大抵がこの電気バリカン。
よそ見しながら、電話しながら、と、あまりにもちゃらんぽらんなままに、
この電気バリカンでホイホイ、とやられた日には。。。

とそんなあんちゃん風。OK,と一言。
判ったバリカンは使いません、と妙に素直。

でやにわに右手に持ったハサミから、
昔懐かしあの日本の床屋さんの、シャキシャキシャキ、の軽やかな音。

え?もしかして、と思った矢先、
はい、行きますよ、と切りにかかったのだが、
その手つきからなにから、むむむ!こやつ、できる!
とそれだけで確信に近いものを得るに至った。

そう、プロフェッショナルな人ってのは、つまりはもうその手つき、顔つき、
あるいは指先がちょっと触れただけですぐに判るもの。

ビートなど叩かず、スティックを軽くスネアに落とした、そのスラ、だけで、
ビビビビ!こいつは上手い、とすぐにビビビビ!と来るだろう、と。

つまりそう、あろうことかそのあんちゃん風、チンピラおかまラッパー風のそのあんちゃん、
まさに、そう、プロフェッショナルであった訳だ。

思わず、お前、上手いなあ、と一言。

ああ、知ってるよ、とあんちゃん。俺は上手い。だからこうして働いているだ。

そういうあんたはなんの仕事してるんだ?とあんちゃん風。
金融系か?と聞かれて、まあそんなものだ、と答えた途端、判った、と深く頷く。

であとは無言。そう、無言である。聞こえるのはシャキシャキシャキというあの軽やかなハサミの音、それだけ。

で、ものの10分も経たないうちに、なんだこれ、と思わず。

なんだよなんだよ、まるっきり普通。つまりはそう、普通にごく普通に凡庸かつ実用性だけを極めた、
どこにでもいる普通の普通の人のその髪型。

どうですか?と聞くその顔が、憎々しいほどに自身に満ちていて、
あるいは投げやりなほどに無関心、つまり、これで文句などいわれる筋合いはねえ、とばかりの、
つまりはそう、日本の床屋にありがちなあの独断と独善に貫かれた職人顔な訳である。

うまいな、完璧だ、と一言。
ああ、判ってる、とあんちゃん風。そしてニヤリ。

で、値段はと言えば、22ドル。おいおい。
これであれば、日系のデザイナーやらアーティストなんてのより、数倍もましなのである。
で、思わず、もう20ドルとTIPを渡そうとしたところ、
ははは、と苦笑いを浮かべるあんちゃん風。

まあまあ、そう気張りなさんな、とあんちゃん。
大丈夫、俺には判っている。
あんたは必ず俺のところに帰ってくる。
なのでTIPは次回にしてくれ。
俺の切ったその髪で一ヶ月を過ごした後に、
その後で改めて、今日の分のTIPをいただこう。

なんだよこいつ、と。
クソ生意気ながら、なんともその不敵な面構え、まさに職人な訳である。

なので、そう、三ヶ月に一度やって来ては、バサッと切って20ドルのTIPを貰うより、
できれば、一ヶ月に一度、ちょくちょくと来てもらったほうがこっちとしても楽なんだがな、
とまさに、確信をつく答え。

そっか、やっぱりそうなんだよな。

という訳で、まさに狐に包まれた気分でまいどあり~と送り出された駅前の床屋。

そう、そういうこともあるのだ、このニューヨーク。
やはり侮れない、と思い知った訳だ。


プロフィール

高見鈴虫

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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