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偽物かもよ、のベルサーチの財布

Posted by 高見鈴虫 on 14.2016 日々之戯言(ヒビノタワゴト)

と言う訳で、飽きもせずに財布の話である。

悩みに悩んだ末に、
なんて事もない、ただお札とカードが入るだけの、
極めてオーソドックス且つ機能的なだけの
黒革の財布って奴を購入した訳だが、
漸く届いたその財布。
いつもながらEBAYの廃価品、
どこぞの在庫一掃セールか何かから流れて来たであろう
なんの変哲も無いただの財布。

まあしかしその質感から機能性からは何も申し分無し。
値段の割りにやはり本物のBOSSではあるらしく
中国製でないのは幸いだった。

という訳で、長らくすったもんだの末のこの財布。
まあまあって事かな、と納得はして見たものの、
ふーんそう、まあただの財布。それ以上でも以下でもない。

まあいいじゃねえか。たかが財布だ。
と繰り返しながら、どうしてだろうこの一抹の寂しさ。

そうつまりは何の代わり映えもしないただの財布。
なにが悪い?財布なんてその程度のもの。
つまるところ、
そう結局はBOSSな訳だろう、なのである。



改めてこのHUGO BOSS、というやつである。

一応は勝ち組リーマン御用達であるらしい。
そう俺は最近BOSSな男である筈だったのか。

まあそう、クソ面白くもない仕事をクソ面白くもなくこなす
つまりは大人、結局のところのオッサンって訳だろう。

つまらねえな、とふと呟く俺がいる。
何がつまらねえって?と問い返す。

つまりはそう、つまりは、このBOSSな男が、である。

改めて思う。
俺は自分が好き好んで落ち込んだこのBOSSな男というイメージが、
実は俺自身が好きでもなんでもないのである。

ってことはなにか?
俺は、この俺自身が、実は好きでもなんでもない、と。
つまり俺は、こんな俺自身に、なんの愛着もない、ってことなんだよな。

それはしかし改めて、ちょっとした衝撃でもあった。

そっか、俺は俺のことが好きじゃなかったんだな。。
近頃起こっている心境の変化、
金にもオンナにも音楽にもファッションにも興味がなくなり、
何一つとして何も面白いことがない、とぼやいているこの俺。
その原因が、つまりは、自己愛の喪失にあった訳か。

という訳でその象徴たるBOSSの財布である。

まさにそれなりに、と同時に、その程度の人生の象徴たるBOSS。
ああ、俺はこの先、そんな程度人生の象徴と、
いったいどれだけの間を付き合わされることになるのか。

なんてことを思ってささやかな暗澹を味わっていた矢先、
IPHONEの画面にポンとあがるメッセージ。
EBAYで消し忘れていたアラート。

ジアンニ・ベルサーチの財布。本物か偽物か判断不明。

なんだこれ?である。

で、見るともなしに覗いてみたその財布。

写真を観る限り、まさにこれぞベルサーチ、という財布である。

黒いワニ皮は鏡のように輝き、
そしてその中央には、
これでもか!というぐらいに、
銀色に輝くベルサーチのシンボルである巨大なメドゥーサのエンブレムが、
まるで水戸黄門の印籠のように浮き上がっている。

まさに、ベルサーチ。
みるからにベルサーチ。
これぞ、ベルサーチ。
まさに、キング・オブ・バブルの面目躍如。
一目見てそのえげつなさに思わず失笑が溢れるほどに、
なにからなにまでがまさにベルサーチのその一品。

売り主はアイダホだか、アイオワだかの、つまりはど田舎のおばはんである。

村のイースター・フェアで手に入れた品です。
VERSACEとありますが本物か偽物か判りません。
写真を貼りますのでそちらでご判断ください。

という訳でアップロードされた12枚の写真である。

そのどれもこれもが、これぞまさしくベルサーチなのである。

まあ実物を見なくては判らないのだが、
これはまあ、多分、本物だろうな、とは思う。

その鏡のような光沢に照らされたワニ皮。
そしてその中央に鎮座ましました銀色の巨大なエンブレム。
財布ってよりはむしろベルトのバックルのような、と。

でなんとなくその財布。
どういう訳だか気になって、
思わず、WATCH、と気になるカゴに放りこんでいた訳だ。

そして数日が経った。

新たに購入したBOSSの財布。
思いの外に好調である。
と言うか、そう、この時代もう財布をいちいち取り出すなんてことはあまりなく、
つまりはバッグの奥底で、薄く軽く邪魔にならず、だけをモットーに、
おとなしく収まっていてくれている、という感じ。

そう、財布なんてそんなものさ、とは思いながら、
そんなものである、ということさえも忘れてしまえる日々が近くなっていたころ、
ふとしたことで、犬の散歩中の財布に穴が空いていることに気づいた。

どこぞのおまけで貰ったようなそのビニール製の小銭入れ。
その底が破れた挙句に、
小銭からガムから常備薬の芍薬甘草湯からクレジットカードから図書館カードからが、
いつのまにかお散歩バッグの底で砂まみれで踊りを踊っている。

おやおや、一難去ってまた一難。

なんだよ、また財布を買わねばならないのか。

この犬の散歩用の財布。
俺的にはブー君用バッグのブー君用財布なわけだが、
なんだかんだ言って、一日の内でもっとも大切な時間を共有するこの財布、
実は最低限に必要なものだけをよりすぐってあったりする関係で、
ちょっとお出かけ、なんて時には、
本チャンの財布よりもこのブー君財布をポケットに突っ込んで、
という場合の方が多かったりする訳だ。

そっか、ブー君財布か。

だとすればまさに機能性重視。
なんでも入って軽くて邪魔にならず落とさないように紐まで付いていれば言うことなし。
と言えばまさに吉田カバンのあの三つ折財布である。
がしかしこの吉田カバン。
先にも触れたように、WEBで購入できるものは判で押したように偽物ばかり。
本物はと言えば、やはりそれなりの値段がして、しかも国際便の送料である。
うーん、こんなことなら前にかみさんが日本に帰った時に買ってきてもらえば良かった、
と今になって悔やんでも後の祭り。

そっかブー君財布か、と吉田カバンの財布を眺めながら、
でもこんなビニール製の財布に100ドルはちょっとなあ、
下手をすれば先に購入したBOSSよりもずっと高いじゃないか、
と首を傾げてしまうわけで、
うーん、ブー君どうする?とは言いながらも、
取りあえずは財布のかわりに、
まるでうんち拾いようなキッチンのZIP袋、
なんでもかんでもぶち込んでは、ま、これでいいか、
と安心していたところもあったのだが。

とそんな時、ふと脳裏に浮かぶ、あのベルサーチのエンブレムである。

犬の散歩にベルサーチ?

セントラルパークで犬の散歩の途中、
やあやあ、元気だった?と出くわした人々と、
だったらそこらでお茶でも、と立ち寄った公園のカフェ。

なんだよ、珈琲が5ドルかよ、高いな、と笑いながら、
犬のおもちゃの詰め込まれた、ヨダレまみれ、砂まみれ、
下手をすれば、うんこまみれのそのズタ袋の中から、
ふと取り出したるのが、なんと、ベルサーチの財布。

げげげ、犬のヨダレまみれのベルサーチ。

思わず。

控えよ、犬ども!この印籠が目に入らぬか!
ここにおわせられますのはまさに、
バブルの王様、ベルサーチ様であられますことぞ!

えーい、頭が高い!
下がれ下がれ、お座り!お手!はいよく出来ました~!

とそんな情景が目に浮かんで、
うーん、犬の散歩にベルサーチかぁ。
これはこれは。
あの金持ちぶったバブル婆たち、
犬の首輪にヴィトンだコーチだティファニーだ、
なんて下世話な見栄を張っているおばはんたちに、
そんな下らない冗談をちょっとかましてみたくもなった訳だ。

という訳でその偽物かもよ、のベルサーチ。

ふと見ればビッド終了まで残すところあと3日、になった時点で、
いつの間にか値段は50ドルに値上がりしている。

ええ!?偽物の財布に50ドル?

うーん、これはちょっとやり過ぎだな、と苦笑いをしていた矢先、
その観ているそばから、51ドル、2、3、4、とカウンターが上がり初め、
あれよあれよと79ドルである。

おいおい、こいつらマジかよ。
姿の見えぬそのビッダー達の思惑をさぐりながら、
ってことはつまり、これを本物、と賭けた奴らがこれだけいるってことなんだよな。

がしかし、今やすでに100ドルの大台を間近に迫ったその偽物かもよのベルサーチ。
うーん、たかが犬の散歩時の下らない冗談の為にさすがに100ドルは出せないだろう、
とは思いながら、うーん、見ればみるほどこの財布。
まさに、ベルサーチのベルサーチたる、
つまりは、これ以上ないコケオドシ。
神をも恐れぬその天晴なほどのバブルぶり。
なんか見れば見るほどに、
これ、今の時代なら尚更面白いかも、
と思えてきてしまう訳である。

そっか、ベルサーチかあ。
こんな時代でも、こんなものに100ドルも払う酔狂者もいるにはいるのだな。
と、なんとなくちょっと不思議な気分、
そして、なんとなくちょっとうれしくもなってしまった訳だ。

そう、そのベルサーチの財布。
まさにバブル。
そして、妙にROCKなのである。

つまり黒革のライダースの、あるいは、スリムの革パンの、
そのポケットからさり気なく取り出した、この銀色のエンブレム。

そっか、つまりはそういうことか。

と気づいた途端、
ふと見れば、その程度の人生の象徴たるBOSSの財布が、
あまりにも悲しく寂しく思えてきてしまった訳である。

そう、こんなBOSSなんてのは俺のイメージじゃない。
俺はこんなところで落ち着きたくはない。
そしてなにより、俺はそんなBOSSなんてものをぶら下げた俺自身を、
ちっとも愛せない訳である。

それであれば寧ろ、
嘘であろうか真であろうか、誰も知らないまでも、
お前、バカかよ、と笑われながらも、
なんとなくそんな馬鹿さ加減に勇気が沸く、
そんな、そう、バブル馬鹿の象徴たるこのベルサーチの財布。

これぞ、まさに、俺が忘れていたもの、そのものなのではないだろうか、
なんて気がしてきてしまったのである。

しかも、である。
この財布はブー君財布。つまり犬の散歩用。
つまりは本来の俺の、そして、我が唯一無二の相棒であるブー君の持ち物なのである。
そう、この財布はブー君の財布なのだ、
そう思ったとたんに吹っ切れてしまった。

うっし、この財布、買うぜ!

という訳で改めて見ベルサーチの財布。
今や値段は138ドルである。
この馬鹿が、と思う。
こんなまがい物に138ドルだと?騙されやがって、とは思いながら、
まあ確かに、本物であれば1000ドルとは行かなくても、
それなりの値札をぶら下げているであろう逸品である。
そんなものを俺は事もあろうに、犬にプレゼントしようとしている訳か。
そう思うと尚更おかしくなってくるのだが、
そう、俺にとって、ブランドは、あるいはバブルは、強いては金なんて、その程度のものなのだ。

という訳で肚は決まった。
俺はこの財布を買う。なんとしても手に入れる。
で、その価格である。

果たしていくらまでだったら買うつもりなのか。
あるいは、いくらだったら競り勝てるのか。

俺から言わせるところ、EBAYはショートトラックのスピードスケートである。
終了寸前まではみんなとろとろと滑りながら様子見。
で、終了30秒前ぐらいを過ぎたところからいきなりのラストスパートが始まり、
そして終了までの秒読みの中で一挙に高騰、
10-9-8-7-6、のカウントダウンの中で、
みるみると値段が迫り上がり、
終了直前のその最後の瞬間まで待ちに待ち続けた者が、
一瞬のうちに勝利をかっさらってしまうのである。

大抵のEBAYおたくの奴らは、自動ビッダーなるものを使用しているらしい。
つまりは設定した金額まで自動的にビッドをし続けるというものらしいのだが、
その関係から、終了直前にえいやあ、とビッドをかましたものの、
終了一秒前、なんてところで、いきなりそれに25セントを重ねられて競り負け、
ということが何度あったことか。

という訳で、そんな自動ビッダー対策の秘策は、と言えば、
終了5秒前である。
IPHONEのカウントダウンを睨みながら、終了間際、
まさにあと五秒ぐらいのところで、これぞ、と決めた値段をぶちかます。
かましながらも、どうせ同じようなことを考えている奴らが沢山居るわけで、
その終了間際の数秒の間に、
最もギリギリのところで、最も高い値段を打ち込んだ奴の勝ち。
あるいは、自動ビッダーの対応が間に合わないぐらいの寸秒の差で、
その決定打を打ち込む、まさに自殺覚悟のドラッグレースである。

がしかしやはりそこに罠がある。
EBAYは通常、その最高額をビッドしても、
他のビッダーからの金額が少なかった場合、
その競り上の最低額で落札することを前提としている。
なので、たかだか10ドルにも見たないビッドでも、500ドル、とかにしておけば、
忘れた頃になって、はい、直前にちょっと値が動いて13ドル99になりましたが、あなたの勝ちです、
となる訳なのだが、
そんな時、売り主そのものがビッダー、
つまりはその桜として値段の釣り上げ屋になっている場合もあって、
冗談半分に最高値として設定した金額のその直前まで、
チコチコと値段を釣り上げられては、
えええ、こんなものに300ドル、冗談だろ、払えねえよ、いやあ、やられたなあ、
ということも十分に考えうる。
そう、つまり教訓としては、全ての勝負は終了5秒過ぎにあり、なのである。

これぞ、と思った金額を独自に設定して、
えーいままよ、これで負ければ悔いはなし、というところで一発勝負をしかける。
自動ビッダーの無い俺にとっては、その一発勝負こそが鍵なのである。

という訳で改めてこの偽物かもね、のベルサーチである。

この嘘か真か判りもしないこの怪しいベルサーチ、
果たしてそのお値段は?と考える上で、
うーん、と悩みに悩んで、まあ150ドルが相場だろう、とは思う。

思いながら、つまりみんなそう思っているだろう訳で、
だったらそれのちょっと上、ぐらいの金額で170ドル。

だったら、それよか、またほんのちょっと上で、170.99セント。
この99セントがまさに運命の分かれ道であったりもする訳で、
なぜかと言えばしろうとさんたちは、どういうわけかきっかりぽっきりの値段を設定しやすい。
で、そのきっかりぽっきりのプラス99セント、ってのが、勝敗を決する秘訣。
がしかし、この時点ですでに170台。
だとすれば、つまりは最高値を200ドルで設定しては事態を静観している奴もいるに違いない。
だとすれば、それに競り勝つには200ドル99セントとなるわけで、
がしかし、そうなれば、そうなれば、と思案に思案を重ね、
そう、どこかの馬鹿、あるいは酔狂なアホは必ず、220は踏んでいる筈である。
だとすれば安全圏としては250、プラス99セント、ぐらいとなるわけだが、
がしかし、だからと言ってたかが財布に250ドル、
というとかなりの冒険ともなる。
例え見事落札したとしても果たして財布ひとつに250ドルを出すような気があるのかないのか。
だとすればだとすれば、うーん、だとすればだとすれば、と悩みに悩みつづけて。

という訳でビッドの終了日。
なんとその終了時間が、午前12:13分。
つまりは俺が地下鉄に乗り込む、まさにその時刻なのである。
なんでよりによってそんな時間に設定しやがったのか。
あるいは、この馬鹿なPATH TRAIN、なんでわざわざそんな半端な時間に出発するのか。
嫌がらせにもほどがあるぜ、なわけなのだが、
それに加えてPATH TRAINである。
WIFIの接続、などできる訳もなく、
しかも駅のホームに降りてしまうともうインターネットへのアクセスもできない。

つまり、駅の改札でビッドをこなし、そしてあの長い階段を駆け下りて閉まりかけたドアの電車に飛び乗る。
そんな早業が果たして可能なのか。
もしその電車を逃してしまえば、俺はあの吹きさらしのベンチで小一時間もの間、
次の電車を待ち続けることになる。
あるいは、あの駅の改札でさえネットへのアクセスは可能なのか。
まさかビッドをかけた瞬間にシグナル落ち、なんてことにならないだろうな。

そう思えば思うほどに不安材料が募る。

たかがベルサーチ、されどベルサーチ。

うーん、と悩みながら、悩みに悩んでいる末に、というかその間に、
既に12時を過ぎて、既に駅に向かう時間を過ぎていた。

しょうがない、今日は残業。
このベルサーチの為に一本電車を遅らせるか、
とそこまで覚悟を決めたのは良いが、
さあ果たしてその決定打となる値段である。

見ればいつのまにか、値段は既に179ドルである。
いったいどこの馬鹿がこんなものに、とは思いながら、
ビッド数を見ればなんと40とある。
40人がこの財布を狙っている?まさか、と改めて絶句、そして苦笑い。

いったいどこのどいつがこんな悪趣味な財布にそこまで執着しているか。
と考えれば考えるほどにおかしくもなるが、
そういう俺が深夜のオフィスに居残ってまでしがみついているこの財布。
うーん、で、そのお値段、と考えているうちに、早終了3分前である。

で、いくらだった競り勝てるんだよ、とIPHONEを睨みながら、
で、そう、いくらだったら出せるんだよ、と自分に問う。

がしかし、この貴重な電車を一本のがしたことにより、
深夜の帰宅がまた1時間以上も遅くなる訳で、
そうまでしながらビッドで競り負けました、というのはあまりにも悔しい。

がしかし、そんなことをしていたら、まったくどうしようもない高値で偽物を掴まされました、
では目も当てられない。
が見たところ、まさか1000ドル2000ドル、なんて金額を張っているアホもいないようである。
つまりそう、このビッドに参加している人々。
割りとマジで本気でこの財布を狙っている人々のようである。

となると、もう心は一つ。
いくらまでだったら出せるのか、その金額を、負けても悔いなし、
これ以上ならばきっぱりと諦める、という限界値、
その99セント足し、を、5秒前に打ち込む、それ以外に勝ち目はない。

としたところ、妙なことにいきなり心臓がバクバクと踊り始めた。
え?俺の心臓がバクバク?まさか。
これまで数限りないほどにこなしてきたGIG。
あるいは、あわや一巻の終わり、を覚悟した修羅場を何度もくぐり抜けてきた筈のこの俺の心臓が、
IPHONEの液晶に浮かんだカウンターを見つめながら、
今にも飛び出しそうなぐらいにドキドキバクバクと踊っているのである。

おいおい、俺としたことが、と改めて苦笑い。
苦笑いしながら、ますます鼓動が高まって行く。
俺ってもしかして、緊張している訳?

とそうこうしているうちに1分前。
としたところ、いきなり数字が上がり始める。
180。190。194。195。197。200。
おいおい、30秒前を切ったところで、ついに200、と思った矢先に210。
これはこれは、である。
さすがにまさか、200を突破するとは思っても居なかった。
がしかし、そう、電車を一本見逃してまで賭けたこの財布である。
ここまで来たら10ドル20ドルなんて金額で泣きをみることだけは避けたい。
避けたいのは山々なんだが。

たぶん、215。いや、たぶん、220。225が落としどころ。
となれば、230。いや、250.

と悩みに悩んで、終了10秒まえ。
現在の値段は、212ドル。
最早息もつけないぐらいに心臓バクバクで、おいおい、指が震えてるぜ、と笑いながら、
で、どうする、どうする、どうする。
220?230?240?
9-8-7-6-5、
くそったれ、えぇいままよ、と打ち込んだ金額が、250ドル。
で、プラス1ドル、そして99セント。

としたところ、おめでとう、あなたがハイエストビッダー、
と表示がでた直後にいきなりフリーズ。
なぬ?なにがあったの?
としばしの沈黙の後、
ふっと浮かんだ画面。
いきなり、落札、おめでとう、の画面。
おおお、勝った勝った、勝ちました!
ただそのお値段、恐る恐る見てみれば、まさに、251.99。

で改めてビッドの履歴を覗いて見れば、
なんとこんな訳の判らない財布に、100人以上がビッドしていたようである。
その100人が、まさに終了5秒前に、
えいやあ、と死に物狂いのビッドをかけていた訳だが、
その中で、まさに狂気のような自動ビッダーたちが、
220.225.230.235.240,とカウンターを上げ続け、
寸前のところ、250まで来たところで、おっと、時間切れ。
あと一秒早まっていたら、
いきなり252.99で競り負けていたところであったのか。

思わず、ほお、と椅子からずり落ちそうなぐらいの脱力。
と同時に、全身からさーっと血が引いていく思い。

何だよ俺、こんなまがい物かもしれない財布一つに、252ドル、
プラス送料でなんと、260ドル、なんて金を払わされてしまうことになっていたわけだ。

おいおい、財布ひとつが260ドル?
しかもこれ、まんまと偽物かもしれないんだぜ。
だって、その説明文に、偽物かもよ、ってちゃんと書いてあるわけでさ。

今更ながらやれやれである。
今更ながら、いやあ、まずったかな、と苦笑いである。
ああ、この辛く長く、気絶するほどに馬鹿らしい、
血と汗と涙の、数時間分の労働が、
こんな偽物かもよの財布の為にパーとなる訳で、
うーん、たかがベルサーチ、されどベルサーチ、
しかも偽物かもよ、のベルサーチ。

まあしかし、そう、買ってしまったものは今更悔やんでもしょうがない。

まあ良い。ブー君の為じゃないか。そう、これはブー君へのプレゼントなのだ。
俺はやるだけのことはやった。気持ち一杯、いっぱい過ぎなぐらいである。
そう、それで気が済んだじゃないか。

という訳で、なんとなく吹っ切れた気分である。
この半年以上における財布選びのすったもんだからようやく開放される、という訳だろう。

この馬鹿がさ、偽物のベルサーチに260ドルだってよ、笑ってやってくれよ、
と自分で言って自分でへらへらと笑いながら、
なんとなく魔が落ちたような達成感。

そう、騙されるのならこれぐらいスカッと騙されるっても悪くはないだろうが。

はははい、俺って馬鹿だな。まったく、どうしようもない馬鹿だよな、はっはっは。
どうだ、笑ってやってくれよ、俺は馬鹿、大馬鹿、どうしようもない大馬鹿なんだからさ、
ははっはっはっはは~!

深夜の街を、裏寂れたBOSSな男が一人、
吹きすさぶ木枯らしの中で不気味な高笑いを響かせているのであった。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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