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大雪アナーキー ~ 大吹雪のニューヨークは犬どもの天下

Posted by 高見鈴虫 on 25.2016 犬の事情
大雪のニューヨークである。

水曜日当たりから、もう大雪だ大雪だ、
と誰も彼もがはしゃぎ回ってはいたのだが、
金曜の夜になってやって来ました、
ちらほらと降り始めた粉雪。
だったらまあ、と勝手に仕事をお開きにして家路に着いた訳なのだが、
その後、なんとなく、ロック・ドラマー列伝、なんてのを書き始めていたのだが、
なんとなく外が静かである。
そう、雪が音を吸い込んで、あるいは、雪の為に通行不能となったニューヨーク、
この24時間ざわざわガタガタと落ち着きの無いこの街が、
これほどまでに静まり返るというのも雪の効用という訳か。
まるで穴に落ちたような沈黙の底で、
窓辺にしんしんと降り続く雪の気配を感じながら、
音を消したテレビから真夏のオーストラリアン・オープンなんてのを観ているうちに、
いつしか一晩が明けてしまったのだが、
朝になって本降りとなった外はまさに大吹雪。

とそんな窓からの風景に首を長くしながら、
おおおおお、雪だ雪だ、と目をらんらんと輝かせている不届き者がいる。

なぬ?お散歩?この雪の中を?

という訳で、犬を飼う者の宿命というやつか、
まさにドアの向こうに一歩踏み出せば前後不覚となるような大吹雪の中を、
まさに遭難者のような具合で公園に辿りついたのだが、
見ればおいおい、こんな大吹雪の中にも人がいるいる、つまりはそう、犬の散歩の人々である。

そんな輩を一目見た途端に、静止も振り切っていきなり飛び跳ねた犬。

いきなり頭から雪だまりの中にダイブ。
すっかり全身が埋まってしまった中、
雪の上から鼻先だけ覗かせてしばしの沈黙。
なぬ?どうした?
と首を傾げてもそのままピクリとも動かず。
まさかいきなり心臓麻痺?
さすがに心配になって掘り起こすべきか、と覗き込んだところ、
その目の前にいきなりびっくり箱のように飛び出した犬。
ひゃっほー!と歓喜の叫びを上げながら、
あっという間に雪野原の中に飛び込んでいくや、
気の触れたように走る走る、
その姿、まさに壊れたロケットそのものである。

で、そのびっくり箱の空き箱、犬形にぽっかりと開いた雪穴の中を見てみれば、
なぬ?おしっこ?
そう、雪だまりの中でうっしっし、と長い長いおしっこを垂れていたようなのである。
つまりそれ、プールの中で人知れずおしっこをしていた、あの感覚なのであろうか。

という訳で、まあ今に始まった訳ではないのだが、この雪の中の犬たち。
まさに無敵。神をも恐れず、とはまさにこの事。

吹雪が大波となっては畝り狂う白い雪原を、
右から左へ、あるいは斜めに突っ切っては雪だまりの中に頭から飛び込んで、
とそんな中、雪の中からいきなり飛び出してきた黒い弾丸たち。
転げまわる我が駄犬と並走を始めるや、
雪の中に頭から突っ込んではもんどり打って、
まさに顔と言わず身体中が雪まみれ。
そんな犬たちが大口を開けては、ガハハハ!と大笑いを続ける中、
まったくこいつら、と苦笑いを浮かべては唖然とする飼い主たち。

まさに頭のてっぺんから上から下まで、睫毛から鼻の穴から耳の穴の中まで、
まさに雪まみれの雪だるま状態。

まあねえ、犬が元気ってことは確かに良いことなんだが。

とそんなことを言っていられるのも30分が限度。

最早、フードの中からコートの裏から、
身体中の穴という穴から雪を吸い込んでは呼吸困難状態。

おーい、もう帰るぞ、といくら叫べど、
知った事かと走り回る犬たちにつくづく嫌気が射して、
もういい、もう帰ろう、と勝手に家路についた飼い主たち。

足元がおぼつかないどころか、これはまさに八甲田山状態、そのもの。
よろめいて雪の中に倒れ込むたびに、
一瞬のうちに雪に埋もれては姿か掻き消えてしまう。

とそんな時、まさに脱兎、というよりは気の触れた鳶のような勢いで走ってきた犬たち。
そのまま公園の塀を飛び越えて、雪の中にダイブ。
で、全身雪まみれで転がり出ては、いきなり大通りの真ん中に走りでて、
あっという間に交差点を斜めに突っ切っては、
雪に埋もれた車と言わず、ところかまわずに小便を垂れ、
あるいは、こともあろうに扉を閉ざした店先にでかでかとうんこ。
とまさに街中がドッグラン状態。
まあね、こんな大雪の中、車なんか一台も通れる訳ないし、
犬の飼い主以外、こんな吹雪の中を歩いている物好きもいる訳もなく。

という訳で、大通りの真ん中を走り回る犬をそのままに放し飼い状態。

交差点の真ん中でゴロゴロと転がっては雪の中から鼻だけだして大笑い。
六車線の大通りのそのど真ん中を、どこまでもどこまでも走り続けていく犬ども。
まさに大雪アナーキー。
これは完全に無政府状態、まさに戒厳令の大雪騒動のニューヨーク。

そんなこんなで丸一日中、大吹雪が終わった後、一夜明けていきなりの青空。

途端に公園はまさに子どもたちで一杯。
歓声というよりは金切り声を上げながらはしゃぎ回る子供たち、
ミツバチの巣を蹴飛ばしたような大騒ぎである。

とそんな中、はしゃぎ回る子どもたちをちとーっと横目で見る犬たち。
その身体がなんとも重たい。

なに、どうしたの?雪が嫌いなの?と心配げな人々。

え?雪?もう飽きた、と重い足を引きずる犬たちなのである。

まさか昨日のあの大吹雪の中、
この街中を犬どもが我が物顔で走り回っていた、
なんてことを普通の人々は知る由もなし。

一足早く大雪を満喫してしまった犬たち。
重い足を引きずりながら、
なんか俺、下痢みたい。
ああ、俺も、と顔を見合わせてはため息をついている。

という訳で、大雪?ああ、そう、まあね、と言った感じ。

だってさあ、去年なんて、こんなドカ雪がそれこそ三日に一度は降り続いていた訳で、
そんな中を、毎日毎日、雪まみれになりながらお散歩を続けてきたあのあまりにも辛く長かった去年の冬。

あれを思えばこんなの、ちょろいちょろい、と妙に度胸の座ってしまっているニューヨークの達人たち。

がしかし、そうか、また雪か。
やれやれ、また面倒くさいシーズンがやってきた、と、

今日も今日とて、雪の中ではしゃぎ回る人々を尻目に、
長い長い溜息をつく犬の飼い主たちなのである。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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