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大雪ニューヨーク ~ 風船ブーツという苦行

Posted by 高見鈴虫 on 25.2016 犬の事情


という訳で、そんな厄介な雪の日の塩焼けから愛犬の身を守るには、
まずはブーツを履かせること。

このブーツ。
まあ色々な製品が出回っているが、一番良いのは実は使い捨ての風船型。

つまりあの風船の息の吹き込み口から犬の足を突っ込んですっぽりと包み込んでしまう訳で、
まあそう、いわゆるひとつのコンドームな訳であって、
まあ理屈から言っても、あるいは経験則から言っても、
これであればたぶん大丈夫、とは思う。

思うのであるが、そこにやはり盲点が存在する。

犬はこれを履くことを死ぬほど嫌がる。

普段から靴など必要のない暮らしを送っている犬たち。
それも、普段からお散歩だけは死ぬほどさせてもらっている元気いっぱいの健康優良猛犬児たちにとって、
極寒の中のコートでさえもがしゃらくさい、ところを持ってきて、なぬ?足にブーツ?冗談でしょう、となる訳だ。

そう、元気だけが取り得というような猛犬タイプに限って、身体に要らぬものをつけられるのを死ぬほどに嫌う。

おい、ブーツ履くぞ、というたびに、なんだよ、それ。
そんなみっともないもの誰が履くか、とプン、と横を向いては逃げまわる。

おい、だから、また潮焼け起こしてピーピー言っても知らないぞ!
といくらいっても、嫌だ、嫌なものは嫌だ、と逃げまわる訳だ。

まあなあ、気持ちは判るのだがな、がしかし、これをやらずにまた下痢を起こされて、
会社を休んで獣医さんに駆け込む、なんていう毎年毎年の大騒動は、
原因の判った今となってはもうあまりにも馬鹿馬鹿しい。

なので、嫌がる犬を抑えこんで、えいやあ、とこの風船ブーツを履かせる訳なのだが、
嫌だ、死んでも嫌だ、そんなもの要らない!と抵抗を続ける犬。
そんな犬をなだめてすかして抑えこんで、前後左右、四本の足にブーツを履かせるこの大労働、
いやはやこれが大騒動。

で、散歩から帰ったらまずはそれを脱がさねばならず、塩まみれの雪に濡れたブーツをまたいちいち脱がしては、
さあ、次は風呂だ、とバスタブに放り込んで、はい、右前脚、左後ろ脚、次が右後ろ脚、最後に左前脚l
と一本一本、ゴシゴシごしごしと石鹸で洗ってはお湯で濯いで流してとやるわけで、
これを散歩のたびに永遠と繰り返すのである。

でしかも、この風船ブーツ。
一度使ったが最後必ず穴が空いている訳で、つまりは使い捨て、である。
使い捨てと言っても一回分4っつで6ドルはするこの風船ブーツ。
散歩のたびに、ということは、一日4度の散歩の度、という訳で、一日24ドル。
これを毎日毎日繰り返す訳で、その積もり積もる出費が実は馬鹿にならない。

で、これはまだ大丈夫、洗って使おう、と馬鹿な気を起こすたびに、
散歩の途中で、なんかこのブーツ、水が染みてない?と迷惑げな犬。
なんか、中に塩水がはいってずっとヒリヒリするんだけど、と。
という訳で、そういうブーツ、やはり飼い主の居ない間に知らぬうちに脱ぎ捨ててしまう訳で、
ああ、やれやれ、せっかくブーツ履かせているのに、また潮焼けかよ、となる訳だ。

という訳で、どうだ、犬の飼い主の苦悩がちょっとでもお判りいただけただろうか。

がそう、改めていう。
犬への愛情とはつまりはこういうこと。
ベタベタとお菓子を上げては猫かわいがりをしたり、なんてのは、甘やかしているだけ、
あるいは、自分が犬に甘えているだけで、なんの意味にもなりえはしない。

毎日毎日、朝も早くから深夜遅くまで、
吹雪の荒れ狂う公園で永遠とボール遊びに付き合わされ、
挙句に潮焼けを起こした巨体を抱え上げて雪の舗道をよいしょよいしょと家まで歩き続けることも、
あるいは、
嫌がる犬を抑え込んではブーツを履かせ、
そして散歩から帰るたびに風呂おけに叩き込んで、
四つの足をゴシゴシと洗い続けること。

そういう苦労をたゆまずに繰り返すことこそがまさに犬への愛情、となる訳なのだが、
判ってはいるがこれ、まさに、苦行にも等しい。
つまりは、可愛いだ、なんだ、とか、そんな次元ではやってられないのである。

という訳で、雪の舗道でブーツを履いて、ぴょこたんぴょこたんと歩く犬と、それを連れた不機嫌な飼い主。

あれまあ、可愛いわんちゃんですねえ、などと聞いてあきれる。

くっそう、この糞雪、はやくどうにかならないかな、と舌打ちをしながら、
そんな俺達の目の前で、新たに塩を巻き始める働き者のハンディーマン達。
思わず、てめえ、余計なことするんじゃねえ。
転びたい奴には勝手に転ばせておけ、と怒鳴りつけたくもなったりする。

という訳で、大雪のニューヨーク。
くそったれが、余計なもの降らせやがって、の雪原の中、
今日も今日とて、ひゃっぽー、とはしゃぎ回る犬たちを、
まさに苦虫を潰したように見つめる飼い主たちの姿がある。


プロフィール

高見鈴虫

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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