Loading…

WHY DO FOOLS FALL IN LOVE ~ オバマが勝ってニューヨークに音楽が帰って来た

Posted by 高見鈴虫 on 11.2008 ニューヨーク徒然

オバマが勝って、
ニューヨークに音楽が帰ってきた。

基本的にニューヨークって、
どんな音楽でも包み込んでしまうような不思議な寛容さがあって、
街中どこに行ってもどこかから音楽が漏れてくるような、
そんな魅力があった、筈・・・。

冬はオペラ、夏はサルサ、は言うに及ばず、
もうそれこそ、
春になったとたんに街中の至るところでフリーコンサート。
大きいのから小さいのから、
公園のベンチで、
オフィスビルのロビーで、
地下鉄の中で、
窓という窓、ドアと言うドアから、
ジャズがテクノがルンバがサンバが
ロックがパンクがレゲエがHIPHOPが、
それこそ街中の至るところから、
これでもかと心地よいリズムが流れてきて、
そんなビートとシンクロするたびに、
この野郎、やってくれるな、
と思わず道行く人々と顔を合わせてウインクの嵐。

ジャンルも人種も言葉も収入も違うけど、
とりあえず俺たちはニューヨーカー。
ただそれだけで一瞬のうちに判り合えてしまう、
なんて、
そんな夢のような雰囲気が街中を包んでいた、筈。

ちなみに俺がこの街に着いた頃は、まさしくハウスの全盛期。
通りに一歩足を踏み出した途端、
カフェの店先から、タクシーの窓から、違法駐車のトラックから、
それこそありとあらゆるところからあの刺激的なハウスのビートが響いてきて、
レジの行列で、信号待ちの交差点で、
ストリートのホットドッグスタンドの前で、
思わずお気に入りのステップを踏んでしまったり。

或いは土曜日の夜、
それこそ街中が、
聳え立つ摩天楼の、その何億という窓と言う窓のその奥が、
HOT97にTUNEUP。
12時の時報と同時、シンデレラの真夜中の鐘の代わりに、
鳴り響くはフランキーナックルズの目覚めを告げるサイレン。
それこそニューヨーク中を奮わせるように響き渡って。

待ち合わせの部屋での衣装合わせも、
焦る心に袖に腕が引っかかって。
とっておきのモーターを靴下の中に隠してから、
さあ出かけようか、と街に出た途端、
見上げる摩天楼の双璧がまるで共鳴するように、
地響きを思わせるハウスミュージックのビートが、
幾重にも重なりあってはシンクを始めて。
そう、それはまさに街の鼓動。
ああ、この街は生きている、
恐ろしい勢いでうねっている、暴れまわっていると感じたもので。

飛び乗ったタクシー、カーステは勿論HOT97。
チップを弾むから、とボリュームを上げさせて、
砕け散る夜景がまるで身体中に突き刺さるようで。
開け放った窓から灯りが失せて、
車を降りた河沿いの倉庫外、
赤く滲んだ空全体に響き続ける低音が唸りを増しながら、
街を奮わせる鼓動のその心臓部、
人々のひしめき合う暗い階段の辿りついた先、
ぎゅうぎゅう詰めに犇きあった大フロア
汗と熱気と煙草とガンジャとクラックとに白く煙った
虹色の光に浮かんだガス室のその奥の奥、
あのスピーカートーテムの城壁に囲まれた、
ターンテーブルを前にしたNYCの魔王達の姿。

ジュニア・ヴァスケス
フランキー・ナックルズ
トニー・ハンフリーズ
デビッド・モラレス

凄いな、こいつら凄すぎるな、と、
思わず、頭がクラクラ。
いつしか揺れるフロアの波動に飲み込まれ、
闇の中に溶けてしまった身体の中から、
抜け出した魂が虹色のシャボンのようにふわふわと漂って、
そしていつしか、全身全霊がこの街のビートに吸い込まれてゆくあの感覚。
DEVINE!
俺はこの街を愛し、この街が俺を愛し、
そしていつしか、俺はこの街の細胞の一部。
そう、ニューヨークは実にそんな街だった、筈・・・・

そしてあの日、ナイン・イレブン。
NYCが一度死んだ日。
夜更けになって、矢にも盾にも溜まらず、
いつのまにか足の向いていたのがユニオンスクエア。
夜更けだと言うのに、戒厳令下だと言うのに、
まるで示し合わせたように、
それこそ次から次へと人々が集まってきて、
涙をこらえながら、或いは道端で泣き崩れながら、
見知らぬ人々が、見つめ合い、抱き合い、手を握り合い、
そしてどこからとも無く聞こえてきたのがボブ・マーレーの歌声。

ノー・ウーマン・ノー・クライ
スター・イット・アップ
ワン・ラブ
トレンチ・タウン・ロック

音楽があれほど優しく身体中に溶け込んでくる感覚を、
俺はそれまで体験したことがなかった。
音楽って必要なんだな、としみじみと感じた。
音楽ってこういう時のためにあるものなんだな、と。
人々の歌声が、俺の歌声が、
溶け合い、交じり合い、
そんなメロディが身体中にしみこみ、流れ出し、
それはまるで空気のように水のように、
死んでいった人々の魂と混ざりあって、
そして、俺たちは、確実に癒され、分かち合い、つながり合い、
そして誓い合った筈。
明日がどうなろうと、この街をもう一度築き上げよう。
もしこのままこの街が死んでしまうのだとしたら、
その死を最後まで見届けよう。
何故かといえば、俺たちはニューヨーカーだから。
俺たちが街の一部であり、
そして俺たちその一人一人が、ニューヨークそのものなのだから。

そして今、
オバマが勝ったその夜。
俺たちのニューヨークに、まるで待ち構えていたように音楽があふれ始めた。

どうしたんだろう、
オバマが勝った途端に、
どういう訳か、もうたまらない位に古いソウルの曲が聞きたくなって、
ダイアナ・ロスが、マービン・ゲイが、スモーキー・ロビンソンが、
ジャクソン・ファイブが、スティービー・ワンダーが、アレサ・フランクリンが、
アース・ウインド・アンド・ファイアーが、ポインター・シスターズが、
CHICが、プリンスが、ジェームス・ブラウンが、ファンカデリックが、
もう溢れ出すように流れ初めて、
もう抑えきれずにテレビのリモコンを片手に、
エイント・ノーマウンテン・ハイ・イナフを歌い出してしまって。

したところが、
隣の部屋からいきなりサイモンとガーファンクルが流れ初めて、
したところが、
下の部屋からはTHE WHOが、その隣りからはマドンナが、
ブリットニーが、ソニー・ロリンズが、シャキラが、メタリカが、
ビートルズが、ローリング・ストーンズが、ブルース・スプリングスティーンが、
エルグラン・コンボが、グロリア・エステファンが、ジェロがマークアンソニーが、
ビオンセにリアナにNE-YOにJAY-Zに、

おいおいどうしたんだよ、と、思わず大笑い。
オバマが勝ったとたんにニューヨーク中が音楽を流し始めたぞ、と。

それはまさしく恋の気分。
ニューヨーク中がオバマに恋をしてしまったのかな、なんて。

そうだみんな、オバマの時代だ。
ジューはジューの歌を聴け。
コクジンはコクジンの歌を歌え。
ラティノはラテンで踊れ。
かっぺ赤首はロックでエアギターしろ。

WHY DO FOOLS FALL IN LOVE
なぜって、それは俺たちがニューヨーカーだから。

そう、オバマの時代だ。
なんでもありだ。好きなようにやろうぜ。
だって俺たちニューヨーカーなんだもの。
そう、ニューヨークが帰って来た。
オバマと一緒に、
ニューヨークが帰って来たんだよ。



            ~遠方の友に宛てたメールより



プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム