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子犬の世界 ~雪のニューヨークのモーツアルト

Posted by 高見鈴虫 on 13.2009 犬の事情

我が家のブッチ君、
って、おいおいまた犬の話しかよ、
って、そう、
いやあ、正直言って、こいつが来てからというもの、
もう全然記憶がなくてさ。
正月もなにも、何をやっていたのか全然覚えていない訳で。
完全に子犬の暮らしの中に埋没している。

で、はい、またまたブッチ君。
順調に育っています。
シェルターから貰った書類によると
誕生日が10月2日となっているので、
と言う事は、3ヶ月と10日。
家に着いたのが12月29日なので、
ちょうど2週間になるのだけれど、
その間にももう毎日毎日、
まさに魔法のように大きくなっていて、
下手をすると、毎朝顔をあわせる度に、
おっと、なんかまたでかくなったなあ、と。

お散歩用のハーネスもどんどんきつくなってしまって、
穴を広げて緩くしたのはもう何度目か。
抱き上げるたびにずしんと来る重みに、
改めて成長の早さを実感する次第。

家に着いた時には全身から漂っていたあの子犬の匂いも、
今では耳の後ろにささやかに残るのみ。
お座りの姿勢も様になって来て、
散歩のたびにあれほどせがんでいた抱っこも、
今では嫌々をするようにまでなって来て。

公園に着いて綱を離した途端、
フェンスの端から端まで、
これでもかとばかりに走り回っては、
たたらを踏んで飛びついて、
見つけた木の枝を得意そうに振り回して、
と、まさにわんぱくざかり。

いつのまにかベンチの上から、
本棚から靴箱からテーブルにまで手が届くようになってきて、
ふとすると隠しておいたドッグフードから、
靴箱の上のサンダルから、お勝手のタオルから、
テーブルの上の支払い明細まで、
手につくものは手当たり次第に引きずり降ろしては
得意そうな顔をしてソファの上に持ち込んで、
そしていつのまにか抱いて寝ていたりします。

改めて、
子犬ってなんでこんなにハッピーなんでしょうか、
と、思わず溜息。

向かいの部屋に住むピアニストのグレッグ、
ああ、つまりはモーツアルトなんだよ、と一言。
そうか、モーツアルトかあ。
普段はなんか、甘ったるくてシンプルすぎて、
なんとも歯がゆいような印象しかなかったのだけれど、
そうか、モーツアルトって子犬の世界で生きていた人なんだね、
と、今になって気づかされた次第。

で、ふと気づくと、
そう言えば俺、ぶっちのお散歩の時にはいつも口笛を吹いている。
コルトレーンのマイ・フェイバリット・シングスとか、
アントニオ・カルロス・ジョピンとか、
デイブ・ブルベックとか、
あと、そう、
そう言えば、モーツアルトだね、まさに。

冬のニューヨークにモーツアルトか、
とふと見上げる雪のニューヨーク。

無人のバスケットボールコートに
一面に積もった雪の中を、
はしゃぎまわるブッチの姿を目で追いながら、
改めて、
俺はいままでこんな世界を知らなかったんだな、と白い溜息をひとつ。

モーツアルトって子犬の世界だったのか。

いままたひとつ、
美しいものを素直に美しいと言える勇気を得たような気がします。



            ~遠方の友に宛てたメールより

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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