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センチメンタル・シティ・ロマンス その2

Posted by 高見鈴虫 on 02.2009 犬の事情

という訳で、お散歩友達のタイタン・ママにご紹介頂いたデイケアセンター。

一日35ドル、プラス、会員費が300ドル=3万円。
うーん、その他もろもろで、まあ少なく見積もっても、
一月1000ドル=10万円かあ、と。

この不景気の折、月々十万円の出費はちょっときついかな、と。

で改めて相談したタイタン・ママ。

ママ、と言ってもまだまだ大学を出たばかり、という風な、
言って見ればばりばり行け行けの女の子。
ブッチがいなければ、一生にお話する機会さえなかったであろう、
まさにセレブ系の、正直言って夢のように綺麗な女の子。

デイケア、一週間2日だけでもいいのよ。

一日預けて遊んでもらえるだけでもうその日はぐったり。
家についたとたんにパタンって寝ちゃって。
次の日も次の日も、ああ筋肉痛で動けない、
ってな感じで寝てばかりいるからさ。
で、また騒ぎ始めたらデイケアに連れて行って、と。

夜更けのバスケットコートのベンチ。
夢中で走り回る子犬たちを目で追いながら、

でもまあ、出費よね、と白い溜息。

実はね、とタイソン・ママ。
実はわたしも、かなりやばいんだよねえ。

ルーミーの子が去年の秋から失業してて、
なんで昼の間はその子に見ていてもらってたんだけどね。
そしたら今度はわたしの仕事がやばそうでさ・・
こいつの面倒みていても家賃は払えないしねえ・・

そんな状態でデイケアなんて、夢のまた夢・・・

たしかにねえ、そう、俺も残業手当削られて実はかなりきつくてさ。

仕事があるだけましじゃない。

ニューヨーク、ほんとうにきついわよね。この先、どんどんキツわよ。
ああ、田舎に帰ろうかな。
田舎で暮らせたらこの子のアトピーも治るかもしれないしね・・・

そう、ここにも一つのニューヨークの現実。

親の苦労を知らずに走り回る子犬たちの姿が、
なんとも意地らしくも切なく思えて来て。

こいつが居るから大変なんだけどさ、
でも、こいつがいなかったら私がやばかったな、と。

もともとは元彼の犬だったの。
別れる時に、どうしてもこの子だけはって貰い受けたんだけどさ。
やっぱりね、わたし一人で育てるのは無理だったみたいでさ。
このままじゃ二人でホームレスだよ。

ふと見上げる摩天楼。
まるで氷のアリ塚のようで。
夜空一杯に広がるこの窓のひとつひとつに、
欲望と葛藤と愛と憎しみと、そしてささやかな幸せが閉じ込められていて。

ニューヨークに来てどのくらい?
ああ、俺はもう十年になるけど。
わたしは4年目。で、ちょっと疲れてきた。

この街に着いた時には、この摩天楼の夜空がまるでカレイドスコープ、
宝石色の万華鏡の中にいるような気がしていたのにね。

そう4年がひとつの区切り。
遊ぶだけ遊びまわった観光客の期間が終って、
ふと気がつくと、
払うだけ金を払わされていただけの事実に気づかされて。
踊っているつもりで踊らされていただけ。
歌っていたつもりで歌わされていただけ。
で、身も心もすっからかん。

ふと気がつくと目の前に広がるアスファルトの牢獄。
見上げるガラスの塔が、まるで押し潰すように迫ってきて。
まるで蜂の巣をつついたように、
飛び流れすれ違いぶつかっては弾ける人人人の海。

都会なんだよね、つまりは。そう、これが都会という奴なんだよ。

そう言えばさ、ブッチが散歩の時、道の途中で立ち止まっちゃうんだよ。
いきなりプルプル震えながら、腰が抜けたように座り込んでね。
なんだよ、以外に度胸ねえなって。嫌になってくることがある。

わたしはその気持ち判るわよ。わたしだってそうだったもの。
わああ、ニューヨークだって、浮き浮きしていた矢先、
ふと、落とし穴に落ちるみたいに、足がすくんじゃうことがあったの。
わたし、いま、とんでもないところにいるんじゃないのかな、って。
なんかいきなり怖くなって。そうなるともう駄目。足がすくんで動けなくなっちゃう。

まさにブッチだ。

そう、音が駄目だった。この騒音。匂いが駄目だった。この悪臭。
人が駄目だった。なんなの、この人人人の渦って。
で思ったの。ああ、わたし、この街でたった一人なんだって。

つまり都会という奴。

そう、都会という奴。ブッチはいま、まさにそういう状態なのよ。

なかなかね。

抱きしめてあげて。怖がっている時には一人にしないであげて。

そんな話を知ってか知らずか、いきなり走りこんできたブッチとタイタン。
息を切らして舌を出しながら、さかんにじゃれ付いて来て。

明日は仕事?

そう、朝から散歩して、飛んで帰ってシャワー浴びて地下鉄乗って。

その間ブッチは?

部屋で一人。で退屈しのぎに荒らしまわっている。

怖いのよ。気持ち判る。

そう?

そう。こんな密室に一人で閉じ込められて。自分の部屋にいてもパニックになりそうなことがあるの。
そういう時、ほんと、なにもかも滅茶苦茶にしたくなる。そしてたらちょっと気が晴れるかなって。

冬だからだよ。キャビンフィーバー。

そうね、多分そうよね。この寒さに閉じ込められてるのよね。

じゃね、と振った手。じゃねブッチ、と抱き上げて鼻先にちゅっとキス。
じゃね、と、俺の耳元にもちゅっと響く音。
思わず、思わず、ふと背中に回した手に力が入りそうで、
やばいやばいやばいやばい・・・

じゃね、また明日。
ちゃお、また明日。





            ~遠方の友に宛てたメールより



プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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