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ニューヨークで犬と暮らす、ということ。

Posted by 高見鈴虫 on 01.2009 犬の事情


朝六時に目覚ましが鳴って、
鳴ったと同時にブッチがベッドの上に飛び込んで来る。

甘い夢から抜けきらぬまま、寝たふりをしようにも、
顔中をべろべろと舐められて息もできず。
挙句に唸りをあげながら枕をむしり取られてぶん回されて。
で、溜まらず起こした身体に、これまた思い切り飛び掛ってきてはべろべろ攻撃。
おいおいおい、と。
嬉しいやら迷惑やら。





まだ寝ぼけたままの重いからだを引き摺るように寝巻き姿のままそのまんま、
サンダルをつっかけて、まるで亡霊のようにさ迷い出た夜明けの街。
まずはアパートの前でおしっこ。
ああ、間に合ったと一安心、している暇もなく、次の信号でうんち。
それをビニール袋に拾い上げて、
あれ、なんだこの固いもの、おっと、これ、ネジじゃないのか?
この馬鹿、俺の目を盗んで何を食ってやがるのか、
なんてやりながら朝帰りのタクシーばかりが通り過ぎる大通りの交差点。
生あくびをする暇もなく、
通りに散らばった昨夜のパーティの残りにすかさず飛びつこうとするブッチを引っ張りながら、
チューダーシティを抜けて、タートルベイから国連前を通ってビークマンの公園へ。
そこまでで約三十分。
ビークマンのドッグランで手綱を離して、
ようやく煙草に火をつけて、とやっているうちにまた三十分。

名残惜しそうなブーを急き立てて街に戻ると、
通りには既に出勤途中のキリリと澄ました人々が道を急いでいて、
その流れに逆らいながら、寝巻きがわりのTシャツにサンダルを突っかけたまま、
もさもさの髪を掻き揚げながら生あくび。

で、家について浴室に直行。
手足を洗って、全身にブラッシングをかけて。
で、ここまで来て朝食。
相変わらず食欲だけは人一倍のブー君。
んなにがっついて食うなよ、と苦笑いしながら、
おっと、そんなことをしているうちに既に8時過ぎ。

慌ててシャワーに飛び込んで、
ついでに歯磨きと髭剃りとやっているうちに時間ぎりぎり。
今日は何を着ていこうか、なんて考える隙などなにもないまま、
そのままちゃりんこに飛び乗って河沿いの道を三十分。

ウォール街の殺人的な渋滞の間をすり抜けすり抜け、
オフィスに着いたらそのままトイレに直行。
汗に濡れたTシャツを脱ぎ捨てて、
手洗いで顔を洗ってついでにそのまま首から胸から背中からに水をぶっかけて、
で、お手拭ナプキンで身体中をごしごしごし、と。
これじゃあまるでホームレスじゃねえか、とつぶやきながら、
鞄から取り出した仕事服を濡れた身体にそのまま羽織って大変身。

で、悪い悪い、また遅刻か、
とやっているうちにいつの間にか午前中のほとんどが過ぎ去っていて、
ふと鳴る携帯に思わずにんまり。
で、いつものようにニコ友とランチ。
これでなんかようやく正気に戻って、
で、
午後は相変わらずあっちゃこっちゃでいつのまにか4時過ぎ。
いつものようにニコ友とつかの間の珈琲タイム。
無理を承知で、ねえ今晩の予定は?良かったら飯でも・・
とかなんとか言ってるうちに仕事に呼び戻されて、
で、いつのまにか7時過ぎ。
あわてて電話するとニコ友は既にばっくれた後。
今夜もやっぱり逃げられたと苦笑い。
で、
再びちゃりんこで夕暮れの街。
イーストリバーの澄んだ風に吹かれた途端にもうなにもかもをすっかりと忘れてしまって。
洗い流されるとはまさにこのこと。

で、家について8時。
着いた途端に着替えるどころかかばんもおかずに、
待ちかね過ぎててんぱった表情のブッチと飛び出して、
アパートの前でおしっことうんち。
いやあ、危機一髪だった、とほっとする間もなく、
飛んで帰って晩飯。
おいおい、そうそうとがっついて食うなって、
と苦笑いしながらそそくさと着替えて、
で、夜の散歩に出発。

ビークマンの公園経由でサットンを抜けてイーストリバー・プロムナード沿いのドッグラン。
ここまで約45分。
で、このサットンのドッグラン。
砂地が大のお気に入りのブッチはもう元気一杯。
まるで気のふれたように所狭しと走り回って。
そんなブッチをドッグラン中の人々がうらやましそうに眺めていて。
おいおい、あのねえ、元気が良いのはいんだけどさ、これはこれで色々と苦労があってさ、
なんて話しをしているうちにふと見ると携帯に赤ランプ。
で、よおよお、どうしていたの?生きてた?
なんてお喋りをしているうちに、
ふと気づくと10時過ぎ。

いい加減、遊び疲れたブッチを促して、
重い足を引きずりながら再び街に戻ると、
通りはすでにすっかりとパーティ気分。
会社帰りのダサい一団やら、あるいはデート中のカップルから、
いけいけのねえちゃんからそれにあぶれた酔っ払いから、
の間を泳ぎながら、
ああ、こんな夜に一人で犬の散歩をしている俺ってなに?
と改めて大苦笑。

で、家に帰るとすでに11時。
また浴室で手足を洗って身体中にブラッシングをかけて、
口の横のおできに薬を塗って、耳垢の掃除して、とやりながら、
そういえば俺、自分の飯を忘れていたぞ、と。

という訳で、夕飯はいつも12時近く。

で、寝る前にふとメールでも、なんてPCを上げたとたんに、
おおおお!よおよお、元気?元気?
なんてメールを書き始めてふと気づくと2時過ぎ。

既に寝息を立て始めたブッチをソファに残して、
で、ようやくベッドに戻る、と。

そう、これがこの間までの幸せな暮らし、だった訳で。

が、しかし、そうそう、
最近俺ってバンドマン。
で、
ニューヨークで犬と暮らす、そのバンドマン・バージョンは、
と言うと、
残業も早々に引き上げて飛び乗った地下鉄。
座ったとたんに崩れ落ちてまさに爆睡状態。
で、危うく乗り過ごしそうな地下鉄を飛び降りて、
で、
ヤバイ、遅刻だ遅刻だ、とスタジオに駆け込むや、
1・2・3で始めたが最後、二度と止まらぬロックンロール。
息もつけぬままに飛ばしに飛ばしまくって、ふと気がつくと2時過ぎ。

で、気がつくと深夜の街。
踊るようにというよりは、疲れ切って絡んだ足に躓くように。
さっきまでの馬鹿話に笑い過ぎて、
笑ったままの笑顔がそのままの状態で皺になったまま、
転がり出たのが無人の42丁目。

既に酔っ払いの姿も失せて、
夜勤帰りの不機嫌なラティノの一団と、
どこかで見失ったまま生きながら腐りはじめたホームレスと、
どんな事情でか今日のねぐらを追い出されたデートの残骸達。
そんな見捨てられた街の中、
風に吹かれながらすでに意識もなく。

ふと見ると携帯に赤ランプ。
お休みのメッセージを送るにも既に遅すぎる深夜過ぎ。
で、鉛のような身体を引き摺って登るアパートの階段。
倒れかかりながらアパートのドアを開けた途端、
生あくびをしながら待ち受けていたブーの姿。
大きく伸びをして、さあ、出かけようか、赤い目を輝かせていて。

で、荷物を置く間もなく深夜の街に逆戻り。
不眠症の不機嫌な顔で呆然と煙草を吹かすネグリジェ姿のおばはんやら、
工事現場から抜けてきた汗臭いどかちんのおっさん、
泥のように潰れきったホームレスと、
そして、犬の散歩の人々。
そう、こんな時間にも犬の散歩をしている人々、実に沢山居てさ。
互いに節目がちな視線を交わして思わず苦笑いの挨拶。
見上げると夜明けを前に沈みきった街。
辿りついた重い部屋。
ふと見ると部屋中に散らばった紙くず。
もしかしてこれ、しまい忘れた銀行の明細?おいおいおい、
と溜息をつく元気もなく、
身体中にべたつく汗を洗い流すこともできずに、
そのままソファの上に倒れこんだとたん意識が失せて。
とやっていたら、
あれ、いつのまにかニコ友、
どうしたのこんな時間に、
え?だから・・と言っている暇もなく、
いきなりのディープキス、
おいおい、なんか、どうしちゃったの?
なんて思い切り嬉しい悲鳴を上げながら、
いきなりベロベロと顔中にキッスの嵐、
思わず思わず思わず、思い切り抱きしめようとした瞬間、
あれ、なんか随分と毛深くなったようだけど、
おまけに髭が生えて鼻も真っ黒で、と思ったとたんに

おわあああ!てめえ、ブッチ!

俺の驚愕にはしゃいでベッド中を跳ね回るブッチ。
いきなり飛び掛っては顔中にべろべろ攻撃。
鳴り止まぬ目覚まし、と、
そして、昨日床の上に脱ぎ捨てたままだったディーゼルのジーンズが、
いつのまにか、そこかしこにちりじりになって散らばっていて・・・あのなあ、と。

という訳で、
はーい、全然寝てません。
まさに眠らぬ街・ニューヨークとはよく言ったもの。

ニューヨークで犬を飼おう、
なんて不届きなことを考えている方々、
まじ、やめた方がいいですよ、人生なくしまっせえ、
と思わず言ってしまいたい今日この頃なのでした。



            ~遠方の友に宛てたメールより


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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