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ドナルド・トランプ ロックンロール・スター! その四

Posted by 高見鈴虫 on 15.2016 アメリカ爺時事


という訳で、蛇足ながら、俺的なドナルド・トランプである。

この筋金入りのニューヨーカーであるドナルド・トランプ。

その金歯ギラギラの大成金ぶりから、恥ずかしげもない好色ぶりから、
まさに良い意味でも悪い意味でも、ニューヨーカーの美学そのもの。

実を言えば、俺はドナルド・トランプに会ったことがある。

そしてその出会いはなんともやはりドナルド・トランプ。
つまりは茶番的に衝撃的な出会い、であった訳だ。

その運命の場所は、かのローリング・ストーンズ、マディソン・スクエア公演のアリーナ席。

お願いだ、もう一生ロックなんてものに金は使わない。バンドも辞める。薬とも手を切る。浮気もしない、
だから、一生に一度だけ、ローリング・ストーンズをアリーナで見たい!

という訳で、当時の俺の年収にも匹敵した大枚を叩いたローリング・ストーンズ・マディソン・スクエア公演。
俺の一世一代の大散財のその席の、そのちょうど後ろに、かのドナルド・トランプ氏が鎮座ましましていた訳だ。

前座が終わって、まさにストーンズの登場を待ちわびる興奮の坩堝。
その中で、ドナルド・トランプが話しかけてきた。

おい、チャイニーズ、お前もストーンズ好きなのか?

馬鹿野郎、キース・リチャーズこそは俺のジーザスだ。

はっはっは、とドナルド・トランプが笑った。

おい、聞いたかよ。このチャイニーズ、こともあろうにキーズ・リチャーズがジーザスだとよ。

そんなステージ最前列のアリーナ席を埋める人々は、まさにニューヨーク社交界の貴族達である。
タキシードこそいないものの、まさに上流階級の紳士淑女、そのもの。
そんな中で、唯一のチャイニーズどころか、まさに全身これでもかというぐらいロック野郎であるところの俺。

ブラウン・シュガーを子守唄に育った俺だ。
一生の全てをストーンズのストーンズによるストーンズの美学の中で生きてきたんだ。

このチケットは俺の棺桶代だ。
一生に一度だけでも、ローリング・ストーンズをこの目で見たかった。
あとはどこで野垂れ死のうと俺はなにも気にしねえ。

そんな俺を目を真ん丸にして見つめていたドナルド・トランプ。
その瞳が、みるみると涙に潤み始めた。

そうさ、とトランプは言った。

俺もそうさ。
俺も、ストーンズと共に育ち、
いつどんな時でもストーンズの美学と共に生きてきた。
そしてこれからもそうだ。
おい、チャイニーズ、気に入ったぜ。

そして俺達は握手をし、そして固いハグをした。

そんなドナルド・トランプ氏、ストーンズの登場と共に、いの一番に立ち上がっては、大熱狂。

ガアアアアア!と叫び声を上げながら、ミック・ジャガーに届けとばかりにだみ声を張り上げて歌い踊る。

と、すかさずやって来たガードマン、あの、ミスター、お戯れが過ぎますが。

とそんなガードマンの顔など一瞥もすることもなく、やおらスーツの内ポケットから掴みあげた20ドル札。
それを顔の前に押し付けて、ほら、これでもくれてやる、とっと失せろ。

まさにドナルド・トランプであった。そしてその態度、まさにストーンズであった。

よお、おっさん、と俺はトランプに叫んだ。
俺はあんたが気に入ったぜ。ストーンズと同じぐらいに好きになった。

ドナルド・トランプと俺はハイファイブをくれて、
そして俺は、思わずそんなトランプを見習っては、
有ろうことか、手にした1ドル札をステージに翳して力の限りに叫んだ。

キース、キース、俺のキース、この金やるから、俺にキスしてくれ!

トランプが笑った。大爆笑であった。お前、つくづくご機嫌な野郎だな。





そんな夜、ストーンズのステージは荒れた

俺は席に立ち上がり、椅子の背にかけてあったベルサーチだかバーバリーだかのコートを蹴散らして踏んづけて、
そしてステージの上のキースにミックに、ロン・ウッドに、

俺はあんたらが好だ!
あんたらのお陰で人生が滅茶苦茶になったがこれっぽっちも後悔なんざしちゃいねえ。
これからもロックンロールだ。それはあんたらが教えてくれた。

そんな俺にガードマンが駆け寄る度に、我が同志であるドナルド・トランプが、
うるせえ、引っ込んでろ、と追い払ってくれた訳だ。

という訳で、俺の人生最高の夜になった。

俺は、キース・リチャーズと握手をした。
ドナルド・トランプと同席して猿のようにはしゃぎ回るこのおかしなチャイニーズに、
ステージのミック・ジャガーがおもわずハイ・ファイブをくれ、
ロニー・ウッドがピックを投げてくれた。

そんな俺の姿がステージ脇の巨大スクリーンに何度も大映しになっていた、と後になって聞かされた。

熱狂のステージが終わり、まさに魂の抜けきった空白の中、
ふと見ればすでにドナルド・トランプの姿は無かった。
汗と熱気の中でこれでもかと踏みにじられた床の上に、
ドナルド・トランプがしていたであろう真紅のネクタイが投げ捨ててあった。

ドナルド・トランプかあ、良い男だったな、と思った。

あの腐れ成金のスケベ爺が、あれほどストーンズに熱狂するなんて。
つまりはそう、奴も実はそんな人であったのだろうな。

俺は世間で言われ尽くしているこの醜聞王の、まさに魂の迸る一瞬に触れた想いがした。







プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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