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ドナルド・トランプ ロックンロール・スター! その五

Posted by 高見鈴虫 on 15.2016 アメリカ爺時事

その後、数年が過ぎ、俺もなんとかその日暮らしの状態から抜け出て来た。

バンドは相変わらずぱっとしなかったが、
テニスを通じて、貧富や人種の違いを越えた幅広い人脈を広げる中で、
これでようやく俺のニューヨーク暮らしも地に足がついて来た、と思っていた頃だ。

ひょんなことから知りあった友人。
セントラルパークのパブリック・コートで隣り合わせ、
おい、お前ちょっとまともな球打つじゃねえか、よかったらこっちでいっしょにダブルスでもやらねえか、
と声をかけてきたその、なんともチンケな白いテニスウエアを来たとっちゃん小僧的な中年男。

その金持ちヅラが気に入らず、徹底的にそいつに球を集めては集中攻撃。
完膚なきまでに叩きのめしてやったわけだが、それが縁でなんとなくお友達。

その後、なんだかんだと電話がかかってくるようになって、
その度に、割りと良いところ、つまりはインドアの、やら、会員制クラブやら、
なんてところにいちいち呼び出されては、
そんなこんなで割りと面白い体験をさせてもらうことが多くなったのだが、
後にそのとちゃん小僧が、まさにトランプ・プラザの住人。
ヘッジファンドの若き魔王と謳われていたらしいことを聞かされた。

へえ、お前、テニスは下手くそなくせに随分良いところに住んでるんだな、
とそのふかふかなかーぺっとに手鼻をかみながら笑う俺に、
まあな、とその億万長者。
まあしかし、こんなところに住んでるからって、それほど良い思いをしてる訳でもねえんだよ。
どいつもこいつも糞ばかりでよ。
ああ、金持ちなんかに産まれずに一生テニスばかりして暮らしていたかったぜ。

という訳で、いつものようにテニスの後、奴のトランププラザのアパートに立ち寄っては、
黒革のソファーの上で汗臭いままに大の字に寝っ転がりながら、
壁一面に聳えたまるでどこぞの試写会スタジオを思わせるホームシアター。

がしかし、そこにあるのは、いつと変わらぬ唯一のCDであるところのスティッキー・フィンガーズ。





おい、なんか食うか?って言ってもシリアルしかねえけどな。
ああ、でもテメエん所のミルクはいつも腐ってやがるからな。

という訳でその億万長者と、水をぶっかけただけのシリアルを食っていたところ、
ふと鳴る電話。

おお、ああ、はいはい、と答えながら、いつもながら、やれファックだ、ケツの穴だ、小便だ、
と、まったくどこぞのチンピラヤクザと変わらないそのべらんめい調。

とそんな時、おい、おい、と呼ぶ友人。
おい、ブラウン・シュガーをかけろ、と変なことを言う。

ああ?ブラウン・シュガー?さっき聴いたろ、とは言いながら、
ほらよ、とリモコンで一曲目に戻って再びのブラウン・シュガー。

とした途端、ぎゃはははっは、と電話口で大笑い。
また、オマンコだ、ケツの穴だ、ションベンだ、とがなり立てながら、
おお、判った判った、じゃあ今晩な、はいはい。

という訳で電話を切った友人。

誰だと思う?と友人。
ここの大家。ドナルド・トランプ、と大笑い。

あのクソジジイ、たまに電話かけてきては女の話しかしやがらねえ。
つまりはそうやってえげつない猥談を繰り返しながら、ふとしたことで数億ドルが動いてしまう、
というまさにそう、トランプ・タワーの住人たちによるトランプ・タワーの住人的な世界。
ブラウン・シュガー、一緒に歌ってやがったよ、とまたまた大笑い。
あのジジイ、ブラウン・シュガーをかけた途端に機嫌が良くなるんだよ。
いやあ、大成功大成功、ははは。

という訳で思わず、あのマジソン・クスエアで見たドナルド・トランプの姿が目に浮かんでしまったのであった。

憎みきれないろくでなし。
かのドナルド・トランプほどにこの言葉の似合う男もいないな、と思わず感無量であった。







その後、ひょんなことから雑種の捨て犬を貰い受ける羽目になり、
ここアッパー・ウエストに移り住ん出来たわけだが、
そこで知り合った大富豪の未亡人。
亡き夫の忘れ形見であるスタンダード・プードル。
そのまったく躾という躾を受け付けない問答無用のじゃじゃ馬ぶりに手を焼いていた訳だが、
そんなこんなでこの奇跡のドッグ・ウィスパラーである俺のところに泣きついて来たのだが、
おうおう、そういうことなら、となんだかんだと世話を焼いやっていた訳だ。

で、その大富豪の未亡人。
本職はフリーの不動産エージェント。
数億では下らない商業不動産を操る魔女のような人であったらしいのだが、
この婆さん、仕事の辣腕ぶりとは裏腹に、
犬の扱いとそして、ハイテク・デバイスの扱いには思い切りのド素人。
仕事で使うブラック・ベリー端末の使い方が判らず四苦八苦しながら、
そんな未亡人、ついついオートロックを忘れては誤動作を繰り返し、
妙な時間に無言電話をかけてきたり、を繰り返していた訳なのだが、
ある日、仕事中の昼の日中にそんな未亡人からまた電話がかかってきた。

なんだよ、またオートロックを忘れての間違い電話か、と思いきや、
いつものあの未亡人の声と重なって、
ふと、どこかで聴いたことのある声が流れ始めた。

はいはい、メールは頂いています。誠にありがとうございました。
うちのスタッフとも話し合った結果、この案件は全て貴方に一任させて頂こうと思います。
貴方をおいてこの難しい案件をハンドルできる人を私は知りません。
はい、貴方の仕事には絶対的なご信頼を申し上げております。
なにかお困りの時にはいつでもご連絡をください。
資金的にも人員的にも、出来る限りのことはさせていただくつもりです。
はい、この電話番号、私の個人の携帯です。
いつでも結構です。24時間三六五日。いつでもお電話ください。
貴方とまた一緒にお仕事ができることは、私にとってもまさに光栄の極みです。
良いビジネスをやりましょう。こちらこそ宜しくお願い致します。

その話しぶり、まさに惚れ惚れするぐらいにお見事である。
感情を抑えながらも、なにかどこか、人の心を掻き乱しそして熱狂させる声。
まさに、大社長の声、そのものである。
いやあ、俺も自分の上司からこういう言葉を聞いてみたものだ、
と思わず感涙がにじみ出てくる思いである。

その声の主、こそはまさしく、ドナルド・トランプ。

あのアプレンティスで、貴様はクビだ!を連発してきたこの大社長エンターティナー。
がしかし、その芸風とまでなった大げさな成金ぶりから一変、
実際の彼の仕事ぶりを垣間見た途端、この醜聞に塗れたタイクーンの素顔が、
まさに、冷徹そのものの辣腕ビジネスマン、でありながら、
その電話一本で、聞く人の心の粋までをも酔わせてしまうような、
まさに、魔術的とも言える魅力に溢れた大社長であったとは。





その夜、再びアッパー・ウエストのドッグランで顔を合わせた未亡人、こと商業不動産の女王。

ええ、あの電話聞いてたの?と大爆笑。
やれやれ、まったくあたしとしたことが、と笑いながら、
慌てて電話取ったから、また妙なボタン押しちゃったみたいね。

で、あの声、やっぱりあのドナルド・トランプ?
え?ああ、そう、とやけにあっさりとしたお答え。

困った坊やで、と苦笑い。
でもまあ、あんな感じでしょ?嫌と言えなくてねえ、とつくづく苦虫を潰したよう。

そうか、やっぱりドナルド・トランプかあ。
つまりはそう、彼の素顔はそういう人であった訳なんだよな。

実は俺、ドナルド・トランプとストーンズのライブで顔を合わせたんだよ、
と言えば、未亡人はカラカラと大笑い。
あの人らしいわよね。まさにそう、あのまま。あの人はいつまで経ってもあの頃のまま。

良い意味でも悪い意味でも、ミック・ジャガーなのよ、あのひとは。





プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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