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エグい時代 ~ なにもしなければ昨日と同じ明日は来ない

Posted by 高見鈴虫 on 22.2016 今日の格言

何もしなきゃ昨日と同じ明日しか来ないよ。

XJAPANのHIDEという人の言葉らしい。

良い言葉である。

少なくとも彼の生まれ育った昭和という時代に置いては、
青春ドラマのセリフによく使われていたような気もする。

残念ながら、XJAPANというバンドが活躍を始める以前に日本をでてしまった俺は、
XJAPANというバンドがいったいどんな人達であったのか、
どんな人々を対象にどんなことを訴えた人々であったのか、
なにも知らない。

が、そう、少なくともこのHIDEという人が生きていた時代、
つまりは1997ぐらいまでであれば、
この言葉にあるように、
退屈な日常の打破が啓蒙されながらも、
何もしなくても昨日と同じ明日ぐらいは約束されている、
とは信じられていたのだろう。

と同時に、死ぬ気でやれよ死なねぇから、
という言葉もHIDE作ということらしい。

これもまさに、甘い甘い昭和の時代、
いかにも熱血系の教師の口から迸り出る説教のような言葉である。

じゃあ、先公よう、
もし、死ぬ気でやらなかったらどうなるんだよ、
という屁理屈も聴こえてきそうだが。

あ?死ぬ気でやらなかったら?その時は・・・
と口をつぐんだ熱血教師には、
この先、目の前の子どもたちが叩き込まれるであろう未来が、
果たして見えていたのだろうか。


という訳で、HIDEの死後、
X-JAPANを聴いて育った世代の人々が直面した現実は、
HIDEの言葉の暗示した現実よりもずっとずっと辛辣、
そしてエグいものであった気がする。

死ぬ気でやってたとしても死ぬ人間、
あるいは、死ぬほど辛い状況に叩きこまれながら、
死ぬことさえできない人間が日本中に溢れた。

そんな中で、死ぬ気でやらなかった人間がどうなったか、は言わずもがな。

つまりは、HIDEの言葉、
何もしなきゃ昨日と同じ明日しかこない、はまさに最低限の救命胴衣、
何かを始めようとした人間以外は、生き残れなかった。

死ぬ気になって何かをしてなくては、
昨日と同じ明日を維持することさえできない、
そんな時代が待ち受けていた訳だ。








つまりはそう、なんというか、
現実問題、日本という船は、既にあの時点で確実に沈没を初めていた訳である。

昨日と同じ明日、どころか、いつかは沈む運命にある船の中で、
下層にいるものから浸水が始まり、
今更逃げる場所もなく諦めては溺れ死ぬのを待つばかり。

足首から膝の上からじわじわと増す水かさに怯えながら、
見ない見ない、なんにも見ないと顔をそむけながら、
しかしまあベッドの上にまで水か来るまでには、
まだしばらくは大丈夫なのに違いない、
ぐらいのことしか考えられなかった。

そのうちきっと誰かがなんとかしてくれる。
きっとそうに違いない、その筈だ、そうでなければおかしい、
と念仏でも唱えていたのだろう。

その頃、最上階のデッキにいた人々はと言えば、
早々に配られた救命胴衣に照れ笑いを浮かべながら、
いやはや大変なことになりましたね、と取り澄ましては、
しかし脱出用のボートの順番争いにだけは余念がない。

どうせ沈むのなら、と、
エンブレム入りの皿からナプキンまでもあざとくかっぱらってはトランクに詰め込み、
あるいは火事場泥棒よろしく、金目の物の一切合切をむしり取り、
さあ、沈むのはいつだいつだ、と待ち構えながら、
しかし船内放送においては、
乗客のパニックを煽らないために、とかなんとか言っては、
救助隊が今こちらに向かっている!
そのままにしていればそのうちどうにかなる!
といい加減な喧伝を繰り返すようにと、
圧力でもかけていたのだろう。

とそんな時、見習いの下っ端船員が、マストの上によじ登っては、
見張り台からあたりを見回し、
少なくとも救援部隊が到着するまでこの船はもたないであろう現実を見るや、
早々と海に飛び込んで、
そして水平線の向こうに向けて、絶望的な漂流を初めていた。

という訳でその慌て者の船員がどうなったのか?

もしからした彼は今頃、
ニューヨークのセントラルパークで犬の散歩をして過ごしているかもしれない。

という訳で、下っ端の船員たちよ。

大海の果てまで泳ぎ着く体力と冒険心が残っているうちに、海に飛び込んでおいた方がよい。

どうせろくなことにはならない、ことは同じなのだが、
少なくとも、死ぬ気で泳ぎ続けて、そして生き延びることができたのだ、
ぐらいの満足感は持てるかもしれない。

その時になって、HIDEの言葉の本当の意味を噛み締めるはずだ。



プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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