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誰でもなれるホームレス

Posted by 高見鈴虫 on 20.2016 ニューヨーク徒然
気味が悪い話を書く。

気味が悪いと言っても、
そのあたりの下らない幽霊話なんて事ではない。

ぶっちゃけそれはここニューヨークの現実。
つまりは懐事情の話である。

夜勤の仕事を始めて改めて気がついたのは、
ここニューヨークに置けるホームレス人口の急増である。

深夜の地下鉄に蠢くこの物凄い数のホームレス達。
数年前のニュースでは、
1930年代の大恐慌時代以来、過去最高と言われたホームレス人口が、
ここ数年でその数は確実に倍増しているのだ。

ホームレスと言っても、仕事が無いわけではない。

事実、いまこうしている地下鉄、
その目の前にも、明らかに仕事帰り、或いは仕事の合間の人々が、
まるで泥のように疲れ切って眠りこけている。

或いは家族連れ、或いは若い男女、
或いは一時期のバックパッカーのような若い集団。

一見して彼らはホームレスには見えない。

ただ深夜の地下鉄で仮眠を取っているだけなのかもしれない。
ただ、そうその匂いである。




この深夜の地下鉄に蠢く人々。

いかにもやつれきった、生気の失せた、べったりと疲労の痕の染み付いたような。
人としての影の薄くなったそのホームレス独特の匂いである。

去年の今頃、長い失業の最中にあった俺も、
実は確かにこんな感じであったのかも知れない。

勤めていた米系企業からレイオフを食らった俺は、
日々図書館に通い、最後の望みの綱と思われた資格試験の勉強を続けていたのだが、
そんな俺の周りにいたのがつまりはホームレスの人々である。

あの浪人の最中、俺は周りにいたホームレス達と、
実はそうとは気づかずに割と普通に会話をしていた。

彼らは言ってみれば普通の、と言うよりも誰よりも勤勉な労働者で、
掛け持ちする仕事と仕事の間にこうして図書館で休憩がてら仮眠を取っていたのだ。

ただ彼らには仕事を終えて帰る場所が無い。

図書館で公園でそして地下鉄で、
彼らはつかの間の睡眠を取り、
そして次の仕事へと向かう。

そんな勤勉なホームレス達が深夜の地下鉄に犇いているのだ。

なぜ彼らがホームレスになったのか。
普通の人間であれば誰もが聞きたがるだろう。
がしかしそれはごく当たり前のことだ。
この狂乱地価の折、高い税金を嫌って大手企業が次々とニューヨークを引き払って行く。
一等地に名前だけのヘッドオフィスの看板だけを残し、
実労部署は維持費の安い地方都市へと移転。
そしていきなり用済みとされた社員たち。

そう、ついこの間まで、6桁を稼ぐ勝ち組リーマンであった筈の人々が、
ひとたび会社の移り気に翻弄されては職を失い、
失った途端に秒読みが始まるのだ。

そう、誰でもホームレスになる。
それも、実に簡単になってしまえたりする。

いきなり会社をレイオフされ、
或いは病気にかかり、あるいは突発的な事故に巻き込まれ。

そんな、まるでIPHONEでテキストを打っていたら、
いきなり足元に開いたマンホールの穴に落ちてしまった、
そんな運命の悪戯、それ一発で、
ひとは実に簡単に、ホームレスへの坂道を転げ落ちはじめるのだ。

がしかし、ほとんど大抵の一度とはその事実を知らない。

ホームレスなどまさに別次元の話。
まさか自分がホームレスになるなど、
朝目が覚めたら虫になっていた、というぐらいにまで現実感n無い話なのだ。

かつてボンビー系を極めたバンドマン、
あるいは、まさにホームレスも避けて通るような筋金入りの貧乏バックパッカーであった俺は、
実はそんなホームレスと同様、あるいはそれ以下の暮らしをしていた経験がある。

そんな経験から、俺はホームレスを確実に見分けることができる。
あるいは、ホームレスたちは、自分たちに近づきつつある人々を的確に見分ける。

そして、かつてのホームレス疑似体験者であった俺、
そして、ついこの間まで、片足どころか完全に両足を突っ込んでいた筈の俺、
そんな俺が深夜の地下鉄に揺られながら、
まさに、街中が、このニューヨークという街に暮らす殆どの人々が、
実はそう、異次元的な筈のホームレスの世界と、実にすれすれの現実に生きている、
という事実に気付かされる。

ニューヨークという街が、いまや完全に土台を失いつつある。

その不気味な振動が、地下鉄の騒音と相まって、夜の底を震わせているのだ。

ヤバイな、と思う。
これはどう考えてもヤバイだろ。

そして、ホームレスの人々を実は彼らがホームレスであることも知らずに座っている残業帰りの人々。

あんたが気づきもしないそのダークサイドが実はあんたのすぐ隣にまで潜んでいるという事実に気づいているのか?

という訳で、先のホームレスの戯言ではないが、

1%の大富豪を残し、後の99%の人類がすべて、ホームレスと大差ない貧民層へとずり落ちていくこの現実。

その不気味さに、いったいどれだけの人々が気づいているのだろうか。

という訳で、思わず本気でぞっとしてしまった訳だが、

ここであらためて、また要らぬ啖呵を切らせていただく。

なあに、かつてはゴミを食って生きていたこともある俺だ。
道で寝たこともあれば、殺し屋以外の仕事ならなんでもやってきた。

そんな俺にとっては、ホームレスになることなど怖くもなんともねえ。

がしかし、俺はならねえ。

何故かといえば、自分以外は信じないからだ。

そう思っている限り、ホームレスにはならない。或いはホームレスを恐れない。

それを、処世術、というのだ。

それを知らぬものは、運命の悪戯一発で簡単にホームレスへの坂道を転げ落ちていく。

或いはそれを忘れた時に、不要なビビリに足元を救われたりもするのだ。

自分以外は信じるな、心の中でそう繰り返すことだけが、
この仁義なきグローバル社会で生き残る唯一の方法なのだ。

プロフィール

高見鈴虫

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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