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地下鉄のゲバラ ~ 人類の99%が一斉にホームレスになったら

Posted by 高見鈴虫 on 18.2016 ニューヨーク徒然
混んだ地下鉄がまた停まった。

急いでいる時に限って停まりやがるこのニューヨークの地下鉄。
一度停まったが最後、例によって何の放送もないままにうんともすんともモード。

5分が10分、15分、となるうちに、狭い車内に押し込められた人々の苛立ちが積り始める。

まあそう、こんなことは今に始まったことじゃねえ。
ニューヨークの地下鉄は何から何まで無茶苦茶だ。
なぜかと言えば、ユニオンに仕切られているからだ。
誰ひとりとして誰もまともに働かないユニオンの人々。
働いたら負けだ、という訳で、徹底的に己の職務から逃げまわってばかり。
結果、ニューヨークの地下鉄はいつになってもなにがあっても、
徹底的にちゃらんぽらんなのだ。

がそう、ニューヨークで地下鉄に文句を言うのは、
雨の日に空に向かって文句を言うのと同じこと。

俺はいつものように手持ちのIPHONEで、こんな戯言をチマチマと打ち込んでいたのだが、

そんな時、ふと人垣の向こうから、一見してホームレスと判る初老の男のだみ声が響いた。

おい、てめえら、このクソッタレの貧乏人たち。耳の穴かっぽじってよーく聴け。

見るからにホームレス。やはり黒人である。
昼間から酔っているのだろう。
身体中から酷い匂いがする。
よりによってそのおっさん、赤い星の入ったゲバラのTシャツを着ていやがる。

混んだ車内の真ん中に立ち上がったその糞汚い黒人のホームレス。

おい、てめえ、そこをどけ、と混んだ人々の間をかき分け、
そしてよりによってそのホームレス、俺の目の前に迫ってきた。

どけどけ、この糞貧乏人が。

ホームレスの分際で、カタギの勤労者である他の乗客に貧乏人と叫ぶこの不埒なホームレス。

その黒人。明らかに心を病んでいるようだ。
しかも、下手に黒人である分、身体だけはやたらとデカく、
そのいまにも吐き気を催す酷い匂いと相成って、
思わず、てめえ、こっちに来るんじゃねえ、と棒かなにかで突くか、
あるいは、頭から殺虫剤でもぶっかけたくもなってくるのだが、

そう、ゲバラである。
ゲバラを着たホームレス。
なかなかやるじゃねえか、とは思っていた。







という訳でそう、今更ながらホームレスである。

近頃はどこにでもいるホームレスたち。
まさにニューヨークの街中がホームレスで溢れかえっているようである。

という訳でそう色々なホームレスがいるのだ。
ゲバラを着たホームレスが居たって良いじゃねえか。

としたところ、この地下鉄のゲバラ、
糞混みあった車内の真ん中に仁王立ち。

いきなりカストロ宜しく演説を始める。

おい、聴け、この貧乏人たち、と耳障りなだみ声を上げるその黒人。

クソッタレ、ああ、またいつものあれ、そう、つまりはホームレスの口上という訳か。

どういう訳かここニューヨークのホームレスは多弁である。

閉まりかけた扉から身をねじ込んで乗り込んできては、

みなさん、聞いてください。私は憐れなホームレスです。
これこれこんな事情でこうして身を窶し、食べ物もなく寝る場所もなく疲れきって、
家には病気の子供が居て、寝たきりの父と母と、

とまあ、そんな演説を耳障りなだみ声で繰り返しては小銭をせびる、

とまあいつもの騒々しいばかりの街の亡者たち。

という訳で、この混んだ車内で演説を始めた黒人のホームレス。

がしかし、このホームレス、ちょっと他のお涙頂戴とは雰囲気が違う。

つまりはそう強気。
つまりは人並みはずれてどころか、その辺りのホームレスよりもずっとずっと頭が弾け飛んでいるのだろう。

こいつはやばいな、と苦笑いを噛み殺して身を避けるのだが、
混んだ乗客でひしめきあった車内。なかなか身動きができない。

おい、そこをどけ、この糞貧乏人が、とその地下鉄のゲバラ、
回りの人々の顔をいちいち睨みつけながら罵声を上げ続ける。

てめえら、なにを見てるんだ、この貧乏人が。
奴隷の、腰抜けの、間抜けヅラの、
おい、てめら、こっちを向け、俺を見ろ、この犬野郎が。

おい、とそのホームレスが俺を見る。

おい、そこのチャイニーズ。てめえ、こんな国に何しに来やがった。
まったくモノ好きなもんだよ。よりによってこんな世界で一番うすぎたねえ街のうすぎたねえ地下鉄なんかで、
まったく、この糞チャイニーズが。とっとと毛沢東の国に帰りやがれ。

俺はそんなホームレスを睨み返す。
酔っているんだろう、赤く濁った目。
或いはどこぞでまたクラックでもキメて、いきなり死人が元気百倍ってやつか。

いずれにしろ関わりあうだけ損。
というわけで、そそくさとイヤパッドを探す。
こんな目障りなホームレス、まるで動く犬のうんこのような奴らに、
関わり合わなないためにこのIPHONEってものは存在するのだ。

みな同じことを考えているのだろう、
誰も彼もがそんなホームレスから顔を背け、
そしてイヤパッドを両耳にねじ込んでは知らぬ存ぜぬを決め込む。

そうやって無視されながら、無視されていることを承知でホームレスはが鳴り続ける。

知ってるか?お前らみんな、実は紳士淑女でもなんでもねえんだってことを。

おい、あんた、そこのおっさん。
そこのねえちゃん、そこのにいちゃん、そこのチャイニーズ。

澄ました顔してIPHONEやらウォーストリート・ジャーナルなんて読んでるが、
知らないじゃすまされねえぞ。

おい、とその迷惑が怒鳴った。

あんた、去年一年でいくら稼いだ?
おい、そこnあんた、去年幾ら稼いだ?
あ?なんだって?馬鹿野郎、この季節だ、誰だっててめえのW2ぐらい目を通してるだろ。

俺はな、おいおまえ、そこのおまえ、良く聴け、
俺はな、この俺は、去年一年の収入は、1万3千2百ドルだった。

そう、一万三千二百ドル。

ホームレスでありながらそれぐらいの金は稼いだんだ。
そう、俺はホームレスだが、ジョブ・レスじゃねえ。

俺だって仕事をしている。仕事があればなんだってやる気はある。できる。できるんだ。
おいそこのにいちゃん。偉そうな顔して、俺のことなど、ゴミぐらいにしか思っちゃいないんだろ?
そう、俺はゴミだよ。ホームレスだよ。
で、そう、あんた、そこのあんた、あんたのW2、幾らだった?

言えないなら言ってやるよ。その格好から見れば、まあ7万五千ぐらいだろ?
そこのねえちゃん、きれいに化粧してるが、まああんたじゃ5万五千ぐらいがいいところだろ。
あんたは8万ぐらい、そこのウォーストリートはそれでもまあ17、8万ぐらいなもんだろ。

どうだ?1万3千2百ドルの俺よりも、ちょっとはましだ、とでも思ってるだろ?

だがな、言わせてもらえば、俺達はみんな同類。同じ穴のむじななんだよ。

だって考えても見ろよ。いまや世界の1%が、俺たちすべての、99%の稼ぎを足しても、
そんな1%の奴らの金には届かないだぞ。

つまりあんた、そこのあんた、そこのあんtな、そこのあんたも、所詮はその99%なんだ。

1%の雲の上の金持ちからしたら、15万のあんたも、1万3千2百ドルの俺も、実は大した違いはねえってことなんだよ。

そして言ってやるよ。実は俺だって、こうなる前には5万5千ドルぐらいは稼いで居たんだ。
それがそう、ちょっとしたトラブルで仕事を失って、したとたんにあっという間にこのザマさ。

つまりはそう、あんたもあんたもあんたもあんたも、
いつなんどき、俺みたいな境遇に転げ落ちるか、誰にも判らねえってことなんだよ。

つまりそう、俺達は所詮99%。所詮はそう、ゴミのような貧民だってことに変わりはねえんだ。

なんでこんなことになっちまったのか、俺はずっと考えてるよ。
そこのにいちゃん、一日中IPHONEでキャンディークラッシュだかモルタルコンバットやってるようなあんた、
あんたなんかよりも、ホームレスの俺の方がずっと世界を知っている。
ゴミ箱で拾った新聞を片っ端から読んでいるからな。

という訳で、大統領戦だよ。笑わせるよな。

どいうつもこいつも、所詮は99%の貧民の癖に、言ってることと言ったら1%の大富豪をより儲けさせる、そればかりだ。

クリス・クリスティ、テッド・クルーズ、ジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオ、ベン・カーソン、
あの糞野郎たちが、いったいなにを言ってるのか、あんたらみんな判ってるのか?
ヒラリー・クリントン、バーニー・サンダース、どいつもこいつも、どうしようもねえ嘘つきばかりじゃねえか。

俺はなあ、言ってやるよ、俺たち99%の貧民にとって、本当に必要なことはそんなことじゃねえんだ。
それが判っていながら、自分だって99%の貧民であることには違わないこの嘘つきのクソッタレどもが、
いったい誰から金を受け取って、誰のために、なにをしようとしてるのか、誰もその本当のことを知ろうともしねえ。

いいか、言ってやるよ。奴らはただ、1%の奴らに金を貰って、どっちに転んでも奴らが儲かるように、
それだけ、それだけの木偶人形なんだよ。

という訳で、俺のイチオシが誰かって言えば、ドナルド・トランプ!そう、ドナルド・トランプだ。

聞かないふりをしてイヤパッドを押し込みながら、しかしドナルド・トランプと聞いて思わず吹いてしまった。

トランプ?おいおい・・・

そう、そうだ、笑ってるな、そう、お笑いだ。ニグロの俺が共和党のトランプだなんてな。笑わせるだろ?
だがな、そう、だがしかし、悲しいことにこのアメリカにおいては、あんなキチガイぐらいしか、まともな政治家がいねえってことなんだよ。

俺がキチガイだって?俺がひねくれモノだって?

そう、そうかもしれねえ。だからさ、だからトランプが好きなんだろうって?ああ、確かにそうだ。

だがな、そう、トランプ。あいつこそはトリック・スター。ただの天邪鬼じゃねえってことだ。

あいつはなにからなにまで逆さま男だ。

わざと人を怒らせることを言っては、揚げ足を取って、憎まれ口を叩き、
つまりは、そう、あの嘘つきどもの政治家の、反対のことばかり言っているだけなんだ。

白を黒、右を左、裏を表、前を後ろ、善を悪。

だがな、考えても見ろよ、トランプが他の政治家たちと逆さまなことを言えば言うほどに、
奴の言ってることはどんどんと真実に近づいていく。

つまりはそういうことだ。この国は、この国の政治家は、嘘しか言わねえから、
嘘しか言わない政治家と逆のことを言い続けたトランプが、
いまや全米一の正直者、になっちまったってことだ。

思わずそのキチガイのホームレスの顔を見てしまった。

相変わらず正体無く酔っ払っていて、ゲロのこびり付いたたわしのような無精髭にヨダレを垂らしながら、
赤く濁った目を泳がせながら、くそったれ、どいつもこいつも、と悪態をつき続けている。

いいか、俺から言わせればお前らみんな騙されているだけ。ただの大馬鹿ものなんだよ。

いいか、俺たち99%の貧民がなぜタックスなんか払う必要がある?
だって俺達99%の金を全部かき集めても、1%の奴らの金に届かないんだぞ。
そんな貧民である俺達が、なんで税金なんて払わされなくっちゃいけないんだ?
だったら言わせてもらうぜ。その1%の金持ちがなぜ金持ちになれたか?
そうさ、奴らはな、税金を払わなかったから金持ちになれた、ただそれだけなんだよ。

だったら俺達は税金なんて払う必要はねえんだ。
働かなくたっていいんだ。
俺達から掠め取って来た金で金持ちになったその1%の奴らに、
俺達の面倒をみんな見てもらえばいい。そう、それだけなんだ。

なんだって?それじゃあ奴隷に逆戻りだ?
だったら言わせてもらうぜ、この99%の貧民たちの中で、誰が奴隷じゃない、と言い切れる?

いいか貧乏人ども。俺たちは、99%の貧民である俺たちはすべてが奴隷だ。
お前も、お前も、お前も、お前も、みんなみんな、ただの奴隷。
ニグロのホームレスとなんら変わりない、ただの奴隷。薄汚えホームレスってことだ。

いいか、こんな世の中になっちまって、それがこの先、どんどん酷くなっていく中で、
この悪のスパイラルを止める方法はただひとつ。

そんな1%の奴らに、きちんとタックスを払わせる。それ以外に方法はねえってことだ。

思わず誰かが、YES と叫んだ。

思わず誰かがパチパチと拍手をした。

俺は思わず吹き出してしまった。おっさん、糞汚え黒人のホームレスのおっさん。おもしろことを言う。

それでもホームレスは、馬鹿野郎が、と吐き捨てる。

簡単なことじゃねえか。そんなことは誰もで気づいてる。

あんたも、あんたも、あんたも、あんたも、ここにいる全員。人類の殆どがそんなことにはとっくの昔に気づいている。

俺は何も、革命だなんだ、なんて言ってる訳じゃねえ。

ただたんに、奴らからも、他の貧民たちと同じように税金を取れ、ただそれだけの話なんだ。

とそんな時、地下鉄がガタンと動いた。

車内に淀んだ空気が動き、そしてようやく地下鉄が走り始めた。

馬鹿野郎が、どいつもこいつも腰抜けの奴隷野郎たち。

やめちまえば良いんだよ。誰も彼もが、いっせのせで、辞めた辞めた、こんな馬鹿馬鹿しいことやってられねえって、
そう言ってみんなでやめちまえばいんだ。あとは1%の金持ちにケツを持ってもらえばいいんだ。
今までのツケを払ってもらう、ただそれだけなんだ。

そんな簡単なことを、あれだけの大統領候補者が、誰に言わねえってことはどういうことなんだよ。

俺はそれを言いたいだけなんだよ。

俺は間違ってるのか?俺の言ってることがおかしかったら言ってくれ。さあどうなんた。どうなんだよ。

という訳で、地下鉄はようやく駅に着いた。

まるで何事もなかったかのようにホームに吐き出される人々。

馬鹿野郎が。どいつもこいつも腰抜けの奴隷野郎だ。
てめえらは騙されているだけだ。騙されてこき使われてそして税金をむしり取られるだけの奴隷。
てめらのお陰であの1%がなおさらに肥え太っては、お前らから騙しとった金をせっせと海外に持ちだしちまう。
だから俺達はみんな貧乏なんだ。いつまでたってもなにをやっても、やればやるほどに貧乏になって行くんだ。
こんな簡単なことになぜ誰も気づかない?え?どうしてなんだ?まったくわけが判らねえ。

やめちまえ。こんな世の中、ぶっ壊してしまえ。

ガラガラになった地下鉄の車内で、いまだに怒鳴り続けているホームレス。

トランプの誰にも予想だにしなかった大躍進の影には、つまりはそう、こういう本音が渦巻いているからなのだな、
と思い知った気がした。

地下鉄駅の階段を登り、そしてタイムズ・スクエアの雑踏に巻き込まれながら、
やめちまえか、確かにそうだな、タバコを咥えた。

確かにな、やめちまいたいのは山々なんだがな。

だったら何故やめないんだ?とさっきのホームレスの声がする。

つまりそれは、俺が腰抜けの薄汚い奴隷だからなんだろ?

だったら、と思わず。

だったら、トランプとは言わねえ、サンダースともヒラリーとも言わねえ。

あのホームレスのおっさんを大統領にしちまったらどうだ?

国民の皆さん、さあ、もう辞めてしまいましょう。あとのことは1%の大富豪にやってもらいます。

あんたらは住むところもないが、まあそのあたりのゴミでも食って適当にやっていなさい。
あとはこっちで勝手にやります。

人類の99%が一斉にホームレスになったら、それはそれで凄いかも知れないな。

そうなったら。。

旅に出ようぜ。

そう思ってる。

そん時は、あの地下鉄のゲバラみてえなおっさんも、連れて行ってやるか。






プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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