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アメリカ人の上司

Posted by 高見鈴虫 on 29.2016 とかいぐらし
これまで付き合ってきたアメリカ人の上司、
どういう訳か、これが皆、不思議なぐらいに良い奴ばかりであった。

嘗ての米系企業、
そこでの大ボスは、一見してマッドマックスの暴走族の親玉、
のような人だったのだが、
まさに、見かけも中身もまったくそのもの。

やることなすこと無茶苦茶なぐらいに大胆不敵、
だがやたらと度胸が座っていて、
まさに、絵に書いたような大親分肌。

で、その下に居た、俺の直属のマネージャーってのが、
そのまったく正反対。
徹底的に頭脳明晰の実務家で、
ありとあらゆることにまったくそつがなく、
何から何までを片っ端から暗記してしまう。
生まれてこの方、世界中でいろいろな人々に接してきたが、
正直、これほどまでに頭の良い人ってのには会ったことがなかった。

がしかし、その上司、それをまったく、これっぽっちも鼻にかけることなく、
まあ、僕にとってはただ普通のことなんだけどね、
といつも照れ笑いをうかべてニコニコしているばかり。

で、このひと、どんな状況に陥っても決して慌てず騒がす、そして腹を立てない。

嘗て、自身の息子が自動車事故を起こして集中治療室に運ばれた際も、

いやあ、ははは、そう言えば実はですね、
ちょっと大変申し訳ないんですが、
なんというか、その、うちの息子が、事故を起こしたらしくてですね、いまER。
で、まあ、そんな事情から、はっはっは、ちょっと今日の会議はこのあたりでお開きにさせて貰えたらな、

なんて風に、いやあ、日曜日にうちの猫に子供が生まれましてね、という時とまったく同じ声色だった、
という伝説さえ残っている。

でまあ、そんな人。
思わず興味が湧いて、

ねえ、あなたはなんでそれほどまでにいつも冷静なのか?
こんなとんでもない案件を前にして、ビビったり、あるいは、腹が立ったりしないのか?

と聞いてみたところ、
なあに、これしきのことでは、僕の感情を乱すことはできないよ、と一言。

この人、深い、というか、太い!

思わずもう大親友の契りを結んで、会社をやめた後も毎日テキマのやりとりを続けている訳だ。






で、そう、今いる会社の上司。

これがもう、まったく上記の二人とは正反対。

つまり、親分肌が微塵もなく、やることなすことポカばかりで、絵に書いたようなぐーたら上司、その典型。

がしかし、この人、やたらと憎めない。

聞くところによると、役者、であるらしい。

アクター?

そう、俺、俳優なんだよ。いまでも舞台に出てるんだ。

ああ、そういう訳で夜になると電話を取らない訳か。

が、そう、彼は役者である。

お客様に好いてもらってなんぼ、の商売。
つまりそう、こと、人に好かれる、という観点から言えば、まさに天才的である。

とそして、役者である彼は、この役者であることが、いわゆるひとつの強力な武器、
つまりは、プレゼンの魔王、なのである。

役者の本質とはつまりは役を演じること、な訳だが、それと同時に、
台本を暗記し、それを間違えずに、魅力的に表現する、というのが本筋。

という訳で、このアクターであるところの上司、これが凄い。

上層管理職の面々がずらり、と列席する会議。
その30分前になってから、おっと、今日の会議、何を言うんだったけかな、
と、いきなり天地を揺るがすようなとんでもないことを聞いてくる。

で、慌てて資料を差し出して、これとこれとこれ、これだけは絶対に、
で、この部分だけは、絶対に言わないように。

ふむふむ、とその資料をめくりながら、はいはいはい、といつものように脳天気な、というか、
どう見てもただ単にちゃらんぽらんなだけの態度。

で、よし、判った、とばかりに、会議室に向かって、あ、そうだ、お前も来いよ、と、
まさに、ちょっと息抜きにコーヒーでも飲みに行こう、と、そんな感じ。

エレベーターの中でも、
いやあ、今年の冬は暖かいねえ、などとつぶやきながら、
いや、そんなことより、この資料、もうちょっとよく読んどいた方が・・
と言えども、なあに、大丈夫大丈夫、と口笛など吹いている。

この人、一体全体なにを考えているんだ・・と思いながら、
あれ、会議室、どこだったっけか?とうろうろしている間にしっかり5分の遅刻。

がしかし、それもまったく意に介させず、といった風情で、

ドアを開けたとたんに俄にジャケットを羽織りながらスカスカと正面に向かうや、

はい、みなさん、お待たせしました、
と、その一声を上げたとたんに、まさにまったくの別人。

つまりはそう、どこからどう見ても、完璧なばりばりやり手ビジネスマン、
その役柄を見事に演じきって、まさに、成りきっている、訳である。

舞台に上がる15分前にささっとななめ読みした資料から、
ここは、と思うところではあざとくもうろ覚えした数字を並べ、
はい、という訳で、結論です、と胸を張ったその姿、まさに惚れ惚れする程の役者冥利。

思わず、役者やの~、と拍手をしてしまった。

そっかあ、プレゼンかあ。
この人、やっぱり身も心もアクターなんだよな。

という訳で、大成功のうちにプレゼンを終えた上司、
がしかし、舞台を降りた途端に、いままで言っていたことの全てを、
すかっと忘れてしまう、ってなおまけ付き。

とそんな上司と会議室からの帰り道、
そう言えば、お前もなんかやってたんだろ?と。

何かって?

つまり、そう、人前に出てなんかやること、だよ、とウインクを一発。

判ってるさ。隠さないで言ってみろ。
お前のその糞度胸、会議の席でもまったく物怖じしないどころか、
へらへら笑いながらガムなんか噛んでやがって。
俺には判る。お前はただのサラリーマンじゃない。
これは素人にはなかなかできないことだ。
で、なにをやってたんだ?
と肩を抱かれて、思わず、ああ、まあ昔はバンドとか、と言ったとたんに、
やっぱりなあ、と大爆笑。

あのふてぶてしい態度、まさに、ジョンレノンかキース・リチャーズか。
ははは、どうだ、ドンピシャだろ。

げげげげ、なんだなんだ、この親父。。。

つまりそう、役者は人を演じることが仕事、と同時に、そんな演じる対象であるところの人間というものを、
実に実によく観察している訳なのである。

くそったれ、毎日頼まれもしないのにHUGO BOSSのスーツにネクタイ、
七三分けに銀縁のメガネをかけては、これで完璧に変身こいてるな、
まさか俺が、嘗てパンクロッカー上がりのヒッピーだったなんて、
ツユにも気づかれはしないだろう、
と悦にいっていたのだが・・・・
いやはや、最初っからすっかりばれまくっていたって訳なのね・・

まったく、こいつ、役者やの~、な訳である。

という訳で、アメリカ人の上司、これが割りと面白い。
思わず、好きになってしまうような奴ら、ばかりであったのだが。。。

実はそう、そう言えばその中に、インド人の上司っていうのがいた。
これはまさに、過去の汚点、どころか、
世の中にこれほどまでに嫌な人間ってのもそうそうといないだろう、
というぐらいにまで、徹底的に虫の好かない奴であったのだが、
聞いてみれば、嘗てはチョッパー、つまりは、首切り専門のリストら屋、であったらしい。

そうか、人に嫌われることが仕事であった訳か。

そういった意味では、あのインド人、
まさに人に嫌われる要素の塊みたいな奴であった訳で、
そうか、彼は彼なりに自身の特性を見極めては、
完璧な仕事をしていたって訳なんだな。

という訳で、そう、ここに来てもまだ、アメリカ人との暮らしはなかなか面白かったりもする。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
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