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リアーナ ~ 不穏な春を妖艶な狂気に包まれて

Posted by 高見鈴虫 on 13.2016 音楽ねた

昼を前にしたセントラルパーク。
最近すっかりと春めいてきたニューヨーク、
重いオーバーもスノーブーツも脱ぎ捨てて、
しかしなんとなくどこか心もとないようなスエット一枚。
似たような犬の飼い主たちと、
やあ、すっかり暖かくなったね、と持て余し気味のダウンジャケットを脱ぎながら挨拶を交わす。

とそんなとき、緩んだ風の中に、ふと妙な音が聞こえて来た。

どことなくむずむずと不安定な、しかし甘い予感を秘めた旋律である。
ふと見れば、広場に屯した黒人の少年たち。
お上りの観光客を相手にブロックダンスを披露しては小銭を稼ぐ、
パフォーマーというよりはまあ街のチンピラたちがな訳なのだが、
そんなストリート・ダンサーたちがBGM用の巨大なラジカセでかけていたその曲。

思わず立ち止まって、しばし耳を傾けた。

どこかで聴いたことがある旋律。でありながら思い出せない。
あるいは、しかしとても新鮮で、そしてそう、優れた音楽に共通するもの、風景の中に馴染む、溶けこむ。
そこにある空気、あるいは、風、あるいは匂いそのものに溶け込んでは包み込んでしまう、その不思議な広がり。

思わずチンピラダンサーのガキの一人を呼び止めて、

おい、この曲、なんだ?と聴いてみた。

これを作ったのがお前らなら、正真正銘、立派な天才だぜ。

え?なんだって?と面倒くさそうに振り返ったその黒人のガキ。

改めてこんなガキがこんな時間に公園でなにをやっているんだ?
普通なら学校に行っている時間じゃないのか?
とは思いながら、そう、黒人である。
どうせ黒人だ。そんな黒人には黒人の事情やらなにやらがあるのだろう、
まあ、俺の知った事か、俺だって人のことを言えた義理ではあるまいに、
とひとまずそんな疑問はスルーして、

この曲だよ、これ、お前らが作ったのか?と聴く俺に、
いかにも馬鹿にした感じのそのガキがゲラゲラと笑う。
おい、聴いたかよ、この曲、俺達が作ったのか、だとよ。馬鹿かこいつは。

リアーナだよ、とちょっと年かさの行った奴がそう答えた。
リアーナ。リアーナとドレイクだ。

リアーナ?あのリアーナ?

そういえば、である。確かにこの悩ましげな歌声、どこかで聴いた覚えがある。

チップをせがまれぬうちに、ありがとよ、とお礼だけで手を振って
さっそく手元のIPHONEでYOUTUBE。

げげげ、RIHANNA、新譜出したのか。それさえも知らなかった。

リアーナか。。
そう、この不良中年の錆びついた記憶の中に、
そういえば最後の最後に気に入った曲ってのは、
実にあのリアーナであったりしたんだよな、という事実を等々に思い出した。

そうなんだよ、リアーナなんだよ。
リアーナがすべてというか、そう、リアーナだけは別格だった筈だ。

この歌唱力、そして絶対に誰も真似することのできないアンタッチャブルなその声質。
このバルベイドスの産んだ世紀の歌姫。
まさにこの不毛の音楽界で唯一絶対の天才中の天才。
がしかし、その筈が、いつの間にかそんなリアーナも、
誰かさんとのコラボの銭稼ぎばかり。
この不毛な商業音楽の沼の中に、すっかり飲み込まれてしまった感があった。

そんなリアーナの4年ぶりのオリジナル・アルバム 「ANTI」






という訳で、
春の訪れとともに、この不良中年錆びついた脳髄に直撃をくれた
リアーナの新曲、WORK。

いやあ、久々に聴く、大人の曲である。

これだけ才能に溢れた人が、しかしジャリ向けのPOPSばかり歌っているってのが、
どうにも不思議な気がしていたのだが、まあそう、これだけの大スターである。
その存在自体にとてつもない利権が生じているのだろうことは安易に想像が付くが、
このWORKという曲、そして、次々に流れ始めるこのANTIをというアルバムの曲。
その ANTI というタイトルからして、なんとなく思わせぶり、そして、妙にひっかかるところがある。

という訳で、思い起こすのは 言わずとしれた AMERICAN OXYGENである。





Breathe out, breathe in
American oxygen
Every breath I breathe
Chasin’ this American Dream
We sweat for a nickel and a dime
Turn it into an empire
Breathe in, this feeling
American, American oxygen


吸って吐いてアメリカの酸素、
その呼吸のすべてが、
アメリカの幻想を追いかけて、
汗みず垂らして小銭を稼いで、
帝国の繁栄のために。
呼吸するアメリカの酸素。
アメリカの幻想。



2014年夏、ミズーリ州で起こった白人警官による黒人青年射殺事件に端を発した抗議運動が、
瞬く間に暴動に発展、あわや全米中に黒人暴動が拡大するか、
と懸念された不穏な空気の中で、発表されたこの曲 AMERICAN OXYGEN。

アメリカドリームの倒壊の中、
アメリカという国を憎みながらもしかしそれを愛し、
縋らざるを得ない虚しさやるせなさ。
しかし、それでもこのアメリカという国に、一抹の希望を信じよう。

そのあまりにも切実なメッセージが、
黒人白人を問わず全米を震わせたのは記憶に新しい。

がしかし、そうやってなし崩してきに黙らされた人々に、
果たしてその後、なにが待ち受けていたのか。

働いて働いて働いて、

5円玉と10円玉のために汗水たらし、

そのすべてが金持ちたちの懐。

そう、まさに窒息寸前のアメリカ。

白人黒人を問わず、貧民も小金持ちも問わず、
老若男女、全ての人々が落とし込まれたこの徒労感。

そこには嘗て持て囃されながらいまや残骸と化したアメリカンドリームへの深い失望とそして怒りがある。





改めて、近年のアメリカを包むこの不穏な空気。

常々、この暮らし、
働けど働けど俺の生活は、
中間搾取とそして税金にイタズラに吸い上げられるばかり。

まるで俺の身体はただの資源、
鵜飼いの鵜どころか、
銭を吸い上げるられる為のしみったれた細胞、
それってまさに、あのMATRIXの中で、
繭の中に密閉されて身体中にパイプを通されては、
養分を吸い上げられるだけの、理科実験室に並んだ球根にでもされてしまったような、
そんな気がしていたのも確か。

という訳で、近年のRIHANNAの発表した社会的メッセージ、
勝手に拡大解釈させていただければ、
それはつまりは、失望と、そして怒り、である。

この暴走する資本主義に、そして1%の金持ちが、99%の貧民。
このとんでもない格差を作り上げてしまった、
この資本主義というシステムそのものに、である。

つまりは、ぶっちゃけ、いわゆる、やってられねえ、な訳でである。

理由はと言えばそう、つまるところこのグローバル化である。

嘗て、そう、アメリカン・ドリームを支えていた共和党的な論法。
つまりは、金持ちを儲けさせればそのお零れで貧乏人もいずれは潤う。
いわゆるひとつの「トリクルダウン効果」という奴。
そんな戯言に騙された奴らから、これでもかと吸い上げられた金。
いつか降りてくるどころか、次から次へと海外の金買い市場をぐるぐると回るばかりで、
誰のもとにも齎されぬまま、国境を越えて税金のかからない金ばかりが、
金が金を産むマネーゲームの中で天文学的に膨らんでは、ただただ回り続けるばかり。

いったい資本主義とはなんのか。
いったい税金とはなんなのか。
いったい労働とはなんなのか。
そしてそう、いったい俺たちはなんなのか?

嘗てのオキュパイ・ウォールストリートではないが、
いかさま博打に騙されてこれでもか金を吸い上げては、
一瞬のうちに転覆させられては人生をつんでしまった人々が全米に溢れた、
あのサブプライム危機。
その張本人であった筈のウォール街のピラニアたちに、
落とし前をつけさせるどころか、そんなピラニアたちを救うために、
公的資金、つまりは税金が湯水のごとく使われた挙句、
息を吹き返したピラニアたちは、その金を返すどころか、
せっせと海外に流しては税金逃れ。

結果、国中に失業者が溢れ、
家を追われて路頭に迷っては絶望的な放浪を続け、
なし崩し的に最低賃金は崩壊し、
と同時に、海外投資家に好き放題に買い叩かれる不動産市場、
狂乱的な高騰を続ける地価に煽られて、
こんなゴキブリだらけの安下宿でさえ、
普通の労働者では到底家賃を払えないような、
そんな地獄のような貧困が街中を飲み込んで行く。

そのあまりの無茶苦茶さに腹を立てた人々が、
ウォール街近く、あの崩れたままのワートレの跡地に隣接した公園に集まっては、
不公平税制の是正を要求したデモ行進が、いつしか泊まり込みのストライキに発展。
全世界に波紋を広げたのであるが、

がしかし、それは時代を間違えたヒッピー、あるいは、アナーキストたちの戯言でもなんでもない。

彼らの主張していたこととはまさに、

政府による金融機関救済への批判、
つまりあのピラニアを救うために費やされた俺たちの税金をしっかりと返金させろ、と。

そして、富裕層への優遇措置。
つまりは、株取引での利益に税金が免除される、なんていう法律を是正しろ、と。

そう、この二つを考えただけでも、誰もが、え?と思うはずだ。

つまり、金持ちが破産すれば税金に補填され、
そして彼らはいくら儲けても税金を払わなくて済む。

そんな金持ちたちに税金を吸い上げられた人々が、
いつしか職を失い家を失い、路頭に迷いながら何ひとつも救済がない。

そんな馬鹿なことがありえるのか。

がしかし、

貧乏人のヒーローをアピールして大統領になった筈のオバマが、
そして、911からのニューヨークの危機を救った救世主である筈のマイク・ブルーンバーグが、

そんなデモ隊の主張を聞き入れるどころか、時として暴力的な方法で強制撤去に踏み切るに至り、
表面上の騒ぎだけはひとまず収まったかに見えたものの、
その後も、そんな無茶苦茶なシステムは是正されるどころか増長されるばかり。

そしていつの間にか、世界人口の1%の満たない人々が、
他99%の人々の全財産をも凌駕してしまう、
そんなとんでもない格差社会を生み出してしまった訳だ。

なぜそんな無茶苦茶なことが起こりうるのか。

理由は簡単。
政治がまるまる、狂気の暴走を続ける資本主義というバケモノに買い取られてしまったからである。

金持ちの金持ちによる金持ちのための政治家が、
金持ちの金持ちによる金持ちのためだけの法律をでっち上げては、
金持ちの金持ちによる金持ちのためのためだけの世界を作り上げてしまった、
と、その結果。

つまりはこの資本主義という怪物の腹の底に飲み込まれたまま、
政治の、あるいは、国家そのものの存在が揺らいでいるのである。

とそして、この大統領選である。

ブッシュ時代にでっち上げられた悪法の一つで、
政治家は、企業からおおっぴらに政治献金を受け取ることができるなり、
よって、政治家が企業に買われる、ことが普通となった。
つまりは、世界の1%の富を独占する超富裕層の、それをささえるグローバル企業というバケモノが、
政治家たちを買収しては、自分たちをより一層に儲けさせるために政策を、法律を、買い取ってしまう。







共和党、民主党に限らず、そんな超富裕層の企業から、云十億云百億の選挙資金を得た、
つまりは、買い取られた政治家が、歯の浮くようなことを抜かしながら、
その現実を見れば、巨額の政治資金を受け取っている以上、彼らの政策はつまりは、
現在のこの超格差社会をより一層に増幅させるばかり。

がそう、まさにそう。

世の中がどうあっても、それがたとえどれほど無茶苦茶な、馬鹿げたことであっても、
長いものに巻かれない以外、この資本主義社会で生きていく術はないのである。
つまりそう、諦めて奴隷を続ける以外、に生存する方法は見いだせず、
これでもかと税金を毟られた挙句に、高騰するアパートの家賃で収入のほとんどが消える。
そんな暮らしを、ため息をつきながらも容認する以外になにもできない訳だ。

そして見渡せば、夜の地下鉄はホームレスばかり。
男も女も、老人も若者も、そして家族連れも。
どこもかしこもホームレスばかりなのである。

そしてそんな俺も、そして、お前も、あんたも、こいつもそいつもあいつも、

ひとたび勤務先の企業が、短期的な株価吊り上げのために画策するレイオフのとばっちりを食っては、
いきなり職を失い、と同時に生活の術をすべて奪われ、アパートを追い出されては、路頭に迷う。
そんな悪夢が、運の悪かった奴の他人事、などではなく、
まさに身につまされるような現実として、まわりにいくらでも転がっているのである。

まさに無茶苦茶である。
馬鹿らしい。そしてやってられない。
がしかし、そんなことに愚痴など言っていられる状態ではない。

ちょっとでも現実を見る目のあるやつは、これはやばい、と気がついている。
気がついていながらなにひとつとしてなにも策を講じることもできない。
そして日々、この狂乱家賃と、そしてそれに引きずられてはうなぎ登りの物価、
そして、一向に変わらぬどころか、ますます心もとなくなる収入。

失業率が下がった、というのは嘘ばかりで、
この狂乱物価の中では焼け石に水どころか、
日銭にさえもならない最低賃金の仕事を、
三つも四つも掛け持ちしなくては生きていけない奴らが、
がむしゃらになって日夜働き続けているだけの話。

あるいは嘗ては一流企業の勝ち組リーマン、
それでもちょっとまとまった退職金をせしめて余裕のあった失業者も、
半年経っても一年経っても一向に仕事が見つからず、
業を煮やして手を出したデイトレで大損をこいて一文無し。
このまま行けば半年を待たずにアパートを追い出され、
まさかあのホームレスの奈落の底に転げ落ちる、と判っていながら、
だからと言ってなにができるか、どうするべきか、まったく途方に暮れるばかり。

という訳で、そんな状態を踏まえた上で、
改めて、このRIHANNA の ANTI。
WORK を そして、AMERICAN OXYGEN を聴いてみて欲しい。

表向きの歌に歌われている、その行間に浮いて見える、怒り、あるいは、そう、
ANTI の陰が浮き彫りになる筈である。







アメリカはいま、静かな怒りに満たされている。
そしてそれは、俄な狂気の中に飲み込まれつつある。

老若男女、
共和党であろうが、民主党であろうが、
右であろうが、左であろうが、
白人であろうが、黒人であろうが、
あるいはラティの、あるいは、エイジアンであろうが、
このあまりの馬鹿馬鹿しさの中で、
まったく、やってらんねえよ、と思い始めている訳である。

数年前、レイオフを食らって路頭に放り出された俺は、
そこになって初めて、現実、というか、
あの、オキュパイ・ウォールストリートの奴らの主張が、
そして、その意味するところ、そして当事者たちの直面していたその現実の熾烈さが、
まさに骨身にしみた。

なんの悪運か、そうなることを見越していた聡明な友人から警告を聞かされていた俺は、
レイオフ時に貰ったなけなしの退職金を自分自身への投資、つまりは資格試験取得にあてた。

敢えて次の仕事は探さずに、日々図書館に通い、
日夜ホームレスに囲まれながら上級資格の勉強を続けた末に、
何の幸運か資格試験にパスし、
失業後一年を経てようやくなんとか日銭稼ぎのバイトにありつくことができた。

そんな経験から、俺は、このRIHANNAの歌の数々、

それを、馬鹿げた商業主義に煽られたジャリ向けの歌謡曲、とはどうしても思えない。

つまりは、そう、アメリカ人の抱える本音のところを割りと的確に突いているのではないかと独り悦に入ってる訳だ。

果たしてこの歌姫。

27歳になっていまだその美貌を失わず、
現商業音楽ビジネス界のまさに不動の女王であり続けるこのアンタッチャブルのスーパースター。

その女王が、敢えて、WORKを、そして、AMERICAN OXYGENを、
あるいは、Bitch Better Have My Money ~ 雌犬、あたしの金を返せ!

を歌う理由はなんなのか。

と言う訳でそう、不穏な春の訪れと共に、RIHANNAの歌う妖艶な狂気が世界中を包み初めている。




プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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