Loading…

セントラル・パークの春一番乗り

Posted by 高見鈴虫 on 19.2016 犬の事情
金曜の夜更けから、久々に転がり込んだ大仕事ですっかりと午前様。

家に着いた頃はすでに東の空に薄日の差す時刻。

このまま寝てしまうとまた休日を棒に振る、といつもの貧乏癖から、
倒れそうになるのをこらえながら7時過ぎまで頑張って、
ようやく起きてきたかみさんを犬と一緒になって急き立てては、
さあ、散歩に行こうとでかけたセントラルパーク。

春の訪れと共に、ようやく解禁となったシーダーヒル。
その目に鮮やかな新緑の芝生のカーペットには、
朝も早くからニューヨーク中の犬仲間たちが勢揃い。

とそんな中、勢い込んでやってきたのは良いものの、
差し込む朝日に目を瞬かせているうちに思わず眠気が押し寄せてきて、
ふかふかの芝生のベッドに横になっているうちにいつしかうつらうつら。

としたところ、いきなり二頭のラブラドールから生暖かい舌で鼻の頭をべろんべろんと舐められて、
としたところ、いきなり耳、それもその奥深くにまでふがふがふがと冷たい鼻先を押し込んでくるジャックラッセル。
あるいは、こともあろうにそんな俺の上によいしょ、と登ってきては腹の上に鎮座ましましたまま、
得意気になって遠吠えを始める迷惑なビーグル君。

まったくもう、次から次へと犬たちがやってきては、おちおちと寝ても居られない。

なんてことをしてたいら、おいっ!危ない!といきなり響き渡る絶叫!

もしや、と思って起き上がるやいなや、その寸でのところで、
まさに俺の頭のあったその場所に向けて、ひょいと片足を上げている不貞の輩。

こいつら、まったく・・・

とそんな時に、輝くばかりの朝日の中から、
いきなりとてつもないスピードで飛び込んでくる銀色の矢。
全身を見事な程の躍動に包まれてはまさに神をも恐れぬ全速力の弾丸状態。
うわっと息を飲む間もなく、いきなり胸に向かってぶち当たっては思わず息が詰まる程に。
この不届きな乱暴者、言わずとしてれた我が愛犬のブッチ号。

あのなあ、おまえ、何するんだ、という声も物ともせず、
問答無用に抱きついて来ては顔中を舐め舐め攻撃で窒息寸前。

うわ、ばか、やめろ、やめろ、と引き離そうとすればするほどに、
辺り中から集まってきた犬たちが、はしゃぎ回っては襲いかかり、
それこそ顔と言わず肩と言わず背中と言わず、
飛びかかってきてはじゃれついて来て、
眉毛の先から髪の先から、ヨダレが糸を引いい滴り落ちるほどに、
もう身体中がぐしゃぐしゃである。

あのなあ、俺は、寝てないんだぞ。。なんて泣き言は、
この春の光にブチ切れた犬どもにはまったく知ったことではないというところ。










と見るや、緑の丘の向こうから、
まるでがま口のようなバケモノ面を引っさげた輩が二頭。
全身の毛並みをぶるんぶるんと波打たせながら
気が触れたように突進してくるのはまさに、
狂犬の中の狂犬と誉れ高いピットブルではないか。
人と見るや狂ったように襲いかかり、問答無用に押し倒した上で、
その馬鹿でかい図体で身体の上に乗り上がっては、
胸を押しつぶし首を締め上げながら、最早グウの音も出なくなるまで、
徹底的に顔中を舐め回す、恐怖の舐め舐め怪物・ローザとベティ。

馬鹿、来るな、来るな、こっちに来るな~! の俺の絶叫を、
まさに半年ぶりの再会の熱狂の雄叫びと勝手に勘違いしたこの狂犬ピットブルたち。
その先制攻撃たる頭突きの一発を危機一髪でかわしながら、
とたんに腹の上から胸の上からにのしかかって来ては一瞬のうちに左右から羽交い締め。
そんな二頭のピットブル、まるで獲物を奪い合うようにガウガウと不穏な唸り声を響かせながら、
舐める舐める、耳も鼻も唇も舐めちぎらんがばかりに猛然と舐め続けては、
溢れるよだれが鼻の穴から耳の穴から口の中にまで流れ込み、とまさに断末魔。
思わず、助けてくれ!と上げた声も声にはならず、
そんな俺の回りをはしゃぎ飛び跳ねる犬たちと、
そんな修羅場を腹を抱えて笑い転げる飼い主たち。

てめえ、この野郎、よーし、人間様の底力を見せてやる、と満身の力で抱え上げたローザ。
何だお前、また冬の間の食っちゃ寝でますます重たくなりやがって、と、
思わず頭の上にまで抱き上げて、そしてその鼻先に、仕返しだとばかりにキスの嵐。
きょとんとした瞳を見開きながら、みるみるとその瞳がハート型のラブラブマーク。
とした途端、ねえねえ、私も私も、と膝に絡みついてくるベティ。
次は俺は、次は私、とさっそく順番に並び始める犬いぬイヌ。
と見るやその後ろから、なんとセントバーナードが熊のような巨体でニカニカと笑っているではないか。

あのなあおまえら、どうでも良いけど、俺、寝てないんだぜ、と弱音を吐いたとたんに、
そらやっちまえ、とまたまた襲いかかってきた犬たちの中でもみくちゃである。

という訳で、さあ、じゃあ、いつものボール遊び行くか!と立ち上がった途端、
そら来た、とばかりに勢揃いした一同。
なんだなんだ?と丘の向こうからも駆けつけてくる一団と相成って、
総勢30匹は下らない壮絶なボール遊びが展開される訳である。

さあ、行くぞ、そら、取ってこーい、と青空の中に思い切り投げ上げたボール。
弾け飛ぶように走りだす犬たち。
さあ、今度はこっちだ、ほら、行って来い!
とそんな足元に、ねえねえ、僕達にも、とちんちくりんな小型犬たちも勢揃い。

朝日の光に照らされた新緑のカーペットの上、
弾け散る犬たちの、そのあまりにもハツラツとした姿。

世界はまさに、この春の光と、犬たちの笑顔のスパークに溢れかえり、
その眩さの中、いまにも焼き尽くされそうである。

ああ、春なんだな。ああ、春なんですねえ。

飛び切り遠くに放り投げたボール、それを追った一団の先頭を、
意気揚々とボールを咥えてかけ戻ってくる我が犬ブッチ号。

その逆光のシルエットの中に、ああ、またこの季節がやって来てしまったのだな、
思わずやれやれ、と長い長い溜息を付くのである。


プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム