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挽歌 ~ 敗れ去ったおっさん達へ

Posted by 高見鈴虫 on 08.2016 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
始めてロフトに出たのは高校二年だったかな。
それは割りと、すっげえステージ、とか思って、
もしかして、明日の新聞に載るんじゃねえのかな、
とかまじ思ったりして、
で次の日、新聞見るの楽しみだったけど、
当然のことながら、そんなものが新聞に載るわけもなく。

初めてルイードに出た時、あそこ天井が低くて、
ライブ中もてめえの音がすげえよく聴こえて、
で思わず調子こいて、
まじとんでもねえドラム叩いちゃったぜ、とか思って、
で、
もしかして、いまごろニュースとかに出てるんじゃねえかな、
とか思って、
以下同じ。

初めて、屋根裏に出て、床が抜けるんじゃねえか、と、
後同じ。

初めて、ライブインってちょっとでかい箱に出て、
やっぱ同じ。

そう、たかがロック。

なにをやったって、新聞なんかに載るわけもなく、
それは例えば、帰りの機材車の荷台で、
アンプやらドラムやらを積み上げたその狭間から、
見上げた新宿のビル街の灯りが、
まさに、風の中に飛び散ってしまいそうな程に、
とてもとても満たされた瞬間でもあったのだが、
そんなものを、誰と共有できる訳でもなく、
誰に知られる訳でもなく。

疲れ果てた身体の汗が冷えきって、
濡れた髪が風にはためきながら、
やったな、俺、やったな、と呟くばかり。

ただ、まるで、世界を取ったような、
この街を空から見下ろすような、
そんな気がしていたのは確かだ。



鳴り止まないアンコールの拍手、
楽屋までの通路で観客に囲まれて、
機材搬入口で待ち伏せされて写真撮られて、
投げたスティックにサインを下さいとせがまれて、
マーチャントのテーブルからCD完売ですと告げられて、
夜の街の顔役のなんたらさんから携帯の番号を貰って、
いつでも電話をよこせ。お前らを売り込んでやる、世界を取らせてやる、
とドスの効く声でそう囁かれて、
楽屋を訪ねてきた何とかさんやら、友達のだれそれとかが、
このやろう、嫉妬するぜ、と苦笑いをされて。
積み込みが終わり深夜を過ぎて遅い晩飯を食いに出たら、
ウエイトレスの女の子から、最高だったよ、
お礼になんでもタダにしちゃう、と意味深なウィンクを送られて。
テーブルから振り返る顔に、YEY と親指を突き出され。

そんなどれもこれも、
この広い世の中にあっては、
新聞どころか、誰の心のうちにさえ、
地下鉄に乗る頃には、すでに忘れられてしまったりする、
たかがそれぐらいのことに過ぎない、ちびた出来事。

積み下ろしが終わった夜更け。
深夜を疾うに過ぎたバス停のポールの下で眠りこけていた時、
ふと目が開いたら、青く光る回送バスのドアが開いていて、
乗りな、と顎をしゃくる黒人のドライバー。
良いギグだったか?
ああ、最高だった。
そりゃ良かったな。おめでとう。

たったそれだけの言葉で、
これまでの辛酸の全てが、
綺麗に洗い流される、そんな気さえしたものだ。

やったぜ。俺はやったぜ。
誰にも知られぬままにそう呟きながら、
流れる車窓から眺める寝静まった街。
ステージの上ではしゃぎ回るあいつらの姿を思い返して、
思わず、くすり、と笑ってしまって、
終わったな、と呟く時。

そしてまた新しいギグ。そしてまた新しい燃焼と、そして蘇生。

バンドマンは、そうやって生きていく。

寝てなくて、食ってなくて、疲れきっていて、
ただ練習だけはなにがあっても手を抜くことはできず。

そしてそれを支えてくれるのは、
そう、仲間、というよりは、戦友。
ステージという土壇場を共に生き抜く、
まさに、命綱のような、つまりは、メンバーたち。

バントマンはそうやって支えあって生きていく。
どんなに辛くても、どんなに虚しくても、
例え俺達の人生が、この先どれだけ酷いことになっていこうとも、
そんな戦友たちに支えられて、俺達は敢えて修羅の道を歩んで行く。

なぜって、それは、俺達が、バンドマン、だからだ。

まあ確かに、そんな綺麗事ばかりじゃないけどね、
ただ、そう、今になって、そう思えること、
そして、あんな素晴らしい瞬間を共有した、
あの小憎たらしくも愛して止まない戦友たちに、
心の底から、馬鹿野郎、じゃなかった、
ありがとう、と告げるべきなんだろうな。

おっさん、そこのおっさん。
イニシエの挫折感の中で、
その後の人生はただ命の浪費、
とか思っている、そう、そこのおっさん。

給料が上がったよ。名刺の肩書が変わったよ。
なんとかさんからお褒めの言葉を頂いたよ。
今日のネクタイ素敵ですね
そんな作り笑いに囲まれたオフィスを出て、
トイレでひとり小便を垂れながら、
くそったれ、こんなものがなんなんだよ、
と苦笑いを浮かべる、
そんなどうしようもないおっさん。
そう、元バンドマンの、おっさん。

俺達は、幸せ者なんだぜ。
そんな挫折感を持って生きられる、ということだけでも、
俺たちは、幸せ者なんだよ。

という訳で、そんな至福のステージ。
それを、毎日、毎日、繰り返していくBABYMETAL.
今日もまた新しい挑戦に打ち勝ち、
戦友たちと共に、新たな戦場に向かう筋金入りのプロフェッショナルたち。

スーメタルのその勇姿に、
ジャンヌ・ダルクの姿を見るのは、
多分俺だけじゃない筈だ。

思い切り感動させられて、思い切り好きにならせてもらって、そしていま、
心の底から、嫉妬を感じ得ない、このとんでもない奴ら。

あなたたちは、世界一の幸せ者だ。
そしてその幸せを、世界中にばらまいていく、
まさに、愛の戦士。愛の伝道師。

こんな幸せなバンドがいままでにあったか?
こんなに幸せにさせてくれるバンドが、いままでにあったか?

へん、たかがロックじゃねえか、と鼻で笑われる、そう、たかがロック。
いくら会場がぶっ壊れるぐらいに、
二千人の観衆が、ひとつになって声を合わせたとしても、
そう、所詮はたかがロックじゃねえか。
新聞どころか、帰り道のフリーウエイのエグジットを降りたところでは、
既に日常という惰性に飲み込まれている、まあそのぐらいのものだ。

そして新たな朝。そして新たな、残された人生の最初の一日。

そんな刹那な至福を魂に刻みこみながら、
バンドマンは行く。地の果てまで。海の果てまで。

たかがロック。されどロック。だからロック。

それで良いんだよ。バンドマン。
ただ、これだけは言える。

ステージの上、スポットライトに焼かれながら、
嵐の海のようにうねる観客席の上、
紅の水平線に浮かぶグリーンフラッシュのような焦点を垣間見た時。
鳴り響く轟音の中で、ふと魂の遊離する静寂を感じた時。
あるいは、終局のシンバルの余韻の中、
焼き尽くされるほどのギグを終えた、その瞬間。

その瞬間のバンドマンほど、幸せな人間は、この世には、いない。

バンドマンたちの、あの時として傍若無人なほどの達観した態度は、
つまりはそう、そんな至福を重ねてきた人生に対する、
充足と喪失、その大いなる軋轢の中で磨き抜かれた、
まさに、己の魂への、絶対的な自信なのだ。

そう、そこのおっさん。
ベビメタの勇姿に涙するおっさん。
彼らのそんな究極の至福の、
ほんの少しだけでも共感を感じることのできる俺達は、
まさに、そう、幸せ者なんだよ。

だって俺達は、そう、痩せても枯れても、
例えそこに元がいくつつこうが、バンドマン。
そう、俺達は、バンドマンなんだぜ。
少なくとも俺たちは、ステージの上でそんな至福の瞬間を味わった事のある、勇士なのだ。
一生の間に、一度もなにかに燃焼した経験の無い者には、
俺達の挫折は、喪失は、焦燥は、そして見果てぬ渇望は、
絶対に、理解することはできない。
そう、俺達はそれを知ることのできた、類まれな幸せ者。
そのプライドだけは、あの至福だけは、
意地でも棺桶まで持って行こうじゃねえか。

疲れきった夜。
独り飲み過ぎた酔いに迷っては
眠りに付く前に、
一度だけ、KARATE を聴くことにしよう。
そして目が醒めた時、
また新たな朝。
残されたかりそめの人生の最初の一日が始まる。
BABYMETALと共に。

この駄文を、
まさに、身を引き絞るような想いで日々を生きる、
敗れ去った勇士たち。元バンドマンたちに送らせてもらう。

ROCK IS NOT DEAD
俺たちは、負けない。








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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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