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ボーダー・コリー チェシーの受難 ~ トラウマの癒やし方

Posted by 高見鈴虫 on 30.2016 犬の事情   0 comments
最近、残業続きで夜の猛犬パーティをほったらかしていたら、
なんと、我が駄犬・ブッチの大親友である、
ボーダー・コリーのチェシーが、
事もあろうにドッグラン仲間のひとりに襲われて、
酷く噛まれてしまった、
との悲報が飛び込んできた。

え?で?どうなったの?チェシー。



まあ、手術でなんとか傷は塞がったんだけど、
右耳の先っぽが千切れてしまって、
いまだにコーン(エリザベス・カーラー)をつけたまま、
ドッグランにも久しく顔を出していない、とのことである。

このボーダー・コリーのチェシー、
ボーダーコリーらしく、本当に頭のよい、
そして甘い甘い、甘すぎるぐらいに甘い、優しい性格をした奴である。
このチェシー、ブッチくんの大親友。
強面の番長面したブッチの隣で、いつもニコニコと、
まさに大親友の名コンビ。

で、そのチェシーの飼主は、ここニューヨークのパフォーミング・アート界では知る人ぞ知る、
名うての批評家である。

その専門にする所の、ダンスの領域においては、
彼女の寸評が世界的な評価に影響を与える、との(まあ自称だが)
まあ、ゴッド・マーザーのような恐ろしい人、であるらしい。

が、そう、俺的にはただたんに犬友達。
相手が大富豪であろうが、大教授であろうが、銀幕の大女優であろうが、
犬同士は犬同士。
犬人間であるところの俺は、飼い主がどうあれ、犬の顔しか見ていないし、
飼い主のことなど、正直言って知ったことではない。
まあそう、気楽なものだ。

が、そう、このブッチの大親友のご受難である。
これはなんとか、力になってやらない訳にはいかない。

という訳で、
この連休中、突如訪れた寝苦しい熱帯夜の暇つぶしに、
よお、元気だった?と遊びに行ったわけである。

アパートのドアを開けた途端、いの一番に出迎えてくれたチェシー。
いまだに痛々しいくも邪魔くさい首の回りの白い襟巻きに心底往生しているようで、
その笑顔にもなんとなく元気がない。

挨拶も済まぬうちから、
さっそくチェシーのおもちゃ箱に突入を決めたブッチくん。
次から次へと目新しいオモチャを咥えて来ては、
問答無用にその見るからに高価そうな革張りソファーの上で、
一人勝手に、ピーヒャラピーヒャラと余念がない。

そんな様子を、はしゃぎながらも、力なく笑うチェシー。
普段はふたりして、ウンウン、と引っ張りっこをする筈なのに、
おい、どうした、やっぱり元気ないな。

まあねえ、包帯は取れたんだけど、
いまはまだ抗生物質を飲んでいて、
朝の夜も寝てばかりいて。
ドッグランにもさっぱり行きたがらない、とのこと。

おいおい、お前、災難だったな、と、
さっそく甘えてきたチェシーを膝の上に乗せて、
身体中を撫で撫での大サービス。
がしかし、その顔つきに、どことなく、怯えというかなんというか、
ちょっとした暗い影が見える。

という訳で、
あ、で、ちょっと話があるって言ったのは、

と、お節介な老婆心にも、例によって俺のイニシエの昔話である。



実は俺がまだ厨房の鼻たれだった頃に、
クラスに間宮くんっていう、とても良いこの友達がいたんだ。
あの頃から札付きの悪ガキで通っていた俺らと違って、
間宮くんは本当に良い子。
別に不良という訳でもなかったけれど、
なんかそう、図体ばかりが凄くでかくて、
でもいつもにこにこ笑っていてさ。
まさに、気は優しくて力持ち、の典型。
喧嘩なんてやったこともないし、
そんなことが世の中にあるのかってぐらいに、
すごく呑気な良い奴だったんだ。

ある日、そんな間宮くんが、
普段は足を踏み入れたこともない隣町まで、
親のお使いとやらで行かされた時のこと。
実はその街は、タチの悪い不良たちの巣窟で、
俺たち悪ガキどもの間ではつと有名だったんだが、
良い子の間宮くんはそんなこともつゆ知らず。
事もあろうに、校章入りの制服を着たまま、
そんな蛇の巣のようなところに、
ひとりでひょこひょこ出かけてしまった訳だ。

で、その間宮くん、案の定、駅前の不良にとっ捕まって、
寄ってたかって殴る蹴るのサンドバッグ。
ああ、あいつ、またいつもの奴で、
でかい図体のまま、なにをされてもヘラヘラ笑いながら、
おーい、やめろよ、やめてくれよ、なんて調子でやっていたのだろうが、
それが不良どもの気に障ったのか、
結局、入院するぐらいの大怪我を負わされることになった。

でようやく退院した間宮くん。
がしかし、頭にはぐるぐると、インド人のような包帯を巻いたまま。
なんか今までのあの朗らかな顔とは一転して、
その身体全体から、どす黒い陰鬱さが漂っていて、
おい、いったいどうしちまったんだよ、と、そんな軽口にも、
いいからほっといてくれ、と言うばかり。

で、そんな中、またお調子者の菊地の馬鹿が、
おい、まみゃー、お前どうしたんだよ、いったい、
もしかしてお前、そのターバンの中、こんな傷口とかあって、
したらお前、それこそフランケンシュタインじゃねえか。

なんてそんなことを言いながら、おい、その包帯、外してみろよ、と。

したらね、そう、いきなりだったんだ。止める暇もなかった。
いきなりその菊地に襲いかかった間宮が、
まさに、そう、拳を振り上げて、滅多殴り。
床に転げた菊地が、気を失ってそのまま白目を剥くぐらいにまで、
まさに、滅多殴りにしてしまったんだ。

俺達がようやく止めるに入って、
間宮、てめえ、何やってんだ。
俺たちのダチじゃねえか、ってひっぱたいた途端、
いきなり泣き初めて。
気を失った菊地の横で、転げまわりながら、泣きじゃくるばかり。

とそんな時、騒ぎを聞きつけた、学年を束ねていた吉本が子分を引き連れて駆け込んで来て、
おい、菊地を保健室にはこべ。誰にも言うな。誰がやったなんて一言も言うなよ。
保険の先生に見てもらっている間は、保健室の前に見張りを立てて、誰も入れるな、判ったか。

で、そんな泣きじゃくる間宮を抱えながら、
判る、判る、怖かったよな、悔しかったんだよな、俺も昔、そうだった。俺もそうだったんだよって、
一緒に泣き始めたんだよ。

まあそう、それがきっかけになって、その後の間宮はまさに吉本の一の子分。
そのでかい図体にものを言わせて、親分吉本の後ろを影のように支える、
強面の特攻隊長となった訳だが、まあ、そう、これも人生あれも人生。



でそう、言いたかったのはね、
やられたやつは、必ず、その胸の中にふたつの矛盾を抱え込む。
恐怖と、そして、怒りだ。
俺はいままで何ども袋叩きになったことがあるが、
あの俺をぶん殴った奴らのツラだけは、
何年たっても忘れられない。忘れようにも忘れられないんだ。
いまだに夢を見たりもする。
そして、夜更けに目を覚まして、俺はひとり、数十年も前の殺意に打ち震える、と。

それをトラウマって云うんだけどね
まあそう、人間もそして犬も、そういうものなんだよ。

という訳で、このチェシー。
いまこいつの中にも、その恐怖と、そして、怒りが、綯交ぜになって渦を巻いている筈。

そしてそう、犬も人間も、やられたことはいつか絶対に誰かに晴らそうとする。
生き物ってそんなものなんだ。でも、それをやってしまうのが生き物の業なんだよ。

なのでそう、こんな話は女のあんたには判らないだろうと思って、
そう、俺はその吉本ではないが、そんな気持ちを知っているものとして、
チェシーにちょっくら話をしに来たんだよ。

大丈夫、俺たちが守ってやるから。心配するな。
だからそう、恐怖も怒りも、きれいさっぱり忘れちまいな。

そう言いながら、身体中を撫で回しては、ねえねえ、と言われる度に、
顔中を好き放題に舐めさせてやって、
ねえ、ここが痒いと言われればおおここか?とポリポリ。
ねえ、胸、次はお腹、次は背中、とばかりに、
思わずブッチが嫉妬をする程に、甘えさせるだけ甘えさせてやった。

普段よりも、スキンシップを多く取ること。
身体中を撫で回してあげて、そして、他の犬達、
気心の知れた友達たちと、なるべく早く慣らして上げること。
とそして、これが一番大切なことなんだが、
あなた自身が、妙な逆恨みは忘れることだ。
自分の犬が噛まれたりしたら、
俺だったらまじで、その飼主のところに日本刀を持って殴りこみたくなるかもしれない。
だが、いま一番大切なことは、まずはこのチェシー。
この可愛いチェシーのトラウマを、なんとか癒やしてやること。
それがまずは第一番。
人間の怒りなど二の次だ。まずは自分の犬のことを考えてやってくれ。
あるいはそう、あんたがその怒りと悲しみと恐怖を、早く忘れることこそが、
チェシーの回復の、第一の特効薬になる筈。

とそんな時、さっそく猛犬仲間のサーリー・ママから電話である。

いま、みんなでドッグランに居るんだけど、
チェシーの具合はどう?

さあ、チェシー、行ってみるか?みんな心配して待ってるぜ。

大丈夫かしら?

いや、大丈夫。俺が付いてるから大丈夫。
これで慣らせば、今日の再会がうまく行けば、
もう大丈夫だよ。俺のブッチも付いているし。

という訳で、久々にドッグランに参上したチェシー君。
途端に仲間たちに囲まれては大歓迎大会。

寄ってたかって、クンクンクンクン、それなあに?
とその馬鹿でかいコーンをからかわれながら、
またいつものやつで、ごろーんとお腹を出して、
降参降参、とケラケラと大笑い。

チェシー、大丈夫。
まあ運が悪いこともあるが、世の中そうそうと捨てたもんじゃない。
そしてそう、お前はいつも友達と一緒だ。それだけは確かだ。
そして何かあったら、きっと俺たちが助けてやる。

という訳で、ドッグランにまた平和が戻った、のであるが。

実は俺が心配していたのは、このチェシーを噛んでしまった、相手がたの犬の方だ。

こんな温和な性格のチェシーを噛んでしまったということは、
その犬はよほどのトラウマ、あるいは、もしかすると、どこか身体の調子が悪いのかも知れない。
どちらかと言えば、その犬の方が心配なのだが。すぐに定期健診を受けたほうが良いと思う。

という訳で、あれまあ、あんたも大変だったわねえ、と飼い主仲間。
治療費がいくらで、保険がいくらで、と金の話ばかりしているこのユダヤ人たち。

そんな飼い主たちを尻目に、俺の前に勢揃いしたこの悪ガキども。

お前ら、チェシーを宜しくな、
と思わず、その一人ひとりの頭を撫しては、鼻先にキスをするのであった。

という訳で、ああ、そう言えばそのダンス批評家に、BABYMETALのビデオを見てもらおうと、
そんな思惑があったわけなのだが、まあそう、それはまたの機会に。
あるいはそう、俺なんかが教えなくても、もうじきに彼女の耳にも入るはずだ。

その時は、こう見えても、俺はBABYMETALの大家であったりもするんだけどね、と、
知った風を吹かせてやろうとは思っている。
それまでに、ちょっくら、すーユイ最愛のBABYMETALのダンス批評などに、
目を通しておくか、とも思ったりしている。

久しぶりに犬の話題であった。




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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