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ニューヨークで聴く「止まない雨」 ~ 世界に平和をBABYMETAL

Posted by 高見鈴虫 on 07.2016 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
夜も11時を過ぎたダウンタウン・ファイナンシャル・ディストリクト。

24時間眠らない街と言われるニューヨークでも、
このエリアだけは、日没とともにまるで墓場のように静まり返る。

ワールド・トレードセンター跡地を訪れる
目障りな観光客たちも姿を消し、
摩天楼の渓谷に沈む溺れ谷には、
残業明けのうだつのあがらないルーザーのため息と、
そしてただ、悪戯に風が吹き抜けるばかり。

嘗てこの空に聳えていた二本の巨塔。
世界の金融市場の中心であり、そのあまりにも威風堂々とした、
時として圧迫感さえも感じた二本のガラスの巨塔。

正直なところ、ワートレがあった当時から、
このエリアはあまり好きではなかった。
ワートレのあまりの巨大さと、
それを囲む人々のあまりの殺伐。
人という生き物の強欲と虚栄と高慢と狂気が渦を巻いた、
まるでそう、そこは現代のバベルの塔、そのもの。
そのあまりにも満ち満ちた狂気と殺気の中に、
妙な胸騒ぎを覚えていたことを今も思い出す。



そしてあの911の事件。

銀座和光ビルがゴジラに叩き壊されても、
東京タワーからモスラが飛び立ったとしても、
まさかあのワートレの巨塔に旅客機が突っ込んで来るなど、
誰にも信じられない出来事であった。

あの時、日本から生放送です、と電話をかけてきた、
どこぞのテレビ局。

知り合いの方でお亡くなりになった方いますか?
人が落ちてくるところ見ましたか?
ビルが崩れるところ、見ましたか?
やっぱり大変なことになったんですか?
お話、詳しくお伺いさせて貰えませんか?

とまくし立てたあの甲高い声。

思わず、
てめえは人の不幸がそんなに面白えのかよ、
と言ってしまったのだが、
生放送というからにはオンエアされてしまったのだろうか。
誰かその放送、覚えている方、いらっしゃいますか?

その後の騒動の中、あのU-S-Aのシュプレヒコール、
ただ、この一帯だけは、そんな騒ぎなどお構いなしに、
息の詰まる焦げ臭い匂いの立ち込める中、
べっとりと染み付くような闇に沈んだまま。
無残な瓦礫の山に、復旧作業のサーチライトに照らされた、
溶けて捩れた鉄骨によってつくられたあの歪んだ十字架の姿、
あのあまりにも痛々しい光景はいまも瞼に焼き付いて離れない。

あの暗い暗い闇の底、鳴り響くジェネレーターの響きの狭間に、
いまにも死んでいった犠牲者達の怨念の唸り声が渦巻いているような、
それは、気がする、というようなものではなく、
その悪い気が、あるいは亡霊たちの濃密な気配が、
まさに手に取るような生々しさを以って、
あの一帯をずっしりと包み込んでいたのだ。

残業明けの深夜過ぎ、そんな重い霧の中を歩みながら、
不思議なことに薄気味の悪さや、恐怖は感じなかった。

なんといってもその亡霊たちは、
ついこの間まで、
混みあった地下鉄で押し合い圧し合い、
昼飯時のカフェでテーブルを取り合い、
時として罵声を浴びせあい、時としては苦笑いを交わし、
夏の週末には、フリーコンサートで一緒に歌い踊った、
そう、俺達はそんなあたりまえのニューヨーカーだったのだ。

なんの因果か、その紙一重の運命の気まぐれが、
俺と、そして、この亡霊たちの命運を分けた。

そう、俺はあの日、本来であれば、
このワールド・トレードセンターで、
朝の7時から仕事をしていた筈だったのだ。
それが、直前になってかかってきたあの電話。

ええ?また出張?この連休中に?
もう好い加減勘弁してくださいよ、
俺、いまUSOPEN観てるですよ。
え?なに?テニスですよテニス。
俺はテニスのために生きてるんだって。
だから、そう、
この時期だけは出張入れないって、
そういう約束だったじゃないっすか。
まったくやってられないっすよ、まじで。

そう、そうやって押し付けられた出張。
俺はそれで、命を取り留めた。
そして俺にその出張を押し付けた張本人が・・・

もうやめておこう。
過去になにを言っても始まらない。

そう、運命ってのは本当にある。
運や不運や、そして宿命も、
やはりこの世にはある。

そして俺のような、
まったくどうしようもなく、
誰のためにもならないどころか、
ゴミにさえならないような、
そんな無益な人間ばかりが生き残ってしまう、
というのも、神様のしかけた悪い冗談なのであろうか。

ただ俺は覚えている。
この地に聳え建ったあの二本の巨塔。
あの観光客たちに溢れかえったエレベーター・ホールも、
勝ち組金融マンたちの高笑いが響き渡っていたカフェテリアも、
あの長い長い永遠と長いエレベーターも、
そして辿り着いた、まるで雲の中を歩いているような白い床も。

あの場所ですれ違った人々が、
いまこうして、俺の周りを取り巻いては、

なぜ、なぜなんだ、なぜ俺が死ななくてはいけなかったんだ、

と声にならない号泣を響かせている。

悪いな、これも運という奴だ。
安い給料でこき使われる俺を嘲笑った罰だろ。
宜しく成仏してくれ。

そんな亡霊たちを疎む気になどなれる訳がない。
そんな亡霊たちに怯えることなど出来るわけがない。
そんな亡霊たちを忘れることなど出来るわけがない。

その後に起こった、あの耳障りなU-S-Aの大合唱も、
そして敵討ちとばかりにしゃしゃり出た、
あのアフガンと、そしてイラクのどうしようもないドンパチの顛末も、
俺たちニューヨーカーにとっては、実は徹底的にどうでもよかったのだ。

俺たちは死者たちとともにあった。
死者たちに囲まれて生きていた。
考えていたのは、その運命の不思議だ。
なぜ俺が生き残って、あいつらが死んじまったのか。

果たして生き残ったことが幸運であったのかなかったのか、
それを日々、首を傾げながら、まるで悪い夢から醒めぬまま、
重たい霧の中を歩むように、過ごしていたのだ。

あの時、
このファイナンシャル・ディストリクトが、
あるいはニューヨークそのものが、
あるいは、アメリカが、そして世界が、
果たしてこの先、いったいどうなってしまうのか、
誰にもわからなかったそんなときに、
ワールド・トレードセンターに隣接した、
高級コンドミニアムの建ち並ぶバッテリーパーク・シティ、
その物件を満載した不動産サイトが、
仲間たちのちょっとした話題になった。

ええ、2ベッドルームが3万ドル?
こっちなんて3ベッドルーム、5万ドルで出てるぜ。
いや、どんどん値下がりしてるよ。
暴落かよ。
たしかにな、あんなところもう誰も住みたくないだろうにな。
この物件だって、つまりは空き部屋、ってことは・・・

近年のニューヨーク、地価高騰の中、
ちなみにこのバッテリーパーク・シティ、
ちょっと見てみれば、2ベッドルームでも、200万ドルを下らない。

あの時買っておけばな、と思わない訳でもないのだが、
おいおい、それこそ悪い冗談だろう。
つまりそう、金持ちになる、ってのはそういうことなんだろう、
と、今でも思ってはいる。

考えてみれば、俺はあの時から音楽を失ってしまっていたのかもしれない

嘗て、ここニューヨークが世界一のパーティー・タウンであった頃、
つまりはそう、あの9月11日のその前日まで、
街中を震わせるように鳴り響いていたハウス・ミュージック。
土曜の夜、KISS FMのフランキー・ナックルズ、
TUNNELからの実況生放送に、
摩天楼を埋め尽くした街中の窓という窓から、
次々と走り去るタクシーのカーステレオから、
まるで、地鳴りのように、あるいはこの街そのものが、
コンサート・アンプそのものになってしまったかのように、
鼓動し、躍動し、発光を繰り返しては、
赤く滲んだ空の彼方まで、鳴り響いていたあの強烈な街のビート。

ラテン・ナイトでは、CUBAから直輸入の神業バンド、
サルサ、ティンバとソンゴの強烈なビートに朝まで踊り狂い、
街中で繰り広げられるフリーコンサートでは、
老い若きもワインを並べては乾杯を繰り返しては、
知らぬもの同士が肩を並べて合唱を繰り返してた。
24時間眠らないパーティタウン。
この街に着いたとたん、誰もが踊り始めてしまう、
そんな抑えきれないエネルギーに満ち溢れていたこの街。
ニューヨーク・シティ

そしてあの9月の青天の霹靂。
あの911を境に、あの音が、街のビートが、消えた。

あの時から、俺は新しい音楽を聴いてはいない。
あれから暫くの間、
どういう訳か、マーラー以外の音楽を受け付けなくなってしまった。
それまで聴いていたありとあらゆる音楽が、
まるで死者たちの魂を逆なでしてしまうような、そんな罪の意識に囚われて、
聴くことができなくなってしまったのだ。

そしてニューヨークという街は死んだ。
それ以来、俺は、新しい音楽というものを、
あるいは時代の変化というものさえも、
無意識のうちに拒み、そして憎んでいたのかもしれない。
あるいはそう、
まったくご苦労なこって。
お金を稼ぐのはそんなに楽しいですか?
あんただっていずれは死んじまうってのに・・

そして今、どれだけの時が流れたのか。
どれだけの風が、あの亡霊たちの上を流れて行ったのか。
ここワールド・トレードセンターの跡地に、
ようやく、白亜の殿堂が建ち上がった。

あのな、亡霊ども、よく聞け、
いまな、世界がインターネットで繋がって、
IPHONEってのがでてきて、
YOUTUBERってのが出てきて、
で、そう、これ聴いてみろよ、
BABYMETALって云うんだぜ。
日本から来た、とんでもなくご機嫌なバンドでさ。
俺達があの頃聴いていたどんな音楽も、
すべてぶっ飛ばしてしまうような、
本当にとんでもねえ奴らなんだよ。
そう、そんな奴らが、
なんとJAPANなんて所からから出てきたんだぜ。

今になって、あいつらももう、そんな不埒を許してくれる筈だ。

世界に平和を。

例えどんな理由があったにしても、人と人が殺し合う事態だけは、
絶対に避けなくてはいけない。
それがどれだけ難しい交渉を伴ったとしても、
それがどんなに屈辱的なことであったとしても、
それがどんなに酷い結果を招いたとしても、
生きているだけましなのだ。
屈辱も、悲しみも、絶望も、生きているからこそ味わえる、
つまりはそう、それさえもが、生者の特権でもある。
それを忘れないで欲しい。

あの時、死んでいった人たちにとっては、
アルカイダがどうの、イラクがどうの、など、知ったことではなかった筈だ。
そしてそう、生き残った俺たちだって、知ったことではなかったのだ。
騒いでいたのは外野ばかり。
あの百姓面した、赤ら顔の、ビールで酔っ払った、あの馬鹿どもが、
U-S-A! U-S-A! と勝手にはしゃぎ回っては、
そんな死者たちの悲しみをこれでもかと踏みにじっていた。

俺たちはただ、そんな不愉快な連中から顔をそむけたまま、
息を潜めてはマーラーを聞きながら、
死んでいった友、その亡霊たちの声に耳を傾けていただけだったのだ。

戦争ってのはそんなものだ。
勇ましいことを言いたがる方々、よく覚えておいて欲しい。
あんたたちは、当事者じゃないから、そんな口が叩けるのだ。
俺はいまでもそう思っている。
殺し合いも悲しみも憎しみももううんざりだ。
そんな奴らは見たくもない。
見たくもない以上は、
四の五の言わずに、
見なくても良い場所にさっさとずらかるまでだ。

そしていま、俺に音楽が帰ってきた。

心の底から、こいつら聴いてくれよ、本当に本当に素晴らしいんだぜ、
死んでいった奴らにも、そう言って自慢できる、そんな音に、ようやく巡り会えた。
俺がベビーメタルにのぼせ上がっているのは、実はそういう理由があったりもする訳だ。



深夜を過ぎた地下鉄の中、前歯の抜けた、まるでゴミのような黒人の男が、
クラック切れの苛立ちの中で、壁をガンガンと殴りつけてる。

FUCK! FUCK! FUCK! FUCK!

その雑音があまりにも疎ましく、
俺はいつものようにIPHONEのイヤパッドを耳に押し込む。

武道館のブラック・ナイトのDVDから落とし込んだテイクだ。

止まない雨 ~ NO RAIN NO RAINBOW

そのスーメタル、中元すず香の声に聞き惚れるうちに、
思わずその歌詞の中に引き込まれ、
なんとしたことか、不覚にも涙が止まらなくなってしまった。

なんという美しい声、
そしてなんという説得力だろう。
中元すず香、本当の本当に天才だな・・・

最近ますます涙腺が緩くなるのは、
老化現象に限ったこと、とも言えないだろう。

BABYMETAL、世界を愛で満たしてくれ。

戦争はもう沢山だ。
人の不幸で金を儲ける奴らにはもううんざりだ。
そんな浅ましい奴らは、どんなことをしても見たくない。

BABYMETAL、
あなた達が戦争を止めてくれるなら、俺はなんでもやる。
スーメタル、中元すず香さん、愛の歌を歌い続けてくれ。
あなたの力で、戦争を止めてくれ
憎しみを、悪意を、恨みを辛みを、悲しみを、
貴女の笑顔とその歌声で、洗い流してくれ。

貴女にならできる。貴女にしかできない。
すず香さん、あなたはそれをするために生まれてきたんだよ。

貴女はその宿命のために天から送られてきた歌姫なのだ。

そんなことを思いつつ、
俺は深夜の地下鉄の中、人知れずサングラスをかけた。





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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