Loading…

創作夢物語:「男が夢を見るということ」 〜 ベビーメタルに運命を狂わされた男たち:我が愛しのコバメタル殿に捧ぐ

Posted by 高見鈴虫 on 18.2018 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
ちーっす、
前回のあの時間差攻撃的後出しじゃんけん。
そうなんだよねえ、この、目がまわるような時間の速度の中で、
ふとしているうちに、その力作的糞駄文のすべてが次々と時間切れとなっては、
無残なお蔵入りを繰り返す、この時代の残酷さというか、なんというか。

つまりはこの時代、やれ、裏を取ったり、信憑性を確かめたり、
ともすれば、誤字脱字、なんてものを校正してるうちに、
なにもかもが、あっという間に賞味期限切れのお蔵入りに叩き込まれてしまう、と。

でまあ、前回のあれもそうであって、
で、実は、そんなお蔵入りクソ原稿ってのが、ともすれば雪だるま式に溜まりに溜まってる訳でさ。
と言うわけでこのオフ期、
そんな残骸の山の中から、
うーん、これ、実はちょっと思い入れがあって、
なんてものを、どうにかこうにか手直しして、
なんていう気も無きにしも非ず。

って訳で、そんなゴミの山の中からふと見つけたこんな糞駄文。
書かれたのは2016年9月14日とある。
つまりはあの東京ドームの前夜祭の頃か。
いやあ今から思っても、あの東京ドームの前、
あまりの興奮と緊張に、
眠れぬ夜を過ごしていたっけな、
と、いまやすっかりと懐かしモード。
そんな時代物の産物ともなった訳なのだが、
なんとなく読み返していて、
ふと、そう言えばこれ、
どうしてUPできなかったのか、
その理由を思い出した。

実はさ、これ、「呪いの原稿」であったりもしたんだよね。

そのテーマがテーマだけに、
これまで何度か書き直しを試みた覚えもあるのだが、
どういうわけか、その書き直しを始めるたびに、
いきなり、PCが落ちたり、あるいは、改竄中の原稿そのものが消えてしまったり、
つまりは、なんというか、
てめえ、余計なことを書くんじゃねえ、と、
そんな妙な因縁を感じない訳ではない、
そんなことが度重なっていたんだけどさ。

でまあ、その理由っていうのを、なんとなくもなんとなく考え続けながら、
そう、時期を待とう、と思っていた。
つまりは、あの糞アンチ派の中傷が収まるまで、
つまりは、そんな糞共の減らず口を、ぐうの音も出ないほどにまで徹底的に叩き潰せるその日まで。
或いはそんな亡者共の怨念がすっかりと除霊が成されるまで。

という訳で、この糞駄文、
いまだからこそ笑って言えるこの「呪われた」妄想の戯言。
そう、俺はあの頃、ベビーメタルにこんな夢を託していた、
その臭くも微笑ましき、敗れ去った者共の浪花節、ではあったのだが。

そしていま、ベビーメタルが正真正銘の天下統一を成し遂げては、見事に除霊も完了し、
この後は本気の本気で見果てぬ夢たる世界征服を目指す時。

今だからこそ、こんな時代もあったねと、笑って読み飛ばせる、そんな余裕も出てきたんじゃね?と。

という訳で、嘗て綴ったこの糞駄文。
まあそう、好きに笑ってくれ、
この俺が、俺の為に書いた、妄想的創作夢物語。
あの天下分け目の東京ドームを前にした、2016年9月の、あの時代をいまだに克明に記憶している、そんな古参メイトたち限定の糞原稿。
これまで語ることの無かった、我が絶対の真のアイドルであるところの、小林啓氏:コバメタル殿へ向けた、心からのオマージュである。

その名も、創作夢物語:「男が夢を見るということ」 ~ BABYMETAL 東京ドームに添えて
副題:ベビーメタルに運命を狂わされた男たち:我が愛しのコバメタルに捧ぐ  作2016年9月14日

さあ、思い切り笑ってやってくれ、
この抱腹絶倒・事実無根の浪花節妄想喜劇。

始まるよぉ〜!





創作夢物語:「男が夢を見るということ」 ~ BABYMETAL 東京ドームに添えて
副題:ベビーメタルに運命を狂わされた男たち:我が愛しのコバメタルに捧ぐ



ひとりの男の夢が、いま終焉を迎えようとしている。

嘗て、敗れ去った男として、
どん底の淵を彷徨っていた男が、
その泥酔いの底に垣間見た、ひとつの眩しい光。

男はその一条の光に、夢を見たのだ。
嘗て潰え去った見果てぬ夢の、その夢の続きを。

ただしかし、男はすでに、そんな幸運を手放しで受け入れるには、
いささか齢をとり過ぎていた。

またどうせ、ぬか喜びに違いない。
こんな光も、どうせいつか、
ふっと消え去ってしまうのか。
そんな儚さを秘めた、一条の光だった。

思えばその人生において、
男はいつも破局を覚悟していた。
この世のすべては物の憐れ。
この一生も、どうせいつかは果てる夢だ。
ただ、どうせ消え去る夢ならば、
誰にも及びもつかない、
世界一大きな夢を見てやろう。

そんな男の見た夢は、ひとりの少女。

そのあまりにも眩しく、あまりにも可憐な、ひとつの星。

少女のその無心が、無垢が、その底なしの無邪気さが、
男の人生の、唯一の、手がかりだった。

少女の名前は、中元すず香、といった。
十二歳、いや、まだ十一歳であったか。
田舎娘丸出しの、だがそれだからこそ、
明るさと素直さ、それだけが取り柄のような、
そんな少女であった。

男は改めて自身の夢を笑った。
こんな小娘が、俺の人生の唯一の支えとはな。

そんな男の胸の内などまるで気にも止めぬように、
まるではにかんだように肩を竦めて笑ってばかりいる少女。

小娘か。
いまはアイドルって言うんだったよな。



またいつもの奴で、居るだけ地蔵でやり過ごした企画会議。
その席で、いきなり向けられた矛先。

アイドル?アイドルが俺になにを?

つまりはまあ、新しい視点というか切り口というか。

で、そのアイドルが俺になんの関係があると?

まあつまり、色々な視点から、今回のこの企画、
つまりは、さくら学院の運営に携わって欲しい、と。

さくら学院?なんだよそれ。

そう、知らなかった訳ではない。

いまや社運を賭けた、とでも言いそうな、
全社挙げてのこの一大企画、である。

全国の津々浦々から、才気に溢れた少女たちをかき集め、
そこで徹底的な英才教育を施しては、
明日のスターを育てる、その青田刈り的な天才教育である。

その企画書を渡されたときから、
ページも捲らずにゴミ箱に叩き込んだ、そんな男ではあったのだが、

で?そのサクラなんちゃらが、俺になにと?

まあ、ですから、色々な視点から、少女たちのその才能を査定して欲しい、訳で。

査定?査定って、そんな毛も生えてないようなお嬢ちゃまたちの、
いったいなにを見て、良いの悪いのなどと・・
奴隷市場でもあるめえし。

いつもの奴で、そんな悪態をつぶやきながら、
その一大オーディションへの招待状。
才能発掘の青田刈りか、

まあ、その、天才少女ってのがどんなものなのか、
ちょっくら覗いてやっても損はあるまい。



おっとり刀で顔を出した公開オーデションの後、
男は改めて、その少女の姿を思い返してみた。

たかが小娘じゃないか、そう言って自分を笑いながら、
妙に脳裏に残ったそんな少女の表情。
それがいったいなんであったのか、気がかりだったのだ。

その錚々たるプロフィールの山を前にしながら、
で、どうでした?オーデション。
気に入った子はいましたか?

どうしたもこうしたも、たかが小娘、
まだおねしょも抜けたばかりのしょんべん臭えジャリじゃねえか。
まったくこのアイドル部、今更ながらいったいなにを考えているやら、

そんなことを思いながら、
改めて先のオーデションで配られた、その出場者たちの資料を捲ってみた。
どいつもこいつも似たような顔しやがって。
こまっしゃくれたじょんじょんばかりじゃねえか。

と、そんな中で、ふと、手が止まった。
この子か、ナカモト・スズカ。

天才少女であるらしい。
幼少の頃から、数々のコンテストを総舐め。
で、可憐ガールズ? 聞いたこともねえなあ。
天才ねえ、確かにまあ、じゃりにしては歌が上手かったが。

改めてタバコを探して、
ああ、そう言えば、やめたんだっけかな、と思いついた。
おいおい、タバコをやめたのは、相当前の話だぞ。

そんなことをぶつぶつ呟きながらも、
そんな男のひとりごとには慣れっこになっている周囲の社員たちは、
またいつものように、そんな男には一瞥さえもくれようとはしない。
ここ数年、会社において男はまさに亡霊と成り下がっていた。
嘗て、時代の寵児と持て囃されていた姿が、まるで、嘘、
あるいは、冗談のネタにされていることも、男は知っていた。

時代の寵児ね、聞いて笑わせるぜ、
自分で自分を笑いながら、
男は再び、そのプロフィールの写真、
氏名:中元すず香、そのページを広げてみた。

天才少女、か。。

ふと、男はその写真に不快ななにかを見た。
違う、と思ったのだ。
この写真、違う。
そう、確かに、あの少女。
あのずば抜けて歌の上手かった少女の笑顔、
ではあるのだが、
そこにはなにか、決定的なものが、欠けていたのだ。

なんだろう、と男は思った。
なにが違うんだ、この写真・・・

改めてその履歴書写真を眺めて見た。
その目に見えない欠落が、あまりにも大きな損失に思え、
男は、思わず発作的にも、その写真を破って捨てそうにまでなった。

このカメラ、なんにも判っちゃいない。
あの子の、魅力、その本当の魅力は、こんなものじゃない・・

そうか、と男は気づいた。
思わず、膝を叩いて立ち上がってしまった。
そうだ、目だ、目。

今になって、男は思い出した。
あの少女の、目。その視線を、ありありと、思い出した。

はにかんだ、まるで借りてきた子猫のように肩を竦めながら、
マイクを持って歌い始めた途端に、その姿が変わった。
そして歌い終えた後、まるで夢から覚めたように、
はっとして見つめた、あの少女の姿。
その目。その視線。
まるで、挑むように、男の視線を見つめて来た、
あのあまりにも直線的な、まるで心の奥底さえもを焼きつくしてしまいそうな、
そんな強烈な視線。

あの目、あの子の目。
俺は思わず、あの小娘の視線から、目を逸らしてしまったのだ。

あれはまさに、獲物を狙う野獣の目、であった。
あのあまりにも直線的な視線。
まさにレーザービームのようであった。

その時になって、男は胸騒ぎを覚えた。
いや、そう、あの少女を見た時から、
この胸騒ぎが、ずっとずっと続いていたのだ。

たかが、小娘だぜ。
そう繰り返していたのは、男の動揺の、その確たる証拠であったのだ。

たかが、小娘に、おまえ、なにをうろたえているんだ。
そして男は、また無意識のうちにタバコを探していた。
俺は、いったい、なにをやっているのだ。
そんな自分に舌打ちを繰り返した。

そして立ち上がった。まずは、写真を撮り直させよう。
そして、そして・・そして?

男は携帯を手にとった。
指が震えているのが自分でもおかしかった。
アイドル部の男がすぐに電話にでた。

どうでした?気に入った子、見つかりましたか?

男は、上擦る声を抑えながら、少女の名前を告げた。
まるで、デリヘルで女を指名するみてえじゃねえか、
と、そんな虚勢を張りながらも、
いや、実は、それは、若き日のあの頃、
震える指であの子の家に電話をしては、
悪い予感そのものに受話器を取った父親に、
あのあのあの、XXさんを、と名前を告げる、
あの一世一代の大勝負の瞬間・・・

そう、少女の名前を告げた時、
たしかに男の心臓が、驚くほどに飛び跳ねたのが、
我ながら可笑しくもあった。

ナカモト・スズカ?

ああ、ナカモト・スズカ、あの子が、欲しい。

ああ、とアイドル部が言った。

ただ、あの子ねえ。。

タダもなにもねえ。俺は、あの子が欲しい。
いや、あの子以外じゃ駄目だ。あの子じゃなくっちゃダメなんだ。
おい、それにしても、なんだよ、この写真。
あの子の、ナカモト・スズカの、魅力がぜんぜん写っていないじゃねえか。
何年この仕事してるんだよ、いいか、あの子の魅力はな・・

そう言いかけて、男は言葉を告ぐんだ。

あの子の魅力は、天使の純潔と、そして、獲物を狙う、野獣の眼差し。。

それこそが、男の美意識の全てであった。
そのことに、今になって気がついた。

すぐにでも連絡は取れるか?とアイドル部に聞いた。

それがですね、あのこ、実は広島の子で。

ヒロシマ?

そう、広島の子で、もう今頃は新幹線に乗っちゃってるんじゃないのかな。

新幹線?

そう、通ってるんですよ、広島から。。

広島?から、新幹線で?女の子ひとりでか?

そうなんです。変わった子でしょ?

そうか、広島か。広島なのか。

で、いつ来るんだ、次は?

はい、また、来週の収録時に。

来週?来週まで待たなくっちゃいけないのか?

はい、まあ、そう、そういう事で、
なんといってもまだ中学にあがったばかりですから。

中学生か、そう、そうなんだよな。

男は改めて、少女の姿を思い返した。そう、中学生なんだよな。
あの中学生が、あの、はにかんだ笑顔を浮かべた中学生の、ガキが、
この俺に、思いきり、メンチを切ったと、そういう訳か。

そしてそれに、俺は、負けたのだ。

そう思った途端、男は笑い出した。
ばかやろう、あの小娘、あの小娘に、俺が、この俺が、負けた。

ふと見ると、社内の奴らが男を見つめていた。

なんだよ、なにがおかしい?そう言いながら、男は笑いが止まらなかった。

なにがおかしいって、この小娘だよ。この小娘、もしかしたら、化けるかも、しれない。

それはまさに、確信であった。



男の目にとまった少女。

中元すず香

当時、まだ11歳であったこの少女に、
果たして、このどん底を這いずっていた男の思いが、
いったいどこまで伝わっていたかは判らない。

あるいはそう、この中元すず香自身、
自分自身のことを、いったいどれだけ理解していたのか、
それさえも怪しいものである。

ただただ、歌うのが好き、踊るのが好き、
それだけを追いかけて生きてきた、
そんな少女であった。

ただ、ひとたび少女がマイクを掲げた時、
果たしてそこになにが巻き起こるのか、
その、魔術と言えるほどの空気の変化。

彼女の姿を一度でも見たことのある者ならば、
その豹変のあまりの凄まじさに、思わず呆気に取られ、
そして、流れ始めた少女の歌、そのあまりの見事さの中に、
いつしか我を忘れて聴き惚れてしまう、
自身の歌声の中に、まさかそれほどまでの魔力が潜んでいようとは、
少女自身、どれだけの自覚があったのか。

少女はただ、歌っていたかったのだ。
そこがどこであれ、誰に対してであれ、
とりあえず、歌が歌えれば、
それだけで満足だったのである。

二度目のオーデションの後、男は率直に少女を褒め称えた。

歌うのをやめた途端に、少女の表情に、本来のあの思わず蕩けてしまいそうな、
甘い甘い、ちょっと間が抜けてさえいるほどの大らかな笑顔が戻ってくる。
覗いた八重歯がなんとも可愛らしい、
それは11歳の田舎娘、そのままの笑顔である。

歌いたい歌とか、好きなジャンルとか、特にあるの?と男は聞いた。

なんでも、と少女は答える。
なんでも歌いたい。どんな歌でも、歌ってみたい。

そんな少女の無邪気な笑顔を眺めながら、男は改めて首を傾げたくもなる。

いったいこの少女のどこに、あの、野獣の瞳が、潜んでいるのだろう。

そしてそう、今、まさに、目の前に展開されたこの瞬間。
つまりは、歌、その、歌を歌い始めた途端、
いきなり本人の人格自体がすっかりと入れ替わり、
周りの空気が見事に一転してしまう、
あのドラマティックと言えるほどの、豹変の様を。

まさにこの娘、まるで、マイクを持った途端に、狐に憑かれるようだな。
人間そのものが、まるっきり入れ替わってしまう。

二度目のオーデションの際に録音したテイクを繰り返し聞きながら、
男は改めて、この少女の持つ、一種危険ささえも感じるその豹変の凄まじさに舌を巻いた。

天使の笑顔と、魔女の視線。
賛美歌と、そして・・・

そのアイデアが閃いたのは、深夜を過ぎて会社の玄関を出た、その時である。

この純朴、とも言えそうな、まさに蕩けそうな笑顔をした少女。
この少女が、魔性に豹変する、その劇的な変化。

それこそがまさに、メタルの美学、そのもの、なのではないのか?

そう思った途端、男はいま降りたばかりのエレベーターに飛び乗り、
廊下の奥の奥、音響部のドアからノックもせずに飛び込んだ。

おい、このテイク、女の子の声だけ、切り取ることができるか?伴奏が邪魔なんだ。

ああちょっと待って、と音響部のその、見るからにオタクな、うだつの上がらなそうな青年。
こいつ、家にも帰らず風呂も入らずに、目を覚ましている時にはアニメとゲーム、そればかりなんだろうな、
そんなことを思いながら、ふと、そのモニターに流れているゲームの映像に目を移す。

これ、メタル、だよな。

あ、はい、と答える青年。

なんで、ロリコンのナンパゲームに、ヘビーメタル、なんだ?

っていうか、最近のゲームのBGM、メタルばっかりなんすよね。

なんで、メタルなんだ?

なんでってか、なんか、テンポが合うんすよ。

メタルと、ロリコンとが、か?

いやあの、ゲームやってるときのバイブレーションと、メタルって妙に合うんすよ。このスピード感が。

そういうものか。

はい、俺、いつも、ゲームの時とか、メタル、ですよね。

メタル、ヘビーメタル?

いや、ヘビーっていうか、メロコアとかも、良くないですか?

メロコア?パンクかよ。

いや、なんていうか、そう、スピード感がいいんすよ。
なんか、そう、ダンス系とか、あのトロさ、なんかまだらっこしくて。

ゲームと、ヘビメタか・・・

はい、出来ましたよ。
ちょっとまあ音残ってますけど、歌とガチってたところ以外は、みんな削りました。

ちょっと、このメタルと合わせてみてくれよ。

この子の歌と?ヘビメタ?良いですけど。

えっ!あっ!これ、まじで、なんか、妙に、合いますね、凄いコラボだ。

ああ、な、そうだろ?なんか、メタルに合うよな。

はい、なんか、妙に、変だけど、なんか、下腹むずむずするような。

馬鹿野郎、また妙な事を考えてるんじゃねえぞ、このロリコン野郎。大事な大事な金の卵なんだ。

日本人はみんなロリコンですよ。一億総ロリコン時代。老いも若きも、ロリコン、ばっかり。

メタル、もか?

ロリコンのメタル、いいんじゃないっすか?
大歓迎ですよ。一年中ハロウィンみたいでさ。

一億総ロリコンのゲーマーか・・・

その夜、少女からの回答を待たずに、
徹夜で仕上げたプロポーザルが、企画部の目に停まった。

いや、正しくは企画部などではない。
あの、でくの坊たちが、いまさら俺の企画などに鼻もひっかけるものか。

男はその企画書を、あろうことか、先代のメアドに直接送ったのだ。

これを読んで欲しい、と書いた。これでもう一度、勝負をかけたい。

昼を過ぎて、突然の連絡が届いた。

緊急会議の招集だった。

なんでそんなものに俺が呼ばれるんだ?

会議の発起人に、自身の名前を見つけた時、
男は正直、膝が震えた。



メタル? ヘビー・メタル?

会議室の面々があっけに取られた。

ただ一人、唯一、あの先代だけが、喉を震わせながら、高笑いを響かせた。

ヘビーメタルって、いったい、なんだよ。

男は、先代だけを見つめながら、繰り返した。

アイドルに、ヘビーメタルを、演らせたい。

馬鹿馬鹿しい、と誰かが呟いた。

おかしくってやってられないと、配ったばかりの資料を投げ出して、
そのまま、席を立とうする者もいた。

おまえ、会社を私物化するのも好い加減にしろよ。
これはビジネスなんだぞ、ビジネス。

男はそんな声などまったく耳に入らないかのように、
一心に、先代の表情だけを、その視線だけを、追い続けた。

この人であれば、この男であれば、判ってくれるはずだ。

喧々囂々の騒ぎが収まった頃を見計らって、
理由を聞こうか、とついに先代が口を開いた。
そのヘビーメタルとやらの。

理由は、と男は会議室の面々を見渡した。

理由は、これです。

これ?

つまり、誰も、思いつかなかったもの、だから。

なんだよそれは、と口々に罵声があがった。
ふざけるのも好い加減にしろ。

つまり、と先代が言った。

つまり、こいつらの、逆を打つ、と。

はい、と男は答えた。
徹底的に、逆を打ってやろうと。

しばしの沈黙があった。

男と、そして先代が、睨み合っていた。

よし、先代がいった。

面白え、やってみな。

えええ、そりゃないですよ、と一斉に声が上がった。

バカバカしいにも、ほどがある!

そんな罵声を聞きながら、男が頷いた。
その拒絶反応の激しさに、成功を、確信したのだ。

舌打ちまじりの面々が席を立った後、改めて、先代から呼ばれた。

で、勝算はあるんだろうな。

はい、と答えながら、男の背筋に戦慄が走った。
がしかし、ここで負けるわけにはいかなかった。

判ってるんだろうな、と先代は続けた。
もうお前、後がないんだぞ。

はい、そのつもりです、と男は答えた。

そのつもりなんだな、と先代が念を押した。

男は改めて、先代と視線を合わせた。

先代の視線がそこにあった。

これでコケたら、お前も、そして、俺も、終わりなんだぜ。

はい、と男は短く答えた。

いいんだな?

はい。

判った、と、先代が初めて笑った。

男の花道だ。どうせなら、思い切りやってくれ。

はい、そのつもりです、と男はようやく少年の顔で答えた。
この先代と、こんな会話を交わすのは、いったいどれくらいぶりになるのだろう。

あのよ、と先代が言った。
お前、俺がこの歳になってまでこんな会社にしがみついてきた、その理由を知ってるか?

夢が、おありになったのか、と。

そうだよな、夢、そんなものもあったよな、と低く笑った。

ただ、と先代が続けた。

俺も歳を取った。俺の夢は誰かに引き継いでもらわねばならねえ。

はい、と男は曖昧に答えた。

お前だよ、と先代が言った。
俺の夢は、お前だ。
お前のその面を、もう一度、拝みたかった、
それだけさ。

あの調子じゃ、予算は取れねえ。
会社としては、なにひとつとしてなにも、してやれることはない。
ただ、全てはお前の一存で決めろ。
口出しだけはさせないつもりだ。
それが俺にできる、唯一のことだ。

はい。

全ての決定に、お前の名前と、そして、と先代は言った。

俺の名前を連名で載せろ。

頼んだぞ、先代は言った。

男の花道、お前の夢を、思い切り咲かせて見ろ。

はい、と男は短く答えた。膝が、喉が、声が震えていた。

背後でドアを閉めたとたん、不覚にも、涙が、こぼれた。





勝負に、出る、と男は言った。
アイドルでか?とその古き盟友は繰り返した。
ああ、と男は返した。笑ってはいなかった。
それを見て、友人の表情から、曖昧な笑みが消えた。

アイドルとメタルで、勝負をかけようっていうんだな?
ああ、男は答えた。今度はちょっと、声が上がった。
アイドルと、メタルで勝負をかける、と、男はきっぱりとそう続けた。

そんな男の切実をはぐらかすように、友人はタバコを咥え、
アイドルとメタルねえ、で、それが何で俺なんだ?と長い煙り吐き出した。

こんなこと、お前にしか、頼めねえだろ。

友人に会うのは、数年ぶりであった。
嘗てのあの潰えた夢、あの悶着の時に、最後に泣きついたのも、この友人であった。
今となっては見る影もなく落ちぶれてはいるが、男の言わせるところの、
この世で唯一信頼できる、正真正銘の天才の中の天才、
そうあるべき筈の、男の唯一のマブダチであった。

判った、と友人が言った。
本気の本気で、アイドルとメタルで勝負をかけるんだな?

ああ、と男は間髪を入れずに答えた。
お前の助けが必要だ。

OK、と友人が立ち上がった。

アイドルと、メタルで、勝負をかけよう。了解。

で、と友人が言った。

で、どこまで狙うんだ?

セカイと男は答えた。

世界?

そう、世界だ。アイドルとメタルで、世界を狙う。

友人が笑った。男も笑った。

アイドルと、メタルで、世界進出か。そりゃいいや。

とりあえず、一曲、いや、二、三曲、必要だ。

それも、世界のマーケットを狙う、凄いやつ、なんだろ?

ああ、そう、世界をぶっ飛ばす思い切り凄い奴だ。

歌うのはアイドル、なんだな?

ああ、だが、バックはメタル。

それも、思い切りのメタル、なんだな?

そう、思い切りのメタルだ。なんの手加減もしない、思いっきりにピュアな、本物のメタル、だ。

で、そのアイドルの歌、なんだが。

ボカロ、でイメージしてみて貰えないか?

ボカロ?ボカロって、あの、初音ミクか?

そう、あの、初音ミク、だ。

初音ミクと、ヘビーメタル、か。これは、かなり、難題だな。

だからお前に頼んでる。

光栄だよ、そこまで買いかぶって貰えるってのもな。

メロは思い切りのシュガーポップ。

その分、バックは思い切りゴリゴリの、ヘビーメタル、と、そういうイメージだな。

ああ、そう、判ってるじゃねえか。

つまり、全ての逆を打つ、と。

そう、そのつもりだ。

初音ミクの歌う、ジューダス・プリースト。

アイドルの歌う、カンニバル・コープス。

初めて声を合わせて笑った。



アイドルとメタルで勝負をかける。

そんな噂が、今となってはすっかりやさぐれていたイニシエのメタル・フリークス達の間を駆けまわった。
アイドルと、メタル?面白いじゃないか。

噂を聞きつけたそんなイニシエのメタラーの者たちから、
続々とデモ・テイクが集まってきた。

どうにでも使ってくれよ、とメタラーたちは笑った。
どうせ日の目を見ることもなく、オクラ入りのまま消え去ろうとしていたもんだ。
切り刻もうが細切れしようが、なんとでも好きなように使ってくれていいぜ。

ああ、そうさせて貰うぜ、男は笑った。

で、なんでアイドルなんだ?

かつてメタラー達は、口々にそう言った。

アイドルと、メタル、最高だろ?これで全てに逆を打ってやるんだ。

そういうことか、とメタラー達は笑った。
そういう事であれば、ご期待通り、
この時代の全てに逆を打つつもりで、思い切りやらせて貰うぜ。

ああ、そうしてくれ、と男は熱を込めた。

思いっきり、心残すことなく、ホンマもののメタル、メタルだけで、やりきってくれ。

アイドルでな、と嘗ての盟友たちは笑った。

ああ、アイドルで、だ、と男も笑った。

勝負だな、とメタラーたちが言った。

ああ、これが多分、最後の勝負になる、と男は答えた。

アキレス・ラスト・スタンド、という奴か。

ああ、ヘビーメタル、最後の、戦い。
メタル・レジスタンス、だ。

メタル・レジスタンス?
気に入ったぜ、と嘗ての盟友たちは口々に言った。

メタル・レジスタンス!
ヘビーメタルに送る、最後の餞だ。
思い切り、本当のほんまものの、最高のメタルの美学で、飾らして貰うぜ。

ありがとう、と、男は、いつになく神妙にそう答えた。

これが最後の喧嘩だ。思い切り輝いてくれ。

ああ、判った、と嘗ての友は答えた。

ここでコケる訳には、いかないからな。

そう、こんなところで終わるわけには行かないんだ。

飾ってやろうぜ、アイドルと、メタルで、
俺たちの夢を、最後の最後の、男の花道を。

メタル・レジスタンス・・・




こうして、長らく開くことのなかった男の心に火がついた。

まずはメロコア、このリズムに慣れて貰い、
ミックスの段階で、徐々にメタル色を取り入れて行く。

メロコア?と少女は言った。

いや、行く行くは、ヘビーメタルと合わせる。

ヘビーメタル?

メタリカ、ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、ブラック・サバス、知っているかい?

いいえ、と肩を竦めて笑う少女。ぜんぜん知りません。ひとつも。

とりあえず、なにも考えなくていい。普段通り、歌いたいように歌ってくれ。
ちょっとテンポが早いけど、慣れれば気にならなくなる。

はい、わたし好きです。こういうテンポも、そう言っていた少女も、
実際に、メタリカの曲を聴かせた時には、目を丸くして、男の表情を省みた。

これ?これがヘビーメタル?

ああ、これが、ベビーメタルだ。

なんか、怖い。

そう、怖い音楽なんだよ。

でも、なんか、面白そう。

面白がられても困るけど。

と、そんな時、ふと、男の口を出た言葉。

君、なにか夢とか、あるの?

夢?

ああ、夢っていうか、大きくなったらなにになりたい、とか。

はい、歌手になりたいです。

歌手ならもうなってるじゃないか。

はい、でも、もっともっと、ちゃんとした歌手になりたいんです。

ちゃんとした歌手?ちゃんとした歌手っていうと?

はい、なんていうか、もっとちゃんと人の心を掴める、
歌で、ひとを元気にしたり、癒やしたり、泣かしちゃったり。

泣かしちゃったり?

はい、そういう、ちゃんとした歌手になりたいんです。

ちゃんとした歌手か。歌ならもう、十分に上手いけどな、その歳ではもう、上等上等だよ。

あの、わたし、もう一つ、こんなこと言っちゃっていいのかな、はい、もうひとつ、夢があります。

もうひとつ?

はい、あの、わたし、歌で、セカイセイフクがしたいんです。

歌で、世界征服? なんだよそれ。

はい、歌で、世界を、征服するんです。

歌で、世界征服?男は笑った。
まったく、近頃のガキは何を考えているかさっぱりわからないな。

ただ、この世界征服、という言葉、なんとなく男の触感に響いた。

歌で、世界征服か。

はい、と少女が飛び上がるように返事をした。

わたし、歌で世界征服をするんです。それが、小さい頃からの、夢、なんです。

気に入ったよ、と、男は改めて言った。その夢、俺も乗らせて貰う。

本当ですか?と少女は言った。約束ですよ。本当に、世界征服できるんですね?

ああ、やってやろうぜ、世界征服!俺もやってみたいぜ、世界征服か、こりゃいいや。夢はでっかく持たなくっちゃな。

はい、と少女は笑った。そうやって笑う少女の瞳に、再び、あの野獣の目、獲物を狙う野獣の瞳が宿っていた。

こいつ、まじなのか?男は思った。この少女は、まじめに、歌で、世界征服を目論んでいるのか。

男は、そんな少女の視線と目を合わせた。今度は逸らさなかった。

歌で、世界征服、やってやろうじゃねえか。男の花道としては、不足はない。

そんな少女と見つめ合いながら、背筋を鳥肌が駆け上がっていくのを抑えられなかった。



アイドルとメタルで勝負に出る。

そんな噂が、かつての友人たちの間を飛び交っている中、続々と嘗ての盟友たち、
今更敗れ去ることのできない、イニシエのメタル・ロッカーたちから、連絡が届き始めた。

ああ、あれからずっと、コツコツ、シコシコと作り溜めていた曲。
ただもう、このご時世だしな。
ゲーム屋に買い叩かれるぐらいならと、
オクラ入りを覚悟してずっと封印したままだったんだが。
だから、まあ、どうにでも好きにしてくれ。
すべてお前に任せるぜ。

アイドルとメタルだってなあ、全てに逆を打つんだって?
いやあ、まったく、お前らしくていいや。

なんとでも言ってくれ。ただ俺は、本気だ。

ああ、俺も見ての通り、今となっては、メタル、なんてすっかり黒歴史。
ただ、まあ、聴いてもらえりゃ判って貰えるよ。
俺はまだ、メタルを諦めたつもりは、更々ねえんだぜ。

ああ、頼もしいぜ。

こいつらを使ってもらえるんなら、なんとなく、俺も、踏ん切りが付きそうな気がするしな。

つけてもらっちゃ困るんだよ、これからメタルを復活させるのさ。

アイドルとの、融合でか?

そう、アイドルとの融合で、メタルを復活させる。
合言葉は、メタル・レジスタンスだ。

気に入ったぜ。
まあ、せいぜい頑張ってくれ。
なんでも言ってくれよ。
俺にできることならなんでもするぜ。
力になりたい。

ありがとう、と男は答えた。
見ていろ、お前ら、そのうち、忙しくて寝る暇もねえぐらいにしてやるからな。

期待してるぜ、と、嘗ての盟友たちは笑った。
本気で、期待してるぜ。メタルの復活。
メタル・レジスタンスとやらを。

男の花道、と男は言った。

なんだよそれ。

ああ、先代からそう言われたんだ。
男の花道、思い切り派手にやれって。

望むところだな、と男達は言った。
ようやくその瞳に、嘗ての輝きが戻ってきた、
そんな気がした。

こうして、男たちの、潰えていた夢が、その断片が、残影が、次第に一つの像を成し初め、
それはまさに、敗れ去っていった男たちの、その夢の結晶として、新たな生命を宿しつつあった。



嘗て、男が探しだし、磨き抜き、そして輝けるだけ輝いたあのバンド。
それが、無残な空中分解を遂げた後、
男の中で、なにかがひとつ、確実に終わってしまった。

それから数年、男はただ、抜け殻として生きてきた。

しかしながら、あの泥沼の中で、
男がなぜ折れてしまわなかったのか。

ここでは死ねない、と、男はそう思ってきた。

こんなところで、コケるわけにはいかないんだよ。

毎夜毎夜の泥酔の底で、この言葉を、男はどれだけ繰り返して来ただろう。

その思いこそが、男を支えてきた、唯一の意地であったのだ。

そしてその思いは、この嘗ての友、
あのイニシエと化してしまったメタル・ロッカー達の、全てに共通していたはずだ。

こんなところで終わるわけにはいかない。

そして今、男たちは、その思いの全てを、ひとりの少女に、託した。

正直なところ、そんな男たちのひとりとして、まさか、アイドルとメタルの融合、
そんなものが、日の目を見るとは思ってもみなかったに違いない。

ただ、そう、この瀕死寸前のドツボの底にあって、
メタル、その言葉を謳えられるだけで、
それだけでも十分、そんな気がしていたのだ。

どうせ、死んだものと覚悟したこの人生だ。
どこまでも落ちて行くのが運命ならば、
できることなら最後の最後に、
思い切り、世界中を照らしだすような、
そんなドでかい花火を打ち上げて見たい。

はい、と少女は答えた。

どうせやるなら、思い切り、派手に行きましょう。

本当に、どんなことになるか、知らないぜ、俺だって。

望むところです、と少女は答えた。

どうせやるなら思いっきりやりましょう、この喧嘩。

喧嘩?

はい、喧嘩です。ライブは喧嘩、戦いです。どうせなら、思い切り派手にぶちかましましょう。

ライブは喧嘩か・・

はい、と少女ははしゃぐように繰り返した。この喧嘩、負けられませんよ。

喧嘩、という物騒な言葉を、こうも無邪気に言い放つ、
そんな少女の視線をまともに受け止めながら、男は聞いた。

君、広島、だったよね?

はい、そう言った途端に、少女の瞳が輝いた。

はい、わたし、広島の人です。

そういう言葉に、すっかりと方言が戻っている。

広島か。

広島人は、喧嘩が強いんです。伝統みたいなものです。負けられんのです、広島人は。

そうか、そういうものか。

どうせやるなら、思い切りでかい喧嘩やってこいって、お父さんもそう言ってくれたんです。
どうせやるなら、世界を相手に、喧嘩して来いって。世界征服です。世界征服の大喧嘩です。

男は笑った。世界を相手に大喧嘩か、まったくこの子という子は。
その表情と、歌声と、そして、そこから転がり出る言葉が、
そのたびにコロコロと人格そのものが入れ替わる。
まるで、依子のようだな。

判った、と男は言った。

その喧嘩、実はもう始まっているんだ。

もう始まっている?

ああ、名前が決まった。ベビーメタル。

ベビー、メタル?

ああ、そう、ベビーメタル。ベビーのやるメタル。ヘビーメタルと、ひっかけて、ベビーメタルだ。

ベビーメタルか。なんとなく、カワイ格好いい。

だろ?そう、ベビーメタル。

ベビーメタル、と少女は繰り返した。ベビーメタル、ベビーメタル、ベビーメタル。

もう重音部じゃない。ベビーメタルだ。

ベビーメタルの世界征服。

そう、ベビーメタルで、世界征服だ。
本気の本気で、世界を狙う。

ベビーメタル、そう繰り返す少女の瞳が、前にもまして燃え上がっていることに、男は一種の戦慄を覚えていた。



男に誤算があったとすれば、
それはまさに、この少女、中元すず香、である。

ライブに呼んだ嘗ての友人たちが、口を揃えて洩らした言葉。

あの子は、あのジャリ、ならぬ、あのボーカリストは、正真正銘の天才だ。

そう、それはまさに、奇跡、とも言える劇的な変化だった。

あの少女、普段はまるで、笑顔を見せるたびに、顔中からとろとろと溶け落ちてしまいそうな、
そんな甘い甘い笑顔を湛えた少女が、
ひとたびステージに登った途端、
まさに人格が豹変する。

その歌は、歌えば歌うほどに熱を帯び、
その熱が、ステージはおろか、
客席を、そして会場一杯に広がっては、
思いもしなかった劇的な効果、
つまりは異様なほどの興奮を巻き起こすのである。

嘗てのメタル・ロッカーたちが、
あるいは、現役のサポート・ミュージシャンとして数々のステージをこなす、
そんな海千山千の凄腕のプロフェッショナルたちが、
まさに、この少女の姿に度肝を抜かれては声を失って立ち尽くす。

おい、これ、この子、この、中元すず香、
正真正銘の、ほんまのの、天才、じゃないのか?

そんな言葉を、数限りなく繰り返されながら、男は笑っているばかりである。

いや、まだまだ、だな。

まだまだ?お前、この子のどこに、これ以上の物が必要だっていうんだよ。
これ、これだよ、この声、この顔、この表情、この目線から、アクションから、
なにからなにまで、爪の先から髪の先まで、
まさに、天才、天才以外のなにものでもない。

いや、まだまだだろ、と男は、普段のあの少女の表情、そのままの、
いまにも蕩けそうな笑顔で答えるのである。

いやまだまだだって、そうあの子が言うんだよ。

あの子が?あの子がまだまだだって言ってるのか?

そう、私はまだまだだって。もっともっと、本当の歌を歌わなくっちゃって。

まさか・・あの女の子が?

なんてったって、夢は世界征服だからな。

世界征服?あの子がそう言ってるのか?

そう、子供の頃からの夢だったそうだ。
歌で世界を征服したいって。

いやはや、まったくだな。

ああ、そうなんだよ。ホントの本当に、いやはや、まったく、なんだよ。

いやはや、まったく、とんでもないことになっちまったな。

見ろよこの大観衆。三万人が一人残らず総狐憑きだぜ。

五万十万なんて話じゃねえよ。
この先、ますます、とんでもないことになりそうなんだよ。

なんかもう、恐ろしいぐらいだな。

ああ、もう、恐ろしいぐらいんだが、
こうなっちまったからには、もう今更どうすることもできないだろう。

なんといっても、夢は世界征服だからな。

ああ、そう、そうなんだよ、夢は世界征服だって、大マジでそう言ってるからな。

いやはや、とんでもないことなってきたな。
でもこれ、もしかすると、真面目に、世界を征服するんじゃねえのか、このベビーちゃんメタル。

いや、実は、俺も最近、本当にそんなことになるのかって、ちょっと怖くなって来て。

ああ、判るよ。俺もこうして見ていて、怖くなってくる。

世界征服か・

まじめに、世界征服、するかもしれねえな。

するだろう、この調子なら、多分。本当に。

いまさらもう誰にも止められないからな。

ああ、もう、誰にも止められないだろう、世界征服。

とそんな時、ステージの上の少女、狐の仮面の影から、ふと、視線に気づいた。

ねえ、ちゃんと見てくれてるの?この私の晴れ姿。あなたの為に歌ってるんですからね。

そんなキツイキツイ視線に、思わず蕩けそうな笑顔で答えてしまう、そんな男なのである。

今になって男は思う。

オーデションで見つけられたは、俺の方なのだ。
俺はあのオーデションで、この少女に見出され、
そして、あの目、あの獲物を狩る野獣の目、
あの、カワイイ野獣に狩られたのは、まさに、俺、この俺、自身だったのである。

俺は少女に命じられるままに、嘗ての旧友たちの、その、才能と、情熱と、執念の、
その全てを結集させ、少女はそれをまさに、それを片っ端から貪り食っては、
すべてをすべて、見事なぐらいに彼女の色に塗り替えては、
それを、凝縮させ、増幅させ、炸裂させ、爆発させ、
今では作った本人さえもが舌を巻くほどに、まさにとんでもない作品として、
この会場中、あますところなくぶちかましてしまう。

まさに、天才。まさに怪物。まさに、ベビーメタル、そのもの、である。

今でも、男の胸には、あのどん底の日々の記憶がある。
今でも、イニシエのメタラーたちの胸には、あのどん底のその底をのたうっていた時代の、
あの焦燥が、あの屈辱が、情熱が、執念が、染み付いてしまったように、色濃く残り続けている。

ここで負けるわけにはいかないんだよ。

メタル・レジスタンスで、最後の花道を飾るまでは・・

そんな男たちの執念を、見果てぬ夢を、その才能の、情熱の、人生のすべてを、
すっかりと飲み込んだ中元すず香。
男達の見果てぬ夢が、その天才少女によって、見事、世界に羽ばたいていく、
そんな、奇跡のような光景が、いま、まさに、目の前に、そしてこれから、
まさに、永遠とも思えるスケールのままに、世界中をうめつくそうとしている。

世界征服か、と男はつぶやく。

まさに、世界征服、目前じゃねえか。

そう言ってみて、思わず笑ってしまった。

先代から連絡が届いた。
もう、先代、なんて、言わせねえぞ、とある。

現役に復帰するそうだ。

お前の、あの、ベビーメタルを見ていたら、思わず、元気になっちまってな。
もう居てもたっても居られずに、世界征服、この手に掴むその日まで、
俺は、ご隠居なんて、やってる場合じゃねえってさ。

そう、このベビーメタルから、この中元すず香から、全てが変わった。

会社の人間が、あのメタラーたちが、ユイが、最愛が、神バンドが、
そして、当然の事ながら、観客たちのそのひとりひとりが、
あの中元すず香のその強烈なパワーに打ちのめされ、洗われ、そして生まれ変わったように、
誰もが誰も、まさに、元気元気、元気の塊になってしまうのである。

そしてこの俺、この嘗ての敗れ去った男、
この俺自身が、まさに、その最高のご利益に預かった一番の果報者。

そして今、その夢はひとつの頂点を迎えようとしている。

東京ドーム、まさに、日本の頂点に位置するこの象徴的な場所で、
まさか、二日連続の史上空前の大コンサート。

そんなものに、この男自身が、関係することができるなんて、
いまだに、まったく信じられない気分なのだが、
そう、全てはあの時、あの、中元すず香という少女を初めてみた時から感じていた、
その胸騒ぎ。
あの興奮によって誘い込まれたその熱の中に、男はいまだに、彷徨ったまま、なのである。

がしかし、東京ドーム、果たして、本当に大丈夫であろうか、
そんなことを思うたびに、あの、少女の、あの蕩けそうな笑顔が自分に向けられているのに気づく。

忘れないでください、夢は、世界征服、ですよ。
これからますます、世界を相手の大喧嘩。
こんなところで、コケるわけにはいかないんですよ。

そして、いま、男の嘗て見た夢が、ひとつの終焉を迎えようとしている。

男の見た夢、いまやそんなもの、完全にぶっちぎられてしまっているのだが、
そう、ここに一つの夢が、見事な成熟を迎えようとしている。

そしてこの夢は、この熱情は、この熱病は、まだまだ終わる気配も見せぬままに、
ますます、世界中に向けて、誰にも止められない暴走を続けていく。

中元すず香、いったいこの少女、なにものなのだ。

いまやすっかり狩られた身としては、そんな少女の赴くまま、その熱情の中に包まれたまま、
行くところまで、行くしか無い、男はそう思って、すっかり肚をくくっている。

男の夢見た花道は、今やダイヤモンド色に輝き、
そしてこの小娘と仕掛けた大喧嘩は、
いまや、海を越え、山を越え、世界を相手に際限なく広がり続けている。

そして男たちの、敗れ去ったまま、敗れ去ることもできなかった、
そんなすべての男たちの夢が、嘗て抱いた夢、
いまにも風前の灯火として消えかけていた夢が、
ここに来て、世界中を燃え尽くすような強大な炎となって、
無限大に燃え広がり続けているのである。

ベビーメタル、いったい、どこまで行くつもりなのか。

そんなことは誰も知らない。

まさに、夢のなかで夢を見る、夢のまた夢、そんな中に、生きているのである。



そして今、一つの夢の終わり、その成就を前に、
男は、そして、男たち、そのひとりひとりの
その自身の夢を、その、情熱と、才能と、魂の結晶の、
その一切合切を綺麗に飲み込みながら、
ベビーメタルは世界へと羽ばたいて行く。

男たちの、見果てぬ夢が、
嘗ての、あの敗れ去った男たちの、敗れ去ることさえできなかった、
そんな男たちの、最後の最後の大喧嘩、
そのあまりにも華麗な敗者復活戦に向けて、
ダイヤモンド色の花道が、
遥か彼方、地平線の向こうの、
海の向こうの、その先の先まで、
永遠と続いているのである。

ベビーメタル・レジスタンス。

ベビーメタルは、まさに、夢を運ぶ巨大なロケットである。

全ての人々の夢を乗せて、その夢を燃料にしては、
永遠の宇宙へと飛び立つ、まさに、夢で作った夢のための暴走銀河鉄道、
あるいは、タイタニック級の巨大宇宙戦艦である。

そしていま、あの東京ドームに集う11万人の夢、
その夢を託されるべく、ベビーメタルが我らを待っている。

男たち、そして、女たち、
ベビーメタルに思う存分、夢を託してくれ。

その夢を、世界の津々浦々にまで運んでいってくれるように、
心の底から、願いを託してくれ。

ベビーメタルはその期待を裏切らない。
それだけは、保証する。

ベビーメタル、世界中をぶっ飛ばしてやれ!
合言葉は、ベビーメタル・レジスタンスで、世界征服だ!!









  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム