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ニシン・ソバ

Posted by 高見鈴虫 on 10.2012 日々之戯言(ヒビノタワゴト)
幸か不幸か、これまで、世界中でそれこそいろんなものを食ってきた訳だ。

まあ良くある話ではるが、俺は犬も食った。猫も食った。
ねずみも食ったし、蛇も蛙もワニもザリガニも、
下手をすると虫、それも、ハエやらゴキブリやらも、
料理として、というよりは、料理に配合されたスパイスとして食った。

ヨーロッパの一流ホテルのフルコースディナーで出されるものなら大抵のものは食った。
キャビアー、やら、トリフやら、もそれだけで腹いっぱいとはならなかったが、まあ添え物としては食ったことは食った。
パリに居たときには徹底的に金がなかったがそれでもエスカルゴのにんにくバターにさそわれてそればかり食っていた。
タイに居たときにも徹底的に金がなかったがヤワラーの先のストリートマーケットで海老の焼かれた匂いを嗅ぐとたまらず。
香港に居たときにも朝は粥、昼はビジネスなにやら、で、夜はそれこそテーブル一杯のなにがなんだかわからないぐらいの皿が埋め尽くし、それでも足りずに深夜にこっそりとモンコックの奥の屋台で、蛇鍋を食らっていた。
という訳で、ここニューヨークでも日本食が恋しい、なんて思うほどの余裕もない。

なんといっても世界一のメルティングポットだ。
世界中からの人が集まり世界中からの料理を作っては世界中の人が世界中の料理を勝手に食っている。
が、それをただそいつらだけに独占させておくなんてのはこのニューヨークではありえない。
つまり、全世界のどんな民族の中でも必ず存在するつまりは俺のような輩が、
どうしてもどうしてもその好奇心に押し切られて訳の判らないレストランの扉を開くとき、
まさに訳の判らない人々のわけの判らない人々によるわけのわからない料理、
メニューを出されてもなにがなんだか、どころか、一文字さえも読めず、
なんてことぐらいで驚くほどの軟弱ものはそもそもこの街に居座ったりはしない。

つまり、そのわけのわからない場所にたった一人、でーんと構え、
いかにも胡散臭げな顔をしたウエイターに、
他人の迷惑顧みず、どころか、それこそ嫌がらせのようなでかい面のまま、
このメニューの一番上に書いてある奴、みんなもってこい、とやるわけだ。

という訳で、そう、この街でも実に色々なものを食らった。

英語が通じない店ほど、煙たがられるほどに、その味は情け容赦なく、
つまりは、本場の味、であることが多く、つまりはそれこそが俺の求めるものな訳だ。

という訳で本題だ、

ここまで、世界中で色々なものを食べてきた俺が、

ふと思うと、なんと、母国である日本の料理が、一番縁が遠かったりする、という事実。

そう、今日、パーキングで車を降りたときに、ふと、

ニシン・ソバ という奴を、俺は食べたことがない、と思い当たったわけだ。

鰊蕎麦。

なぜ、鰊か。秋刀魚や鯖ではなぜいけないのか。
その、鰊とはなにか。焼いたニシンか、煮た鰊か。
で、
それが鰊蕎麦として歴史の荒波を行きぬいてきた以上、
そこはやはり、鰊と蕎麦であらねばいけなかったなんらかの必然性が存在しているのだろうか、と。
一度食べて見るべきか、とふと思ったが、
果たして、
それが、天ぷらそば、と同じ値段だったら、と考えると、
うーん、と考え込む。
はずしたな、やっぱり天ぷらそばにしておけばよかった、
とすっぱりと諦められるほど、天ぷらそばは軽々しいものじゃない。
あえて言えば、
この天ぷらそば様を諦めてまでおまえ、鰊蕎麦を試したのに、
やいやいやい、このまずさはなんだ、このやろう、
と思わず逆切れしてしまう自分が怖いのだ。
逆切れならまだいいが、思わずしくしくとないてしまいそうな気もするのだ。

そう考えると、同じ理由で、蕎麦屋のメニューでは食べたことのないものが多い。
鴨南蛮は食べたことがあるが、鴨蒸籠は、まだだ。
それを言えば、そう、俺はこれだけ蕎麦が好きでありながら、
ふとすると蕎麦屋のメニューをほとんど逃しているではないか。

それを言ってしまうと、
俺はうな重が死ぬほど好きなのだが、
うな重が好きなら好きなほど、他のうなぎ料理にはついつい懐疑的になってしまい、
守りの一手でうな重ばかりを頼んでしまう。

ああ、これまで世界中でありとあらゆるものを食べてきた俺が、
ここにきて、寿司と天ぷらそばにうな重が、どうでもいいや、と思えるぐらいに、
寿司と天ぷらそばとうな重ばかり食っていたい、というのが実は正直なところなのだ。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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