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“God helps them that help themselves" ~ 秋の嵐の中で思い知る、天は自ら助くる者を助くの極意 

Posted by 高見鈴虫 on 30.2016 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments
日曜日の午後遅くになって雨が降るとの予報から、
早めに犬の散歩に出ておこうと外に出た矢先、
友人の一人からメッセージが届いた。

普段から犬仲間たちの集合場所である川沿いのカフェが、
冬の到来を前に、今日を以って今シーズンは店じまいとのこと。

みんなでまたシャングリラでも飲もうかと思って。

という訳で、秋晴れの午後の一時を、今年最後のシャングリラで乾杯、
と相成った。



で、どう?というメンツ。
いや、まあ、そう、あまり芳しくないね、というのが正直なところ。

ええ?また仕事辞めちゃったの?

ああ、このまま居てもどうせろくなことにはならないって判っていたからな。

どうせろくなことにはならないって?

つまりなんていうか、前に居た会社にそっくりだったんだよ。
つまりは、大量レイオフの始まるその嵐の前の静けさ、というか。
その兆候はありとあらゆるところに見え隠れしているのに、
実は誰もがそれに気がついていながら、しかし誰も本気にしようとしない。
そうやってみんな溺れていくんだ。前の会社がそうだったんだよ。
いざ船が沈没して、初めて慌てふためいても後の祭りさ。
泥舟から逃げ出すには早いほうが良い、それを思い知ったからね。

あれあれ、と顔を見合わせる一同。
でも、沈んでもいないうちから逃げ出すっていうのも気が早すぎないか?

それが問題なのさ。
沈む船に長くしがみついていればいるほどに巻き込まれていくことになる。
自力で泳げるうちにできるだけ遠くまで泳いでおくことに越したことはない。

でも、救命胴衣とか、救命ボートとか、会社から支給されるはずでしょ?

ないな、と一言。そんなものはない。期待するほうが間違いだ。
会社はそこまでしてくれやしない。

でもぶっちゃけ、パッケージとかもらえる訳でしょ?

そのパッケージをあてにして最後までしがみついていた奴らが、
一人残らず溺れていくところを俺は見てきたんだ。
二年前に船が沈んで、いまだに漂流しているやつが山ほどいる。
他人を信じちゃだめさ。信じられるのは自分だけ。
救命胴衣をあてにするぐらいなら、自力で大海を泳ぎ渡る力をつけること。
あるいはその体力を温存すること。自力で戦い抜く武器を身につけること。
生き延びるにはそれ以外に方法はない。
前の会社で俺はそれを学んだ。
天は自ら助くる者を助く “God helps them that help themselves."
俺の信念だ。

一同が顔を見合わせては、やれやれと肩をすくめるばかり。

実はいまちょうど話していたんだけどさ、と面々。
ニューヨーク・シティー、このあまりの家賃の高騰で、
自営業の人々はまさに青色吐息。
それに加えて、ニューヨークに金看板を構えていた名うての大手企業が、
高い税金を嫌って次々とニューヨークを脱出している訳で、
その看板だけはいちおうニューヨークにおいてあるものの、
実質的な業務はすべて維持費の安い地方都市に移転。
あるいはそう、出来る限りの部分をアウトソーシングしてしまっているその結果、
ここニューヨークにおける就労人口率は下がる一方で・・・

え?そんな馬鹿な。
政府の発表では失業率の低下が、とか言ってるぜ。

だから、と一同が声を合わせる。
だから、その就労率っていうのが、トリックなのよ。
下の下のミニマム・ウェイジ、つまり、ファストフードの店員だとか、
店の売り子さんやら、そんな仕事ばかり。
ミドルクラスの仕事は激減の一途なのよ。

ついこの間まで、大手企業でブイブイ言わせていたやつがいまとなってはさ・・

とそんな時に、ふと、周囲からの視線を感じる俺。

まあ確かにね、とため息まじり。
まあ俺もなんとか綱渡りを続けているが、
この歳になると、なかなか良い条件を引き出すのが難しくなってるってのは確かだよな。

実はね、色々な会社で首切りが始まってるのよ。
それも、これまで先陣を切ってバリバリやっていたベテランの人たちが、
次々とレイオフを食らっては途方に暮れているのよ。

あの人も、あの人も、あの人も、覚えてる、あんな犬連れていた、あの人も、
実はみんなみんな、一年も前からずっと休職中。

それを言ったら日本の会社は良いよな、と言う能天気な人々に、

いや、それがそうでもないようなんだよ、と事情通の一人。

日本の会社でもレイオフ?まさか・・・

そう、日本の会社ならレイオフにはならない、っていうのは遠い遠い昔の話だそうだ。

部署が廃部となりました、やら、事務所が移転になりました、とか、
いきなり仕事を三倍四倍に重ねられたり、とか、まあ色々な理由をつけてくるのよ。

そうか、日系の会社でもそんななのか。

そう、日本の会社もね、本当にひどいことを平気でやるようになってる。

でも、日本の経済そのものは上向きなんだろ?

それがさ、経済が上向きって言っても、儲かってるのは一部上場の最優良企業ばかり。
アベノミクスとか言っても悪戯に株価のバブルを煽るばかりで、
トリクルダウンだかなんだか知らないけど、まずはお金持ちを儲けさせれば、
じきにそのお金が下々の人たちにも回ってくる筈、とか言いながら・・・

ああ、パナマ・ペーパーだろ?日本の会社がずらりと並んでいたらしいよな。あれ、日本で問題にならなかったのか?

まさか、そんなこと、どこの新聞にもでてないし。

そう、つまり情報統制?

そうなのよ。マスコミとかもう完全に無力化されてるしさ。

情報統制ってより、思想統制に近い。日本はまだ教育レベルは高い筈なのに。

高いからだろ。なまじっかみんな字が読めるから嘘ばかり信じ込まされる。
受験勉強がいい例さ。12年英語の勉強させられても、誰もろくすっぽ英語なんてしゃべれない。
教えている教師からして生まれて一度も英米人と話をしたことがないみたいのばっかりだしな。
教育の為の教育が自閉してしまって全然実用性がないところをぐるぐる回ってばかり。
挙句に受験勉強だけの目的化されちゃってるだけ。
おまけにひとたび大学に入ったが途端、誰も勉強なんてやりたがらない。
つまり大学入試のために一生分の向学心を使い切ってしまうってことなんだよな。

二十歳になるまえに燃え尽きちゃってるのね。かわいそうな人達。

どいつもこいつも、大人しく従順で口答えしない、それだけが取り柄、それだけ。
いざとなったらまったく使いようもない、まるで植物人間だ、ってうちのボスも言ってたな。

それってほら、マツオカやら、タナカやら、日本から来たピッチャーが、
念願のメジャーリーグに入れた頃には既に身体がボロボロっていうのと、似ていない?

それを言ったらアメリカはどうなっちまうんだよ。どこも似たようなものさ。
あのトランプのサポーターを見ろよ。ただの白痴だぞ、白痴。

ただそう、ヒラリーが勝ったら、カリブのマネーロンダリングが既成事実化するばかり。
で、トランプが勝ったら?それこそ世界の終わりだろ。

世界が終わっても良いから、トランプにどうにかして欲しい、って思ってる奴、実は沢山いるんだろうな。

そう、もう既に全てを失ってしまってる人たちが、まさかヒラリーを応援する訳ないし。

この間、中西部に出張に行ったんだが・・そりゃもう酷いものだったよ。
見るもの見るもの全てが廃墟、というよりは、ゴーストタウン。まさに、砂漠だったな。
2008年のサブプライムから、米国はまったく立ち直っていないんだよ。
そういう人々を、民主党は、自己責任と切り捨ててしまった。
そういう人たちのJUONがトランプという悪魔を生み出したのさ。

JUON?呪怨か。そうね、まさに、トランプって呪怨の塊りって感じするわよね。

おまけに、中国とロシアがバックアップするとなったら、アメリカ南部がシリアと同じ状態になる。

まさか・・・

ありえない話じゃないさ。見ろよトランプサポーターの奴ら。もうほとんどただのテロリストじゃねえか。

まあねえ・・

選挙に勝つ勝たない、よりも、あんなゾンビーみたいな奴らが、
このアメリカにあれだけ居るっていうのが白日の下に晒されたわけだろ?
だがヒラリーは選挙に勝つことだけで頭がいっぱい。
なぜあんなトランプがこれだけ力をつけてしまったのか、
その根本原因がまったく判っていないし、わかろうともしていない。
ただ、あいつらはバカだバカだと蔑むばかりじゃないか。
これはまずいと思うよ。
ニューヨークに居るとそんなことさっぱり判らないだろうが、
実際に彼の地に行ってみると、
そのヤバさが、まさに身にしみて感じられた。

それはアメリカだけに限ったことじゃないさ。
ブレキジットを見ろよ。ヨーロッパの移民政策を見ろよ。
我田引水の耳障りの良いスローガンにすがる人たち。
世界中に右傾化の嵐が吹き荒れてる。

みんな恐ろしく視野が狭くなってるのよね。

民主主義そのものが煮詰まってきてるのさ。資本主義と同じようにね。

それが民主主義、あるいは資本主義の進化の結果なんじゃないのか?

とそんな時、隣りのブーくんが妙に切羽詰った顔で俺を呼んでいる。
どうした?お腹すいたのか?またトリート食べすぎて下痢するぞ、

なんかね、会社が会社として生き延びるために、
人間そのものを食い散らかしているとしか思えないんだよな。

あたしの会社も酷いのよ。
儲かっていない訳じゃないのよ。
しっかり儲かっているっていうのに、それを社員に還元するどころか物凄いリストラばかり。
挙句にセールス・エージェントを全部フリーランス扱い、
そんなアコギな契約じゃあ生活なりたたないって判っている筈なのに。

うちもそうだよ。辞められる人、っていうか、
ぶっちゃけ、成績の良いひとたちから率先してバタバタと辞めていってる。

あぁあ、私の今のうちに看護婦にでもなろうかな、なんて思ってた。

看護婦?

そう、この間、TIMES見てたら、この先、看護婦が一番需要が見込まれる仕事だって書いてあったから。

看護婦なんて、フィリピン人たちばかりだぜ。アメリカの医療はフィリピン人に支えられているだ。
タガログ語が話せないと、アメリカでは医者が務まらないんだとさ。

そう、アメリカのIT業界が、いまや完全にインド人に乗っ取られたのと同じようにね。

そう言えばお前、インド人の悪口ばかり言っているよな。

あいつらまったくね・・・まるでゴキブリだよ。

それを言ったら中国人だろ。

グローバリゼーションとか言いながら、儲かるのは会社ばかりで、
私達の給料は減るばかり。

それに加えてAI革命だろ?
これからAIの出現によって、いったいどれだけの人々が職を失うのだろう。

これだけの人々が、AIによってこれだけの人々が職を失います、とか言われているのに、
実は誰も、真剣にキャリアチェンジを考えていない、ってのからして不思議なんだがな。

みんな絵空事だと思っているのよね。

そう、俺の前いた会社だって、一年も前からこのオフィスは閉鎖になるってな通達が出されていたのに、
結局誰一人としてそれを本気にせず、いざ実際にレイオフにされて初めて慌てふためき始める。
人間なんてそんなものだ。口では悪い噂ばかり話しながら、いざ実際それが起こるとなると、
決まって都合の良い楽観論にばかりすがろうとする。

そう、これだけ将来への悲観的な予測が溢れているというのに、こうやっておしゃべりするばかりで、
でも実は誰ひとりとしてそれを真剣に受け止めようとしない。

みんな今日を生きるだけで精一杯で、明日のことさえも定かではなところを持ってきて、
5年後10年後、と言われてもまったくピンとこないんだがな。

とそんな時、また脇からブッチくんがクンクンと鼻を鳴らし始める。

なんだよ、うるさいな、だから、と言いかけたところで、むむむ、どうしたお前・・・

そう、いつもブッチくんのトレードマークたるこの尻尾。
このぶっとい長い尻尾を、いつも旗でもおっ立てるようにピンと天に向けて逆立てているその尻尾が、
いつの間に、ペタンと箒のように下を向いている。

むむむ、どうしたお前、とふと西の空を見れば、いつのまにか川の向こうに広がっていた雷雲が、
いつのまにかハドソン川を越えて、いまにも頭上に差し掛かろうとしている。

これか、と気付いた途端に跳ね起きるブッチ。さあ、帰ろう、早く帰ろうと盛んに急き立て始める。

だからね、AIに関して言えば、これはもうSFみたいな話にもなるんだが、
もしも株屋がAIにトレーディングを任せたらだよ、
それこそ、一夜にして数億の儲けを上げ続ける筈なんだよ。
だがしかし、もしも、各社がAIを用いてのトレードで競合するようなことがあれば・・
ああ、考えたくもないがね、AIはすぐに、より効率よい儲けを上げるには、
まずは敵を叩き潰すか、あるいは、敵と結託してより大きな儲け、
つまりはそう、戦争をでっち上げるのが一番手っ取り早い、という事実に気づくはずなんだよ。

え?でも、すでに株屋はその分析にAIを駆使している筈だけど。

その結果がこれなのさ。まるでそう、雪崩を打ったように、世の中の雲行きが妖しくなっているのも、つまりはそれ。

つまり、最も手っ取り早いお金儲けとは、ぶっちゃけ、戦争をでっち上げるってことなんだよな。

そう、そうならないために、いったいなにをAIに教えたら良いのか、なんだが、
この苛烈な自由競争社会において、その紳士協定を作り上げることが可能なのか。
いったいそれを誰がどうやって作るのか、誰も判っていないんだよ。

とそんな水掛け論に、おい、あの、ほら、雨降りそうなんだけど、と一言。
だが、そう、誰もそんな話は聞いていない。

というわけで、じゃな、と立ち上がった途端、一目散に走り出すブッチ。

おいおい、ブッチくん、どうした?人間様のお話はそんなに退屈なのかな?

いや、こいつがさっきから雨降りそうだって言ってるんだけど・・・なので、俺達はもう帰るから、じゃな。

挨拶もそぞろにブッチの後を追って走りだした途端、早く早くと必死に急き立てるブッチ。
それからはまるで背後から迫る雨雲と追いかけっこ。
三段抜かしで階段を駆け上がる俺たちの横を、いまこれから公園へと下りていく脳天気な人々。
お前ら、あの雲が目に入らないのか?この湿った空気、足元を吹き抜ける冷たい風。
もう5分としないうちに、とんでもない雨が降ってくるなんて、誰にでもわかりそうなものなのに・・

とそんな俺達とすれ違う人々。
脳天気な顔をして、買い物袋を下げた老人たち。
気の早いハロウィン・パーティと出かけていくコスチューム姿の若者たちの一団。
あるいはいまこれから、公園でキャッチボールをしようと走り出していく子どもたち。
そんな人々の脇を、切羽詰まって走り抜ける俺たちに、怪訝な顔をしては振り返る人々。

というわけで、赤信号の交差点をつきっては、角のデリまで辿り着いたところで、ポツポツと降り始めた雨。
アパートの入口に飛び込むのを待ち構えていたように、いきなりドドーン! 世界を雷鳴が包み込んだ。

荒い息に舌を躍らせるブッチの頭を撫でながら、間に合ったな、と思わず満面の笑顔。

というわけで、エレベーターを降りて部屋のドアを開けた時には、窓一面にながれる雨粒の向こうに、、
不気味な稲妻が青白い光で世界を照らし出していた。

いやあ、危ないところだったな、とバスタオルを被ってソファーに座り込んだそばから、
カフェに残した面々から呪いのメッセージが次々と。

もうみんな、全身びしょ濡れ。
最悪、完全に風邪引くぞ、これは。
助けに来てくれ、救援を待つ。
ぶっちと一緒に帰っておくべきだったな、といまみんなで話している。
犬の言うことは素直に聞くべきね。
持つべきものは賢い犬だな。うちの犬はダメだ、この雷ですっかり腰を抜かしている・・

改めて、どうしてみな、嵐の到来に気づかないのだろう。
そして嵐が来た時、いったいどういうことになるのか、
それに気付いた時に、なにをどうすればよいのか、なぜ誰も考えないのだろう。

そう、明日どころか、人々は目の前の出来事に手一杯なのだ。
そして背後から迫りつつある雷雲がいまや頭上にぶ厚く立ち込めていることにさえ気づかないでいる、
普通の人々とは、つまりはそういうものなのだ。

よく考えろ、と思わず呟く。
果たして、嵐が到来した時に、なにをどうするのか、俺はそれを、経験によって知っている筈だ。
他人と一緒のことをやっていれば安全だ、という考えが一番危険なのだ。
嵐の到来を知った時にはまずは一人で走り出すことなのだ。
どの方向に、なにを持って、どう逃げるか、それだけは、いつも考えておくべきだ。

危機において、根拠のない楽観と、他力本願こそが、未曾有の大量被災のその原因。
自分だけはなんとしても生き抜く、そのためには、いつも自分のビジョンを信じること、
つまりは、他人に頼って安心をする、という甘えに、絆されないことなのだ。

そして、その危険を知るもの、
つまりは、最悪の経験から生き延びた経験こそが、もっとも貴重な財産。
そんな最悪の経験だけは、幸か不幸かこれでもかというぐらいに背負い込まされてきた俺だ。
しかしそれは、誰ともシェアすることはできなかったりもする。

そう、信じられるのは自分だけなのだ。それを忘れてはいけない。

まずはなんとしても生き抜くことだ。
それ以外のことは一切考えるべきではない。
それが危機下における唯一絶対の真理なのだから。

灯りを消した部屋に全く稲妻の青い光の中で、腕の中にブッチを抱きながら、
なんとなくこの午後の一時に、妙な予感めいたものを感じている俺なのであった。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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