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秋の夜長の熱視線 ~ 犬の視線に男女の機微を考察してみる

Posted by 高見鈴虫 on 31.2016 嘗て知った結末   0 comments
シングルダディになってからというもの、犬が俺の側を離れない。
始終どこに行くにも着いて来ては、じっと俺を見つめている。
この熱い熱い視線。これぞまさに熱視線。

いまこうしてPC机に座っている時にも、ぴったりと椅子の横におすわりをしては身体を添え、
肘掛の脇からじっとじっと、いまにも穴の空きそうな程に、俺の横顔を見つめ続けている。

思わず、なんだよ、と振り返りそうになるが、それをしたら終わりである。

ひとたび視線が合った途端、犬は待ってましたとばかりにその攻撃を開始する。

ねえ、と肘に前足が伸びる。

ねえねえ。

それでも応えないと、再び前足が伸びる。

ねえねえねえ。
今度はちょっと、その圧力が強い。

なんだようるさいな。

振り返ったとたんにニカっと笑う。

ねえねえねえ、と今度は両足を重ねてくる。

なんだよ。

犬は笑っている。
まさに渾身の笑顔という奴。

思わず、はいはい、と頭を撫でる。

ちょっと邪魔しないでくれ、すぐ終わるから。

犬が尻尾を振っては、ねえねえ、とキスをせがむ。

判った判った、ほら、ちゅっちゅ。

そして画面に視線を戻す。

した途端、ねえねえねえ。

ああ、判ったから、だからちょっと・

と言っても犬は聞かないふりをする。
満面に笑みを浮かべながら、ねえねえねえねえねえねえ・・・

まったくこいつは。
思わず苛ついて睨みつけるのを、犬は渾身の笑顔でそれに答える。

ねえねえ、こっち向いて。

そう、男である俺はこの視線に弱い。

おい、てめえ、いまガンつけなかったか?

ではないが、そう、熱く見つめる視線に気づくと、それを無視してはいられないのだ。

ただ、とふと思う。

そう言えばかみさん・・・



改めて気付かされるのは、我が家の女王様、そのかみさんの不思議である。

普段からこんな犬に、四六時中ひっつかれては、ねえねえねえ、とやられやられて、
そしてこの熱い視線。まるで穴の開くような視線に見つめられ続けながら、
しかしなんともつれない素振り。
そんな犬の視線をその横顔にまともに受けながらも、まるで気にも止めないように、
平気で無視を続けていたりするのだ。

そんな時、思わず、ねえ、こいつ、なにか言ってるけど、と助け舟を出してやりたくもなる。

え?なにが?

だから、ほら、ずっと横にいて、なにか言いたいみたいだよ。

あら、とかみさん。いつものことよ、とあっさりとしたものである。

なにブッチくん。なにか御用?

その途端に、ヒャッホーと小躍りする犬。

やったやった、やっと僕を見てくれた。

ほらね、とかみさん。別に用なんてないのよ。

だったらなんでそうやってずっと見てるんだろう。

見ていたいんでしょ?よく判らないけど。

まあそんなものよ、と言ったところなのだろうか。

という訳で改めて、そんなブッチの熱視線を横顔に浴びながら、
どうしてかみさんはこの視線が気にならないのだろうと考えてみて、
はたと気付いたことがある。

そう、おんな、だから、なのかな、と。

つまりそう、女の子って、実はこんな視線、男たちからの、意味もなく熱い視線とやらに、
始終さらされて生きているのではないのだろうか。

そう、この俺からしてがそう。
ひとたびかみさんの呪縛から離れた途端、
道行く女たち、そのちょっと、意味ありげな謎めいた横顔、
あるいはちょっと悩ましげな胸元、
あるいはそう、思わずしがみついて顔を埋めたくなってしまいそうな、
そんなむちむちと張り切ったそのおしり。
道を歩きながら、地下鉄の中で、駅の階段で、
あるいはそう、犬の散歩の途中であっても、
気がついてみると、女ばかり見ている。
そう、大抵の男なんてそんなものなのだろう。

そんな男たちの視線に晒され続けるこの女たち。

つまり、見つめ続けられることは、女としての宿命であったりもするのだろう。

そう言えば、嘗てかみさんに聞いたことがある。

ねえ、なんでお前は、いま流行ってる、ローライズとか、あるいはピチピチのジーンズとか履かない訳?

え?なんで?とかみさん。
なんでそんなもの履く必要があるの?

だって、と俺。ちょっとでも自慢できるものは思い切り自慢するのがアメリカ流だろ?

お尻の自慢してどうしようっていうの?
いやなのよ、変なのが後ろからついて来るのが。

変なのがついて来たりするの?

さあ、背中には目がないからね。でも、そんなことしたってなんの得にもならないでしょ?

確かに、ニューヨークにおいて、ちょっと良い女が歩いているととたんにそこかしこから口笛を吹かれる。

お前も口笛とか吹かれたりするわけ?

さあどうでしょう、とかみさん。

そんなのいちいち気にしてないから。

ただね、とちょっと悪戯な目つき。

そう言えば、朝にね、駅から会社までの間に、二回も三回も挨拶する人がいるの。

二回も三回も挨拶?どういう意味?

だから、すれ違いざまに、ハイ、って言われて。
で、さっきすれ違った人が、また次の交差点でハイって言ってすれ違うの。

どういうこと?

判らないけど、多分・・・

つまり、一度すれ違った後に、また、後を追いかけて追い抜いてってそういうこと?

そう、そういうことなのかな、って。だって、同じ人だから。

バカなやつだな。

でしょ?バカみたいでしょ?この街の人、そんなのばっかりで・・・

とそんな話を聞きながら、その方法、なんとなく笑える。つまりは、使える、と思っていた俺であったのだが・・・

という訳で、女という種族。つまりは、見つめられ続けて生きることにまるで慣れっこになった人たち。

そんな女を、じっとじっと見つめ続ける犬。

そう、犬って本当に男に似ている。あるいは、俺たちって本当に、犬みたいなやつ、ということか。

ただね、そう、前に聞いたことがある。

男がちょっと良い女の存在に気づく時、それは男が女に気付いた訳ではなく、
女の視線に誘いこまれて、男が気付かされた、それだけの話。

女の視線こそは唯一絶対の武器なのよ、
とその百戦錬磨のすすき野の女王は宣うた。

女はね、ありとあらゆる場所で、その場にいる人々を一瞬のうちに把握するのよ。
そして、気に入った男の子がいると、それとなく視線を送って、
このバカ、鈍感な奴、早く私の視線に気づけってね、ラブラブ光線を送るの。
でもね、いざ男の子が私の存在に気付いた時、一瞬の差でその視線を外すのよ。
そうやって、素知らぬ顔を装いながら、そんな男の子が私のどこを見ているか、それをしっかりと感じ取っているの。
バカなやつ、またおっぱいばっかり見やがって。この寄せパイ・ブラにしっかりと騙されているだけ、とか。
なによこの子、もじもじ恥ずかしがってばかりで、まるで童貞そのものなんだから、とか。
おっとこいつ、今日の私がTバック履いているってすぐに気付いたわね。なかなかできるな、とか。
そうそう、今日のこのコーディネイト、このスカーフがワンポイントなのよ、よくぞそこに気付いてくれた、よしよし、とか。

そんなものなのか?

そうよ、そんなものなのよ。女って凄いのよ。一瞬の視線で全てを把握するのよ。

で、俺はどこを見たの?

あなた?あなたはね、世界で最低最悪のバカ。

ってことは?

つまり、目を見てたの。私の目を、じっとじっと見てたの。ああ、こいつ、バカなんだな、と思ったけどさ。

俺ってバカなのか?

そう、最低最悪のバカ。まるで犬みたいって思った。

犬?

そう、犬。犬ってさ、人の顔すごくじっと見るでしょ?

犬が?

そう、見るわよ。子供ころにうちにいた犬、
もう、始終私のこと追いかけ回して、どこに行くにも着いてきて、
意味もなくずっと私の顔みてて。
で、思ったのよ。なんかこの犬、クラスの男の子たちそっくりって。

挙句の果てに、洗濯物の中から、私の下着ばっかりほじくり出して、
それを犬小屋の奥に溜め込んでたの。
私の大切な下着がなくなった、下着泥棒だって大騒ぎしてさ、
警察にまで通報したのにね。
犯人はうちの犬。大恥かいたわよ。

犬ってさ、本当に男の子に似てる。男の子の塊りみたいなの。
そして、あなた。あなたはね、まさに、犬。つまり、男の子の塊り。

あなたの奥さんの苦労が判るわ。こんな犬みたいな男に始終纏わりつかれてさ。
でもちょっと、羨ましい気もするけどね。



という訳でこの犬である。
何故にお前はそれほどの視線で俺を見つめるのか。
言っておくが俺はゲイではないぞ。
そして、ゲイでも女でもない俺は、そういう視線に慣れていない。徹底的に慣れていないのである。

そして改めてこの犬の視線。熱い熱い熱視線を浴びながら、
こんな視線に晒されながら生きることを余儀なくされた女という種族。
そしてそんな視線を、武器として使いこなすこの不思議な、あるいは、魔物とも言える生き物。

つくづく男には、勝ち目がないのだな、と思い知らされる訳である。

という訳で、賢明なる紳士諸君。

男らしく負けを認めることである。
男は女には勝てない。
好きになってしまったら、させられてしまったら尚更である。

そんな時には、下手な小細工などしないほうが身のためである。
さっさと負けを認めては、素直に心を開いてさらけ出して、お許しを乞うに越したことはない。

その開き直りこそが、男の唯一絶対の武器なのだから。

そしてそんな女たちに、一生尻に敷かれることほど、幸せなことはない、と思い知らされるべきなのである。

と同時に、
こんな俺のことさえも尻に敷けないような馬鹿な女には、
あまり深入りせずにさっさと逃げ去るに越したことも無いわけで。

という訳で、俺の永遠の女王様である、峰不二子、じゃなかった、あの美魔女達。
いまも世界のどこかで、しっかりと勝手気ままな女王様を演じ続けているのだろうか。

ベイビーたち、君たちがどれだけ魅力的であったとしても、
俺はいまだに、かみさんの尻に敷かれたままです。
あしからず。

という訳で、夜も更けた。

おい寝るぞ、と言う前から、そそくさと寝室に消えている犬。

なにもかもお見通しという奴なんですな。

つまりその、こう言っては身も蓋もないが、我が家で一番バカなのは、つまりはこの俺、と。

しっかりと諦めきっては、あなた方の奴隷として、ご奉仕申し上げる次第なのであります。

全ての男は消耗品である。

犬の視線に、そんなことを思い知らさせる、秋の夜長なのでありました。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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