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クリスマス・イヴの朝 冷たい雨に濡れて

Posted by 高見鈴虫 on 24.2016 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments
おぱよ。
クリスマス・イヴの朝、いやあもう、久しぶりによく寝たぜ、
と思ったら、外は雨・・

腹を減らした犬が、俺の身体の上にもろに乗っかって来ては、
顔中ベロベロ嘗め尽くされて、ようやく目が覚めた訳だが、

犬が俺の顔を嘗め尽くしていた、その理由ってのが実は、

そう、俺は泣いていた、のである。

夢を見ていた、らしい。





俺は高校生で、そして友達の女の子、
と言っても、高校の同じクラスの、なんてのでは勿論無く、
不良グループの中のひとり。
つまりはチーム友だち、族仲間、という奴。

別にそんな意識しているって訳でもなくて、
ただ普通に、ただのお友達、であった筈のあの子。

俺はそんな子と、喫茶店の窓際のカウンターに並んで座って、
そしてアイスコーヒーか、クリームソーダか、
そんなものを飲みながらおしゃべりをしている、
そういう設定。

いまね、ユミとケイコと、あとメグに会ってきたところ。

ユミって、あのユミ?

そう、全然わかんなかったよ。日本語も、もうよく判らないって言われてさ。

あいつ、シンガポールに行ったんだよね。

そう、物凄くお金持ちの人と結婚してさ、シンガポールの豪邸暮らし、
とか聞いてたけど。

へえ、凄いな、あのユミが玉の輿かよ。うまく騙したもんだな。

ユミね、凄く太ってたのよ。

ええ、あのユミが?太った?あり得ねえな。想像もつかない。

ただね、ユミ、ひとりで寝てた。
なんかまるで、引っ越して空き部屋になった倉庫みたいなところで。

空き部屋の倉庫?

そう、白いタイルの凄く広い部屋。その真中にベッドが一つ。
家具もなんにもなくて、そんなところで、
お姫様の着るようなレースのネグリジェなんての着てさ。
太ってるのにね、おかしいよね。

俺はユミのあの姿、黄金色のソバージュの髪をかきあげる、
その幼顔に赤いルージュを光らせた、
まさに見るからに積木くずしの少女A、そのものでありながら、
ちょっとしたきっかけですぐにでもピリピリと罅が入っては砕け散りそうな、
そう、あの時代、あの十代の時期を共にした仲間たちの、
いつどんな理由で暴発するか判らない、
その内部に、そんなマグマのような苛立ちを抱えた
あの十代特有の、ピリピリとした雰囲気がありありと蘇ってきた。

ケイコはね、もうおばあちゃん。
あの子ね、苦労したんだよ。二度も離婚して、その度に連れ子を連れて。

ケイコ、あのケイコが?

そう、一度目の旦那は、ほら北中出身のいっこ上の。

ああ、あのペクターにいた、パシリのスギザキ。
あいつら高校の頃から付き合ってたよな。

そう、高校出てすぐに結婚して、ってか、できちゃった婚。
で、それからいろいろあったらしくてさ。

まあ人生いろいろだよな。

そう、いろいろ。いろいろいろいろ、ありすぎて。

ケイコの最初の子供がもう結婚してっていうか、その子供も結婚してて、だから、

え?ひいばあさん?

そう、あのケイコがね、もうおばあちゃんどころか、
下手したらひいおばあちゃんなんだよ。信じられる?

あのケイコがねえ、と思わず。
あの天然ボケのおっとり屋の、あの、実は陰では世界の恋人と言われていた、
あのちょっと足りない、いわゆる一つの公衆便所と目されていた、そんなケイコ。

ケイコね、写真まだ持ってたよ。あの頃の写真。
枕元のいちばん大切なところにね、鍵かけて。
よく見るんだって。ひとりでお酒飲みながら、
ずっとずっとあの頃の写真を見て過ごすのが楽しみって。

メグはね、相変わらず、という言葉を遮って、

なあ、ユースケは、なんで死んだの?

ああ、古賀くん?あの子、飲みすぎよ。
ほら、あの頃から飲んでたでしょ?
馬鹿みたいに無理してさ。
宴会の度に飲みすぎてゲロ吐いて。みんなで介抱して。

ああ、あいつな。クダまくだけ巻いて喧嘩になって、で自分はさっさと寝てるんだからよ。

そう、ずっとあのまま。
あの調子でずっとずっと、酔っ払ってクダまいて、まわりに迷惑かけて、そればっかり。

そうやってでしか、人とつながりを持てなかったんだよな。

そう、そうやってでしか、本当のこと、言えなかったの。

いつ?

もう十なん年も前だよ。あの頃はまだつながりが残ってたから、お葬式にも沢山人が来てたって。

お前も行ったのか?

うぅん、私はほら、僻地に巡業だったしさ。でも旅先に電話は貰った。で、香典も送ったよ。

そうか、ユースケは死んだのか。あのままだったのか。

ねえ、カネダくん、覚えてる?

ああ、ツヨシだろ?忘れるわけはねえよ。

気にしてたよ。あいつどうしちゃってるのかなって。なんか判ったら教えてくれって。

ツヨシが?俺を?

みんなそうだよ。みんな言ってたよ。
へえ、どこにでも行けるのか。
だったらほら、あいつ。アメリカ行ったまま消えちまったあいつ。
どうしてるのかだけでも見てきてくれって。

それで来たのか。こんなところまで。

そうだよ、いろんな人からメッセージ預かって来たんだよ。
メグからもね、ねえねえ、どんなだった?太ってた?禿てた?結婚はしてた?子供は?奥さん金髪?
で、いま、なにやってるの? って。みんなみんな、あんたのこと聞いてきてた。

まあこのザマだけどね。クリスマスにひとり暮らし。身内といえるのはこの犬だけって訳でさ。

なに言ってるのよ。あなたが一番幸せそうよ。少なくともまだ、誰も恨んでないしさ。

そしてふっとため息をついて、その赤い唇でストローの先を突つきながら、
物憂げな視線で窓の外を見つめるす少女。

あっ、思い出した!そう、この子、このオンナ、ヤナギシタ・ミツミ。ミミだよ、ミミ。

やっと思い出した名前が嬉しくて、思わず、ミミはさあ、と呼びかける。

わ、嬉しい。やっと思い出してくれた?
名前を呼んでくれないから、多分、忘れてるんだろうなと思ってた。

そうそう、ミミ、ハナ、クチ、アゴ、クビ、喉ちんこはなし。

そうそう、あんたよくやってたじゃない。
ミミ、ハナ、メ、クチ、ほっぺた、アゴ、で、で、で、次は次は次は、どこ指そうかな、って。

そんなことやってたか?

やってたわよ。あんたいつもやってた。
わたしを見かけるとすぐに走ってきて、
ミミ~、ミミ~、ミミちゃーん、
ミミ、ハナ、メ、クチ、それからそれから、つんつんさせてって。

そうそう、そうだったよな、俺はそんな奴だったよな。忘れてたよ。

可愛かったよ、あんた。本当に、子犬みたいで。

子犬かよ、おいおい。

そしてふと思い出した。そう、あのときもこんな風に、駅前のファミレスでふたり、
向かい合って座っていたところを、ねえ、そっち行ってもいい?ってミミが言って、
え?そっち?と言うまでもなく、いきなり隣にべったりと座ってきては、
ふと物ありげに、そっと視線を伏せて。

そのミニスカートから伸びた白い足。季節はまだ春の初めで、肌寒い曇り空、
カサついた肌、太ももに血管を浮いて見えるような、そんな午後。

ねえ、あんたも夢みたりする?

夢?夢って、あの、少女よ、タイジを抱け、のあの夢?

何言ってるの? 違うわよ、タイジなんて好きでもなんでもないし。
夢よ夢、寝てると見る、夢。
ほら、男の子ってさ、夢に見るんでしょ?
夢に見たとたんにそればっかりになっちゃって、
その夢に出てきた子に、いきなり本気になっちゃったりとか、するんでしょ?

え?なに、なに、なんの話?

ねえ、あんたも夢に見たりするの?ねえ、誰の夢をみるの?

夢なんか見ないよ。寝てねえしさ。

嘘よ、男の子はみんな夢を見るのよ。それでいきなり本気になっちゃうのよ。

そう言いながら、思わせぶりな目つきで俺の顔を覗きみるミミの、
あの一種妖艶とも言えるような、ちょっとおミズ入ってない?っていう感じの、
あの、下手なお化粧に彩られた、あの妙な胸騒ぎの午後。

あぁあ、あたしのこと、誰か夢に見てくれないかな。

そう言いながら、肩に頭を預けて来てはため息をついていた、
あの髪の間から咽るように甘酸っぱいフルーツの香りを漂わせた、あのはすっぱな少女。

ミミか、そう、ミミ。あれはミミだったんだよな。

あのなにもかもが宙ぶらりんだった、高校一年の終わったばかりの、
あの冬の終わりの土曜日の午後。
長い前髪に金色のメッシュの入った、ポニーテールにボーリングシャツ。
その広く開いた襟からのぞく痩せた胸元の、その白い下着の片鱗。
あるいはそう、すり寄せた身体の、
あのミニスカートの間から覗いた、あの痩せた身体には似合わない、
みょうにむっちりとしたその白い太ももの。

そう、ミミだったよな、あれはミミだったんだよ。

そんな俺の思惑を見透かしたように、ふっと笑ったミミ。
そう、あの時のまま、あのミニスカートにポニーテールの、
あの16歳だか17歳だかのままの少女。

いろいろあったんだな。

うん、いろいろね。本当に、いろいろいろいろ。いろいろあってさ。

恨んでるのか?誰かを。

まあね、ただ、もうこうなっちゃったからには、いまさらなにを言っても始まらないしさ。

ねえ、とミミが言った。

好きだったんだよ、あたし。あんたのこと。

それを聞こえないふりをして、あれ、タバコどこだったかな、と胸のポケットを探りながら、
そうだ、俺、タバコやめたんだよな、と苦笑い。

ずっとずっと夢に見てて、毎晩毎晩夢にみてたんだよ、あんたのこと。
そのことで、カオリとタイマンにまでなったんだから。

カオリ?あの、カオリ?

そう、カオリはね、いまはお店やってる。
宇都宮か、高崎か、とか、そんなところで、小さなお店をやってるの。

なんで?宇都宮?高崎?なんでそんなところに?

だから、いろいろあったのよ、みんな。

話せよ、もっと。いろいろいろいろ、あの頃のこと、全部話してくれよ。

知ってるよ、全部。
そう、いまもこうして、みんなのところ訪ねてるしさ。
凄くいろいろなこと知ってるよ。
教えてあげようか?
コージくんはね、凄いのよ、あの人、出世頭。もう見るからに、クミチョーって感じ。
で、オガワくんはね・・

そう、思い出した。なぜ俺がミミを受け付けなかったのか。
そう、ミミは、ミミのことは、あの、ユースケが好きだったのだ。
酔っ払っては、あるいは、酔ったふりをしては、
あるいは、そう、それが言いたいが為に無理に酒を飲んでいたのか。

ミミ、ミツミ、ヤナギシタ・ミツミ、やりてええ、ミツミとやりてええ、すっげえ、やりてええ。

道の真中に大の字に寝転がって、あるいは、電信柱にしがみついて、
そう叫んでいたあのユースケの姿。

そう、俺はなぜかユースケといろいろあった。
一度などは本当に喧嘩になって、そしてユースケは俺を殴って来た。
だが俺は、ユースケを殴り返せなかった。
おい、やめろよ、やめてくれよ、頼むから・・
そう言って逃げ回る俺を、まわりの仲間は呆れて横を向いていた。

んだよ、度胸ねえな、こいつは喧嘩もできねえのかよ。

いや、違うんだ。違うんだよ。
喧嘩なんかいくらでもできる。ってか、やってるだろ、普段から。
ただ、ダチは殴れねえよ。なにがあってもダチだけは殴れねえ。
だってよ、俺たち、ダチなんだぜ。仲間だろ。
俺達から、こんな俺達から、友達を取ったら、いったいなにが残るっていうんだよ。

そう、俺はユースケにタイマンを張られて、
そしてそれを受けなかった。受けることができなかった。

あの時、俺はユースケに謝ったのだ。
なにが気に障ったか判らねえ。ただ、やめてくれねえか。
殴って気が済むなら殴ってくれ。ただ、俺にはお前が、殴れない。

なぜ?

そう、好きだったからだよ。
俺はユースケが、俺は仲間が、俺は俺らの、ダチの、チームの、
そう、好きだったんだよ。好きなやつは、殴れねえんだよ。

そしてそう、あの街を出て、俺はあの頃の借りを返すように、
実に気楽に、実に簡単に、時としてそれを楽しむように、人を殴り始めた。
つまりはそう、好きではなかったから。
俺は人間が嫌いになったのか?違う、違うんだよ。
俺はそう、あの頃のあの仲間、あのダチ、あいつらしか、愛せなかったからなんだよ。
そしてあのダチを失った時、俺にはもう、愛することのできる人間が、
殴るに殴れない、そこまで好きになれる人間が、居なくなってしまったのだ。

知らなかったんだね、とミミが言った。

古賀くんから電話貰ってさ、つきあってって何度も電話貰って。
で、なんで駄目なの?って何度も聞くから、でも答えなかったんだけど、
したらね、あんたのことを言い始めて、で、だったらタイマン張るって。

なんだよ、そんなことだったのか。つくづく情けない奴だ。
そんなことと知ってたら、

知ってたら?知ってたら殴れた?

いや、判らない。

でしょ?じゃなかったらもしかして、わたしを奪い合って、喧嘩してくれた?

まさか、と思わず笑ってしまった。だって俺、お前のこと、好きでもなんでもなかったし。

そうなんだよね、そう、それは判ってた。判ってたんだけどさ。

そして思い出した。そう、ユースケはついにミミを手に入れたのである。

処女じゃなかったよ、と言っていた。

あの事件の後、シュージがあんなことになって、
そしてお決まりの解散式の後、いつしか疎遠になった俺たち。
二年に上がってからは俺は学校にも行かずに、
バンドばかりで駆けずり回っていた、そんな時、
バンド連中のたまり場であった事務所代わりの地下室のスタジオに、
ユースケはいきなり電話をかけてきたのだ。
ミミとやったぜ、とユースケは言った。
おお、やったじゃねえか、と素直に喜んでやったら、
ユースケはそれを、妙に驚いていたのだ。

え?おまえ、平気なのか?

平気ってなんだよ、夢が叶ったじゃねか。良かったな。すげえ、良かったな。
で?どうしたんだよ、やっぱ酒飲ましたり?
っていっても、ミミの方が酒強いからな。
だったら、またいつもの奴で、介抱してぇ、とか甘えたのか。

いや、そう、飲んでたんだけどさ。飲んでて、また酔っ払って、
で、ついついやっちまったんだよ、いつもの奴を。

え?あの、あれ?あの、ミミとやりてぇ、すっげえ、やりてええ。

実はそう、まじで、そう、あれ、やっちゃって。

ミミ、ミツミ、ヤナギシタ・ミツミ、やりてええ、ミツミとやりてええ、すっげえ、やりてええ、って?
げええ、恥だよ、恥、それ、ちょっとまじで、凄えな、あれやっちゃったのかよ。

したらさ、したら、そう、俺も意識なくて、気持ち悪くなって、ゲロ吐きそうで、
したら、そう、ゲロ吐きてえ、とか言ってたら、

言ってたら?

だったら、一回だけだよって、言われてさ。一回だけでよかったら、いいよって。

そう、あの話を聞いた時、俺は思っていたのだ。オンナって、やっぱ凄いなって。

で?で?で?

で、も、なにも、覚えてねえんだよ、俺。なにも覚えてない。
どんなパンツ履いてたかとか、どんなおっぱいしてたかとか、あそこはどんなだったかとか、
なにも覚えてねえんだよ。ただ、

ただ?

すぐ終わっちゃってさ。もう、いれた途端に、入ったかな、これがセックスってやつなのかな、とか思った途端に

んだよおめえ、情けねえな。だから言ったろ、最初は、本当に好きな女とは、しちゃだめだって、

ああ、まじで、すっげえ、情けねえってか、まじ死にてえっていうか。ああ、また飲みたくなってきた。

嘘よ、とミミは言った。全部ウソ。

え?じゃあ、あの時、やってなかったの?

え、まあ、いいじゃない、っていうか、今更なによって。

お前、ユースケとも、逢えるんだな。

そうね、どうやって逢えるのかは判らないけど、そのうち、会うことになるのよね。

よろしく言っといてくれよ、次に会ったらぶっ飛ばすって。

できる訳ないじゃない、あんたに。
あんた、古賀くんのことあんなに好きだったじゃない。
いつもじゃれあってさ、いつも子犬みたいにじゃれあってさ。

そうだったかな?俺が、ユースケと?男同士で?

そうよ、あなたたちいつもじゃれあってた。
朝から晩までプロレスごっこみたいなことばっかりやってさ。
あぁあ、あの相手がわたしだったらなあ、なんて、思っちゃったりなんかしてさ。
でも、
あんたにはカオリが居たものね。

いや、実はさ。

でしょ?そうでしょ?あんたはカオリのこと実は本気じゃなかったのよね。

ああ、そう、悪いけど、俺はカオリじゃなかった。

キミエ?

いや、まあ、そう、キミエとも実は、あの後も色々あったんだけど。

知ってるよ。キミエから電話来たもの。駄目だったって。

駄目?

そう、思い切り根性こめて誘ったけど、やっぱ駄目だったって。

いや、駄目っていうか、ってか、そんな誘われた覚えねえけど。

あぁあ、まったくねえ、あんたってか、あんたたち、ほんとに餓鬼だったのよね、
女の子の気持ちなんて、これっぽっちも判っちゃいないっていうかさ。

ガキなのよね、とため息をつくミミを眺めながら、
そんなミミ、そう、俺だって思ってたさ、このままやっちまおうかなって。
でも、でも、でも・・・

好きだったのよ、あんたのこと、とミミは繰り返した。
ただ、それが言いたかったの。ただそれを、言っておきたかった、それだけなのよ。

おめでとう、とミミが言った。

おめでとう?なんだよ、いきなり。
なら、いまだったら、いまからでもやらせてくれるなら、俺はいつだって、何度だって、

そんな軽口をしっかりシカトして、ミミが言った。

あなたが一番幸せ者よね。
あんたの奥さん、あの人、どこで見つけて来た人?
いま日本に帰ってる奥さん。
ふふふ、大丈夫よ、心配しないで、ちゃんと帰ってくるから。
たださ、皮肉なものよね。
まさかあんたみたいな人がさ。
よりによって、まさかあんなタイプの、
優等生のしっかりものの勉強メガネの、
そんな人と一緒になるなんてねえ、
もうなにもかもが信じられないってかさ。
人間、ほんと、判らないものよね。
ただね、そんなあんたを見て思ったのよ、
ああ、わたし、間違えてたんだな、って。

間違えた?

そう、あんたはほら、
わたしたちの前ではしっかりとあんなだったしさ。
そんなあんたに夢に見て貰うには、
わたしはもっともっとビッとした不良にならなくっちゃって焦ってたけど、
実はそれ、逆だったんだよね。
ほら、
あんたさ、あの変な友達、いたじゃない?
あの、美術部の、生徒会長の。
あれを見たところで、わたしは気づくべきだったのよね。
あんたって実はそういうタイプじゃないって。
あんたは不良でなんかなかった。
少なくとも、不良に憧れてなんかいなかった。
そう、あんたは違ったのよね。その理由が。
それがわたしには判らなかったの。
あなたが欲しがっていたのは、実はそんなものじゃなかったって。

だったら、と俺は思わず聞いた。

ミミ、だったら俺が欲しがっていたものって、いったいなんだったんだ?

ごめんね、もう行かなくっちゃ、とミミが言った。

こう見えても色々忙しくてさ。なんてったって、49日しかないしさ。
実はもう、残り半分もないのよ、思わぬところに長居、なんてのを繰り返しててさ。

そういうことなのか?

幸せになってね、ってより、あんたは十分幸せよ。
だって、欲しがっていたもの、ちゃんと見つけたじゃない?
くっそお、間違えたな、って。
それが判っただけでも、逢えてよかった。
で、みんなになにかメッセージある?
これからまだまだいろんな人たちのところ回るつもりだけど。

ああ、ヨロシクって。

なによ、みんなそういうのよ、メッセージある?って聞くと、ヨロシクって。

ヨロシク、か。ヨロシクだよな。

言っとくわよ、ヨロシク、って言ってたよって。
相変わらずガキよねって、笑ってあげるわよ。

なあ、と言いかけた時、ミミはもうすでに夢から掻き消えた後だった。

おい、ミミ、と俺はなおも彼女の名前を呼んで、
そして、悪い、俺はそんなミミのことよりも、ユースケに、
あのユースケに、逢いたい、凄く逢いたい。
ユースケに、あのヘタレのハンパの根性なしの酔っぱらいの、
そんなユースケに、逢いたいって、死ぬほど逢いたいって、
その言葉を、いままで決して口に出せなかったその言葉を、
思わず叫びながら、そのとたん、俺は、崩れ落ちてしまった。



そして雨に洗われたクリスマス・イブの朝。

ふと目がさめると、犬が俺の顔を嘗め尽くしている。

おい、お前、重い、重いからどいてくれってよ。

そんな俺を面白がるように、
犬はこれでもかとその体重の全てを俺の胸の上に乗せながら、
一心不乱に俺の顔を嘗め尽くしている。

だから、とそんな犬の身体を撫でながら、ふと俺、思ったんだよ、

お前、もしかして、ユースケ、なんじゃねえのか?って。

犬はもちろん、そんなことには答えずに、ただ、がむしゃらに俺の顔を、
その涙の跡を、舐めあげるばかり。

馬鹿野郎、やめろって、やめてくれって。

くそったれ、長寝なんて、するもんじゃねえな。

判った判った、ご飯にしよう、いま起きるから、起きたらご飯を作るから、
だから早く、そこをどいてくれないか?

そして終末を疾うに過ぎた、
クリぼっち連休の一日目、
冷たい雨に濡れたクリスマス・イヴの朝は、
そうやって始まったのであった。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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