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超猛犬ムスタング・サリーの受難

Posted by 高見鈴虫 on 04.2017 犬の事情   0 comments

いや、ちょっと、真面目に、深刻な話。

え?また、あのトランプねた?
いやいや、それどころじゃないんだよ。

実はさ、ムスタング・サリー、

我がブーくんの唯一絶対のガールフレンド、
というか、多分本人は、お姉さん、或いは、お母さん、
と思っているのではないか、という、
そう、我が家のブーくんの、唯一絶対のロングタイム・コンパニオン
であるところのムスタング・サリー。

今更ながらこのムスタング・サリー、
このご近所では知らぬ者はいない、猛犬の中の猛犬。

マスティフとピットブル・テリア、
考えうる限り、最低最悪、最強最凶の掛け合わせであるところのサリー、

つまりはこんな犬 ↓ 





このムスタング・サリー、
まさに狂犬の中の狂犬、猛犬の中の猛犬の誉れも高く、
このご近所においては鼻つまみも鼻つまみ、
と同時に、どういう訳か、我が家のブーくんが、
この世で唯一人、絶対的なまで心を通わせる、
まさにソウル・メイト、まさに魂の友、であるところのムスタング・サリーが、

なんと、いきなり、癌、を宣告されてしまったのである。





ことの起こりは二ヶ月ほど前、
クリスマスを前にしたある夜のこと、

飼い主のジェニーから、どうも、おしっこの出が悪い、とのお話。

サリーがおしっこをするたびに、いそいそと駆けつけては、
その後から自分のおしっこをかける、ってのを天命とする我が家のブーくん、
ただそう、サリーがおしっこをし始めてから、そのし終わるまでが長い長い、
待って待って待たされて、思わず待ちきれずに顔を突っ込んでは、
その鼻先におしっこをかけられる、なんてことにもなってしまう訳で、

で、ちょっとこれ、お医者に行ってみれば?
なんて話をしていたところ、
かかりつけの獣医さんがようやくクリスマス休暇から帰って後、
検査の結果、どうも尿路結石が見つかった、とのこと。

尿路結石?

まあ人と違って痛みは無いようなんで、気長に薬で溶かしながら、
なんて話をしていたのだが、その治療期間中、
朝な夕なに叩き起こされては、深夜の舗道でおしっこちょろちょろに付き合わされるジェニーさん、
正月もそうそうに、いまにもぶっ倒れそうなぐらいの完全な睡眠不足状態。

なんかこれ、もう一月にもなるのに、まったく改善がみられず。
で、そんなムスタング・サリー、そう言えばそう、いつもの元気がない、というか、
その毛並みのその艶が、ちょっと目に見えて輝きを失っているような気もする。

そうね、もう一度お医者に行って見ようかしら。

あるいは、そう、セカンド・オピニオン。

そう、そんな時、俺にはちょっと、嫌な予感に気がついていたのである。

このムスタング・サリー、誰でもが恐れおののく、この猛犬の中の猛犬。

でありながら、そう、こと、俺には、まさに絶対忠誠の忠犬、というよりは、
可愛い可愛い愛娘、そのもの。

なんてたってブーくんのガールフレンドだし、
それにそれに。

そう、もう一年も前のことではあるが、
俺が浪人生の失業者であったその頃、
午後を過ぎた頃、また図書館で一心不乱に参考書を読み漁り、
ってのは嘘で実はいつものようにまたうつらうつらとしていたのだが、
そんな時、いきなりジェニーさんから電話を貰ったことがあった。

サリーが、大変なの、とパニクった声でまくし立てるジェニーさん、

いま、部屋の掃除をしてもらっているメイド・サービスの人から電話があって、
サリーがとんでもないことになってるっていうの。
で、そのメイド・サービスの人、例によって、サリーには怖くて近寄ることもできず、
ただ・・
お願い、ちょっと、家に寄って、サリーの様子を観てきて欲しいの。
で、もしも必要ならば、そのままお医者に連れて行って欲しい・・

という訳で、午後の模擬試験の予定をうっちゃって、
様子を見に出かけたのではあるが、
ドアを開ける前から廊下中に立ち込めたこの異臭。

恐る恐る顔を出したメイド・サービスのラテン系のおばちゃん。
鼻をつまみながら、あれあれ、と奥の寝室のドアを指差す。

あの中に居るの、怖くてドアは開けられない。

という訳で、恐る恐る足を踏み入れた途端、
まさに床中が、血の混じった下痢便の海。
その赤茶けた下痢便の海の中に、力なく寝そべったサリーの姿。

サリー、どうしたお前!。。

思わず駆け寄って抱き起こすも、ぐるぐると喉を鳴らすばかりでぐったりとしたまま立ち上がる力も無く。

その光を失った瞳。そして、乾ききった口。

やばいな、完全に脱水症状を起こしている。

という訳で、取るものもとりあえずその下痢便まみれの巨体をバスタオルに身体を包み、
えいやあと抱き上げたムスタング・サリー。

その体重、まさに、50キロ近く。
思わず腰が背骨が、ギリギリと軋むのを感じながら、
いやしかし、まさに無我夢中の火事場の馬鹿力。

大丈夫か、サリー、頑張れよ、いまお医者に連れて行ってやるからな。

という訳で、その巨体、まさに熊のような猛獣を抱え上げては、
獣医さんまでの3ブロック、その長いこと長いこと。

バカヤロウ、と思わず。
サリー、頑張れ。なにがあってもお前を死なせたりはしない。
お前はブーの大切な人で、つまりは俺の娘でもあるんだから。

という訳でようやくたどり着いた獣医さん。

診察ベッドの上にその巨体を寝かした途端、
まさにヘナヘナと床に座り込んでしまっては、
そんな俺を見つめるサリーのあの健気な、健気な眼差し。

サリー、心配するな、俺がついているから大丈夫。

という訳で、矢庭にぶっとい注射だ、点滴だと大騒ぎの中、
それを床に座り込んだまま呆然として眺めながら、
そう、そんな中、不安げに目をパチクリとさせるサリーを眺めては、
思わず、ニヤニヤ笑い。

おいおい、サリー、
ムスタング・サリー、と恐れられたこの超猛犬が、
こんなしおらしい顔をしては、怯えた目をパチクリ。

思わずその顔を身体を抱きしめては、
大丈夫大丈夫、心配するな、すぐに良くなるから、とその鼻先にキスの嵐。

という訳で、危機一髪、という程でも無かったらしいのだが、
取り敢えずは九死に一生を得たムスタング・サリー。

帰りがけにはよろつきながらも、なんとか自力で歩けるようにはなって、
で、そのドサクサの中ですたこらさっさとツンヅラを決めたハウス・メイドさん、
そのやり残した下痢便の始末も俺が引き受ける羽目になって、

そんな俺に、まさに、デロデロ、べろべろに甘えてくるムスタング・サリー。

判った判った、もう良いから、と言って聞かせてもどうしても側を放れず。

結局は、ジェニーさんの帰宅までの間、
肩の上から膝の上から纏わりつかれてはいまにも押しつぶされそう。

という訳でそう、犬は、
ことに、猛犬、などと言われて人々の鼻つまみである、
そんな猛犬の中の猛犬は、
ひとたび、そんな恩義を預かったが最後、その忠義はまさに一生もの。
それ以来、この猛犬の中の猛犬が、ひとたび俺の顔を観た途端に、
ぺたんと耳を倒してはこれでもかとお尻を振っての大サービス。

普段であれば、気に入らない犬が、と見るや、飼い主のジェニーさえも弾き飛ばして
しゃにむに突進を図るこの猛犬が、あれ以来、俺の姿を見た途端に、
はいはいはい、と全てを投げ打っては馳せ参じてくるようにまでなった訳で、
怪我の功名と言うべきかなんというか。

そんな顛末を知ってか知らずか、まさに我が家のブーくん、
例え槍が降ろうが矢が降ろうが、なにがあってもサリー一家の一番の子分、
この麗しの超猛犬の側を片時も放れず、
そんなブーくんを、まさにいまにも蕩けそうな顔で見つめるサリー。

そんな相思相愛の二人、であった訳なのだが・・・

で、そのサリー、尿路結石という診断ではあるのだが、
そんなサリーが、何時になく、妙に俺に甘えて来るのである。

そんな甘えん坊モードいっぱいのサリーの姿に首を傾げるジェニーさん。

そう、サリーと言い我が家のブッチと言い、
こと、猛犬と言われるそんなタフな犬が、
妙に甘えてくる、というのは、確かになにか不安な要素、
つまりは身体の何処かが悪いという予兆でもある。

そう言えばうちのブッチも、身体の調子が悪いととたんに甘えて来るからな。

という訳で、頼むから、騙されたと思って、いざとなったら診察費俺が出すから、
と飼い主のジェニーさんを説き伏せては、
全米に名前の轟く名病院の中の名病院である、
AMC:アニマル・メディカル・センターでの検診を促したのであるが、
その結果、やはり、悪い予感が的中してしまった。

癌?
癌って、なんだよそれ・・・

まあでも、こうして早期発見できたのは不幸中の幸いだって。

今ある腫瘍をレーザー・メスで切り取った後、キモ・セラピーの治療に移る。
まあそう、体力はこの通り、人並みどころか、熊並だから、まあその点は心配はないそうで、

つまり、治る?

それはまあ、レーザー治療とキモ・セラピーの結果次第、らしいんだけど。
ただそのレイザー治療をしてくれるお医者さんが、いまニューヨークから出払っていて、

だったら手術はいつ?

それが、ボストンまで行かなければならないのよ。

ボストンまで?

そう、だから、そのボストンのお医者に連絡が取れるまえの間、
なるべく早いうちにキモ・セラピーを開始する必要があるそうで。。

ただ、まあ、そう、歳も歳だしね。

そう、あの猛犬中の猛犬と言われた超ハイパー・ドッグのブッチも、すでに今年で八歳。
人間で言えば、五〇歳を越えた、中年から下手をすれば老年期である。
そんなブッチのお姉さんであったムスタング・サリー、
既に齢いは十を越える。

既に七十も近くなった老年の犬に、キモセラピーでの延命が果たして必要なのだろうか。
そうして生き残ったとしても、たかだか余命は・・・

いやいやいや、と言い張る俺。
いやいやいや、だから、だからこそ、だろ。

思わず、お願いだ、と頭を下げる。
もしも、もしもの時には、治療費は俺が払う。

そう、ムスタング・サリー、
この猛犬の中の猛犬、ご近所中の鼻つまみの狂犬、ではあるのだが、
そう、我が家のブーくんの唯一絶対の友、そのガールフレンドであり、お母さんであり、
そしてそんなサリー、まさに俺の娘でもあるのだ。

という訳で、ボストンでのレーザーメス治療を待つ間、
一足早く、キモセラピーの治療が開始されることになった、
その一回目の治療の夜。

普段であれば、九時を回った途端に、いまから出かけるよ、とメッセージ、
それを合図にドッグランに集合することになる猛犬パーティ、
だがしかし、今夜に限ってはそういう訳にも行かない。

キモ・セラピーの後の一週間は、その排泄物に大量の毒物が含まれる為、
ドッグラン、あるいは、他の犬達との接触は厳禁なのだ。

え?なんで?どうして?なんで今晩はサリーに逢えないの?

そうやってむずがるブッチ君。
いや、だから、と幾ら言っても聞く耳持たず。
そんな事情を知ってから知らずか、今晩に限ってなにを言ってもガンとして受け入れず。

そんなこんなでブッチ君、
家を出た途端に、矢庭にドッグラン、ならぬ、サリーの住むアパートの前に直行しては、
その玄関の前に座り込んだまま、いくら言っても、どれだけ綱を引っ張っても、
泣いても脅してもおやつで吊ってもガンとして受け入れず。

じっとじっとサリーの住む部屋の窓明かり顔を向けては、まさに狛犬のように動かないでいる。

いい加減に業を似やしたかみさんが悲鳴を上げては、
もう、良い、あなたは一生そこにいなさい、といつもの必殺技、
綱を放して、勝手にしろ、とスタスタと歩き始めては、その角を曲がっていないないばー、
大抵はそこまでくると、渋々と、あるいは慌てふためいて駆けつけてくるところなのだが、
今日に限っては、恐る恐るビルの陰から様子を伺っても、
じっとじっと座り込んだブッチくん、
一心不乱にサリーの窓辺を見つめたまま、なにがあっても動かないと石のような決心を固めているらしい。

そんな事情を知っているご近所さんたち。
普段からは、あの超猛犬のピットブルと、
そして、あの見るからに凶暴そうなキャトル・ドッグのこの最低のコンビ、
そんな輩たちに眉を顰めていた筈の住人たちが、
そんなブッチの健気な姿に目を止めては、思わず涙をホロホロ。
手元のIPHONEで写真を撮ったり、あるいは、そう、アパートのドアマンに、
これ、サリーの飼い主に渡しておいて、と、御見舞の花束、
どころか、紙に包んだ寄付金までが集まり始めているらしい。

という訳で、超猛犬のムスタング・サリーの闘病生活と、
そして、それを見守る子分たちのこの健気な姿、
このご近所で、ちょっとした話題になっている、との話でした。

改めて、たかが犬、されど犬、

犬は家族であり、そして人類最古の、そして最高の友、

そしてひとたびそんな犬を飼ってしまった以上、
それはまさに、天からの授かりもの、あるいは、預かりものである。

そんな犬が、例え、シェルター、つまりは捨て犬センターからの貰い物であろうとしても、
その短い一生を、思い切り幸せに過ごさせてあげることは、
まさに、人類の科せられた重大なる責任である。

そしてそう、犬の幸せこそは、まさに飼い主としての人間の幸せ、そのもの、なのだ。

なにがあってもサリーをみすみす見殺しにしたりはしない。

犬にキモセラピー?老犬をそこまで延命させてなんの意味がある?

そんなことを抜かすバカヤロウ。

そう、俺も必死なのだ。
それはサリーの為でもあり、飼い主のジェニーさんの為でもあり、
そして、我らがブッチの、そのブッチに幸せの全てを託すこの俺と、我が愚妻と、
そんな犬たちのドラマを見つめる全ての犬馬鹿達に課せされた試練なのだ。

サリー、心配するな、お前の命は俺が、俺達が預かる。

そんな決意を心に秘めた人々の、熱い熱い思いが、いまもサリーを包んでいるのである。






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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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