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この世の楽園のこの世の地獄 そのに 「天国に一番近い島」

Posted by 高見鈴虫 on 22.2017 旅の言葉   0 comments
嘗て天国に暮らしたことがある。

世界に名を轟かせる高級ビーチ・リゾート、
なんて所では勿論ない。

高級リゾート? 笑わせる。
この世の楽園とは謳われながら、
実はこの世における醜悪のその全て、
つまりは商業資本という悪魔、
日々の奴隷労働の果てに、
ようやく掴んだ僅かばかりの命の糧の
その最後の一雫をも搾り取る、
邪悪な資本社会システムのどん詰まりに過ぎない
そんな偽りの楽園を唾棄を残して素通りしては、
俺たちが目指したのは南海の孤島。
筋金入りのヒッピーの間だけで、
こいつこそは魂の友と、
見込んだ者同士で交わされる、
ごく限られた口コミの噂だけをたよりに、
漁船を乗り継いで島から島へのアイランド・ホッピング。
そして巡り会ったあの伝説の神々のビーチ。

潮流の影響で滅多なことではたどり着けない、
水平線の向こうに、ついについにその秘密のビーチ、その真珠色の片鱗を垣間見た時、
俺はそこに、ついに真の楽園を探し当てた
そんな気がしていたものだ。

その南海の孤島。
その交通の便の悪さも手伝って、
ろくな宿泊施設もない代わりに、
警察も滅多には来ない、
そんな絶海の孤島に、
世界中からのツーリストが集まり始めたのは、
いったいいつの頃からなのだろうか。
当時のヒッピー旅行者たちにの間での楽園の定番、
ゴアを、プーケットを、イビサを、コズメルを、
遥かに凌ぐ、と噂に聞いた、
神々に愛されたビーチ。
地上の楽園、天国に一番近い島。

蟻地獄と言われた立憲君主制全体主義国家、
そのいかにも島国的閉鎖的キャビン・フィーバー的な、
公家的体育会的イジメ体質に雁字搦めにされた管理地獄、

そこを抜け出した俺が、
そんな管理地獄の何から何までの逆を打つ、
天真爛漫自由奔放の暴走の、
その果ての果てに辿り着いた、
つまりは日本から一番遠い場所。

蒼く輝くビーチと、空と、
そして背後に迫る圧倒的なまでのジャングル。
それ以外はなにひとつしてなにもない天国に一番近い島。

誰に気取られることもなく、
なにに縛られることもなく、
日がな一日、すっぽんぽん。
ビーチに転がっては葉っぱを回す世界各国からの若者たち。
ツーリストというよりは筋金入りの長期旅行者。
そんな筋金入りの旅行者の中でも、
飛び抜けて社会から逸脱しきった、
そんな世界各国からの徹底的な自由人を自称するヒッピーたちが、
なにに気兼ねをすることもなく、思い切り奔放に、
セックスと、ドラッグと、そしてラブ アンド ピース。
この地球という惑星に最後に残された原始の海。
その素敵な迷宮を、
心ゆくまで堪能することのできた、
あの名も知られぬ南海の孤島。

果たして俺たちはあの場所になにを求め、
なにを見つけ出し、
そしてなにを失ったのだろう。





真珠色に輝く椰子の浜辺に集った真っ裸の若者たち。
どこからか持ち込まれる世界津々浦々からのドラッグ。
金髪赤毛黒髪の入り乱れるムーンライト・パーティ。
昼夜の境いなく、どこに行っても徹底的なまでに漂っていたガンヂャの香りと、
そして、あの島の特産ともなった、魔法茸、あの絶対的なまでのトリップ。

魂が身体を抜け出し、空を駆け巡りジャングルの邪悪の手を逃れ、
そして地球を外から返り見る、
あの超常的なまでのトリップ感。

あの時、俺は「死」というもの意味するものに気づいた気がしていたものだ。

人間、死んだらどうなるのかな。
天国とか地獄って、本当にあるのかな。

この世における宗教という問いの中で、
必ず交わされることになる、
この死生観。

その難問の回答を、
俺はあの島において、あっさりと手にしてしまった、
そんな気がしていたのだ。

人間は死ぬと、その魂が空へと旅立ち。
そして空気の一部となって、
地球という碧い惑星を覆う成層圏の、
その大気の層の一部、となる。

大気が還流を繰り返すように、
そして死者の魂も、
碧い惑星を包み込んだまま
地球を覆う成層圏に満ちた大気、
その一部となるんだよ。

地獄、というものの意味を知っているかい?

それはね、地球に背を向けたまま、
ずっとずっと暗黒の闇を見つめ続ける、
そんな状態を言うのさ。
目の前に広がる宇宙。
太陽の前ではその灼熱に焼かれ、
その裏側では寒さに凍りつき、
それを永遠と永遠と繰返しながら、
もう振り返ることのできなくなった、
あの地球という蒼き惑星での記憶を、
繰り返し繰り返し、反芻させられる。
その無限と言われた自省のループ。

そして天国。
暗黒の宇宙に背を向けて、仰ぎ見る蒼き惑星。
その魅惑の水晶玉の中に浮かんでは消える、
生命というもののドラマのその一部始終。
その水に潤った地球という舞台の、
至る所で繰り返される、生命の成り立ち。
しの悲喜劇の、その喜怒哀楽のすべてが、
愛おしく、懐かしく、微笑ましく。
その慈愛に満ち満ちた光景の中で、
この地球という惑星との一帯感。

そしていつしか、ふと、気がつくと、
突如眼前に広がる水の惑星、
そして仰ぎ見る碧い空。
胸に一挙に満ちる空気の瑞々しい感覚。
そうやって地球のどこかに、
なんらかの生命となっては返り咲き、
そして命を育み、その役割の中で再び空に帰る。
その輪廻の神秘。

つまりは、神ってのは、地球意志そのもの。
風であり、大気であり、
そこを漂う目に見えないエーテルのような。
そして俺達は、その地球の一部。つまちは神の一部。
そう、俺達のひとりひとりが、神の生まれ変わり、その細胞の一部、なんだよ。

南海の孤島のち上の楽園。
海と空とジャングルに囲まれた、
この、セックス、ドラッグスに塗れきった乞食旅行者の吹き溜まりで、
俺達はそんな他愛のないことを、
日がな一日、
終わることのない間延びした会話を続けて
過ごしていたのである。


そして返り見る
水平線の彼方のあの、俺たちのやって来た世界。
そんな楽園に暮らしていると、
なあ、俺たちってさ、なぜあんなことをしていたのかな?
と、そのいちいちがつくづく不思議に思えたものだ。

ほら、この島に来る前の俺たち。
あのあくせくあくせく時間に追い回される日々。
立憲君主制全体主義国家の、
そのいかにも島国的閉鎖的キャビン・フィーバー的な
公家的体育会的イジメ体質に雁字搦めにされた管理地獄。

なぜ、俺達はあんな世界にいたのだろう。
なぜわざわざ、あんなことを続ける意味があったのだろう。

金?欲?

恐怖と、快楽と、欲望と、そして。

なぜ人間はそんなものが必要なのだろう。

ただ、俺達は知っている。

そう、あのバッドトリップという地獄。

怖いんだ、怖い、怖いんだ。
全身に冷や汗を浮かべては、
ガタガタと震えながら、
鷹のように絞り込まれた瞳孔で、
そう訴える不穏な影。

怖いんだ、ああ、助けてくれ。
なにもかもが怖い、怖い、怖いんだ、助けてくれ。

絶叫を上げてのたうち回る
そんな邪気に満たされたバッドトリッパー。
魔法の茸の気まぐれで、
天国にも、そして地獄にも落ち込むことになる、
このなにもないけどすべてのある島。

人間という生物が、
天国、つまりは、愛 と同時に、
地獄、つまりは、恐怖、を合わせ持った、
愛と邪の入り混じった、
そんな生き物であることを突きつけられる、
その瞬間。

その南海の孤島に、何時の頃からか、
そんな不穏な影が漂い始めた。

背中の肩口に、小さな入れ墨を入れているのですぐに判る。
あの、鷹の目をした、屈強な輩。
あの精悍さの中に、あまりに危うい脆さを秘めた、
手負いの野獣のようだった若者たち。

いったいどんな風の伝えか、
兵役を終えたイスラエル人の若者たちが、
人間を取り戻す為の最後の望みとして、
この島に流れ着き始めたのである。

全身を鍛え上げられたこの若者たち。
無精髭に長髪でその出処は隠せても、
背中に彫られたそのタトゥーがすべてを物語ってしまう、
嘗ての殺人マシーンたち。

徴兵制による兵役と、
そしてそこで行われていた、なにかとてもとても邪悪なもの、
その記憶から死にものぐるいの逃避行を続ける若者たち。

束の間の自由を楽しむ、というよりは、
まるでなにかに縋り付くように、
まるでなにかに憑かれたように、
そして明らかに、なにかから逃げ惑うように、
この島において、セックスとドラッグスに徹底的にのめり込んでいった、あの鬼気迫る姿。

そして妙なことに
そんな砂漠の孤島から逃げ出してきた
このイスラエル人と
極東の島国から放り出されたこの哀れな乞食ヒッピーが、
なぜか妙に話が会う、
その傷みを悩みを打ち明けられる
そんな気がしていたのは何故なんだろう。

まるで狂気に憑かれたように、
それはまるで苦行の一環とでも言うように、
誰とでもやる女の子たちがいた。

ねえ、わたしたちもっと自由になるべきなのよ。
もっともっと、まだまだ足りない。まだなにかに縛られてる。
虚栄心? 羞恥心? 恐怖心? 
だめよ、だめ、
格好つけないで、恥ずかしがらないで、怖がらないで、
もっともっと自由になるべきなのよ、
すべてから開放されて、
そのためには、すべてのことを、一回リセット。
脱ぎ捨てなくっちゃだめなの、
この島の向こうで行われているすべてのことから、
一度完全に、抜け出さなくっちゃだめなのよ。
ねえ、そう思わない?ねえ、そう思うでしょ?

歌ばかり歌っている男がいた。

俺、歌が歌えないんだ。
歌は歌えるさ。教えられた歌、あの兵役の時のあの歌、
あれなら歌える。ただあれしか歌えないんだ。
俺の歌いたいのは、謳わなくてはいけないのはそんな歌じゃないんだ。
ただ俺にはそれが判らない。
歌を謳わなくっちゃいけないんだ。
でも俺にはそれが判らない。
メロディが、詞が、浮かんでこないんだ。

一日中、棍棒を振り回している男女がいた。
兵役中のトレーニングの一貫であったのだろうか。
全身から汗の雫を飛び散らせながら、
まるでぬんちゃくかなにかのように、前に後ろに棍棒をくるくると回しては、
おかしなタントラを唱えつつ、
そこになにかを見つめ続けていた、
見失なうことを恐れていた、
その視線の果てにあったもの。

ジャングルに分け入ったまま、帰らなかった男がいた。
水平線に向けて泳ぎだしたまま、その先に消えてしまった女がいた。
四六時中、徹底的なまでに、魔法の茸以外を口にしない男がいた。
崖から飛び降りた者もいた。
錯乱してナイフを振り回す男がいた。
理由もなく絶叫を上げて身体中に砂を刷り込みはじめた女がいた。
泣き出す男がいた。爪を立てて縋り付いてくる女がいた。
歌を忘れた人達が、いまも頭中で鳴り響く、軍楽隊の行進曲に追われては、その楽園の下で、
絶望的な抵抗を続けていた。

そしてそんな憐れな野獣たちと、
俺はいったいなにを共有していたのだろう。

何時見ても徹底的にセックスばかりしている男女がいた。
何時見ても誰を見ても、一人残らずが徹底的なまでにらりっていた。

数日の日照りの後に、水平線に浮かんだ雷雲を呼び寄せようと、
一同がビーチに並んでは、雨雲、こっちに来い、と、
本気の本気で雨乞いの祈りの絶叫をあげたりもして、そんな俺たちが何にも増して愛おしく感じられた、あの神秘のビーチ。

そして辿り着いたこの世の楽園は、
そんな場所であった。

セックスと、ドラッグスと、そして、俺達は世を徹して語りあった。

あの海の向こう、文明社会における、あのルール、
今から思うと、なにがどうしてそんなことになってしまったのか、
その理由も、必然性も、なにもかもの全てがバカバカしく思える、
あの、社会システムと言うやつ。


果たしてどんな事情から、人類はこんな妙なところに至ってしまったのか。

そして戦地から辿り着いた傷だらけの野獣たち。
いったいなぜ?なんのために、俺たちは戦士として、作られねばいけなかったのか。
そんな奴らに囲まれながら、戦士、
つなりはあの、立憲君主制全体主義の、
地獄の管理社会の目的、
ただ盲目的に企業戦士になることを運命づけられた、この悲しき不良品たち。

そういうことだったんだな。

そして俺たちは傷を舐めあい、
僅かに残った愛を分かち合い、
悪夢に魘され逃げ惑い、
そして母なる地球に包まれていた。



いまでもあの島のことを思い出すことがある。

あの島を出てからも、しかしずっとずっとあの島のことを考えている。

果たして俺は、なぜあの島を出てしまったのだろうか?
つまりは、あの島で語り合っていたこと、
この文明の、行き着く先を、
その徒労の先の悪夢の果てを、
見届けたかったのかもしれない。

そして幸か不幸か、
あの島での終わりのない話、
その結論には、当然のことながら、
いまだ至っていない。

あの南海の楽園、
聞こところによれば、
いまは、ホテルとクラブの立ち並ぶ、
一大リゾートに変貌を遂げた、
とのことである。

どこの誰がそんなことをしでかしたのか。

まあ確かにあの場所で、
いつでも真水のシャワーに浴びれたり、
ビールや、スシ・バーや、テニスコートや、
清潔な白いシーツや、
蝿や蚊を追い払ってくれる、
エアコンに満たされた白い小部屋があったらあったで、
それに越したことはなかったのだろうが。

ただ当然のことながら、
もうあの場所に、神さまはいないのであろう。

あるはそれこそが、
この地上から神さまたちを追い出すことこそが、
実は人類の文明の、その目的であったのだろうか。




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
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